きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2006.5.29 さいたま・見沼たんぼ「見沼自然公園」にて |
2006.6.11(日)
日本詩人クラブの関西大会も終わって、帰路は京都に立ち寄りました。関西在住で京都に実家のある詩人が案内してくれたものです。ぜひ見せたいという泉湧寺に連れて行ってもらいました。皇室所縁の寺ということで最初はちょっと抵抗がありましたけど、見学しながらそんな狭量はすぐに消えてしまいました。俗されていない素晴らしいお寺です。制度は制度、文化財は文化財と割り切ることも必要だと改めて感じました。仏殿、舎利殿、御座所、霊明殿とほとんどが開放されていて、なかでも併設されている楊貴妃観音堂が良かったです。重文の楊貴妃観音像は、玄宗皇帝が亡き楊貴妃を偲んで造ったものを1255年に湛海律師が持ち帰ったと伝えられているもので、さすがに佳いお顔をしていました。心照殿という博物館にあった寒山拾得図も良かったです。寒山拾得とはよく聞く言葉ですが、寒山と拾得(じゅとく)という二人の僧の名であることを初めて知りました。つくづく無学だなぁと我ながら思いますね。
月輪陵 |
写真は四条天皇をはじめ後水尾天皇から孝明天皇までの27陵、5灰塚、9墓が営まれているという月輪陵(つきのわのみささぎ)です。さすがに中には入れてもらえませんでしたが背景の樹木も美しい処でした。気がつくと結局このお寺には3時間近くいて、すごい贅沢な時間を過ごした気分です。今まで一箇所のお寺にそんなに長くいることはありませんでしたから、よほど居心地が良かったのだろうと思います。
新幹線に乗る前に案内してくれた詩人の実家にも寄らせてもらいました。まったくの京都の町屋で、これも初めての体験。京都の町屋は入り口が狭くて奥に細長いと聞いていましたけど、まさにその通り。写真はくぐり戸を抜けてすぐに奥を見たところです。左手が住居で、奥に見えている木戸も別棟の住居のものです。幅は狭いけど奥行きは家2軒が建てられるほど、というわけです。ちょっと感動してしまいましたね。
その詩人の母上はしばらく前に息子さんを、即ちその詩人の兄上を亡くされたそうで、その前にはご亭主も亡くされたそうでお二人の写真を見せてもらったり、ご亭主が遺された本を見たりで、こちらもアッという間に時間が過ぎてしまいました。ご亭主は経済学を専攻していたようで本箱にはケインズの本に並んでマルクスの資本論が置いてありました。何気なく手に取ってビックリ。何と昭和2年初版の改造社版だったのです。しかも全巻揃っている! おそらく今では入手困難な貴重本でしょう。さすがは京都。何気ない町屋に何気なくとんでもない本が置いてあります。京都の奥深さを感じました。
帰りの新幹線では珍しく酒を呑むこともなく、この2日の小旅行を振り返りました。趣の変わった関西大会、世俗にまみれていない泉湧寺、京の町屋。どれもこれも居心地の良い場所でした。日曜に帰ろうが月曜に帰ろうが明日の仕事の心配をしなくてよいという精神的な余裕ができたせいかもしれませんけど、モノを見る眼が少し変わってきたことを感じます。気に入ったら何日でも一箇所に留まって観察できる態勢を実感しています。私の文学らしき活動がこれからどう変化していくのか、我ながら楽しみだなと思った2日間でした。お世話になった皆さま、ありがとうございました。
○青山夕璃氏詩集『風のアルビオン』 |
2006.5.26
東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 2000円+税 |
<目次>
ロンドン生活事情 6
魔のローストビーフ 10
TEA 14
ペルシャの兄弟 16
スターダスト・ファンタジー 20
月蝕 24
ヒースのささやき 26
ピアニシモ 28
風の記憶 30
R氏 32
イスラム教結婚式 34
Kさん 38
異国の花火 42
幻の秋 44
DOLL 48
オフィーリア 〜シェイクスピア『ハムレット』の舞台より〜 50
メリークリスマス 52
聖ヴァレンタインデー 56
パレスチナから来た女 58
ヴィクトリア朝妖精画展 〜ロイヤルアカデミーオヴアートにて〜 64
異邦人 68
テロの黙示録 72
チェリーブロッサム 76
エピローグ 78
ロンドン生活事情
地下鉄セントラル・ライン
シェパーズ・ブッシュ駅から徒歩一五分
外側だけ綺麗にお化粧させた安フラット
最上階で家具付一〇畳以上ある部屋なのに
おままごと程度のキッチンセット
ちょっとコワイけどバストイレは共同(シェア)
セントラルヒーティング無しなんて
寒くなる前にストーブを買わないと
築半世紀近い建物だから
前後左右の物音は 筒抜け
それでも 職場までは直通で行ける
家賃 過払いで六〇ポンドなり
大家さんはユダヤ人夫婦
表通りで家具屋を経営してるから
ベッドのスプリングは今までになく超高級
小さいダイニングテーブルセットも
趣味のいい二人掛けソファーも自慢
隣は 南アフリカからやってきた混血(ハーフ)の女性
下は 西インド諸島出身の黒人女性らしい
ここでは 誰も交流したがらない
孤独さえも人生を楽しむための小道具
「わたしたちって
イギリスでは下層階級暮らしね」
と友達に言われて笑った
日常が好奇心あふれる非日常
五〇ペンス硬貨を
コインボックスに入れると
やっと 電気が使える部屋
ジャパンセンターの広告を見て
帰国する人から安く買ったテレビを見ていた
すると 突然電気が消え 真っ暗間に
手持ち最後の五〇ペンスが終わったのだ
夕食だって まだ食べていない
この作品だって 書き終わっていない
まだ八時だけど
今夜はこのまま寝るしかない
第一詩集です。ご出版おめでとうございます。10年以上前に3年近く暮らしたロンドンでの生活を描いています。詩集タイトルの「アルビオン」とは白い絶壁という意味で、イギリス・グレートブリテン島の古称だそうです。
紹介した作品は巻頭を飾っていました。ロンドンでの生活がコンパクトにまとめられた佳品と思います。「孤独さえも人生を楽しむための小道具」、「日常が好奇心あふれる非日常」などのフレーズが特に佳いと思います。今後のご活躍を祈念しています。
○個人詩誌『点景』31号 |
2006.6
川崎市川崎区 卜部昭二氏発行 非売品 |
<目次>
地虫 卜部昭二 1
錆色の風 卜部昭二 2
雷神 卜部昭二 3
つれづれ記V 卜部昭二 4
地虫/卜部昭二
新世紀のあわれな人間達を囲み
虫たちが笛を吹いている
もうあがきはおやめなさいよ
何もかもおすてなさいよ
おもどりなさいよ
わたしたちの中へ
きっとかえってくるんだから
この草と土の中へ――
21世紀という「新世紀」になりましたけど、「あわれな人間達」の「あがき」は前世紀から何も変わっていないなと改めて思います。いずれ「この草と土の中へ」「きっとかえって」行かざるをえないわけですから「何もかもおすてなさいよ」と言われると、その通りだなとつくづく感じますね。短詩ながら巻頭を飾るだけあって、深いところを表現した作品と思いました。
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