きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2006.5.29 さいたま・見沼たんぼ「見沼自然公園」にて |
2006.6.23(金)
終日いただいた本を読んでいました。詩を読んで、一日が夢のように過ぎていきます。私だけがこんな至福の時間を過ごしていて良いのだろうかと思いながら…。
○Kiyoko Ogawa A Collection of Poems 1993−2004 『NO SOUND』 |
Published by Seven Cedats Press Otsu Japan ¥1600+tax |
Contents
PartT to my brother
A Fool's Rehearsal 11
Between Two Stools 13
Ganbatte! 14
The Tortoise and the Hare 15
Cockroach 16
No Sound 17
A Black Butterfly 18
Kimono for the Last Journey 19
Mothers 20
posture 21
Aspects 22
PartU ten
short poems
a winter traveler 25
in the pitch darkness 26
on the windowsill 27
feline delight 28
golden week 29
black pansy 30
souvenir of your long journey 31
similitude 32
seasonal musicians 35
a scene nocturnal 54
PartV mid-life
Oyster March 37
Vegetable Flowers 38
A Masked Couple 39
Square and Circle 41
My German Mother 43
La Marseillaise 45
‘Have you eaten?’ 47
elite education 49
Seventeen 50
Ballad of Swan and Poodle 51
Uterine Tale 52
Menopause 54
Walking Excreta 55
On the Subway 56
Autumn in Kyoto 57
Nun and Prostitute 58
The Shepherd's Boy 60
Revels' Love Song 63
PartW dramatic poetry
Dialogue with Nobody Who is Somebody 67
PartX picking up bones
the purple elepbants 77
insomnia 78
the final words 79
false teeth 80
a man's life 81
crying 83
picking up bones 85
after fortnight 84
what i was looking for 85
a tabby 86
christmas eve retrospection 87
this summer about to go 88
Return 89
Notes 91
Cover drawing by Mayumi Tanaka
No Sound
The moment a thing is lost is akin to
the moment a person passes away.
No sound is heard.
I wonder where my tiny green alarm clock is gone.
When he flung bimself from the balcony.
there was hardly any sound,Father says.
Neither dull plump,nor acute yell.
When I saw his expressions in the coffin,
(though the eyes masked,the head covered
because of the crushed fracture of head bones)
I was immediately convinced of the truth of
Father's witness.
I imagine he distorted his face in pain
at the very moment of his landing,and
by the time he tried to utter something,
his heart must have already stopped.
無音
大切なものをなくした瞬間は
その人と過ごしたときと同じ
無音を聴いている
私の小さな緑の目覚し時計はどこへ行ったのだろう
彼がバルコニーから身を投げ出したとき
何も音がしなかったと父は言う
鈍い音も激しい叫びもなにもなかった
私が棺の中の彼を見たとき
(目隠しをされ、骨折した頭は覆われていた)
父が言っていたことを私はすぐに納得した
墜落の瞬間、痛みの中でかれの顔は歪められたのだろう
そしてしばらく呻いたのだろう
彼の心臓はすでに止まっていたが
英文の詩集がすでに何冊もある著者には珍しくないのでしょうが、久しぶりに英文だけの詩集をいただいて緊張しました。中学生の読解力にも満たないことを承知しながらタイトルポエムを訳してみました。第2、3連は状況説明ですからたぶん合っていると思いますが、第1連にはまったく自信がありません。「The moment a thing is lost is akin to/the moment a person passes away.」は正直なところ翻訳できませんでした。何とか直訳で逃げています。「No sound is heard.」ももっと上手い訳し方があると思います。
肝心な第1連が訳しきっていないので苦しいのですが、この作品は著者のこれまでの人生の中でも大きな位置を占める事件だろうと思います。それを念頭に、もっと良い訳があったら教えてください。
*後日、著者自らの訳を頂戴しました。許可を得ましたので転載します。うん、やっぱりこっちの方が断然佳いですね。
ものがなくなる瞬間は
人が亡くなる瞬間に似ている。
何も音は聞こえない。
わたしの小さな緑の目覚し時計はどこへいったのかしら。
彼がバルコニーから身を投げた時
ほとんどなにも音がしなかった、と父は言う。
鈍い「どすん」も、鋭い「ぎゃー」も。
わたしがお棺のなかの彼の表情を見た時
(もっとも頭蓋骨粉砕骨折のゆえに
目はマスクされ、頭は覆われていたけれど)
わたしはただちに父の証言の
真実を確信した。
彼は着地のまさにその瞬間に
痛みで顔を歪め、そして
なにかを言葉にしようとした時までには
彼の心臓はすでに止まっていたにちがいないと、わたしは想像する。
○月刊詩誌『柵』235号 |
2006.6.20
大阪府箕面市 詩画工房・志賀英夫氏発行 572円+税 |
<目次>
現代詩展望 反現代詩の根拠と「野火」… 中村不二夫 76
竹内美智代詩集『切通し』
少年詩メモ(7) バーチャルでなく … 津坂治男 80
奥田博之論(5) 輪廻転生 … 森 徳治 84
流動する世界の中で日本の詩とは 21 … 水崎野里子 88
カルチャー・ギャップとしての「詩の社会牲」
風見鶏・かわむらみどり 吉田美和子 杉原美那子 小林妙子 北川朱美 92
「戦後詩誌の系譜」33昭和53年62誌追補11誌 … 中村不二夫 志賀英夫 106
進 一男 スイトピー 4 宗 昇 切り通し 6
肌勢とみ子 かき氷 8 小島 禄琅 弥次郎兵衛 10
江良亜来子 海 12 前田 孝一 雨の湯布院 14
南 邦和 迷い子 16 山南 律子 幸福のかたち 18
柳原 省三 あゆみ 20 小城江壮智 夕暮れ 22
名古きよえ つくる(袋) 24 佐藤 勝太 桜の国 26
川端 律子 風 28 山口 格郎 虚しい努力 30
今泉 協子 夢 32 大貫 裕司 遠い記憶の祝日 34
岩本 健 もと陸軍二等兵より 36 北村 愛子 その時思った 38
安森ソノ子 植える.峠を越えた花背にて.41 高橋サブロー先島八重島 南の島巡り 44
西森美智子 無関心の岸から 46 門林 岩雄 雀 他 広兼明先生に 48
松田 悦子 同行 50 鈴木 一成 吐息溜息 52
織田美沙子 追われる 54 忍城 春宣 待井さんのこと 50
伍東 ちか すこし残して 58 小野 肇 冬の記憶 60
水崎野里子 生きる 62 若狭 雅裕 海のばら 64
小沢 千恵 天花菜を探して 66 中原 道夫 BSアンテナ 68
野老比左子 雪の駅 70 山崎 森 猫GYA 72
徐 柄 鎮 扇 74
現代情況論ノート(2) … 石原 武 94
世界文学の詩的悦楽−ディレッタント的随想(1) … 小川聖子 96
物語詩として味わう「星の王子さま」
インドの現代詩人 アフターブ・セットの詩 10 … 水崎野里子 100
コクトオ覚書.210 コクトオ自画像[知られざる男]30 … 三木英治 102
終末の光景への暗示 山崎森詩集『タクラマカン沙漠へ』を読む … 南 邦和 118
東日本・三冊の詩集 大田雅孝『あんぷく』… 中原道夫 124
北村愛子『ありがとう』 築山多門『流星群』
西日本・三冊の詩集 薬師川虹一『石佛に向かう』… 佐藤勝太 121
羽田敬二『想いの旅』 山田春香『simon』
受階図書 132 受贈詩誌 131 柵通信 128 身辺雑記 133
表紙絵 野口晋/屏絵 申錫弼/カット 中島由夫・野口晋・申錫弼
虚しい努力/山口格郎
「虚しい努力」との成句あり
そして 「虚しい」は「努力」の枕詞
と 解すべきものだ
この世に 虚しくない努力などはない
しかし あえて言う 努力は貴重なもの
世相を観ずれば この世の中を
このまま眺めているわけにはまいらぬ
戦中派の怨念あるかぎり
怨念を果たすための努力を重ねるを
なくてすますわけにはまいらぬ
「虚しい努力」も
時に 泰山を動かすやもしれぬのだ
第1連の「『虚しい』は『努力』の枕詞/と 解すべきものだ」という言葉に眼から鱗が落ちた思いです。「努力」とは報われるものと思い込んでいましたが、振り返ってみると確かに「虚しい」ことの方が多かったかもしれません。それに気付かずに思い込みが勝っていたのでしょう。しかしそれでも「努力は貴重なもの」と諌められて救われて気がします。
最終連も佳いですね。「時に 泰山を動かすやもしれぬのだ」だと励まされます。勉強させられた作品です。
○詩と批評『岩礁』127号 |
2006.6.1
静岡県三島市 岩礁社・大井康暢氏発行 700円 |
<目次>
表紙 岩井昭児 作品L 扉・目次カット 増田朱躬
評論
新・手帖13 二十世紀研究(一)文化と文明 大井康暢 四
西脇順三郎の「戦後」の旅 西川敏之 八八
エッセイ
「湖郷」のころ 栗和 実 二六
カルカッソンヌ便り(二一)増田朱躬 一四〇
如是我聞(十) 大井康暢 一五六
二十世紀研究アンケート回答 八○
詩
不可知論 金 光林 一二 詩七篇 門林 岩雄 一四
光のなかに 大塚 欽一 一六 極楽のあじ、すいっち.小城江壮智 一八
今日は根暗 市川 つた 二〇 うわさ、羅漢像 井上 和子 二二
未来思考 柿添 元 二四 高石貴小詩集 高石 貴 三二
冬の物語、小さな場所で.竹内オリエ 三六 真似 丸山 全友 三八
夢をみる力 成見 歳広 四〇 追憶そして現在 酒井 力 四二
土臭い投稿仲間 小島 禄琅 四四 春色に、また.ひとつ 北条 敦子 四六
詩二篇 遠山 信男 六六 鳴っている、他 植木 信子 六八
時代の樹 西川 敏之 七二 桜の頃 緒方喜久子 七四
雨の街 山崎 全代 七六 夭折 坂本 梧朗 七八
痛み 奥 重機 九四 墓標 望月 道世 九八
春日孤愁 斎田 朋雄 一〇〇 畑 仕事 栗和 実 一〇四
呑気な疎開少年の会話 斉藤 正志 一〇六 小便 近藤 友一 一〇八
九月十一日 桑原 真夫 一一〇 一歩一歩よじ登れ 中村 日哲 一一二
新・地獄草紙 佐藤 鶴麿 一一四 チンチキチキ 平野 宏 一一八
激しく叫ぶ声 大井 康暢 一二二
コラム
社会 一一 椅子 三五
こころ 六五 詩と生 七一
散歩道 九三 声 九七
点滴 一〇三 谺 一一七
始点 一二一 座標 一二七
窓 一五五 喫煙室 一七一
詩人のたわ言 表二 編集室 表四
ポエムパーク 五八
名詩鑑賞1 与謝蕪村「北寿老仙をいたむ」一二四
名詩鑑賞2 相馬 大「雪」一二六
深謝受贈詩誌ご紹介 一二八
詩集評
田川紀久雄詩集『道化師』 坂本梧朗 一三〇
松尾智恵子詩集『遠来の土産』 小城江壮智 一三一
金子たんま詩集『犀の角のように』 市川つた 一三二
木下いつ子詩集『声を放つ』 竹内オリエ 一三三
平田守純詩集『フルーツバスケット』 栗和 実 一三四
柿添 元詩集『残光』 奥 重機 一三五
宮崎八代子詩集『薄墨桜』 井上和子 一三六
和田 功詩集『ミニファーマー』 高石 貴 一三七
上原季絵詩集『乳房は母にあずけて』 酒井 力 一三八
加藤幹二郎詩集『追ってきた人』――いま聖地が甦る―― 西川敏之 一三九
小説 山に住む男 原石 寛 四八
岩礁一二六号総括 一五○
小説 青い反抗 山田孝昭 一七二
住所録 二二八 編集後記 二三一
すいっち/小城江壮智
じどうてんめつというしかけ
めっちゃけったいなやつ
くらくなるとはたらき
だれかよこぎると ぱちっ
すぐれものだなあ
あたりまえによろこんだ
ところが あいつ
ねこなんぞをみはって
いぬにもめくらましを ぱっ
こないだのこと 、
おおかぜをなんとまちがえたか
ひとばんじゅう
ぱっか ぱっか
まるでばかみたい
なので
もとのさしこみぬいちゃった
にたようなおせっかいいるよなあ
かおみると かな
めがあうと だな
とたんに にっ とわらい
いきなりしゃべりかける
どちらにおでかけですか なんて
どうでもいいじゃないか
ぼくはつぎのことばで
なにかいわなきゃ と
さっとみがまえ
ねむたがるすいっち
むりして ぷちっ
だけどそのまま
あっちいっちゃったんだぜ
ちぇっ
「じどうてんめつ」装置の「ばか」さ加減を揶揄するだけでなく「にたようなおせっかいいるよなあ」と人間世界へ展開したところが面白いと思います。しかもそれだけでなく、その「おせっかい」へ「なにかいわなきゃ と」深めて、さらに「だけどそのまま/あっちいっちゃったんだぜ」と「おせっかい」人間の本質を突いています。詩をどうやって深めていくかという見本のような作品と云えましょう。最終連の「ちぇっ」も奏功している作品だと思いました。
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