きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2006.6.11 京都・泉湧寺にて |
2006.7.4(火)
今日は住所の問い合わせについて記しておきます。ここのところ詩集の著者や詩誌代表者の住所を問い合わせてくる人が多くなってきました。新聞社、出版社はもとより個人も結構多いです。新聞社などは作品を紹介したいので住所を教えてくれ、などの依頼ですが、基本的には著者にも連絡を取って教えています。新聞社・出版社の場合は住所も電話番号も担当者も明記されていますから、これは著者・作者さえOKなら問題はないと思っています。
問題は個人です。メールアドレスしか書かれていないものは基本的に相手にしません。ご存知のように迷惑メールが横行していて、メールアドレスだけでは信用できないというのが残念ながら現実です。パソコン通信の時代やインターネットの初期にはこんなことは無かったのですがね…。大衆化するということはそれだけ質が下がることと判っていたのですが、それにしてもひどい。ま、これがこの国の知的レベルと思えば腹も立ちませんが…。ちょっと横道に逸れました。
で、個人。住所・固定電話番号が書いてあれば信用します。その上でそこに電話を入れて確認します。そして著者・作者に連絡という手順を取っています。拙HPを多くの人が見てくれていて、私を信頼してメールをくれるのですが、ここは崩しませんのでどうぞご了承ください。何人かの方にはそういう理由で返信していません。再度、せめて電話番号を書いて問い合わせてくださるようお願いします。
○中谷順子氏詩集『破れ旗』 |
2006.6.28
東京都豊島区 東京文芸館刊 2000円+税 |
<目次>
序にかえて 九十九里浜で
竿旗(はた)1……8 破れ旗1…………10
旗は嗤う…………14 旗の祭り…………18
包む………………22 しなやかな心は…26
竿旗(はた)2……28 軋む………………32
晩夏………………36 傾ぐ1……………40
ともし火…………44 薄雲刷いた………46
大売り出し………48 竿旗(はた)3……54
傾ぐ2……………58 破れ旗2…………62
春と竿旗(はた)…66 破れ旗3…………68
掲載誌一覧………72 あとがき…………74
カバーデザイン 写真提供 片岡 伸
破れ旗 2
おかしな奴が多い年代だ。 は た
いつまで経っても「その他大勢竿旗」
何の役にもたちそうにない。
昔 天皇を迎える学童たちの小旗にされたが
(されたのか そんなものにお前は)
その時テレビにちらり出たきりで、その後は何のお呼びもない。
先導旗になることなど 最初から諦めている年代
おずおずと周りを見回しながら
「みんな一緒で怖くない」
立つことが生きる証。
立つことが生きる反抗。
傾いても 踏まれても 立っていたい。
手も足もでなくても立っていたい。
ちくしょう、ちくしょう、と立っていたい。
おかしな心情だけは手放さない、意地でも。
おかしな奴が多い年代だ。
権力への肌感覚のような抵抗。
自分の力などとっくに諦めているはずなのに
それでも靡くことを知らない
それでも、うまくやることを知らない
時代のつけを背負わされて、「しょうがねえなぁ」
お前か? 俺の足を引っ張っているのは。
(お互いさま、かぁ。)
先祖伝来の店を潰した者
尻をまくって辞めた者
でも 屈託がない。
(昔は俺もこんなに札束を財布に入れてだなぁ)
(今ではかあちゃんに小遣いもらう身分 楽、楽)
気が付くと 沈没した者同士。
海の中に一人、また一人 自分の海で自分の竿旗を掲げている。
(破れ旗? 敗れ旗? やぶれかぶれ旗?)
一人づつだが でも生きている。皆笑っている。
皆がそれぞれ好きなところで好きなことをやっている。
○
夏をとっくに過ぎた誰もいない浜で
やたらバタバタやっている
九十九里の波の遠鳴り
彼の旗が小さいので。破れているので。
バタバタと抵抗したい。みっともなく抵抗したい。
おーい空よ おーい海よ 大きいからと威張るな
彼の旗は傾いて 寝そべっているかに見える
頼るものもない浜は、夕陽の中で徐々に遠くなる。
その海に向かって
ただっ子のように いつまでもバタバタと抵抗している
目次でも判りますようにタイトルの「破れ旗」は1から3まであります。紹介した作品はそのうちの2ですが、この詩が最も中核を成していると思います。著者は私と同年代で、「おかしな奴が多い年代」の一員です。ですから、ここで描かれた世界は私はよく判るつもりでいます。「先導旗になることなど 最初から諦めている年代」で、「自分の力などとっくに諦めているはずなのに/それでも靡くことを知らない」年代であると云えましょう。そして我々への応援歌とも云えます。「ただっ子のように いつまでもバタバタと抵抗してい」ますけどね(^^;
○戸浦 幸氏詩集『六月のツバメ』 |
2006.6.10
茨城県土浦市 IPC出版センター刊 1143円+税 |
<目次>
T
六月のツバメ 8 少女 10
月と少女 12 四月の雨 14
秋の星座 16 伝言 10
光の海 20
U
鶴の記憶 24 岸辺の人 28
雪 30 冬の陽 32
青穹 34 みずうみ 36
V
朝 40 午後の回廊 44
蝉 46 撒水 48
あの角を曲がって 50 陽炎 52
W
薔薇の行方 56 植物園 58
花の影 60 キリノハナ 62
道化師 64 黄葉 66
キャピストラーノのツバメ68 翼 その軽さのほどに 72
後記 宮本敏子 76
朝
花瓶に挿した椿の実が
祝砲のように弾けた
まだ誰もいない
部屋にこだまして
たぶんこんな朝だったのだろう
祖母が
父の陰膳をやめたのは
シベリアとか
抑留とか
ほとんど語ることのなかった父だった
ながいこと岩塩を齧ってね と
すでに若くして多くの歯を失っていた
妻とともに
一人の娘を育てて
晩年を迎えることも出来ただろうに
強制労働で罹った病がもとで
発病から七十五日目に亡くなった
治療にモルヒネをうたれて
うすれてゆく意識の中で
いくども呟いた
此処はシベリアか……と
明け方近く
椿の種子が弾けて飛んだ
ダモイ* 故国へ! 種子が弾けて
そしてわたしは生まれた
*ダモイは〈帰国(故国へ)〉を意味するロシア語。
第一詩集です。ご出版おめでとうございます。紹介した作品は詩集の中ではちょっと異質ですが、著者の原点であり、ことによると詩を書く理由ではないかと思っています。第2連が特に佳いですね。「陰膳」という言葉にあの時代の良心を感じます。それを巧く取り込んで作品の質を高めています。今後が楽しみな新人が出現しました。ご活躍を祈念しています。
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