きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.6.11 京都・泉湧寺にて



2006.7.9(日)

 何も予定のない日曜日。終日いただいた本を読んで過ごしました。



菊田守氏著『夕焼けと自転車』
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2006.7.1 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊 1400円+税

<目次>
 T
金ぴかのスズメはかわいそう――アンデルセンの童話「おとなりさん」を読む 8
耳のうた 12
目のうた 17
茶碗の詩三つ 22
夕焼けと自転車 30
二十一世紀は感性の涵養と思いやりの心を 32
東京の川とその源流紀行 35
白鷺の町 41
幻の山・乞食山と上水門――杉並区下井草三丁目 44
戦争のはなし――中野区で最初に死者の出た日 47
民間信仰『旧鷺宮二丁目観音講』の終焉 50
体験と詩――表現としての詩 53
生きものの姿と声と音
(ね)に魅せられて――選詩集「骨骨骨骨」のこと 60
詩のなかの風景――草木 63
詩と自然――芭蕉のこと 70
生命
(いのち)の詩を書く――目線を低く小動物の目で 76
詩の源流を求めて――わたくしの詩と生活 87

 U
モダニズムの巨星・村野四郎 100
村野四郎生家訪問記 103
村野四郎記念館を訪ねて 105
講演 村野四郎の人と作品について 107
この一篇――土橋治重 111
普段着の土橋治重さん――土橋治重追悼 115
植物と食物と牛乳と――武村志保追悼 118
ある日の壺井さん――壺井繁治追悼 120
赤石信久さん・最後の夜――新宿・神楽坂 122
亡き弟・久を偲ぶ――あなたの死を伴侶に存命の喜びをかみしめて 125
生きるということ 128

 V
詩と美の周辺 132
四五六(詩語録)――言葉の花束 156
おはなし 昆虫観察と詩――蚊とトンボとセミ 179

解説 市井の思想家――菊田守著『夕焼けと自転車』に寄せて 石原 武 208
初出一覧 214
あとがき 216



 夕焼けと自転車

 毎日の新聞・テレビは、戦争・殺人・経済不況・感染拡大の続く新型肺炎(重症急性呼吸器症候群……SARS)などの恐怖を報じている。私たちの幸せは遠くの方へ行ってしまったのでしょうか。
 わたしは、この二十一世紀を生き抜いてゆくための手がかりとして、二つのキーワードについて考えてみたいと思います。
 そのキーワードのひとつは「夕焼け」、いま一つは「自転車」です。これは今から約八十年前、一九二四年に発表された「超現実主義宣言」の、あのアンドレ・ブルトンが、こういうことをいっています。
 彼は存在というものを二つに大別しています。一つが自然存在、もうひとつが文明存在(既製品)。例えば、夕焼けは美しい、その美しさが「存在価値」。また、自転車は役に立つ、その有効性が「使用価値」。そして、その双方を持つのが人間というわけです。その自然存在=存在価値(夕焼け)と文明存在=使用価値(自転車)を、現在の私たちの状況に思いを致すとき、私たちは二十一世紀に入ったばかりの現在について考えさせられます。
 ご承知のように、十九世紀は科学の時代、二十世紀は人間が神になろうとしてなれなかった時代、かぎりない文明の進化が人間の傲慢さを剥き出しにしたのです。その反省から、二十」世紀は、生命
(いのち)の時代、こころの時代とも言われています。
 しかし、二十一世紀が始まったばかりなのに、毎日、テレビ・新聞は戦争を報じています。先程云った自転車を武器、戦争のための武器として考えるとよくわかります。文明の進化は人間を幸福にする筈だったのに、人間の限りない欲望によって、異常に発達してしまっています。過剰な文明の発達は人類を不幸にしているのです。
 人間は、使用価値(自転車)だけではなく、存在価値(夕焼け)を共有しています。人間は又、自然の、宇宙の中のちいさな生き物なのだから、もっと謙虚に、他の生物と共生すべきではないでしょうか。忙しい毎日、ちょっと立ち止まって、夕焼けと自転車のことを考えてみましょう。自転車のような既製品をたくさん所有することが幸せなのではなく、空手、何にももたなくとも、夕焼けを感じる幸せもあるとわたしは思います。(本稿は、二〇〇三年四月八日に東京都立鷺宮高等学校入学式に於て述べた「祝辞」を若干手直ししたものです。)

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 土曜美術社出版販売による「[新]詩論・エッセー文庫(8)」という位置づけです。初出一覧によりますと最も古いものは1968年の「白鷺の町」、1976年の「ある日の壺井さん――壺井繁治追悼」、1978年「植物と食物と牛乳と――武村志保追悼」がありますが、他は1993年から今年2006年までの講演録やエッセイの集大成です。この10年ほどの菊田さんの行動・思想を読み取るにはうって付けの本だと思います。原文では45字改行となっていますが、携帯電話での鑑賞も考慮してベタとしてあります。ご了承ください。

 本著のタイトルにもなった「夕焼けと自転車」の全文を紹介してみました。高校入学式の「祝辞」だったことに驚きます。16歳の少年少女たちが「使用価値(自転車)」「存在価値(夕焼け)」のお話に眼を輝かせて聴いていたのではないかと想像すると、こちらの胸も高鳴るようです。一歩大人に近づいた彼・彼女等に対して、大人の本当の世界を覗かせているわけで、非常に意義のあるお話だったのではないかと思います。大人の私たちにとっても「使用価値」と「存在価値」について改めて考えさせられた好エッセイです。ご一読をお薦めします。



隔月刊詩誌
『サロン・デ・ポエート』
262号
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2006.7.25 名古屋市名東区
中部詩人サロン編集・伊藤康子氏発行 300円

<目次>
作品
水色の消息……………………………三尾みつ子…4
太陽と風からの…………………………小林 聖…5
バスを待つあいだ………………みくちけんすけ…6
花笑の童女季から蝶々しき少女季へ…甲斐久子…7
隣り合わせの……………………………伊藤康子…8
ホタル…………………………………足立すみ子…10
ちいさな初体験………………………野老比左子…11
高を括っていたけれど…………………横井光枝…12
五月が好き………………………………荒井幸子…13
シューズ…………………………………阿部堅磐…14
彼岸………………………………………及川 純…16
散文
竹内美智代詩集『切通し』を読む……阿部堅磐…17
美容師……………………………………阿部堅磐…18
日本詩人クラブ関西大会報告………野老比左子…19
同人閑話………………………………………諸家…20
詩話会レポート………………………………………23
受贈誌・詩集、サロン消息、編集後記
表紙・目次カット………………………甲斐久子



 五月が好き/荒井幸子

四月下旬のこと
 予定が早まるかも
 まさか五月一日なんてことは?
 ありえなくもないだろう……と息子

五月一日 それは
私達と息子達の結婚記念日
義父の命日でもある その上
初孫の誕生日まで重なったら

朗報が届いたのは五月三日の早朝
どっち?と尋ねそうになり急ブレーキ
赤子との対面は翌日
三十年前の息子もこんな風だった

祝いの席に割り込む携帯電話
義姉の訃報 享年八十五歳
実の姉以上に親しんだ人だ
五月を蹴ってとび出る命があれば
新緑に吸いこまれるように逝く命
一日遅れは義姉の気配りだったか

急拠 出先から通夜と告別式へ
吹き渡る五月の風は鳴咽にも歓喜にも聴き
来年から迎える五月をしきりに思う
結婚記念日と誕生日を心ゆくまで祝っても
義理を越えて愛をくれた
二人の命日は忘れまい……と

躍動する五月
一年中で一番好きな五月
これからはもっともっと好きになるだろう

 祝儀、不祝儀が5月に重なったということは偶然なんでしょうが、それを「これからはもっともっと好きになる」と受け止める作者の心の広さに敬服します。祝儀はともかくとして、不祝儀でも「義理を越えて愛をくれた/二人の命日は忘れまい」とする作者の真摯さが向日性を生んでいるのだと思います。「五月を蹴ってとび出る命があれば/新緑に吸いこまれるように逝く命」というフレーズも詩語として佳いですね。思わず襟を正しながらも暖かい感情が湧き起こった作品です。



アンソロジー『栃木県現代詩年鑑』2006
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2006.6.18 栃木県塩谷郡塩谷町 和気記念館内事務局
栃木県現代詩人会・我妻洋氏発行 2000円

<目次>
作品
木犀/青柳晶子 14       水を汲みに/石下典子 16
キャッチボール+にらめっこ   初参り/板橋スミ子 18
 /あらかみさんぞう 16    父/小久保吉雄 19
立ち鏡/石田由美子 20     木下闇/臼井早苗 24
Script/岩下 夏 24   春に/江連やす子 26
五月の風/金井クミ江 27    落果の行方/大木てるよ 28
哀哭 2/岡部 誠 30     春、彼岸の頃/金井 清 32
風花/國井世津子 33      百村の雲雀/小貫文敬 34
杖+ひとり/岡田泰代 36    逢魔の頃/金子一癖斎 38
花びら/川野辺 朗 40     放物線/草薙 定 42
ミステリアスな家系+「東向くひと 女楽二十六組+三顧の礼/幸田和俊 46
 は誰でしょう?」/椚瀬利子
.44 ハテナワーク/斎藤義央 48
たなごころ/斎藤さち子 50   白熊/三本木 昇 51
背中+フライパン/齋藤新一 52 喪失と生/酒井 厚 54
流動資産/白鳥光子 56     暮色/白沢英子 57
下野荒波々岐余言        大寒む小寒む……+引越し/相馬梅子 60
 /そらやま・たろう 58    衣/その あいか 62
夏草+記憶/瀧 葉子 64    ハイキング/立原エツ子 66
そら豆の寝床/たの しずえ 67 栃木ステーション/高澤朝子 68
春/塚本月江 70        ひと+わき道/都留さちこ 72
有朋自遠方來/戸井みちお 74  桜/冨澤宏子 76
あなたとの約束/中島粂雄 78  捻れ(一)(二)/藤 庸子 79
この手+緑の柩/入田一慧 80  見返り阿弥陀/野澤俊雄 82
病んでいる……         白/深津朝雄 86
 /ひらいで ひろこ 84    名前/古沢克元 88
月光/村上周司 89       めくるめく八月/細島裕次 90
むかご+北限の蝶/星野由美子
.92.午前の浮野/本郷武夫 94
記憶は放射状/丸山君峯 96   写真展+ルリタテハ+水/簑和田初江 98
改札口+編む/矢口志津江
.100  坂/山形照美 102
呑龍の花/高田太郎
.103     御三時+木犀/山内世紀子 104
わたしの赤ちゃん/湯沢和民
.106 水の旅/和気勇雄 108
お春ちゃん/和田恒男
.110    変貌+ごきげんよう/和氣康之 112
時間を負う/我妻 洋
.114
エッセイ
三田忠夫と「鴉群」/高田太郎
.116 今 現代詩は/仲代宗生 122
思いやりと敬愛の心で悠然と
 生きる/宇賀神 忍
.131    執筆者略歴  141
資料編
二〇〇五年度栃木県詩界回顧   記録・余禄 2005 148
  (2005.4−2006.3) 146    会員の動向 148
受贈詩書・会報・通信
.148    年間主要行事 150
本会役員・組織
.150       本会会則 150
栃木県現代詩人(協)会新人賞   本会会員リスト 154
 受賞者一覧
.152        写真撮影 大野 敏・深津朝雄



 変貌/和氣康之

ガラス管の中で羊が生まれ
とりはウイルスをまき散らし
うしは背中にプリオンをかくし
秋の夜のアオマツムシは騒々しく

黒い雨 ほえない犬
ねむらない夜
真昼の海は楽園を呑み込み
光と風はマングローブを枯らし

それらがそれらでなくなっている

寒夜、水風呂に投げ込まれる幼児
やったのは父親
母親は見ていたという
公園、撲殺される浮浪者
やったのは十五歳
周りは笑っていたという
聖殿、祈りながら凌辱される少女
やったのは教祖
信徒らは目を瞑っていたという
活断層、林立する骨抜きの摩天楼
やったのは一級建築士
やらせたのは代表取締役社長たち
天下り、
蝙蝠のように血税にむらがり
やっているのは国家公務員
部下は自分の番を夢みているという

にんげんがにんげんでなくなっている
にんげんがにんげんでなくなっている
にんげんが・・・・・・

 「にんげんがにんげんでなくなっている」「変貌」を描いた作品ですが、20世紀末を思い出します。あの頃もここに書かれたような事件が頻発していて、世紀末だからね、というのが常でした。じゃあ21世紀になって変わったかというと、実は何も変化はなく、むしろ悪化しているように感じられます。「母親は見ていた」「周りは笑っていた」「信徒らは目を瞑っていた」という周囲の反応の変化も恐ろしいものです。最悪なのは「部下は自分の番を夢みている」というフレーズでしょうね。今世紀は、「母親は」「自分の番を夢みている」、「周りは」「自分の番を夢みている」、「信徒らは」「自分の番を夢みている」に変わっていくかもしれません。時代を鋭く捉えた作品だと思います。




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