きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.6.11 京都・泉湧寺にて



2006.7.10(月)

 日本ペンクラブの電子文藝館委員会に出席してきました。今回のトピックスは二つです。一つ目は5月にベルリンで開かれた世界ペン大会に向山委員が参加して、その報告をしてくれたこと。ベルリンには知る人ぞ知る森鴎外記念館があって、そこで日本関係の分科会が開かれたようです。そうとう歓迎されて、電子文藝館の宣伝もしっかりやって来たとのことでした。
 二つ目は牧南委員提案の視覚障害者向けに電子文藝館を改良することで意見の一致を見たことです。電子メディア委員会と兼任の加藤委員も出席してくれて、技術的には問題がないことを確認しました。いわゆる音声案内を追加するだけですが、実際にHPを創ってくれている業者さんと交渉することになりました。もちろん理事会の承認後のことになりますけど、否決されることはないでしょう。また、この案件は電子文藝館開館5周年になる今年11月のペンの日までに間に合わせて、目玉にしようかなと思っています。

 議事はスムーズで、予定より15分ほど早く終了。その後は有志7名で牧南委員の簡素な祝賀会を持ちました。牧南恭子さんの近著『五千日の軍隊 満州国軍の軍官たち』が日本自費出版文化賞を受賞したので、そのお祝いの会です。まだ読んでいませんが旧満州には関東軍の他に満州国軍というのがあったそうです。中国人、朝鮮人、モンゴル人、白系ロシア人などの部隊で、知られざる満州国の裏面ということでしょうか。私の好きそうな素材です。
 茅場町の「はなし処 浜町亭」という店に行きましたが、何と明治座グループの経営。歌舞伎の雰囲気が出ているというわけではありませんけど、気楽な中にも格調を感じさせる居酒屋でした。



松下和夫氏詩集『ひとりごと』
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2006.7.7 千葉県茂原市 草原舎刊 2000円

<目次>
序詩 水鏡 8
夕立 10         夢占い 12
姿見 16         日記 18
ひとりごと 22      ぼくの双子座 26
混沌 32         カタカナ村 36
いま人間がいるところ40  釦 44
しあわせ料理 48     鏡の中 52
骨について 56      デインティ・べス 60
朝顔 64         トンボ 68
雪の日のポスト 72    絣 76
猫の目 78        ジョンのしっぽ 82
アリの行列 86      雪夜 90
顔について 92      見る 96
掌について 100
.     時計幻想 104
お天気雨 108
.      ゴールライン 110
水仙幻想 114
.      ぼくの椎の木 118
ひとり 122
あとがき 124
.      表紙絵*秋田かなえ



 

着古したということは
どういうことなのか
この背広三十年も昔のものだから
もう捨てましょうと言う

釦だけは使えるから
まだ少し残っている未来のために
そっと外して
針箱の中にこっそり仕舞う
まるで夢の切り絵をする
幼子の指を持つように
妻が幻の糸を解いている
太陽を背に老眼鏡と鋏がキラリ

その掌に釦が一つ又一つ
それは星ではない
しかし星である
着脱自在なのがいい

星に似たものを身につけて
ぼくらは時計の針を
見つめて来たのだろうか
消えては現われる一日を数えようとして

これはオシャレな釦だから
これはキレイな釦だから
これには思い出があるから
どれも夢の飾りかもしれないのに

星を釦にして
ぼくらは生きて来たのだろうか
もう使われることもないらしい釦を
針箱の中にまだためている

 これはどこの家庭でもやっていることかもしれませんね。考えようによっては「釦だけは使える」というのは希望なのかもしれません。「背広」は「三十年も昔のもの」なので捨てるしかない、しかしその中でも使えるものがあるということは、残された数少ない希望なのだと読み取りました。関連した「まだ少し残っている未来」という詩語は魅力的ですが、ある面では残酷です。そこをきちんと見据えた作品と云えましょう。良い意味で歳を重ねるとはこういうことなのだと教わった作品です。



季刊詩と童謡『ぎんなん』57号
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2006.7.1 大阪府豊中市
島田陽子氏方・ぎんなんの会発行 400円

<目次>
あかちゃん な/増上寺のお地蔵さん 畑中圭一 1
マスコット/海/かげ 藤本美智子 2
おめでとう!/ペンギンマーチ 前山敬子 3
おでんのなかで/つばめの楽譜 松本純子 4
くすの木 萬里小路和美 5
帰り道 萬里小路万希 5
お祖母
(ばあ)ちゃんの昔 もり・けん 7
雨 ゆうき あい 8
おひめさまは おとぎばなし/十九歳の夜 池田直恵 9
ねぎぼうず/朝顔/のれん/トコロテン いたい せいいち 10
おとうちゃんのそら 井上良子 11
仲なおり/逃げだした鯉のぼり 井村育子 12
今日のじぶん/ねこね/にちようび 柿本香苗 13
三びきの 子ねこ 河野幹雄 14
梅/いばるなよ「だ」 小林育子 15
タンポポ/助言 相良由貴子 16
このはどり 島田陽子 17
ウサギ/白もくれん すぎもと れいこ 18
カワウソ/ゲーム 冨岡みち 19
タコ/二人のおしゃべり交換 富田栄子 20
春のスイッチ/水の箱 中島和子 21
春/声 中野たき子 22
体と心/朝の空気 名古きよえ 23
本の散歩道 畑中・島田 24
かふぇてらす 井村・河野・小林 26
INFORMATION 27
編集後記 28
表紙デザイン 卯月まお



 おめでとう!/前山敬子

うわーい! とべた とべた!
たったいま生まれたばかりの
白いちょうちょ
ハタハタハタ はねをとじたりひらいたり
風におされて ひょろつきながら
あがったり さがったり
必死
(ひっし)になってとんでいる
でもなんだか うきうきしてる
わたしもいっしょに うきうきしてる
わたしの庭の春一番の新入生
二〇〇六年四月一日生れ
名前は 前山
(まえやま)もんしろちょう子さん
おめでとう!

 「わたしの庭」で「たったいま生まれたばかりの/白いちょうちょ」がいたというだけの詩ですが、この感性が佳いですね。家族として名前を付ける、それも「前山もんしろちょう子」と言うのですから、こちらまで「うきうきして」きます。ネーミングも合っています。童謡誌ですから子供向けの作品ですけど、忘れていた感覚を思い出させてくれて、大人が読んでも十分に耐えられる詩だと思いました。



詩誌『あかぺら』11号
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2006.6.20 滋賀県守山市
徳永遊氏発行 非売品

<目次>

「ベンチは拒否する」「雛の目閉じず」「夜へ散りゆく」 山本英子 3
「たたずむ」「風」 中川江津子 11
「ずっと」「呆気」「防波堤」 徳永 遊 17
エッセイ Coro(風)の頁 26



 ずっと/徳永 遊

風が吹いていた
明瞭で透き通った光が射していた
光にも風にも
かすかに早春のニオイがした
季節はずれの風鈴が鳴っていた

寒いけれど心地は好い
峠を越した風邪だが
気管支炎を患っている胸は
まだ少し息苦しく痰混じりの咳が出ている
ツーンとした冷気の中
どこからか少し酢酸のニオイもする

洗濯物を干している
洗濯物の影が透明な光の中を
斜めのグラデーションの影絵になって
揺れている

風がガラス戸や
はずし忘れた風鈴や電線を叩き
音を出して自分の存在を確める

 お母さん
 こんな日に私を
 産んでくれたのですか

 寂しいが故に
 子を産んだのだと言って下さい
 そして その子である私もまた
 寂しいが故に子を産んだのです

 お母さん
 この寂しいはずっと続くのでしょうか
 あの山のはるか彼方の空の果てまで
 ずっとずっと
 続くのでしょうか

 前半と、1字下げの後半とに大きく分かれますが、もちろん主体は後半です。「こんな日」を説明するために前半があります。この構成は決して珍しくはありませんけど、ここまで大胆な作品には初めて出会いました。それほど「こんな日」に対する作者の思いが強いのだと判ります。「寂しいが故に子を産」むというのは女性特有かもしれませんね。少なくとも私にはそこまでの思い入れはありません。女性のこの感覚は、おそらく他の動物にはないでしょう。ここにも人間の本質が現れているなと思った作品です。




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