きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
060611.JPG
2006.6.11 京都・泉湧寺にて



2006.7.11(火)

 特記なし、、、と書けることが嬉しいです。全部自分の時間。やりたいことは山ほどあって、もちろん今日一日でカタがつくわけではありませんけど、着実に一日分は進めます。最大のヤマは書斎の溢れかえる本ですけどね。おお、そうだ、公開してみましょう!(以前も公開しましたっけ?)

060716.JPG

 平積みになっているのがここ1年ほどでいただいた本です。これを何とか本箱に納めたいのですが、書斎にはもう置くスペースがありません。隣室に図書館のように本箱の列を作ることを狙っていますけど、これはまだ内緒。その前に酒瓶を片付けろと言われそうですから(^^;



個人詩誌Quake20号
quake 20.JPG
2006.7.25 川崎市麻生区
奥野祐子氏発行 非売品

<目次>
唇 一
Eat 五
絶壁 九
エッセイ 薔薇とおばあさん 十三



 Eat

穏やかな風の吹き抜ける居間で
小さな木のちやぶ台を囲み
食卓に並んだ焼き魚を
もそもそ あなたと食べる
ただ 並んで食べる
黙って食べる
それだけで もういい
それこそは 私の望み
静かな食事
黙っていても 許される平和
休息
何処にも戦いが 緊張がない食卓
ああ 何も多くは望まない
ただ こうして
もくもくと食べることにひたりたい
健全に 正しく
けだものたちのように
そこでは
コトバなどは 愚かしい雑音
強く強く 生きるためには
たしかに 食べなければ
健やかに 食べなければ
ああ これまで私は
何度こうして食べてきただろう
一日  三回
数え切れないほどの食事を
食べても 食べても
いつだって不安だった
「食べる」ことは 醜い
卑しい 汚い行為だと
どこかで思う自分がいて
「食べる」ことにおぼれてしまう
そんな自分が許せなかった
焼きたてのパンをかじる
炊きたてのご飯をほおばる
そんな快感を味わいたいくせに
絶対にしてはならないと感じていた
故意にカリカリに焦がして冷ましたトーストを
小さなサイコロのように分割し
一口ずつ一口ずつ ロボットのように 口に運ぶ
私の口は 快楽を感じてはいけないのだ
ああ そんな狂った食卓から
もう 何年の月日が流れただろう
目の前で お皿に顔を突っ込んで
ポリポリと 気持ちのよい音を立てながら
口いっぱいにドッグフードをほおばる
ブルースの食欲が とうといと 思う
私も箸をとり
心置きなく あたたかいご飯をほおばる
かすかに 胸の奥が ちりちりとうずく日もある
ぬぐいとれない罪の意識
その傷口を 両手で静かに包み込んで
食べる! 食べる! 食べる!
私は しっかりと 食べる!
告解のように
宣誓のように
自分が自分に向けてはなつ
おくればせの愛の告白のように

 確かに「『食べる』ことは 醜い/卑しい 汚い行為」なのかもしれません。それは「食べても 食べても/いつだって不安だった」という感覚と無関係ではないのかもしれません。生存への根源的な「ぬぐいとれない罪の意識」がどこかにあるからでしょうか。これはこれで面白いテーマになると思います。
 作品は愛犬「ブルース」に刺激されて「しっかりと 食べる」ことで決着しています。人間は「おくればせの愛の告白」でも構わないから「その傷口を 両手で静かに包み込んで」生きていくしかないのだろうと思います。そんなことを考えさせられた作品です。



詩誌『青芽』542号
seiga 542.JPG
2006.7.5 北海道旭川市
富田正一氏方・青い芽文芸社発行 700円

<目次>
表紙画 文梨政幸
扉・写真・佐々木利夫(名寄市 会友)
作品
文梨政幸 4 宮沢 一 6 佐藤 武 7
浅田 隆 8 芦口順一 9 森内 伝 10
村上抒子 11 四釜正子 12 本田初美 13
荻野久子 14 武田典子 15 堂端英子 16
菅原みえ子17 佐藤潤子 18 吉村 瞳 19
◇連載 青芽群像再見第二回 冬城展生 20
作品
沓澤章俊 24 倉橋 収 25 現 天夫 26
横田洋子 28 小森幸子 29 千秋 薫 30
能條伸樹 31 小林 実 32 岩渕芳晴 33
伸筋哲夫 34
.オカダシゲル35.村田耕作 36
富田正一 38
◇宮沢一詩集「ペットショップにて」感想 文梨政幸 40
告知 41・44・45・49
青芽プロムナード 42
寄贈詩集紹介 42・45
寄贈誌深謝 43
目でみるメモワール 46
編集後記 50



 改革/富田正一

全国の三万世帯を選んで
消費生計費調査をお願いします
総務省統計局・調査実施団体
新情報センターからだ

規定の用紙に毎月家計消費額等を書いて
一年間 返送用の封筒で送るのだ
年三回 百円均一にプラスした
どこの家庭でもある粗品が謝礼だ
確かに「粗品」とある

職員は粗品選びと立案に苦慮し
無駄な時間を使っていないか
むしろ調査終了後少額の商品券でも
計画者も実施者も合理的で喜ばれないか
改革とは無駄を省くことではないのか
改革の言葉に酔いしれながら
無造作に片手を上げる主よ

 「
無駄な時間を使っていないか」という指摘には大賛成です。私も民間企業に38年勤務した経験があり、その立場で見ると官の仕事は無駄ばっかりですね。そこを具体的に良くぞ言ってくれたと思います。この具体性が大事でしょう。「改革とは無駄を省くことではな」く、新たに無駄な仕事を作っていることをもっと言わなければなりませんね。

 本誌は日本でも有数の60年に渡る長い歴史を持ち、着実な成果を挙げていることが一読して判りましたが、浅学にして今回初めて拝読しました。粒よりの書き手が揃っています。拙HPでは1編を全文紹介し、訪れた読者の皆様とともに鑑賞するという方針ですが、その自ら決めた方針に反しもう1編紹介します。

 つれづれの短詩/横田洋子

・前向き
残された 人生の
今日が
一番 若い日

 「つれづれの短詩」という総題のもとに「・アメンボウ」「・前向き」「・健康レシピ」「・移ろい」の4編の短詩が収められていました。ここでは「・前向き」を紹介しますが、この発想が佳いですね。こうやって毎日「前向き」に生きてゆけよと励まされました。色紙にでもしたい作品です。



谷口謙氏詩集『二重奏』
nijuso.JPG
2006.7.10 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊 2000円+税

<目次>
同姓 8       肉団子 10
孤独な死 12     寒い遺体 15
朝 突然に 17    寒気 19
一〇一歳 22     誕生日 25
後の電話 27     一時間 31
無念 33       異郷の景勝の地で 36
新聞証言 39     借金苦 42
旧家 44       鉄工業 47
紐と直腸内温度 50  誤算 53
忌日 55       小さな漁港の早朝に 57
転落 60       校長先生 62
蛆の長さ 64     両耳出血 66
泥酔 69       運動もしたけれど 71
交通事故 74     包丁 77
病の果て 80     腹部解離性動脈瘤CT写真もあって 83
焼死 86       アルコール水死 88
六十六歳と四十八歳91 盛り 93
二円 95       ポリさんの水死 98
もう九月 100
.    独居老爺 102
待つ 105
.      元ウインドサーフィンショップ店舗内 108
テレビのみ 110
.   配偶者と別れて 113
心嚢炎?心嚢水腫?115
.脊准間狭窄症 117
団地家族 120
.    人情 123
百万円 126
.     裏の離れ 128
借財 130
.      カマヤ海岸(経ケ岬に近く) 132
うつ 135
.      医者嫌い 138
朝風呂のなか 140
.  所有の別荘で 143
大きなミス 146
.   寒さのなかで 149
焼肉業 152
.     ぼくも診た 155
紳士 158
.      寒気 161
知人の死 164
.    出血死 167
二重奏 170
あとがき 176
.    著者略歴 177



 二重奏

二月一日午前九時半頃 十時と言う人もある
八十歳老婆 友人宅に電話を入れた
酒を買いに行く
ついでにしゃべろう
友人宅には行っていない
保育所の下を小川が流れていて
口大野○○○番地西方約十メートル先側溝
うつ伏せに倒れ水は飲んでいなかった
細小泡沫もなく
後頭部と右前腕に擦過傷
午後九時十分呼ばれて署の霊安室に行く
実は拙院にも通う長い患者さんだった
古いC型肝炎
一月三十日 三十一日 続けて来院し―
強い不眠を訴える
不眠は続いており十日前ぼくは眠剤を投薬した
ところが三十日 別のP医院かちも眠剤投薬を受けたと言う
驚いて睡眠剤の大量は危険ですよ
いろいろ会話を重ね
結局ぼくはY病院神経科の受診をすすめた
紹介状も書くから是非とも
それでも何度も訴える不眠 不安
併せて飲んでも一晩五分位しか眠れない等々
午後九時三十分 本部の調査官来
室温八度
直腸内温度二二度
角膜透徹
眼球左右とも六×六ミリ
結膜溢血点 左右上下とも針小犬二―三こ宛
左頸動脈の怒張が強い
硬直全身中 頸部のみ強
背部の死斑赤紫色 強圧退色
ここで十時十分 もう一度直腸内温度測定 二一・五度
四十分で〇・五度下がっている
心臓血採取
後頭窩穿刺クラール
酒を飲みに行くと電話をした時間は確証を欠く
当署の鑑識と本部からの調査官と顔をつき合って相談する
以上のデータを綜合すると午前十時頃死亡となる
結局死亡時間は二月一日午前頃推定ときまる。
病名は虚血性心不全
 ―――
更に思い切ってぼくの苦しい記憶を書こう
開業間もなくの頃だったから昭和二十六年か
小学校低学年だった彼女の長男が腹痛を訴えた
当時は蛔虫症が多かった
腹痛と言えば蛔虫が原因だった
第一回往診をして鎮痛剤とサントニンの注射をした
(サントゾールと言ったと思うが当時の花形商品だった)
一度は治まった
歌を唄っていたと言う
三十分ばかりあと再度往診
注射
それから更に十分位たったと思う 三回め
若輩のぼくもやっと気付き
近くの外科病院に送った
開腹 腸捻転だった 死亡
 ―――
彼女を悲しませ 不幸にした
あの子が生きていてくれれば
何回なげかせたことだろう
長男の死と彼女自身の死と
ぼくはかかわった
長い開業医生活のなか ただ一度だけのこと
慙愧

 拙HPでは何度か紹介してますが、著者は開業医の傍ら警察の求めに応じて検視も行うお医者さんです。日本でも、おそらく世界でも珍しい検視詩集は今回で6冊目ですけど、この詩集刊行には相当の決意があったのではないかと愚考しています。詩集タイトルにもなった「二重奏」は最後に置かれており、その重さを感じます。半世紀以上前のこととは言え、ここまで書く勇気に敬服します。その真摯な態度が地域の開業医としても半世紀を越えるお仕事を続けることが出来たのだと思います。今後も医師として詩人としてご活躍いただくことを願って止みません。




   back(7月の部屋へ戻る)

   
home