きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2006.6.11 京都・泉湧寺にて |
2006.7.12(水)
床屋に行ってきました。3ヵ月ぶりだろうと思います。現職の頃は4ヵ月間隔でしたので、1ヵ月短くなったなと感慨深いです。4ヵ月毎でもそのタイミングを計るのが難しかったのですが、今は1ヵ月毎でも時間的には可能です。でも現職時代の癖は直りませんね。短く切って長く伸ばし、我慢できなくなったら行く。その癖が尾を曳いているわけですが、それでも1ヵ月短くなりました。今後は皆さんのように月に一度は行くという感覚になりたいと思います。少しは人間らしい生活を取り戻せるかな(^^;
○殿岡秀秋氏詩集 『パリ発東京行きのメトロ』 |
2006.7.7 東京都目黒区 あざみ書房刊 1500円+税 |
<目次>
死体運搬冷凍列車…10 養育……………………16
人形の目……………18 嵐がすぎて……………26
死ぬ自動車…………32 帰り道で………………34
それでも……………36 出がけに………………38
ふる…………………42 射的場の光……………44
交差する人影………46 川沿いの美的な住まい50
ハマナスになる……56 樹の中の人形…………58
気持を察して………60 メトロの捩れ…………64
魚のままの女………66 パリヘの逃げ道………68
闇の発光体…………70 輝くクロコダイル……74
霧の底の国…………76 庭の動物たち…………78
果てへの道行………84 氷の渡し………………88
星の血………………92 地形図に隠された地図96
あとがき
表紙装画…………………古谷博子
見返し・化粧扉装画……藤富保男
装幀………………………田中淑恵
本文レイアウト…………市川益弘
死ぬ自動車
四階建ての立体駐車場の一階で黒い自動車が死んでいる。飲みすぎて緊張
が緩んだ顔のようにボディが張りを失っている。キィーを差しこんでもエ
ンジンがかからない。電気系統は何も反応しない。開かない窓。ワイパー
は眉毛も動かさない。目を覚まさないラジオ。
救急車がやってくる。白い服の男たちが出てきて、ボンネットをあける。
異臭が立ちのぼって男たちは顔をそむける。車体の下に淀んだ黄色い液体
が漏れている。
立体駐車場は締めきられ、周りにロープが張られる。そこにおいたままの
自動車たちは次第に張りを失っていく。塗料がはがれ、タイヤが風船のよ
うに膨れて、破裂する音がトランペットのように鳴りひびく。
「まるで伝染病だ」白い服の男のひとりがつぶやく。彼は聴診器を一階の
白い自動車にあてる。それから四階まで自動車たちを診てまわる。青い自
動車が隙間風のような息をして、最後の声をもらす。
「もう一度走りたかった」
この詩集のタイトルについて、また詩集全体について作者自身があとがきで次のように述べています。
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パリのメトロで驚くのは駅名の表示が大きいことだ。駅に着いたら車内のどこにいてもプラットフォームを見れば、どの駅にいるかがすぐにわかる。ぼくが夢の中で掘りすすめた地下道で、パリのメトロと東京の地下鉄とが地球の大腸のようにつながった。ぼくはその途中に二十六の駅を作った。「死体運搬冷凍列車」から 「地形図に隠された地図」まで駅名はパリのメトロ並みに大きく掲げた。ぼくはその地下道を現在という出口に向かってひた走る。
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詩集の性格が良く判る文章だと思います。さて紹介した作品はその中の1編ですが、この詩集の特徴が端的に出ていると思っています。擬人にもいろいろありますけど、詩の分野で「死ぬ自動車」を扱ったものは少ないのではないでしょうか。その面でも価値のある作品です。「立体駐車場は締めきられ、周りにロープが張られる」など、人間の殺人事件のようでおもしろいですね。最後の一言も良く効いていると云えましょう。
○詩とエッセイ『橋』118号 |
2006.7.7
栃木県宇都宮市 野澤俊雄氏方・橋の会発行 700円 |
<目次>
作品T
◇記憶 瀧 葉子 4 ◇春のひとひら・他 高島小夜子 6
◇少年のように 國井世津子 8 ◇十郎が峰 都留さちこ 11
◇酔いどれな詩 江連やす子 12 ◇欅 大木てるよ 14
◇時 冨澤宏子 16 ◇春の万華鏡 酒井 厚 18
◇正常解剖 そのあいか 20 ◇沈下橋 斎藤さち子 22
石魚放言
私の読書 高島小夜子 24
わかったような わからんようなこと 湯沢 和民 25
作品U
◇ネフロレピス 草薙 定 26 ◇想い出の故郷 相馬梅子 28
◇四十五年・他 和田 清 30 ◇植物三題 簑和田初江 32
◇ばあちゃんは駆ける 戸井みちお34 ◇憧れの街 若色昌幸 36
◇夜の爪 山形照美 38 ◇蜩の鳴く頃 野澤俊雄 40
書評 野澤俊雄
◇坂本絢世『結露の風景』 42 ◇田川紀久雄『道化師』 42
◇上原季絵『乳房は母にあずけて』43 ◇岡田喜代子『千年の音』 43
橋短信 風声 野渾俊雄 44
受贈本・詩誌一覧 45
編集後記 46
題字 中津原範之 カット 瀧 葉子
ネフロレピス/草薙 定
読めぬまま高さを増す書籍の山
返事を書き忘れている出欠のはがき
不在がちの書斎へ
居間から一鉢の観葉植物を移したのは
数日前のこと
今日には書き終えねばならない一篇の詩に
加えるべき一つの隠喩として
タマシダ属の この常緑多年性シダは
耐寒性はかなり強く 耐陰性にも優れている
少々野放図な扱いをされてもへこたれない
かえって手をかけ過ぎてだめにする
乾かない側(そば)から水をやる
控えるべき時に施肥をする
節度なく可愛がる気持ちが徒(あだ)になる
下葉が枯れたり根腐れしたり
そんな失敗を繰り返しながら
それでも もう何年も生き長らえている
書斎で原稿用紙を見つめていると
「あら こんなところで育っていたの」
妻の運ぶコーヒーカップから立ち上がる
思いがけぬ言葉の香ばしさ
見えるかい
私のなかで詩が育つのが
聞こえるかい
緑のこまやかな韻律が
すぐには形に成らずとも
きっと育っているはずだ
きっと
「枯らさないようにね」
と置き去られた言葉に振り向くと
観葉植物のことと気付く
徒良した葉がなかなか切り戻せない
その時が釆たら
思いきりよく切り詰めよう
みずみずしさに輝く新芽を促すために
恥ずかしながらタイトルの「ネフロレピス」の意味が判らず調べまくりました。「広辞苑」はもとより家中の小さな国語辞典3冊、果ては「理化学辞典」まで引っ張り出しましたけど載っていませんでした。これでやめたのではこの詩の正確な鑑賞が出来ません。当然インターネットで調べました。すぐに出て来ましたね。「学名:Nephrolepis exaltata、和名:セイヨウタマシダ、英名:common sword fern、科名:タマシダ科、属名:ネフロレピス属(タマシダ属)、性状:常緑多年性シダ、原産地:世界の熱帯、亜熱帯」。要は作品中の「タマシダ属の この常緑多年性シダ」のことだったのです。あぁ恥ずかしい。もちろん写真も載っていましたから、しっかりと勉強させていただきました。
と、安心したところで再度作品鑑賞。「かえって手をかけ過ぎてだめにする」というフレーズの重要性が良く判りました。「見えるかい/私のなかで詩が育つのが/聞こえるかい/緑のこまやかな韻律が」に対応する「枯らさないようにね」も、もちろん佳いですね。「ネフロレピス」の性質が判って、より深く感じ取ることが出来ました。それにしてもこのご夫妻。佳い雰囲気です。
○詩誌『鳥』10号 |
2006.7.15
さいたま市大宮区 力丸瑞穂氏方発行所 700円 |
<目次>
詩
神田川4・5…………………金井節子 2
雨の日…………………………力丸瑞穂 4
福寿草…………………………早藤 猛 5
水鏡・自立……………………八隅早苗 6
白い絨毯・優しい手…………田嶋純子 8
アカハラ・キャッチボール…山本陽子 10
手向けの雨・スペイン………倉科絢子 12
−ラ・マンチャ地方
異 界…………………………菊田 守 14
エッセイ
砥石……………………………田嶋純子 15
桜………………………………力丸瑞穂 16
藤本先生の思い出……………金井節子 17
この一篇 大木 実…………菊田 守 18
小鳥の小径……………………………… 20
□八隅早苗 □力丸瑞穂 口金井節子
口早藤 猛 □倉科絢子 □山本陽子
□菊田 守
表紙 …………………………西村道子
編集後記
白い絨毯/田嶋純子
子供も、犬猫の姿も見えない
たくさん積った雪
よーし!
足跡一つない真っ白な雪の上に
私は大≠フ字に寝てみた
灰色の空から絶え間なく
踊りながら雪の子供たちが
無数に下りてくる
楽しそうに
フワーツとした柔らかい身体で
私をやさしく覆ってくれる
豪華な真っ白い絨毯の上で
「白雪ババ」と思ってクスッと笑った
私もスキーに行っていた頃は、よくゲレンデの新雪の「足跡一つない真っ白な雪の上に」「大≠フ字に寝てみた」ことがあります。本当に気持ちの良いものなのです。作者もおそらくしっかりと防寒をして寝っ転がってみたのでしょうね。毎日雪が降る地方の人なら、そんな気にもならないでしょうが、たまに雪が降る地方、たまにスキー場に足を運ぶ者のちょっとした贅沢だろうと思います。
「白雪ババ」は傑作です。もちろん白雪姫≠フパロディですが、自分を「ババ」と茶化す作者に精神的な余裕を感じました。
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