きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.6.11 京都・泉湧寺にて


2006.7.21(金)

 一日中、日本詩人クラブ詩書画展の準備で忙殺されました。7月31日から銀座の地球堂ギャラリーで開催されるのですが、当日までに出品目録を作っておかなければなりません。出品申込み用紙は事前に私のところに郵送してもらうことになっているのですが、まだ来ていなかったり、来ても記載漏れがあったりして、そのフォローが大変です。そんなことはいろいろな会を運営すると必ず出てくることですから、今さら驚いたりはしませんけど、それにしても不備が多すぎますね。ま、その不備を確認するために電話して、こんなことでもなければコンタクトをとれないような人とも話ができますので、楽しい面もあります。いわば役得かな(^^; そう思ってこれも楽しませてもらっています。



詩と批評
『POETICA』49号
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2006.6.30 東京都豊島区
中島登氏発行 500円

<目次>
霧の中を −ハンガリー紀行/大石規子 570
メロディとリズム/大石規子 572
新緑のころ/植木信子 574
ある日/小舞真理 576
雨あがり/中島登579
扇/中島登 580
静寂/中島登 582



 静寂/中島 登

わたしを呼んでいるけれど
誰もいない
庭の辰巳の古井戸から
細い手が伸びる

どこからか叫び声が聞こえる
暗い納戸のおくから
お蔵の重い扉の隙間から
かぼそい女の声がする

そんな日はきまって烏
(からす)も啼かない
森は静まりかえっている
杉の枝の折れた音が耳のそこでひびく

誰かのひそひそ話がする
脳溢血で倒れた伯母は美しい女
(ひと)だったそうだ
奥座敷で剃刀の刃が光っている

 あぁ、「静寂」を詩で書くとこうなるのだなと感じ入った作品です。「どこからか叫び声が聞こえ」たり「かぼそい女の声が」したり、「杉の枝の折れた音が」あったりするのですが、それらはみな現実の音を伴っていないように見えます。第1連の「誰もいない」、最終連の「奥座敷で剃刀の刃が光っている」というフレーズが効果的で、そのイメージで読むからではなかろうかと思います。「そんな日はきまって烏も啼かない」も、「脳溢血で倒れた伯母は美しい女だったそうだ」も効いていますね。烏も美しい人もこの世のものではない象徴として遣われていると思うのですが、それが「静寂」の正体のように読み取りました。



月刊詩誌『柵』236号
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2006.7.20 大阪府箕面市
詩画工房・志賀英夫氏発行 562円+税

<目次>
現代詩展望 詩誌の原点とミニコミ新聞…中村不二夫 80
 最近のミニコミ詩誌紹介
少年詩メモ(8)こころとからだ…津坂治男 84
奥田博之論(6)新しい光に包まれて…森 徳治 88
流動する世界の中で日本の詩とは 22…水崎野里子 92
 パッションの開放と日本の女流短歌
風見鶏・壷阪輝代 高木 白 深谷孝夫 高橋 馨 花房睦子 96
「戦後詩誌の系譜34昭和54年65誌追補4誌…中村不二夫 志賀英夫 108
宗 昇/白い道 4  松田悦子/送信 6
前田孝一/回帰 8  今泉協子/五月の庭 10
山崎 森/ラピスラズリーの空へ 12
小島禄琅/かすかな匂いを放つ本 14
山南律子/青いトマト 16
大貫裕司/予感 18  織田美沙子/五月のひまわり 20
山口格郎/悲しみは消えない 22
肌勢とみ子/通信 24 佐藤勝太/雪の朝 26
名古きよえ/つくる
.28 南 邦和/夢のはなし 30
小沢千恵/山王祭り
.32 小柳津緑生/天命を知る 34
水崎野里子/ゴヤの絵の前で 36
高橋サブロー/自噴水に水饅頚 38
岩本 健/死の子供 他 41
徐柄鎮/柳川旅情 44 川端律子/わが生命 いつまで? 46
小野 肇/滑り台 48 小城江壮智/戸隠奥社 50
江良亜来子/花火 52 柳原省三/サバイバル 54
伍東ちか/表現緑 56 門林岩雄/池の春 他 58
安森ソノ子/詩書展
.60 忍城春宣/新殻屋の若旦那 62
西森美智子/青を探しに 64
鈴木一成/都々逸もどき 66
若狭雅裕/サルビアの咲く頃 68
野老比左子/目をひらく空 70
立原昌保/夜明け 72 進 一男/不意の場所 74
北村愛子/意思表示
.76 中原道夫/笑み 78
現代状況論ノート(3)…石原 武 98
世界文学の詩的悦楽−ディレッタント的随想(2)…小川聖子 100
 メランコリーの表現方法 −北原白秋をめぐって
コクトオ覚書 211 コクトオ自画像[知られざる男]31…三木英治 104
東日本・三冊の詩集 後藤基宗子『かわらなでしこ』…中原道夫 120
 本郷武夫『夜は庭が静かだね一行読めばいい』 若林克典『桜庭』
西日本・三冊の詩集 荒賀意雄『原郷蒼天』…佐藤勝太 124
  牧田久末『うそ時計』 川本説子『歌う木』
受贈図書 132  受贈詩誌 127  柵通信 128  身辺雑記 133
表紙絵 中島由夫/扉絵 申錫弼/カット 野口晋・中島由夫・申錫弼



 予感/大貫裕司

極東の前線基地列島は
独立国としては名ばかり の
世界戦略に組みこまれて
植民地としてその支配下に在る

基地の再編強化に
住民の意志は無視され
莫大な費用負担を強いて
軍を統括する司令部を移すという

不戦の願いは消され
こじつけと拡大解釈で
国際協力の海外派兵を
あっさりと実現した

戦後半世紀を過ぎても
なおその支配が続き
唯唯諾諾と法案が審議されて
戦前の暗い淀みへ
沈んでいく気配がする

 「独立国としては名ばかり の/世界戦略に組みこまれて/植民地としてその支配下に在る」ことに腹が立ってしょうがないのですが、戦争を知っている人には「戦前の暗い淀みへ/沈んでいく気配が」敏感に感じられるのでしょうね。「住民の意志は無視され」「こじつけと拡大解釈で」戦前へと回帰していく「予感」の原因は「戦後半世紀を過ぎても/なおその支配が続」けられている米国にあるわけですが、文化まで「世界戦略に組みこまれて」いるおおかたの日本人には何も感じられないのかもしれません。これが我が国の民意の程度かと思うと情けなくなります。行くところまで行き着いた経験は、今後も生かされないのではないかと諦めています。




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