きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.6.11 京都・泉湧寺にて



2006.7.24(月)

 中学校時代の同級生が亡くなって、御殿場までお通夜に行ってきました。導師も同級生。良い話をしてくれました。亡くなった高田一治君と吉岡導師は家も近くで、小学校以前からよく遊んでいたそうです。そういえば中学時代、遠距離で自転車通学が許されていた二人は毎日のように一緒に帰っていたなぁと思い出しました。成人してからも寺の修復などで出入りしていたそうです。一治君と私は中学卒業以来会っていなかったと思いますが、印象に残る男です。あだ名がバルボン。当時のプロ野球選手の名前だったように記憶しています。小柄ですが運動神経抜群だったように思います。
 同級生も20人近く集まっていましたが、こんなことではなくて呑み会なんかで会いたいねと言いながら別れました。昨年に続いてこれで二人目。56や57で亡くなるのはあまりにも早い。吉岡君も言ってましたけど、バルボンの分も時間を大事に遣いたいものです。合掌。



隔月刊詩誌『RIVIERE』87号
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2006.7.15 堺市南区 横田英子氏発行 500円

<目次>
信濃の夜に/釣部与志(4)
なながならんだ/ますおかやよい(6)
鼠花火/立野つづみ(8)
その太鼓の音を/泉本真里(10)
弥生の昔の物語<40>/永井ますみ(12)
初春/後 恵子(14)
夏の夜の夢/平野裕子(16)
雨音/横田英子(18)
RIVIERE/せせらぎ(20)〜(23)
 石村勇二/河井洋/釣部与志/横田英子
夢の日/正岡洋夫(24)
朝/戸田和樹(26)
少し照れながら/石村勇二(28)
オルゴールDOLL/MARU(30)
一行詩/藤本 肇(32)
小石を踏んで/松本 映(34)
祈念・水列島(私の○六年GW報告)/河井 洋(36)
科学者でもあった人/安心院
(あじみ)祐一(38)
梅崎義晴氏を悼む(40)〜(45)
 横田英子/小野田潮/泉本真里/釣部与志/永井ますみ/正岡洋夫/河井洋
受贈誌一隻(46)
同人住所録(48)
編集ノート/横田英子(53)
表紙の写真・TORO/詩・永井ますみ



 朝/戸田和樹

仕事の都合で遅く帰った夜
一年生になったばかりの娘は
すっかり夢の中
お父さんを待ちくたびれて
ベッドに入ったのだろう
居間のテレビの前に
見ていたビデオの山が積んである

テレビのスウィッチを入れると
案の定
「ビデオ1」の表示
切り替えて
ニュースを見ながら
一人だけの食事をし
一人だけの酒を酌む
ふと目を上げた台の上に
春休みに娘が書いたメッセージが一枚
「がんばるね」とひと言

翌朝
歯磨きをしていると
娘がお尻にくっついてきた
多分話したいことがあったのだろう
しばらくくっついたまま動こうとしない
娘の手を握ってやっていると
満足したのか部屋に戻っていった

「がんばるね」と言いながら
どこかでくずおれそうな心の柱がある
ことんと音をたてるものを飲み込んで
ぼくは靴を履く
そうやって日々大きくなっていく

 佳い詩です。「娘」さんが目の前にいるように伝わってきます。「『がんばるね』と言いながら/どこかでくずおれそうな心の柱がある」という心理の捉まえ方も見事です。最終連の「そうやって日々大きくなっていく」というフレーズも佳いですね。これは娘さんに限らず「ぼく」のことでもあるのだろうと読み取りました。

 前号に引き続いて今号も梅崎義晴さんの追悼を組んでいました。写真が載っていましたので、私が最後に会った4年ほど前のお顔を思い出しました。改めてご冥福をお祈りいたします。



阪井弘子氏詩集『みねばりの木』
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2006.7.15 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊 2000円+税

<目次>
朝 6
耳 10
模様 12
ジェリービーンズ 16
二〇〇六年
 きさらぎ 18
たんぽぽ 22
翔ぶ 24
白ふくろう 26
小さな橋 30
川縁 32
泉のほとり 34
小鳥たち 36
雑木林 40
秋日 44
みねばりの木 46
少年と祖父(T) 50
少年と祖父(U) 54
大きな岩のような 56
母の手 58
ご老公 62
撮る 66
手紙 68
瀬戸内 70
それぞれの海 74
解説 無心に風の中へ溶け込んでゆく
     阪井弘子詩集『みねばりの木』 伊藤桂一 78
あとがき 84



 みねばりの木

信州木曾の里に
早春薄紅色の長い房の花を咲かせるみねばりの木
その木で作ったおろく櫛がある
昔 村の娘おろくさんが御嶽山の神様にお詣りして
みねばりの櫛で梳くと病気が治るとのお告げを受け
多くの村人たちを救ったという

わたしも娘も御嶽山へ行かなかった
おろくさんのことも櫛のことも知らなかった
わたしの娘は二十七歳で逝った
山の神様のお告げを授かれずに

あの日の夜半春の嵐が吹き荒れていた
新しい生命を産んだ母体は弱っていた
苦しむ娘の背中をわたしはさすりつづけた
娘はことばにならない声をふりしぼって
わたしの胸に倒れこんだ
娘のなかにも吹き荒れていた嵐に
生命の綱は切られてしまった
娘の生を新しい小さな生に託して

薄紅色の花が吹き飛びそうになりながら
みねばりの木が嵐に耐えていたころ

季節が巡って歳が巡って
ひっそりと薄紅色にかすむ里
ことしも村の工房では一本ずつ歯が研かれ
おろく櫛がつくられている
後に求めたおろく櫛が
いまわたしの掌のなかにある

 みねばりの木 カバノキ科の落葉樹小高木で「斧折れ樺」という俗称があ
        るほど堅い木。櫛は十年間、自然乾燥させてから作られる。

 第一詩集です。ご出版おめでとうございます。紹介した作品はタイトルポエムで、「娘の生を新しい小さな生に託して」「二十七歳で逝った」「娘」さんへの鎮魂詩です。亡くなってから時間の経過もあったのでしょうが、慟哭の中にも静かな落ち着きを感じています。お人柄なのかもしれませんね。この静けさ、謙虚さは詩集全体に現れていると云えましょう。「春の嵐」と「娘のなかにも吹き荒れていた嵐」の対比も効果的だと思います。今後のご活躍を祈念しております。




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