きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.6.11 京都・泉湧寺にて



2006.7.26(水)

 5年ぶりに運転免許の更新に行ってきました(優良運転手(^^;)。優良運転手の更新時受講時間は30分です。5年前は実質15分ぐらいでOKでしたが、今回はみっちりと30分受けさせられました。改正道交法の駐車違反の説明がほとんどでした。取締りが民間委託になって、その徹底を図るという気概でしたね。私の居住近辺では小田原市内が指定範囲ですので、まあ直接の影響はありませんけど、みんなの迷惑になる違法駐車は今後もやる気がありません。駐車場を使います。呑み代に比べたら僅かな金ですからね(^^;

 18時からは神楽坂エミールで日本詩人クラブの法人化委員会に出席してきました。登記も終わって7月27日には口座も開設されることなどが報告されました。事務所も具体的な選定作業に入っていきますが、決定は来年5月の総会承認を得たあとになりそうです。正式名称「有限責任中間法人日本詩人クラブ」の略称に(中)または(中法)が使えそうなことも報告されています。
 問題は官庁との関係だと私は踏んでいます。今後は文部科学省や文化庁とのタイアップも増えそうで、さっそく文化庁後援の具体事例も出てきました。単に名称の貸し借りだけなら私は構わないと思っていますけど、補助金を貰うような場合は要注意だろうと考えています。補助金も国際交流基金のような中立の立場の公的団体から貰うのは構わないでしょうが、直接国家から貰うのはどうかなと思っています。日本詩人クラブは今までも政治的な問題を扱ったことはないはずで、あくまでも詩人のサロンとして存在していました。それが謂わばヒモツキの金を得るようになると性格が変わるのではないかと懸念しています。それが良いとか悪いとかの話ではありません。会員全体の意思ではなく執行部の独断で決めるのはマズイと思うだけです。総会で、それでもいいじゃないかと決まれば私も納得します。国家から補助金を貰いながら国家に意見するというのは理屈の上では矛盾した行為ではありませんからね。法人化するということはそういうことなのだと改めて実感した委員会でした。



会報『「詩人の輪」通信』12号
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2006.7.25 東京都豊島区
九条の会・詩人の輪事務局発行 非売品

<目次>
若者を再び戦場に送るな/野田寿子 1
詩「宣ふ」/赤山 勇 2
 ももと日の丸/小久保哲子 2
 平和こそすべて/池田錬二 2
 ひなたぼっこ/倉知和明 3
「九条の会」全国交流集会と詩人の集い/中 正敏 4
輝け9条!詩人のつどい(パート3)
 開会のあいさつ/大河原巌 5
 分野別九条の会からのメッセージ 6
 熱い思いがひとつに−106名が参加/事務局 8
 会場アンケートから 9
 元気をもらいました――9条の会全国交流集会に参加して/赤木比佐江 10
「九条の会・詩人の輪」財政現状について 11
フクロウはさびしや/高橋シズ 12



 ひなたぼっこ/倉知和明

そうなんだ
おばあちゃんにも子供のときがあったんだ
どんな遊びをしていたの
おはじきにおままごと

そうなんだ
おばあちゃんも結婚してたんだ
どんなすてきな人だったの
ぼくのおじいちゃんなのか

そうなんだ
おとうさんのおとうさんだ
おとうさんはおじいちゃんのかお
しらないんだって
せんそうに行って死んだのか

 「ひなたぼっこ」をしながら「おばあちゃん」と話をする孫である「ぼく」という構図ですが、声高に反戦を叫ぶのではなく「せんそうに行って死んだのか」としているところが佳いと思います。この場合の「か」は疑問ではなく感嘆に近いものでしょうね。「おとうさんはおじいちゃんのかお/しらない」という現実が現在も続いていることも巧く捉えていて、こういう書き方が求められているのだろうと思います。



詩誌『カラ』創刊号
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2006.7.1 東京都国立市
松原牧子氏発行 400円

<目次>
狂乱のうた:デネブ:三〇年周期/外山功雄
睡眠の軌跡/佐伯多美子
Cerebrums/鳴海 宥
追廻町/松原牧子
CINEMA MOCHA VOL.1 'CHICAGO' 2002 USA/moca
史跡/石関善治郎



 睡眠の軌跡/佐伯多美子



 かつて、アパートで睡眠を得るために、狭い部屋には不自然にもみえる大きなベッドを
据えた。壁には全身が映る鏡をかけた。家具といえるものは他に一切ない。女べるとか掃
除するとか洗濯するとか、生きるという営みを排除したものだった。実際、着の身着のま
まだったし、食べると吐き気がして受け付けなかった。コーヒーと豆腐でしのいだ。民に
とって、ベッドと鏡があればそれですべてであった。一日の大半をベッドに横たわり、起
きるとベッドの上に正座して、鏡に映る自分の顔と向き合って見ていた。しかし、ベッ
ドに横たわっても眠りは浅かった。背骨に冷水がはしる感覚にしばしば襲われじっと寝て
いることができないでいた。鏡に映る自分の顔を見ながら、すでに別れた男の顔を浮かべ、
男の言葉を浮かべる。
「民さんは、民さんであって、民さん自身以外必要としていないだろう。むしろ、拒絶し
ているだろう。入れば入るほど排除するだろう。意識してるんだか、していないんだか、
俺にはわからん。たぶん、俺は異物なんだろう。」
 民は思っていた。あいつには透明度はない。しかし、明度はあざやかな光沢を持つ。色
で現せばブルーコンポーゼ。油絵の具を引き寄せると、ブルーコンポーゼを選び出し鏡の
額に記号のようなしるしを描いていった。その、しるしの間に、今の民の色、血のような
赤、カーマインレーキでこれも記号のように埋めていった。鏡は、民の顔を映しながら不
透明だがあざやかなブルーコンポーゼと、透明感はあるがどちらかというと明度の暗いカ
ーマインレーキの奇妙な縁取りができた。
 男との短いつきあいのなかで、民は妊娠した。しかし、民は産むという想念がまったく
思い浮かばなかった。女としての感性に欠けていたのかもしれなかった。自分の体内に変
化がおきて妊娠しているとわかってもなんの感概もわかなかった。まして新しいいのちが
宿っているなどとそこまで思いがいかなかった。妊娠するという事実も観念としかうけと
められなかった。せまい未熟な自分のあたまのなかだけで生きていたから、新しいいのち
の存在など実感がなにもない。ただ、乳房がぬれて白い乳液がでてきたことにはかつて経
験のないふしぎな感動をおぼえた。だいたい民には、男と交わっても快感という感覚に欠
けていた。男に悪いとわざと媚態せみせてみる。媚態をみせながら、自分の体を思い描く。
服の下は骸骨であった。背骨の芯の脊髄には鉛色の針金が一本ギグシャク微妙に曲がりく
ねりながら通っていて、腰椎にとどく。腰椎の先の骨盤の奥には女の膣室がかくされてい
る。膣室には、細かく砕いたガラスの粉がかくされていたりして、ときに、小さな破片も
まざっていたりして、訪れる男に激痛をあたえることがあったりする。男だけでなく、自
身いたみを常にいだいたりする。姿態によっては針金が膣室に突き抜けることもある。そ
んな、危険を男もうすうす気づいている。
 近くの産婦人科の病院にいって、堕胎の手術をうけた。おわって、麻酔から覚めると、
空腹感だけが実感だった。朝からなにも食べていなかった。手術の前に食べてはいけない
と医師に前もって言われていた。付き添ってきた男にカステラが食べたいとうったえて、
男があせるように買ってきてくれたカステラを一本まるまるがむしゃらに食らいついた。

 創刊号です。おめでとうございます。勝手に詩誌≠ニ銘打たせていただきましたが、短歌やシネマレビューなどもあって適切ではないかもしれません。しかし、それらの底に流れているものは詩≠ナあると思って付けさせていただきました。
 紹介した佐伯さんの作品は男と女が根底にあるものの、テーマは女としての「睡眠の軌跡」だろうと思います。典型的な佐伯多美子詩と云えるでしょう。実はこのあと紹介する『ガニメデ』誌にも同じ題名の作品が載っています。見比べて鑑賞してもらうのも一興だろうと思います。



詩歌文藝誌『ガニメデ』37号
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2006.8.1 東京都練馬区 銅林社発行 2100円

<目次>
詩作品T
飽浦 敏/ユネンティダ 4
國井克彦/満天の星 他三篇 12
山本美代子/声 20
紫 圭子/橋掛り 22
石田瑞穂/逸楽 28
吉田文憲/忘却――ざわめきたつことば 30
たなかあきみつ/(眼球でガタンと……)他一篇 34
片野晃司/殯(もがり) 40
福井久子/「飛天」五篇 44
吉田博哉/ランドリー 他一篇 51
福間明子/日月抄 58
佐伯多美子/睡眠の軌跡 67
中山直子/高窓の花――旧ソビエト連邦の教会を歌う 76
岡本勝人 亡き父のための都市の詩学 87
短歌作品
小塩卓哉/波間 112
沼谷香澄/TWIGYききつつ 116
川田 茂/昆虫記 120
和泉てる子/「ひんやり寒し」 126
森本 平/ロンパー・ルーム 132
大口玲子/古賀春江三十景 138
黒瀬珂瀾/傷の痕跡 144
鳴海 宥/Panther 148
喜多昭夫/熊埜御堂氏の告白 151
森井マスミ/ひかりごけ 154
田中浩一/超・花鳥風月 159
詩作品U
笠井嗣夫/不完全な骨 164
野村喜和夫/ひとさらい街道 168
天沢退二郎/ブルース二篇 174
篠崎勝己/祝祭 2 180
中神英子/夏の日に 184
吉野令子/形象(プリーツの肌理) 194
川井豊子/眠る女 他三篇 200
山田まゆみ/野茨 他四篇 210
荒木 元/連詩<砂浜のラジオ>2 222
工藤優子/海 他四篇 234
久保寺亨/サんラん 246
城戸朱理/水の否決 250
斉藤 倫/(ソング1、2、3、4) 254
藤本真理子/球の−エクラ 260
小林弘明/潮れない記憶 265
浅見洋子/三月一〇日 三ノ輪の町で 268
山岸哲夫/夜祭り 他五編 277
松下のりを/用水路 288
有働 薫/ピザンおばさま!――孤独の女詩人の酔いにまかせて歌う 293
小笠原鳥類/ソコダラ科 298
中原宏子/Package 307
くらもち さぶろう/ポックリさま その他 312
森 和枝/資質 他一篇 323
梢るり子/空の消える日 328
粕谷宋市/ベルタ 335
岩成達也/夜についての短い覚書き 338
平塚景堂/身体詩 343
渡辺めぐみ/試み 346
菊池唯子/零下二十度 他四篇 351
藤倉一郎/五月の夕暮れ 他 362
浜江順子/飛行する沈黙 369
編輯後紀 372



 睡眠の軌跡/佐伯多美子

  序章

うすい 灰色の影にうっすらととけていく
かぎりなく白にちかい灰色で
あるかなきかでありながら
コンクリートの道路にたしかに影はうつしている

影がうすいぶん
存在
(ある)かたちも うすい

影は
さむい とかの
かんかくを無くし
乾いた皮膚にローションをしみこませていく

消え入るように
溶けながら 声もきえいり とけながら きえいり

と・け・な・が・ら・こ・え・き・え・い・り
すがた無くす

でも

たしかに存在
(あった)もの
一滴の 雫
の 影は
すでに 非在となり
融合して
融点、
0度をさす。

溶けて
影も 非在
(なく)なり

内にむかった
目線のさきには
非在
(なく)したすがた、を、凝視する、
目、
が、ある。


 桜町一丁日のその古い木造のアパートは平屋建ての八軒の棟が連
なる長屋風であった。右端には一段軒が低くなった共同風呂がある。
その向こうは竹やぶである。玄関にあたる前は、武蔵野の名残のな
んという木か分からないがうっそうとした大木が一本無尽に枝を伸
ばしている。建物の壁に、桜荘とかかれた板が打ちつけてある。不
動産屋で渡された鍵であけて建物の中に入ると二月の冷気がそのま
ま部屋の中にもあった。玄関脇の台所の窓の北側の光だけで南側に
伸びた筒抜けの薄闇が広がった。がらんとした寒々しい広がりを感
じた。真ん中の部屋は窓がない。南側の雨戸を開けると縁側になっ
ていて小さな庭とその先は空き地。矛盾するような開放感と閉塞感
が同時にある。
 「いまどき、こんなところがあるんだ」讀(
とく)はつぶやいた。「まだ生か
される」と続けた。
 友人の薦めもあって、すでに住めなくなっていた今のアパートを
引き払いこの土地に住処を探していた。が、縁がないのかなあ、と
思いかけていたところにこの桜荘を紹介された。共同風呂というの
に興味をひかれた。玉川上水沿いにあり、その向こうは広大な公園。
 讀は、一箇所に長くとどまっていられない性癖があった。これま
で十四回住まいを変えた。今回で十五回目となる。ひどいときは四
ヶ月ももたなかった。息が詰まっていやだと感じ始めるともう精神
が不安定になり留まっていることができない。いつも、切羽詰って
いる。
 讀の子供のころの植木職人の父、楳
(うめ)の造った庭が好きだった。ほ
とんど刈り込みのされていないような自然の山風情に、庭石という
には大きすぎる子供の背丈ほどもある石が無造作におかれ、よくそ
の上に登って遊んだものだ。庭の中央に平屋根を越える梅ノ木があ
って、父の名、楳
(うめ)の由来もあって家の象徴でもあった。隔年に実が
なって母、石
(いそ)の漬ける梅干は時に砂糖をつけて子供たちのおやつに
なった。あのころのゆったり流れた時間、贅沢だったな、と讀はと
きどき回想する。当時はそれがずっと続くものとぼんやり思ってい
た。

 桜荘に越すに当たって、物を捨てた。無駄があることが赦せなか
った。過去。すべてがうっとうしかった。背中に張り付いているも
の、削ぎ落としたい。削ぎ落としても血は一滴も流れない。流れる
のは凍るような冷や汗。讀はとうとうここまできたかと小気味いい
笑みがこぼれるのを自覚する。しかし、過去とはどこまでが過去か。
どこからが過去か。讀の場合、自我が目覚めたところからはじまる
と思っていたがそうではないらしい。と考え始めた。どうやら存在
そのものが疎ましく思えたようだ。とずっと後になって回想する。
もともと捨てるべきものなど何も持っていなかったのかもしれない。
捨てた、と思い込んでいるか、錯覚にすぎない。生きていることに
無駄などなにひとつない。

 北から南に抜けるこの空洞のような棲家。ここで、今、讀が讀で
在るための儀式が執り行われる。丹念に掃除機を一目一目畳の目に
沿って神経質に動かす。畳の裏側の塵一つあってもならない。前の
住人が残して行ったかも知れない臭いも吸い取っていく。生気その
ものを吸い取らなければならない。緊張の糸を張りめぐらしていく。
しんと鎮まらなければならない。空気も冷やし底に鎮めていく。(今
だ。時期は来た。)唯一、母、石の形見の桐の箪笥が呼吸し始める。
讀も部屋の真ん中に正座し呼吸する。讀が生かされるのは、まさに、
今、この時と、吐く息と吸い込む息の波動を微かに感じている。削
ぎ落とそうとして削ぎ落とせなかった背中の冷気、すでに、背骨に
まで染みこみ達しながら、自虐する魂を呼び込みながら歓びが湧い
てくるのをうっとりと狂喜している。しかし、この、狂喜こそ、讀
は生まれながらに知っていた気がする。現在
(いま)、そこに身をおいてみ
て、やっとたどり着いた郷。懐かしさがこみあげてくるのを覚えて
いる。神経が澄み切っていく爽快さを感じていた。
 讀は、ふと、空腹に気づくが何か食べたいという意識はまったく
なかった。ポケットからエコーを取り出しうまそうに一服吸った。
白い煙が南の縁側のほうへ流れていくのを、なにも考えずただ見て
いた。
 縁側から庭に降りてみると、低木が一本植わっている。植木職人
の父を持ちながら、讀は、ほとんど木の名前を知らなかった。冬の
庭は他に草一本生えていなかった。狭い庭だが荒々とした拡がりを
みせた。物音一つ聞こえてこない隣家の庭をみると、白ペンキで塗
られた低い柵で囲まれ小石で仕切られた手入れの行き届いた花壇に
なっている。早咲きの白い花びらに真ん中に黄色い花弁のある小さ
な花が二三輪けなげだが凛と咲いている。凛としている分静かさが
増す。讀の佇つ真上は高く青く澄みよく晴れていた。晴れていたが、
光は感じられなかった。影もない。光も影もないただ明るさのなか
にしばらくじっと佇っていた。やがて、庭の先の空き地、その、広
くも狭くもない空き地にまで、空が鎮まりながら静かに降りてきて、
それは、讀を中心にして、この、古い長屋風のアパート桜荘がすっ
ぽり半球体の空の檻にはいっていった。(空の檻に囚われてしまった
…)と、声のない小さい悲鳴をあげた。そこは、風がかすかに吹い
ていたが空気はまるで動かない、寒くもなく温もりもない温度の感
じられない、乳白色の半透明の虚空間であった。すでに、音も声も
消され決して届くことのない音や声が封じ込まれていく。どんな音
も声も乳白色の半透明の膜に吸い取られていく。その上、半球体の
空の檻の、虚空間の上に空がどこまでも明るく抜けていた。
 その、半球体の空の檻には罪人が棲む。讀も罪を意識する。その
罪は善意にも似ている。善意に似ていながら善意を抹殺する。意識
下でくりかえされる裏切りの性。生。未だ存在しない以前の危うさ、
危うさを抱きながら存在してしまった、すでに引き返せない、生。
未生の罪。未だ、母の胎内にもやどらない以前の、宇宙の生命体と
して浮遊していたところまで遡源する、罪。讀は、そこまで意識を
おくとふっと気持ちが軽くなっていくのを覚える。そのとき、微か
な声を聴いた気がする。すでに、真空の、封じ込まれた空の檻。一
匹の白猫が讀をじっと見ていた。その瞳は左目が深い青、右目が光
る赤。事故にでも遭ったのか後左足が不自由で引きずるように歩く
いじらしくも、必死に生のみ生きる小さないのちの姿に救いを感じ
た。後に、空の檻を自由に出入りできたのは、この、白猫だけだっ
たと気づく。

 同じ「睡眠の軌跡」という題ですが、先ほどとは趣がずいぶん違うように感じられます。先ほどの「アパート」と今回の「アパート桜荘」とは同一の場所と見ても、違うと見ても本質的には変わらないでしょう。むしろ今回の副題が「序章」であることに注意を向けるべきだと思います。その副題の中で先ほどの「睡眠の軌跡」がどう位置づけられるか、そこを考えた方が良いと思います。もちろんそれぞれ単独の作品として読むことも可能ですが、私は大きな題の「睡眠の軌跡」の中の各章ではないかと思っています。
 作品としては「矛盾するような開放感と閉塞感が同時にある」「生きていることに無駄などなにひとつない」「晴れていたが、光は感じられなかった」「その罪は善意にも似ている」などのフレーズに注目しています。特に「晴れていたが、光は感じられなかった」は佐伯詩の色彩感覚を、「その罪は善意にも似ている」は思想的背景を述べているように思いました。この作品はおそらく長大な詩の「序章」でしょう。早く全貌を見たいものです。




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