きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.6.30 東京・新宿



2006.8.3(木)

 日本詩人クラブ詩書画展の4日目ですが、銀座に行けませんでした。父母の仲人をした人が亡くなって、その告別式に行ってきました。父親には妹が知らせたようですが要領を得なかったとのことで、親族を代表して私だけが行くことにしました。95歳で亡くなっていますから、まぁ、歳に不足はないでしょう。
 行ってみて驚いたのは、亡くなった人の息子が知り合いでした。以前の会社で仕事を一緒にやっていました。彼は製造課で、私はその品質を判断するという立場でしたが、仲間うちということでお互いに好意は持っていたと思います。「その節の数々の無礼をお詫びします」と謝罪しておきました(^^;

 本日の来場者は44名だったそうです。連日40名を超える人が訪れてくれて、感激です。私の呼びかけには江さんがおいでくださったそうで、お礼のメールを入れておきました。「気品のある女性が村山さんを訪ねてきた」と聞いていましたので、あとで芳名帳で確認したら江さんだったというわけです。私も一度だけお会いしていますが、納得です。江さん、不在で失礼しました。ありがとうございました。



平方秀夫氏詩集『人差指』
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2006.7.30 東京都練馬区
日本未来派刊 1700円

<目次>
 *
いまだに水を 8   人差指 12
あのとき 16     領域 20
 *
黝く濡れている 24  赤い樹液 28
カーテンの隙間で星が 32
いつかの言葉が 36  「はい」と言っても言わなくても 40
夜と森 44
 *
引力 48       感知 52
同じ季節に 56    その「よ。」にあるらしい 58
山吹の花も終え 62  本物のアウト 66
兆候 70       烏が私をくわえて 74
 *
はるかな時間を 78  位相 82
木槿(むくげ)が夕陽に 86
その日も 90     ふしくれ立った竹の根が 94
秋の日の素顔 98
あとがき 104



 いまだに水を

このごろ 真夜中に
ときどき目が醒めるのは
私の咽喉
(のど)の粘液をねらって
夜毎咽喉の皮膜を突き破り
はい出てくる奴が
いるからだろう

かかりつけの外科医は
慢性咽喉炎といって
粘液を作り出す力が失われ
治療法がない
水分を多くとることですね
笑いながら カルテを引き寄せ
水不足と書いているようだった

治療法もないといえば
四日病んで逝った
二十一歳の姉の敗血症もそうだったが
死に際は水との
闘いだった

姉は 母が水にひたした脱脂綿を
一日目はずくずく吸った
二日目は唇を濡らすだけだった
三日目は唇を閉じた
四日日の朝人差指で
みずは もう いいです

真夜中 目が醒めたのは
六畳の部屋で
水と闘った死出の姉が
私の咽喉の奥でいまだに
みず みずとなぞるからだ

 5年ぶりの第6詩集です。巻頭作品を紹介してみました。この作品の次にタイトルポエムの「人差指」があるのですが、意味はこちらの方が判りやすいと思って紹介する次第です。「人差指で/みずは もう いいです」と合図する「姉」上のおだやかさを感じて愕然としました。「二十一歳」という若さで「逝った」姉上のお人柄は「もう いいです」という言葉に表出しているように思います。
 詩集の主題は死、戦争と平和、その他に分かれています。佳い詩集です。機会があればぜひお読みください。



個人誌『せおん』3号
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2006.8.1 愛媛県今治市
柳原省三氏発行 非売品

<目次>
バラ公園       雨の夜
夏の妖怪(「発芽」改)  妻の車が事故を起こした
あんたどこの人ぞいな
あとがき



 妻の車が事故を起こした

修理に出した
妻の車が事故を起こした
整備士が点検のため運転中
追突事故を起こし大破したのだという
妻は運転者を気遣いながら笑っている

交渉がぼくに任せられた
十五年乗って愛着のある車なのだ
もう五年は使うつもりだった
車屋はしきりに謝りながら
しっかり新車を買わそうとするだろう

この車屋はよほどの間抜けだ
前回の修理の時には
警笛の結線をつなぎ忘れていて
妻は危うく人をはねそうになった
プロとは思えない仕業である

自由競争だリストラだと
何だかギスギスしてきた日本
まだのどかな部分が残っているのなら良い
無能で強欲なだけなら最悪だ
誠実もお人よしも愛嬌にしたいもの

詐欺や脅しやごまかしや
信頼と安全が損なわれているとき
国家の行く末を占う気持ちで
相手の話を聞いてみようと思った
空ではカラスが笑っている

 「間抜け」な話で笑えますが作者が見ている視線はシビアです。「プロとは思えない仕業」は「まだのどかな部分が残っている」からなのか、「無能で強欲なだけ」なのか、それを「国家の行く末を占う気持ちで/相手の話を聞いてみようと思っ」ているわけで、ここに詩人としての姿勢を感じますね。
 それにしても「十五年乗って」さらに「もう五年は使うつもりだった」とは凄い。13年乗り続けている私のトヨタ・スターレットがいじけているようです。



詩誌『ONL』86号
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2006.7.30 高知県四万十市
山本衞氏発行 350円

<目次>
現代詩作品
大山 喬二/橡の木の森へ 2
丸山 全友/8月8日 5
大森ちさと/村 6
岩合  秋/はな桔梗 7
土志田英介/解体 8
浜田  啓/壊れる日本 10
河内 良澄/海が 11
山本 歳巳/桜の記憶 12
福本 明美/届かぬおもい 13
北代 佳子/感謝 14
宮崎真理子/人生 15
文月 奈津/暁闇 16
土居 廣之/発展途上の男 18
水口 里子/巡る季節 19
名本 英樹/うしろ姿 20
横山 厚美/打ち明け話 21
柳原 省三/やくざ者がやってきた 22
西森  茂/癌を宣告された弟に 24
徳廣 早苗/つれずれに 26
山本  衞/河口の村/他 28
俳句作品
瀬戸谷はるか/カレーの香 1
随想作品
芝野 晴男/ゆとりすと 32
秋山田鶴子/あいさつ 33
小松二三子/或る判決 34
葦  流介/幸徳秋水の漢詩5 35
後書き 36
執筆者名簿 37
表紙 田辺陶豊《変貌》



 村/大森ちさと

山に囲まれた静かな川から
蛍が舞い上がる
市という名に変わった今年
去年と変わらずに
蛍が舞い上がる
一つ 二つ 三つ
小さな光が
闇を美しくさせる
亡くした村のように

 平成の大合併で「市という名に変わった」「村」。そんな人間の施政とは関係なく「去年と変わらずに/蛍が舞い上がる」。それは「亡くした村のように」「小さな光が/闇を美しくさせ」ている。批判でも肯定でもなく淡々と「蛍」を語ることでこの作品は成立しています。短詩ですが佳い視点だと思いました。



詩・小説・エッセー『青い花』54号
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2006.7.25 東京都東村山市
青い花社・丸地守氏発行 500円

<目次>
巻頭言 表2

鋏に/木津川昭夫 4
ソラの風/鈴木哲雄 6
女性専用車/野仲美弥子 9
陽だまり/吉田章子 12
雲の峰/伊勢山峻 15
応答セヨ(1)/古賀博文 18
漁港/竹内美智代 22
網膜浮腫/相良蒼生夫 24
橋/橋爪さち子 26
チベットの羊/北川朱実 29
薄衣/奥村泉 32
海の見えるパブ/真崎希代 34
産みから海へ/河上鴨 36
壺/高山利三郎 39
カメムシ/柏木恵美子 42
バーチャルM G/岩下夏 44
放奏のための二段詩/寺内忠夫 46
金漆
(こしあぶら)考/山本十四尾 52
小説 その男/平田好輝 54
評論 詩論ノート 装置としての詩空間(二十三)−「四行詩」自壊の意味するもの/溝口章 62
詩画 出会うためには離れなければならない/丸地守/大嶋彰 70
ショート・エッセイ
西岡光秋「詩魂断章」・相良蒼生夫「綱手かなしも」・比留間一成「竹内美智代さんに」・坂本登美「追憶にひそむ味覚」(十三) 71

四字熟語抄(二)/今辻和典 76
赤ちゃんは知っている(10)/比留同一成 78
生命誕生−その14/埋田昇二 80
散歩の理由/菊池柚二 83
目覚めゆく夢の瞼/布川鴇 86
夏の終わりに/森田薫 88
溺れているこんとんとyama.JPG記号/山本倫子 90
赤い靴/坂本登美 92
戒名/挨の風景/本郷武夫 96
NU(裸体画)/内藤紀久枝 98
トリネコの木にうたう/武田弘子 100
めいし/草間真一 104
雲が通り過ぎたら/北松淳子 106
遠い遠い歌/さとうますみ 109
旅行鞄/松沢桃 112
青い花
(ブラウエ・ブルーメ)(二十六)/山本龍生 114
アサリ貝/悠紀あきこ 116
谷地にて/丸地守 117
詩書評
牧田久未詩集『うそ時計』 高橋喜久晴詩集『詩と書に游ぶ』
竹田朔歩詩集『軽業師のように直角に覚めて』 岩崎和子詩集『骨までも染めて』/山本十四尾 120
麻生直子詩集『足形のレリーフ』 渡辺めぐみ詩集『光の果て』
小網恵子詩集『浅い緑、深い緑』 大崎二郎詩集『幻日記』/埋田昇二 122
後記/木津川・西岡・今辻・山本・丸地 125
表紙デザイン・カット 大嶋彰



 旅行鞄/松沢 桃

喪くしたもの
忘れたもの

ふくらむ

ほのぐらい靄は
歳月にうずもれた
羞恥がにおう

底も角も破れては繕い
把手は一度だけとりかえた
汚れてはいるが
艶消しのしずんだ赤い革
いくども旅をした
おぼえているのか
無口な相棒

なみだの手がにぎりしめた
早朝のプラットホーム
本気の恋 ゆきずりの恋 友情
からみあう縁
(えにし)と情け
移りかわる景色と
幾層もの記憶がさざ波だつ

夢のなかに
鍵をおとしてしまった

それでも
風がきこえる
青空が眼にしみる
潮がかおる

 私には「艶消しのしずんだ赤い革」のような立派な「旅行鞄」は無く、せいぜい二泊が限度の出張用のビジネスバッグしかありませんが、それでも「幾層もの記憶がさざ波だつ」思いがつのってきます。それが「羞恥がにお」い「なみだの手がにぎりしめた」「無口な相棒」と謂うのですから「ふくらむ」思いはひとしおだろうと想像できます。一般に男より女性の方が鞄に対する思い入れが強いのかもしれません。最終連の「風がきこえる/青空が眼にしみる/潮がかおる」がそれを証しているのではないでしょうか。
 なお「なみだの手がにぎりしめた」は、に≠ェ脱字と思い追加してあります。ご了承ください。




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