きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2006.6.30 東京・新宿 |
2006.8.7(月)
午前中はリクルートに行って再就職相談。再就職する気がないから形だけですけどね(^^; 担当者もそれは判っていますから四方山話で50分が過ぎました。その四方山話がおもしろいのです。今日は、昨日までの日本詩人クラブ詩書画展の話で盛り上がりました。こんな人が来た、あんな人がこんなことを言ったというたわいない話ばかりですが、フッと、これってエッセイになるなと思いました。地元のローカル紙にエッセイを求められていて、締切は3日後。話をしながら構成を考えました。担当者もそれは面白そうなエッセイになりそうですねと賛同してくれて、決まりだなぁ。何をしに行っているやら(^^;
○詩・エッセイ・随想『天秤宮』24号 |
2006.8.1 鹿児島県日置市 天秤宮社・宮内洋子氏発行 1000円 |
<目次>
■エッセイ
鴎外との日々[−『青年』の道・『雁』の道…養父克彦 6
■詩
楠の木下に在りて/安息…西園敏治 18
(再−開/(死んだ手紙…谷口哲郎 23
回転/扉…茂山忠茂 28
秋豚舎…八瀬生見 33
花が咲くとき…宇宿一成 35
ちりぬるを…中村なづな 37
殺人犯…新井翆翹 39
水車小屋/女納棺士/羽搏きの現象…宮内洋子 42
おもて/せんじょう…池田順子 48
■エッセイ特集「風紋」−背中
父の背中…岡田惠子 54
背中は語る…茂山忠茂 55
いわゆる「光背」のようなもの…八瀬生見 56
水の背中、風の背中…宇宿一成 57
飛躍する友…養父克彦 58
ぬるい背…宮内洋子 60
蝶の悲鳴…木佐敬久 60
背中…満園文夫 62
「口語自由詩」の背中…谷口哲郎 63
映画、背中としてのフィルム…池田順子 71
■エッセイ
子どもの詩…茂山忠茂 74
藤田文江 年譜…谷口哲郎 80
■表紙絵随想
古代の楽園に遊ぶ…木佐敬久
*表紙絵〜歌川国芳「二十四孝童子鑑 大舜〜個人蔵
あとがき…126
◎執筆者住所…127
殺人犯/新井翠翹
妹が従姉妹を殺したと自首した
口喧嘩の未にかっとなったと自白
半身不随の妹に
そんなことができるはずがない
間違いだと思っていたが
ニュースで見る妹は二十代
まずいなと感じた途端
自分も四十年前に
女を殺したことを思い出した
あばら家の裏庭に放置
落ち葉がうずたかく積もって
もう形さえないだろう
菊の花模様の着物だった
実は私もと自首する
冗談は止めてください
捜査を邪魔しようとしても駄目です
妹さんの件で忙しいので
若い警察官が諭すようにいいながら
外へ押し出した
いいこと幸いに
北海道へ逃げた
真冬の網走は一面の流氷だった
刑事が二人追ってくるのが見える
方向も判らずに歩き続けた
何日目かに動けなくなった
次第に雪が深くなって
仄灯りを感じるだけの眼に
逮捕される妹の後ろで
薄笑いを浮かべる
菊の花模様の女が映った
恨みの果てに
殺されるのは自分だった
「妹」は「二十代」で、「自分も四十年前に」殺人を犯していた、しかし「恨みの果てに/殺されるのは自分だった」という作品ですが、人間の深層心理を描いているように思います。他の動物にはない「殺人」という行為は、理由はよく判りませんが私自身にも否定できません。後天的な教育で抑えられているだけのように感じています。そして最後は自分が殺される…。そんな解明できていない人間の業を描いている作品なのではないでしょうか。考えさせられました。
○詩誌『』32号 |
2006.6.10 石川県金沢市 中村なづな氏方の会発行 500円 |
<目次>
詩
きさらぎ/わたくしあめ ほか 中村なづな 2
ダンスはすんだ/草原の翳り/未知に到る 霧山 深 6
体積/障子 宮内洋子 12
氷壁のブランコ/檀の実 江田恵美子 16
夜の桜/挨拶 池田瑛子 20
短編小説
ワニの背中を跳ねろ 木佐敬久 20
小文
息白く 霧山 深 30
姑息 宮内洋子 30
息杖 江田恵美子 30
息の緒 中村なづな 31
寝息 池田瑛子 31
あとがき 32
障子/宮内洋子
部屋の障子を厚い厚い壁だと思って、引戸
をひくのがためらわれた。いっきに戸を開け
れば終りなのに破いてしまえばそちら側がはっ
きり見えるのに手も足もでないのである。夫
への癌の宣告は一ケ月の余命だった。半年目
位になるといつまで続くのと時期へのあせり
と一縷の望みのせめぎあいが紙一重だった。
健康体が消えて無くなるまでの期限つきの地
獄絵巻は周到でなければならない。看病に仕
事の継続、子育て、世間や親族との闘い、良
薬へのチャレンジ等々とアンテナが何本あっ
ても不足した。癌を知らない患者との対応に
演技力を駆使した。夫婦の絆には血流を同じ
くすることができた。患者の方が背をさすり
いたわりの言葉を多く発した。涙は車の中だけ
に絞って流したので誰の眼にも触れなかった。
八ケ月訓練のおかげで酒に酔いつぶれた他者
に身心すべて依りかかったことは一度もない。
そういえば夫の父は障子紙作り名人だった。
「夫」の「癌」と「障子」との関係が「そちら側」を意識させた秀作だと思います。特に最後の「そういえば夫の父は障子紙作り名人だった。」というフレーズが効果的で、「誰の眼にも触れなかった」「涙」の重みを際立たせていると云えましょう。「あせり/と一縷の望みのせめぎあい」、「不足し」ていた「アンテナ」のリアルさも秀逸です。詩作品ですから現実を無視して鑑賞していますが、それでも胸に迫ってくるものがありました。
○羽生槙子氏詩集 『江ノ島電鉄 鎌倉高校前の海』 |
2006.8.8 東京都国分寺市 武蔵野書房刊 1800+税 |
<目次> 装丁 大橋久美
江ノ島電鉄鎌倉高校前の海 1 2
わたしと海 4
江ノ島電鉄鎌倉高校前の海 2 7
わかめ漁の季節 10
足跡 12
海の波はジャズ 13
眠る赤ちゃん 14
中国の凧 16
台風の後 18
波打際 1 20
波打際 2 22
波打際 3 24
はなやかに 海 27
波濤を越えて 30
海の波 34
夢は海 39
バラとゴリラ 42
江ノ島電鉄鎌倉高枚前駅辺り 45
海の顔 49
冬の手紙 52
あとがき 55
江ノ島電鉄鎌倉高校前の海 2
海はないでいたが 波は渚に近づくと白波が立った
波はひとつ残らず違う形をとっては消える
地球に海が生まれた時から 波はそうしている
見ていると 寄せる波ひとつひとつにドラマがある
渚を歩きながら わたしは
渚の寄り物の中から セト物のカケラを拾って歩いた
白地にブルーの模様 淡い青磁色の無地
それらは一つ残らず角がとれて 丸みになってなめらか
水と砂にゆられゆられてそうなるまで
きのうやおとといに捨てられたものではない
明治時代 江戸時代 室町 もっと古く?
たとえば大陸との貿易船に乗せられて
船が難破して海に沈んだ
あるいはおさむらいの家で
「さよう」「しからば」「ごめんつかまつる」
なんて言葉の間で お茶碗一つ割れて捨てられた
また 貧しい家で 家族寄り合っての食卓に
かつて魚一匹やたくあんがのせられた皿
それらがカケラになり 小川に流れ 海にたどり着き
今打ち上げられて砂の上
砂に新しい足跡をつけて歩きながら わたしは
人生ひとりひとりも一場のドラマだ と思うのだった
著者撮影の「江ノ島電鉄鎌倉高校前の海」の写真が口絵として14葉添えられた美しい詩集です。表題作の「江ノ島電鉄鎌倉高校前の海」には1と2があり、ここでは2を紹介してみました。私は江ノ電に一度も乗ったことがないと思うのですが「江ノ島電鉄鎌倉高校前」という駅はよく見ていました。国道134号線を車で走ると七里ガ浜の中央付近にあります。材木座海岸でヨット(ディンギー)を練習していた時期があり、往復の車中から見ていましたけど良い駅です。詩集はその「江ノ島電鉄鎌倉高校前」を素材にした作品が多く、10年ほど前の当時を思い出し、楽しみながら拝読しました。
紹介した2は「セト物のカケラ」が生きている作品だと思います。「『さよう』『しからば』『ごめんつかまつる』」が効果的ですね。そして最終連の「人生ひとりひとりも一場のドラマだ」も共感します。「打ち上げられ」た「カケラ」ひとつにも人生を感じ取る著者の感性に敬服した作品です。
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