きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
060630.JPG
2006.6.30 東京・新宿



2006.8.8(火)

 今日、愛車・トヨタスターレット1300の走行距離が8万Kmを超えました。12年と5ヵ月で8万Kmですから、乗っていない方でしょうね。昔、キャンピングカーを持っていたときにセカンドカーとして購入したものですから、もともと乗る機会も少なかったわけです。8年ほど乗ったキャンピングカーを廃車にしたあとはファーストカーになりましたが、片道5Kmほどの通勤でしたからやはり少ない。月平均で500Kmちょっと。大昔は月に2万Kmほど乗っていた時期もありましたからそれに比べると1/40ほどに減ったことになります。クルマで遊びまわっていた頃に比べて、その時間をブンガクに遣っている、と考えたいです(^^; (酒呑む時間に遣っているだろ!という影の声は無視します)



『秋野さち子全詩集』
akino sachiko zenshisyu.JPG
2006.5.27 東京都千代田区
砂子屋書房刊 10000+税

<目次>
詩集『白い風』(一九五四)
帆(一九四六〜一九五二)
夕焼雲の中に 35   風が吹く 33
夢雪 37       流氷 39
帆 41        みづかき 43
時が逝く 44     灰分測定 46
宇宙 49       うなづく葦 50
雪崩が來る 52    微熱の日 53
デルタの憂愁 55   夕ぐれが來ると 57
噴泉のうた 59    不眠のうた 60
晝の月 62      辻 63
麥の夕 65      蝶 67
旅 68        逃亡 71
水のほとり(一九三三〜一九三七)
竹林 74       喪失 76
その朝 77      水のほとり 78
瀧 80        溜息 81
沼 82        雪の日に 84
枯林 85       花吹雪 87
悔 88        たそがれの母 90
燈臺守 92      散歩 94
漁 95        白い小石 96
白い風(一九五三)
窓 1 98      窓 2 100
假面 101
.      白い風 103
白い風(ふるさとの白山々脈眞向ひて) 105
あとがき 109
詩集『色のない風』(一九七六)
釘 113        旅 115
真円の紅 116     魂を 119
鉋 120        間違い 122
白百合が一輪 123   円空観音 125
背中はいらない 127  月夜 128
壺 1 130      壺 2 131
想いは 132      幻のおどり 134
くちなし 136     虹の橋 137
若き天文学者 139   帰り道 141
鐘の音 142      その灰は 143
しじま 145      あとがき 148
詩集『喩』(一九七九)
喩 151        雪原 152
二月 154       出口 156
ひぐらしの窓 158   モノローグ 160
水辺へ 162      横顔 164
月と銃眼 165     眠りの前に 168
月明 170       ネルチンスク 172
まちがい 174     からかさ 176
かくれんぼ 178    走る 180
板門店など見たくない 181
朝霞市宮戸界隈 184
詩集『北国の雪』(一九八二)
北国
(ほっこく)の雪 191  通夜の客 192
雪の日 194      片身の薔薇 196
誤植 198       雨で打たせる 201
夕陽いろが 203    愛がここにないのならば 205
夕陽の窓 208     黄薔薇はまだ 209
蝕を掌に 211     通りぬける 214
今は 216       雁来紅 218
氷河と湖 220     ナイチンゲール 222
見上げる桜 224    刷毛目 226
隠(おに)の鬼 228   花のことば 230
空 231        座棺の人 233
遠きにありて 235   楊柳のようにゆれた手 240
あとがき 243
詩集『時の渚を』(一九八七)
今日の雪 247     木曽路にて 249
来歴 251       トルソー 254
今日 あのお方は 256 関わりについて 258
島を 261       口に含むものを 263
冬への構図 266    木の匙 269
崖に立つ 271     貝のうた 272
体をぬける時 274   うしろ姿 276
絵解き 278      満月の中で 280
流れのそばで 282   青梅 285
猫と 287       電車の中で 290
からくちの人が 292  時の渚を 294
綿毛 297       植えないのに咲いた花 299
空の旅から 302    森は見えるか 303
(きわ)をこえて 307  重なる眼 309
渚を走る 311     あとがき 313
詩集『味の奥の手』(一九九三)
味の奥の手 317    夕映えの海 318
ボーリングよ 321   見えてくるもの 324
指の傷から 326    空の海で 328
雑木林の中で 331   残った一本の松 333
回想ではなく 335   靴を履いた木 338
薪能 井筒 340    言葉が遠のいた日 345
草の小径 345     夕映え 347
一日花 349      今は南の庭に 351
雛の前で 552     庭 354
よすが 354      「なゐ」 357
雪は海原へ 359    夕茜 361
見送る 363      疑問符ばかり 365
散る桜に 368     立ちあがるたましいの 370
胡瓜と三日月 373   あとがき 378
詩集『夕茜の空に』(二〇〇〇)
夕茜の空に 381    子豚に乳首を 382
白い館 重粒子線棟 385
白い館 2 387    上弦の月 389
下弦の月 391     横たわって 海を見る 393
黄梅 395       海も砂漠も 397
黙して語る詩を 398  鼓動−予感 401
時間がかかる 403   ふるさとという言葉の中で 405
流れゆくもの 407   雪と花と 409
去年の雪も 410    あの道 413
そのとき とは 415  水琴のしたたり 417
待っている 419    春の日の出来事 420
庭 422        久しぶり 424
潮騒 425       満月に向かい 427
明日の旅路に 430   あとがき 432
未公刊詩集『夢を託して』(二〇〇一〜二〇〇四)
夢を託して 435    近景の長閑さと悲しさ 437
手を携えて 439    木の釘 441
笛の音 443      枯木に白い滝しぶき 445
報復の繰り返しは止(と)めねばならない 447
秋、旅の晴着 449   春のあらし か 451
傘について 452    幼い秋の、薔薇 454
白い魚になった 456  森へ 458

未刊詩篇
T(一九二七〜一九三八)
空 464        春 464
いちご 464       大發見 465
寂しい秋 465      雪の夜 466
冬の月 467       此の頃 467
叱られて 467      七月 468
はまなでしこ 469    夜の想ひ 469
秋 470         秋雨 470
眞晝 470        おほみそか 471
ある刹那の靜寂 472   刹那に生く 472
空 1 473       空 2 473
山よ 474        正面と横顔 474
濱名湖 475       ためいき 475
しやぼん玉 476     秋の徽笑 476
奔馬のやうに 477    蒼空へ 477
風鈴 478        神宮祭の夕 478
貧しいクリスマス 479  意味ないうれしさ 480
眠り唄 480       ふるさとの聲 480
散るさくらに 481    なぐさめ 481
無題−蝋人形の集ひに 482
草に寢て 482      公孫樹 483
紫の花 483       野に憶ふ 484
紙芝居と原つぱ 484   雪 485
無題−初島田に寄せて 486
ほかげ 487
無題−病床にありし日の橋本はな子に 487
どくだみ草 488     木槿の花 488
欒浪に遊びて 489    影 490
その夕 491       白い貝殻 491
海 492         徑−病み臥して 493
繰りごと−逝きし友 中村正子に 493
水たまりに空がある 494
春 494         黄色い葩 494
さぎり 495       あるこをる幻想 496
花粉を憶ふ−晶 玲子の誕生日に 497
抬頭 497        夕の雨に 498
廢墟の賦 498      想 499
断想−林にて 500    影繪 500
い餘白 501      石階 501
灯−師の君病みたまへば 502
夕のモノログ 502    葬列 503
海へゆく道 504     喜劇 504
遠き鐘 504       浅葱櫻 505
失へるもの 505     泉 506
虚脱 506        雪 2 507
ほかげ 507       或る月明に 508
U(一九四六〜一九五四)
断想 510        枯渇 510
黒き輝き−アルファ・ナフチルアミン工程を見る 511
初秋 512        明月に 513
霧 513         霜 514
麦二寸 514       春雪 515
白椿 515        流星の如く 516
ひとり然して−集いの夕に 516
燃ゆる水晶−或は「別後」 517
夏草 518
母に捧ぐる詩−喜の寿の祝いの日に 518
黙して雲よ 519     墓参 1 手 520
墓参 2 露 520    ひとすぢの水脈 521
グゥルモンの雪−レミ・ド・グゥルモンの詩をおもひつゝ 521
階 1 522       階 2 523
無題 523        フリュートのわななき 524
蟻 525         鏡の中のもう一人の私 525
余白のうた−或は花粉のいのり 526
海原の月の出に 527  いこひ 528
愛は愛の言葉が嫌い 528
還の道すがら 529    春の女神 530
ルナールの繪をかく少女の繪 530
夕やけ雲 531      秋は空から 531
雲 532         一つの終局について 533
孤独 534        ある雲に 535
母の日に 535      祈り−祈りとはひざまづきではない神と真向ひ語る事だ 536
V(一九五六〜一九六八)
宝石匣の馬 540     虹 1 541
虹 2 541       青い果実のゆくえ−或る科学者のいたみ 541
旅−坂本繋二郎展を見て 543
或る告白 544      素朴な対話から  545
薔薇のそのにて 546   広い 庭がほしい 546
まだ見ぬ人を 547    冬近く 548
まんりょお 548     橋と水仙 549
一度だけ見た人 550   塀 551
見ない花 551      旅立ち 552
W(一九七二〜一九八三)
入江に 556       崖の上−能登金剛で  556
綴じてない詩集 557   白無垢の笑い 558
帰途 1 559      帰途 2 559
林の中で 560      暖かい息を 560
赤い花を一輪 561    白い小犬 562
道 562         蕗 563
坂道 564        赤い舌 564
秋 565         鏡 565
けやき 566       根 567
扉(旧題・待つということ) 567
虹をそそぐ 568     ヒヤシンス 569
夕陽のらくだ 570    語り部になろう 570
狂い 572

エッセイ
『螺旋の糸』(一九九六)
T 言葉の凧
心に宇宙を 576     小さい庭の記(一) 578
小さい庭の記(二)581   小さい庭の記(三) 584
読みかじりのこと(一) 586
読みかじりのこと(二)−パウル・ツェラン 589
読みかじりのこと(三)−垣間見の『源氏物語』 592
八月がくると 595    能 道成寺をみる 597
原爆忌に寄せて 600   思い出の茶席 603
水音の行方 605     北へ 風の朝に 668
U 螺旋の糸
海と絵を眼の中へ 612
茶道・華道における美−一輪の花、一わんの茶のもてなしを 619
螺旋の糸 622      二つの顔 625
五月の窓−実験室にて 626
牛島の藤によせて 627 書きはじめのころ−余白に惹かれて 629
幻のふるさと 632   花ならば 634
おやつと点心の種々 635
私にとっていけばなとは 642
あとがき 643

未刊エッセイ
T(一九三四)
父への追憶 648    とどかぬ手紙−哀しい追憶を不沙子に 648
U(一九四六〜一九五三)
追憶 1 652     追憶 2 653
葦のつぶやき 659   琴・夢二・龍膽−小山銀子さんに連なる映像 660
蝶 661        野に憶ふ 662
愛について 664    二重の抵抗−オメガ八号 福島運二氏の詩評に答へて 666
V(一九七七〜二〇〇四)
円空仏との出合−高山を訪ねて 670
雛げしとハイビスカスを−追悼・武村志保さま 671
パコも白鳥になった−追悼・西條(三井)嫩子さま 672
剣豪に月見草は似合う−追縛・土橋治重先生 673
今 わたしの関心事 675
いつか来た道を−今幡とみゑさま 675
詩誌「花」と私 677

<解説>
限りなく「故郷」をめざす詩業 原 子朗 679
解題 中村秀雄 704
年譜 中村秀雄 720
あとがき 730
装本・倉本 修



 小豚に乳首を

片手に自分の子供を抱き
もう片方に抱えた
親を亡くした子豚の口に
ふくよかな乳房をふくませて
授乳するグアジヤ族の母親、
この写真を新聞紙上に見た時、胸がつまった。
悲しくも私には授乳の経験はないが
見つめていると自分の乳首に疹きを感じる。

豚の乳を貰ったことはないが
牛や羊からは
人間は沢山な乳を貰っている、
けれど牛や羊に乳のお返しをしただろうか
まして豚の子供に
直に自分の乳首をふくませるとは――
この哀しいまでの優しさに私の胸はせまる、
このストレートな想いを
甘いと笑うものはない筈だが――

今 私の前にこの現実があったら
私は何をしただろう
何かを与えようとは考えていても
自分の乳首をふくませるだろうか
我が子も子豚も
同じ地球に生きる仲間として
暖かく抱くこの母親の前で
身内をよぎる戦慄は、私に恥しさを教える。

この母親は、私のひそかな願いを入れて
今日も、小さい庭のしたる藤の花房のもとに
魂をゆするその姿態をただよわせている。

 2004年11月に92歳で亡くなった秋野さち子さんの80年近い詩業を、御夫君の中村秀雄氏がまとめた全詩集です。700頁を超える大冊で、御夫君のあとがきにもありますが、詩界にとってまさに「たくさんの宝物」と云えるでしょう。
 秋野さち子さんは西條八十が発足させた日本詩人クラブにも所属していた時期があり、本著の年譜には載っていませんが私の調査では1951年から1977年の26年間です。本著でも八十の『蝋人形』に投稿していたことが書かれており、八十が理事長(当時は会長職はなし)を努めていた時期と重なります。おそらく八十の推薦で入会し、八十没後に退会したものと思われます。

 紹介した詩は最後の第7詩集『夕茜の空に』に収められている作品です。90歳近い年齢で「自分の乳首に疹きを感じる」感受性、「同じ地球に生きる仲間として」「恥しさを教え」られるという感性に詩人の本質を見た思いがしました。優れた作品が多い全詩集のなかでも特筆すべき作品だと思っています。

 なお、目次は原本に添って旧漢字の表記を尊重しましたが、現在のパソコンの制約でやむなく新漢字を使用しているところがあります。どうしても表記できない「どくだみ」「わん」は平仮名としました。ご了承ください。
 秋野さち子研究者のみならず日本詩壇の「宝物」を多くの人が鑑賞してくださることを願っております。



詩誌『展』67号
ten 67.JPG
2006.7 東京都杉並区
菊池敏子氏発行 非売品

<目次>
名木田恵子:夜の詩集
佐野千穂子:摘む/与謝野る
菊池敏子:枇杷熟れる月
山田隆昭:くらげ
五十嵐順子:婚/ひとりたび
土井のりか:夕映えのように
河野明子:はちきん



 くらげ/山田隆昭

二つ折りの新聞が部屋の隅に置き忘れられていた 処
分しようとつまみあげる メモ用紙が落ちた 書きか
けた詩の断片だった 年号が記してあった 汗の跡が
紙をゆがめていた 二年前の夏は殊のほか暑かった

 クラゲに刺されるゆめを見た
 海水を押しながら浅瀬を歩いていた
 砂に写る波の紋様に紛れて
 密かに接近する生き物に気づかない
 右の脛に走る痛み
 転んで溺れて呼吸が止まる
 ここで死ぬということ
 すなわちゆめからの生還

そこで詩は途切れていた 小さな紙片から立ちのぼる
る海の香 あの痛みはなにだったか 夢を見ながら
本当はどこをさまよっていたのか なぜ海だったのか
 風が起こす葉ずれの音 体内を駆けめぐる血の音
細胞に湛えられた塩水 浮かぶ想念 ゆらりと どこ
へでも行ける 夢のなかでならば

漂うくらげは ぼく自身の脳漿だったのか 液体から
やっと固体化したかのようなくらげ 眠りのなかで液
体に戻ってゆく体 書かれ始めてしまった詩は いつ
 どこで形を成すのか 軟体動物さながら 古新聞の
間で息を潜めていた ずっとそのまま放っておくべき
だった ぶよぶよした つぶれてしまいそうな言葉も
また 知らぬ間に誰かの脛を狙っている

 劇中劇という言葉がありますが、この作品の場合はさしずめ詩中詩≠ニでも呼べばよいのでしょうか、構成的にもおもしろい詩です。さらに詩中詩≠フ中では「ここで死ぬということ」は「すなわちゆめからの生還」と、この構造も良いですね。最終連の「ずっとそのまま放っておくべき/だった ぶよぶよした つぶれてしまいそうな言葉」が「また 知らぬ間に誰かの脛を狙っている」という詩語は、まさに現代の詩と云えるでしょう。山田隆昭詩の新たな展開のように感じた作品です。



詩誌『ひを』7号
hio 7.JPG
2006.8 大阪市北区
三室翔氏発行 286円+税

<目次>
古藤俊子 夏の石 2
     砂上 4
小西民子 ねむい空 V 6
     ねむい空 W 8
萩美智子 夜のココア 10
三室 翔 循環 14
     diary 16
後記 20



 *点/三室 翔

その通過点
それは 経験なく知り得た事でし
たが・・・    Nさんの答え
「時、或いは点」はとりかえせな
い過去ではなくとり消す事のでき
ない現在だ と言われた日・・・

 「diary」には「*点」「*古書店」「*能楽堂」「*夏の視線」の4編が収められています。ここでは最初の「*点」を紹介してみました。「とりかえせな/い過去ではなくとり消す事のでき/ない現在」という詩語に目を覚まさせられた思いです。常に「現在」しかありえず、「とり消」しなんてできないのだと読み取りました。短詩ですが内容の深い作品だと思います。




   back(8月の部屋へ戻る)

   
home