きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.6.30 東京・新宿



2006.8.21(月)

 駒大苫小牧と早稲田実業の再試合は最終でピッチャー同士の対決という劇的な幕切れでしたが、感動しましたね。冷静な早実の斉藤投手に涙には思わずこちらも涙腺が緩むほどでした。2日続けて見せてもらった力戦にただただ頭が下がる思いでした。日本の若者が信じられる試合だったと云いましょう。
 と、そんな訳でいただいた本のお礼が遅れています(^^; さあ、これから遅れを取り返すぞ、若い者に負けてはいられません!



山下静男氏詩集『梅漬け』
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2006.8.1 東京都東村山市
書肆青樹社刊 2200+税

<目次>
第一章 退職
退職 10       Kのこと 12
K子 16       またしても真夏に(1) 22
またしても真夏に(2)28
.蜉蝣 32
跳ぶ跳ぶ 36     くも 40
もう昔のようでないから
.44
かぼちゃ 48
第二章 梅漬け
ゴキブリよ 54    梅の木とは 60
梅漬け 66      ダン ドウ ダン 70
新幹線はゆれる 74  どんぐりごま 78
ごっそり
.バッタン(1).84
ごっそり
.バッタン(2).88
鳩の椅子 92     にわとりくん ごめん 96
いのちとは 100
.   やましたさーん 104
跋文 山本十四尾
.108 あとがき 110
装画・装幀 丸地 守



 梅漬け

頬に走った
酸っぱい塊りが一直線
走る軌跡から内に深く滲透し出す
生唾があふれ
エネルギーが充ち
気が空に向って放射した

ああ これが梅漬けと言うものか
亡くなった妻が漬けて十年余りにもなった代物
何でもない塊り
二日間 何も食っていない体に落とし込んだのだが
指で押すとぼくの頬のように
深いしわが八方に走る奴

太平洋戦争中は
四角なアルミニウムの弁当箱の真ん中に
でーんとすわっていた奴
結婚して妻の中華料理があきたころ
おふくろの握り飯に食い込んでいた奴
テレビがにぎわい出し
梅仁丹のCMで
若い娘がスカートをぱあっとめくると
梅干色の下着がのぞき食欲を奪ったいわくつきの奴

以来忘れていた梅漬け
いま 悪性のインフルエンザで嘔吐し
もだえたがどうにもならず ただ床に伏すだけの二日間
うつつに妻の顔がのぞいたので
目に入る油汗をぬぐいながら
台所に這っていきこの甕を見つけたのだ

江戸の昔から
庶民薬用の梅漬け
三百年来の酸味が凝縮した
この一粒
ぼくの生につながった
現世から霊界に飛び出し
宇宙を巡って一直線
またぼくの体に帰って来た奴

今年は梅がよくなった
一人暮しなので誰も取り手がない
自然に落ち
駐車場の屋根を
タ タータンと響かす
何かにせかされて外に出たついでに
一粒つまみ上げる

 タイトルポエムを紹介してみました。一人暮らしで「悪性のインフルエンザで嘔吐し/もだえたがどうにもならず ただ床に伏すだけの二日間」に「うつつに妻の顔がのぞいたので」「亡くなった妻が漬けて十年余りにもなった」「梅漬け」を食べて「ぼくの生につながった」という作品ですが、不思議に悲壮感はありません。他の作品からも受ける印象なのですが、人生に達観しているように思います。
 最終連の「駐車場の屋根を/タ タータンと響かす」というフレーズも佳いですね。この連があるから読者には悲壮感を与えないのかもしれません。喜寿を迎える著者の12年ぶりの第5詩集とのことですが、静かな詩観に教わることの多い詩集です。



昭和詩大系『笠原三津子詩集』
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1976.6.19 東京都千代田区 宝文館出版刊 1000円

<目次>
マヌカンの青春
T 12        U 12
V 13        W 14
V 14        Y 15
Z 16        [ 17
\ 18        ] 19
青春 20       風景 21
指紋 21       モナ・リザ 22
レントゲン幻想 23  土を掘る 24
握手をしよう 24   ドクター・ジャックの花束 25
木の葉と食欲 26   なぜ 27
やまごぼう 27    枯れた水仙 28
六義園の怪物 29   虹 30
海 30        薔薇の衾 32
青い葡萄色の風 32

生贄
 T
円形劇場 36     童話 36
神話 37       滝 38
飢え 38       恋のプロムナード 39
円の世界 40     透明な染料 41
オードブル 42    デザート 43
言葉のへドロ 44   考える鬼 45
冬の愛 46
 U
生贄 47       黄昏の入口でカナリヤがな 47
薔薇 48       浅間山 49
鈴虫たち 50     正方形の風 51
異常乾燥 51     血 52
乳母車 53      萌え出る 54
別れ 55       声 57
楽屋 57
 V
彫像の森 60     ロマンスカーの乗客たち 61
雪景色 62      白むくげ 63
黄いろい海辺 64   なみだ 64
セーヌの流れ 65   カルチェ・ラタンの喫茶店で 66
公園の秋 66     マドリードの風 67
五月のすずらん 68  「24時」のレストランで 68
香水と死の匂い 69  染色の季節 71

春と雷鳴
 T
春 74        炎の夏に 75
秋に 76       母と海 77
母になる 78     乳房 79
きんいろの空 80   瞳の中 80
小包の中 81     食屍鬼
(グウル) 82
宝石 83       死の口 84
 U
宇宙カゼ 86     原稿用紙 87
祈る 88       ベルの音 89
玉子焼 90      客 90
噴水 91       姓名判断 92
プラカード 92    雷鳴 93


旅立ち 96      水 96
ナミエールの森で 97 ミイラ 98
べ−ゼ 98      壁画 99
アデュー 100
.    手紙 100
食卓 101
.      ケーキ 102
鏡 103
.       愛 103
剃刀 104
.      少女像 104
猫 105
.       港 106
旅 107
.       蜜 108
汗 108
.       寺のなか 109

奔い流れ
虫籠の中で 112
.   晩秋 112
風船 112
.      庭 112
わかれ 113
.     宇宙船 113
私でない わたしの顔 113
旅のわかれ 114
.   兄といもうと 114
おんな 114
.     船の見える風景 114
まよなか 114
.    或る時 115
男について 115
.   おでかけ 115
ゆうべの歌 115
.   少年と私 116
顔 116
.       涙 116
夏樹 116
.      このごろ 117
部屋について 117
.  待つ 117
出発 118
.      愛について 118
死者との約束 118
.  秋の日の 119
目 119
.       奔い流れ 119
眠り 120
.      朴の葉 120
さようならをもう一度 121
激流 121
.      燃ゆる落葉 122
死の国 122
.     この愛しきもの 123
観劇 123
.      冬の椿 124
白滋の壺 124
.    神の顔 125
ささやき 126

雲のポケット
朝 128
.       とけい 128
あのとき 128
.    ピプン元帥こんにちわ 129
いちご 130
.     額縁の外で 130
習作 130
.      絵本の中から 131
鏡 131
.       夜のふろしき 132
ひよつこ 132
.    雲のポケット 133
金魚 134
.      黒白 134
素足 135
.      窓 135
おくりもの 136
.   五月 136
めにしみる想いで
.136 化粧 137
夜風 137
.      青葉によせるうた 138
雪の庭 138
.     後むきの少年 138
見えないさかな 139
. 空に手紙を 140

未刊詩篇
朝の夢 142
.     犬・ミステリー 143
夏雲 144
.      熱 146
紅茶きのこと乳房の幻想 147
鳥の挨拶 148
.    失われた言葉 149
赤い薔薇が見つめている 149
朱いカナリヤ 150
.  鎖 151
声 151
.       キリストの足 152
イカの目 153
.    海とこころ 153
ハイビスカス 154
.  びんの中の砂漠 154
石の道 155

解説 石原吉郎 157
. あとがき 160
装釘 北園克衛



 マヌカンの青春

  T

体温は感じられないだろう
三角形、楕円形
の寄せ木に鋲を打ちつけ
しっかり立っているように見えても
足をごらんなさい
細くくびれた足首の先に
人間によく似た小さな足がついている
詩人Mはつぶやいた
<この足が悲しい
マヌカンが
なまめかしければ
なまめかしいほど……>
青い空をバックに
人はみな死に絶えた
乾いた地面に立っている
マヌカンの影は黒く
凍りついている

 無理を言って30年前の詩集を頂戴しました。初期の笠原三津子詩研究には欠かせない1冊です。おそらく絶版になっているでしょうから貴重な1冊とも言え、解説:石原吉郎、装釘:北園克衛というのもすごい組み合わせだなと改めて思います。
 紹介したのは初期の代表作品とも言うべき「マヌカンの青春」の「T」です。「詩人M」のつぶやきが生きています。このあと「U」「]」へと展開していくのですが、ここでは割愛します。可能な方は手にとって読んでいただくか、日本ペンクラブ電子文藝館をご覧ください。
http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/index.html には「T」から「]」の全てが掲載されています。




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