きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
060707.JPG
2006.7.7 クリスタルボウル(「アリキアの街」にて)



2006.9.4(月)

 注文していた書棚が留守中の2日に届いていて、昨日はその組み立てを行いました。ガラス扉もない安物ですが、ボンドを使ったり長い木ネジを使ったりしていて、結構しっかりしていました。今日はそれを設置して、念願の詩集整理です。時間が掛かりそうだなと予想はしていたのですが、やはり掛かりましたね。午前8時から始めて終わったのが午後11時。現職時代でもこんなに長く働くのはマレだったわな(^^;

 他の書棚も整理して、いただいた詩集はこれで全て収まりました。幅900mm×高さ1800mmの書棚に換算して8本分です。いったい何冊になるんだろう? 1本300冊として2400冊。そんなものかもしれませんね。多いか少ないか判りませんが、これからもいただいた詩集は大事にしていきます。でも余裕はあと20冊分ぐらいかな? それを超えたらまた平積み…。次は真剣に書庫を検討します。



詩と散文RAVINE159号
ravine 159.JPG
2006.9.1 京都市左京区
薬師川虹一氏方
RAVINE社発行 750円(送料共)

<目次>

天野隆一詩画集『山』より 野辺山原 1
 ※
早川玲子 擬態 2
堤 愛子 虚空 4
苗村和正 流木のように 6
牧田久末 手招き 8
戌川ムツミ 表現の罪過 10
谷村ヨネ子 塵 12
乾 宏 今だけれども 14
山本由美子 手さぐり 19
薬師川虹一 暗い日 20
荒賀憲雄 水の塔 22
中井不二男 ジャカランダ(Jacaranda)の花 25
木村彌一 椅子 28
中島敦子 選挙 30
木村三千子 居場所 32
久代佐智子 2006.6.16 34
白川 淑 ああ 昭和レトロV 36
古家 晶 黒門幻想 43
ヤエ・チャクラワルティ 時間の外へ 46
名古きよえ 都会の魚 49
並河文子 奥愛宕にで 52
村田辰夫 舌苔 54
石内秀典 距離 56
同人語
苗付和正 我がひとり旅 鶴岡 38
中島敦子 詩人の言葉 39
名古きよえ 妻籠へ 40
並河文子 小浜まいり 41
詩集によせて・寄稿
廣 青隴 詩と写真のシンフォニー −薬師川虹一−『石仏に向かう』に寄せて 16
鈴木豊志夫 荒賀憲雄詩集『原郷蒼天』をともに歩く 17
山村信男 牧田久末詩集『うそ時計』について 18
エッセイほか■
村田辰夫 T・Sエリオット詩句・賛(27) 58
荒賀憲雄 路地の奥の小さな宇宙――天野忠襍記(九) 60
<表紙・カット> 天野大虹



 暗い日/薬師川虹一

季節が変わって
着るものが替わる
着古したコートを
洗濯に出そうと
ポケットを探る
古いレシートがある
いつのものか判らぬ
咳止めの飴が溶けている
ポケットの闇の中には
いろいろな生活が
古びた形で
残っている
ひと冬の生活が
ポケットの闇の中で
木乃伊になっている
暗い日々を送る
生活の中で
次第に石になって行く
僕の命
次の季節の替り目に
ポケットの闇から
出てくるものを想って
二の腕に粟が立つ

 これは誰にでも身に覚えのあることかもしれません。いつも着続けている上着とは違って「コート」は外にいるときだけ着ているもの。だからこそ「ポケットの闇の中には」忘れ物がいっぱい。この選択は見事だと思います。それを「木乃伊になっている」と表現するところも佳いと思いました。この場合ミイラ≠ナはなく、やはり「木乃伊」でしょうね。日本の「季節が変わっ」たことを感じさせます。
 圧巻はやはり最終行の「二の腕に粟が立つ」。恐怖≠ナも震え≠ナもなく身体表現という具体性が「次第に石になって行く/僕の命」の有限を表現しきったと思います。どう表現すべきかということを教えられた佳品です。



隔月刊詩誌『石の森』135号
ishi no mori 135.JPG
2006.9.1 大阪府交野市
交野が原ポエムKの会・金堀則夫氏発行 非売品

<目次>
喪失/美濃千鶴 1
自我/四方彩瑛 2
誰が落とした夢の中/佐藤 梓 3
蛍の密会/夏山なおみ 4
ぶるー/高石春香 5
淵のない夜/西岡彩乃 5
薔薇/上野 彩 6
ななし・ウィケッド/大薮直美 7
夕方の呼吸/山田春香 8
休耕田/金堀則夫 9
交野が原通信 第二四九号・第二十九回『交野が原賞』発表 10
短編雑談/四方彩瑛 11
石の声/山田春香・夏山なおみ 13
福田万里子さんのこと/美濃千鶴 14
あとがき 15



 休耕田/金堀則夫

円盤の刃を
勢いよく回しながら
畦の草を刈っていく
耳に劈く音は
畦を囲む この耕地で
稲作ができなくなってしまった
焦燥である
われわれの祖先が遺してきた水田が
昨年から 葦が伸び放題になっている
親が死し だれも耕すものがいなくなり
弥生からの稲作が断ち切られてしまった
畦の草を刈りながら
稲穂から葦原になってしまった
これから何度刈り取っても
刈り取れない土の根深さは
葦原からは二度と稲作はできない
農作業をしなかった わたしは
田圃の扱いはわからない
周りの水田に人が通れるように
せめて畦の草刈りだけはと
草刈り機を購入し
草を刈り取っている
水田の稲作はもう受け継がれない
水田の鉄分は
稲から葦の根に変わった
弥生の鉄分が 渇鉄鉱が あるではないか
生きている この土には
忘れられていた あの古代の鉄が
失われた水田の耕しきれない
固められていたものがあるではないか
耕せないわたしは 鉄の刃で
周りの畦の草を刈りながら
この葦原を このスズを
誰にも譲られず 手放し
金に換えるしかない
草刈り機は またはげしく
空回りの音を
響かせている

 私も最近になってようやく義母の畑作の手伝いをする程度で、基本的には「農作業をしなかった」ので、作者の嘆きは理解できるように思います。畑の場合には最悪、植木林にすることもできますが、「田圃」は違うようです。「弥生」の昔とまでは言わなくとも何十年も作り続けないと美田にはならないと聞いた覚えがあります。そんな大事な田でありながら「稲作」が出来なくしてしまわざるを得ない作者の気持が伝わってきました。日本の農業政策という視点からも問題提起をした作品と云えましょう。



詩誌『きょうは詩人』5号
kyo wa shijin 5.JPG
2006.9.2 東京都世田谷区
アトリエ夢人館発行 700円(〒共)

<目次>

敗戦の年/小柳玲子 1
敗戦の年/小柳玲子 2
小判草/長嶋南子 4
ムカデ/鈴木芳子 6
午後のカフェ/吉井 淑 8
壁/吉井 淑 9
京都の旅/赤地ヒロ子 11
男の肌/伊藤啓子 20
女の腹/伊藤啓子 21
おお 大変/森やすこ 22
最期 集め/森やすこ 24
エッセイ
女ごころ 14
花は散るモノ人は死ぬモノ 5
−書きまくり、産みまくり、愛しまくり 与謝野晶子/長嶋南子 26

表紙デザイン 毛利一技
表紙絵 リチャード・ダッド (C)Reiko Koyanagi



 ムカデ/鈴木芳子

 湯が抜かれて乾いた浴槽の底に ムカデが一匹張りつ
いていた。家の裏側に除草剤をまいたのでブラインドの
隙間から忍び込んできたのだろう。
 私はとっさに水道の蛇口を開き 排水口に流そうとし
たが そいつは二転三転 身を大きくひるがえして流れ
にさからい躍動した。
 遂には水の勢いに抗しきれず穴に吸い込まれていくの
を見とどけ 私はきっちり栓をしたが水の飛沫が眩しく
て眼のやり場がなかった。
 その夜も湯を張って おずおずと身を沈めた。

 翌朝 階下の居間に降りていくと ムカデが一匹タタ
ミの上にじっとしている。今度は火挟みで外へつまみだ
そうとしたが そいつは素早くコタツ敷きの下に入って
しまった。火挟みを握り追いかける私………振り切って
逃げていくムカデ………。糞尿を垂れながら蒲団に潜り
込もうとする母……着替えを掴んで追いすがる私………
の格闘の場面が 霧のように湧きあがった。

 いま家の中は清々しく片付いている。私は声をたてる
こともない。コタツをあげてみたがムカデはいなかった。
自分の意のおもむく場所にたどりついているのだろう。

 「ムカデ」を「追いかける私」の思いがいつしか「糞尿を垂れながら蒲団に潜り/込もうとする母」に「追いすがる私」に変わる第2連が見事です。「母」が出てくるのはこの場面しかありませんが、最終連の「いま家の中は清々しく片付いている。」にも係り、さらに両者は「自分の意のおもむく場所にたどりついているのだろう。」と締めくくる手法にも感嘆しました。扱っている内容は大きく重いのですが、それを字面では表さず、読み込むことで感じさせる佳品だと思いました。



   back(9月の部屋へ戻る)

   
home