きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.7.7 クリスタルボウル(「アリキアの街」にて)



2006.9.9(土)

 日本詩人クラブの9月理事会、例会が神楽坂エミールで開催されました。理事会で私は詩書画展の来場者が340名であったことなどを報告しました。理事長からは神楽坂エミールが来年3月で閉鎖されることなどが報告されました。エミール閉鎖は噂では知っていましたが、正式に表明されたことで困ったことになったなと思っています。先輩理事の努力でかなり自由に、かつ安価に遣えていましたけど、今後はそうはいかなくなります。100名以上が入る場所があって、都内でも交通の便が良く、かつ安価にとなると、そういう場所は二度と出てこないでしょうね。東京都としては老朽化していて地震対策上の問題があるので閉鎖ということのようですから、止むを得ませんけど、代替施設が完成してから閉鎖してもらいたいものだと思いました。

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 例会は3人の会員による自作詩朗読と小スピーチに続いて、本年度顕彰された名誉会員3人の業績が報告されました。写真は紹介者と名誉会員の2ショットです。詳細は日本詩人クラブHPに載せておきましたのでそちらをご覧ください。
 懇親会のあとは、宇都宮の会員と理事仲間という珍しく小人数で飯田橋のカラオケに行きました。人数が少ないので次々と順番が回ってきて、十八番が無くなって新曲に挑戦するほどでした。900点以上というハイスコアも出て、ひとり悦に入っていたようです。反省…。帰宅は0時過ぎ。遅くまで遊んでくれた皆さん、ありがとうございました。



詩誌『交野が原』61号
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2006.10.1 大阪府交野市
交野が原発行所・金堀則夫氏発行 非売品

<目次>
《詩》
橋/滝本 明 1
無縁橋/松岡政則 4
翅の飛翔/岡島弘子 6
ないのです。/片岡直子 8
姉上の壺/岩佐なを 10
そこにある土/星 善博 12
墓参の日/小長谷清実 14
チェロでも弾いて/平林敏彦 16
ちょっと旅行してきます/島田陽子 18
空同残日/宮内憲夫 19
きらめくのか出入り口が/溝口 章 20
天降る/金堀則夫 22
モノレール/森田 進 24
山間の宿/三井喬子 26
光都/佐川亜紀 28
初恋/一色真理 30
ナイルの川の水を飲んだ者はナイルに帰る/四方彩瑛 32
美国から/葵生川玲 34
みんなゼリーになってしまって/辻元よしふみ 36
無口な豆/西岡光秋 38
夕焼け/高階杞一 40
どこ?/松尾静明 42
変奏曲――いのちの最も若い日に/川中子義勝 44
悲劇的なレモンパイ1/2/望月苑巳 46
旅嫌い/大橋政人 48
使者/瀬崎 祐 50
canvas/清水恵子 51
まぶしい愛へ/竹田朔歩 52
夕映え/美濃千鶴 54
霊界への返礼詩/森 常治 56
短命/米川 征 58
竹田/吉沢孝史 59
離別出来ない鳥/豊原清明 60
苔/望月昶孝 62
《評論・エッセイ》
■永瀬清子・・・流れるままに/寺田 操 64
■アカシアの大連に安西冬衛を求めて/冨上芳秀 68
*なぜ私はサヨクにならなかったか/河内厚郎 97
*雨の日の読書/鈴木東海子 98
《郷土エッセイ》 かるたウォーク『ほいさを歩く(8)』/金堀則夫 100
《書評》
山口眞理子詩集『深川』思潮社/須氷紀子 72
麻生直子詩集『足形のレリーフ』梧桐書院/中田紀子 74
水嶋きょうこ詩集『twins』思潮社/白鳥信也 76
渡辺めぐみ詩集『光の果て』思潮社/中本道代 78
國峰照子詩集『CARDS』風狂舎/中川千春 80
愛敬浩一詩集『夏が過ぎるまで』砂子屋書房/大橋政人 82
外村京子詩集『オーヴァ・ザ・ムーン』本多企画/苗村吉昭 84
山田春香詩集『Simon』交野が原発行所/古賀博文 86
埋田昇二詩集−新・日本現代詩文庫37−土曜美術社出版販売/山本十四尾 88
『現代日本生活語詩集』澪標/難波保明 90
滝本 明評論選集『余白の起源』白地社/大西隆志 92
鈴木東海子・著『詩の尺度』思潮社/田中眞由美 94
《子どもの詩広場》第二十九回「交野が原賞発表−小・中・高校生の詩賞/交野が原賞選考委員会 101
編集後記 112
《表紙デザイン・福田万里子》



 旅嫌い/大橋政人

三十年ほど前
女房と二人で
北海道へ行ったことがあるが
九州にも四国にも
沖縄にも行ったことがない

二十五年ほど前
何かの義理で
中国へ行ったことがある
これが外国かと
上海やら無錫の街並みを
少し興奮して見た覚えがあるが
それ以外の国へはどこにも行ったことがない

日の下に新しきものなし
というほどの大ゲサのものではないが
どこへ行っても
人間がいるばかりだ

悲しい人間の顔を
何が嬉しくて
わざわざ見に行くのか

目からウロコぐらいの
美しい風景があるなら別だが
見るのが私なのだから
同じことだ

生家の
すぐそばに住んでいても
私はすでに旅人である

旅人が
いまさら
旅に出ても仕様がない

 「旅嫌い」と言うほどではありませんが、私も必要がなければ旅行をしない方だと思います。そうは言っても「北海道」や「九州にも四国にも」行っています。それは出張だったり日本詩人クラブの大会であったりと、半ば「義理で」あったわけです。最近は少しは観光地も行くようになりましたけど、「どこへ行っても/人間がいるばかり」ですね。
 なぜそうなのか自分でも不思議だったのですが、この作品の最終連で納得しました。作者ほどではないにしても、私もまた「旅人」であるのでしょう。詩らしきものを書くということはそういうことなのかもしれません。作者の本領が発揮された作品と云えましょう。



佐竹重生氏詩集『孤老 されど』
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2005.8.1 東京都千代田区 郁朋社刊 1200円+税

<目次>
 T
昔話が語れない 6  孤老 されど 9
祖父の手 13     雄鶏 16
カマドウマ 19    冬の花火 22
あいつ 26      笹舟 30
守られて 33
 U
棚田にて 38     村の幻想 40
オオイヌノフグリ 44 火鉢 47
祈り 50       瘡蓋 53
音信 56       自然薯の声は姿となって 58
母の洗濯板 62    気がつけば宙にいて 65
 V
せみの声 70     右手の親指 74
路地裏 77      レシピ 80
踊り子 83      そして 命名 86
そこで うた 89   生活の音 92
二月二十九日 そして 96
 跋
「家」と「村」と―― その変容する歴史を生きる/柏木義雄 102
あとがき 109



 昔話が語れない

「むかしむかし あったげな」
西に居座る山と北の峰の戦い
東を流れる川と南の池の主の諍い
狸や狐 猿や狼の間抜けた怖さ優しさ
庄屋の末っ娘と若い蛇の恋物語
畑の土壺で行水する隣村のおっさん

裸電球の光の中で
ボクは爺さんの顔を見つめていた
暗い土間では
馬が鼻を鳴らして笑っていた
光の届かぬ梁の上には
見えない影が座っていた
ボクの世界の闇の中には
何処も命が満ちていた

あれから半世紀が過ぎた今
闇の消えた部屋の中では
もう歳取らぬ爺さんが額の中から
同い歳になったぼくを見ている
何本ものコードの絡んだテレビから
電子音があふれ出て跳ね回っている
色と光の乱舞する画面の中で
若者や娘が孫の指図で冒険している
部屋の隅ではプラスチックの古代生物が
歯をむき出して孫のお尻をねらっている

音と光の世界から取り残されたぼくは
一人ソファーに横になり
額の裏の僅かな闇に目をやって
口の中でつぶやいてみる
「むかしむかし あったげな」

 昨年の8月に出版した第1詩集のようです。紹介した詩は巻頭作品で、この詩のあとにタイトルポエムの「孤老 されど」が置かれていますが、こちらの方が「孤老」を上手く表現しているように思いました。特に「もう歳取らぬ爺さんが額の中から/同い歳になったぼくを見ている」ところや「若者や娘が孫の指図で冒険している」ところが時代の移り変わりを読み取らせてくれます。続く「音と光の世界から取り残されたぼく」は「孤老」そのものでしょうが、「されど」と「口の中でつぶや」くものがあると捉えることができます。そういう面では「孤老」を様々な角度から表現した詩集と云えましょうが、決して暗くはありません。むしろ達観した視線を感じてさせる佳品の多い詩集です。今後のご活躍を祈念しております。



岩崎守秀氏詩集『水のゆくえ』
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2006.9.15 川崎市川崎区 漉林書房刊 1500円+税

<目次>
人の世のぬかるみは果てしなく深く 6
いつか豊饒の時は過ぎ 12
朝の扉 16      新生 20
風の街で 24     わかれゆくもの 30
薄暮の彼方へ 34   水のゆくえ 38
寄る辺なき地平へ 44 陽はあわあわと 50
レモン 56      あやめも知らず 60
行く人 66      氷魚の飛ぶ日に 72
木漏れ日 78     誕生日 82
惜別 86
 ◆
不器用な休日 92   夕暮れ 96
流れていくとき 100
. 不在 104
水ぬるむ 106
.    冬の来訪者 112
仮説の日々 116
.   夜の光 120
未成の時 124



 不器用な休日

三月八日 薄曇り 後 小雪散らつく
朝 両のまぶたが重い
なにもせずにいよう
なにもできずに過ごした昨日となにかが
変わるかもしれない明日との間の
正確に言えばいまいましさともどかしさの
間の危うい均衡のうえに立つ休息
で 私は動かない
どこかで指揮棒を振るものの舌打ちが
聞こえてくるような静けさのなか
うどん玉一個買ってきて
だし汁を煮立てている間に
ネギを少しばかり刻んで
塩分を少々気にしながら醤油を入れて
クマゴを落として食欲を満たす
タバコは吸い過ぎに注意して
眼に毒なものは見ない
なにも考えずにという器用なことはできないから浮かんでくるもの
 には逆らわずにいて
ため息は何度ついてもかまわない
不意の客が訪ねてきたって
保険の勧誘員やにこやかな販売員が
戸をたたいたって
絶対腰などあげるものか
新聞手に取るのもよそう
ラジオやテレビのスイッチ押すことや
音楽で気を紛らすことも
今日はみんなやめた
やたらに口がうまくて表情一つ変えずに
あなたは劣っていますよ
わかっているとは思いますが と
さりげなさが曲者だと十分知っていながら
立ち止まってしまう自分の愚かさを
思っていよう
不器用な者は不器用に時を過していい
あゝ 風が向きを変えたらしい
窓がガタついている
びくびくすることはないさ
器用にいきられない者は
どんなに不器用に生きたってかまわない
そう思いません
なにか一つ割り切れたなら
両のまぶたが
少しは軽くなるかもしれない

 この詩には励まされます。「不器用な者は不器用に時を過していい」、「器用にいきられない者は/どんなに不器用に生きたってかまわない」と言われると、その通りだなと思います。冒頭の「なにもできずに過ごした昨日となにかが/変わるかもしれない明日との間の/正確に言えばいまいましさともどかしさの/間の危うい均衡のうえに立つ休息」と表現された「休日」も佳いですね。「両のまぶた」の軽重で詩を始め、締めくくるところも収まりが良く、作品を安心して読む効果を与えていると思いました。



DVD『宮澤賢治の世界』
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1996.2.19 川越・あしび舎
川崎市川崎区 詩語り倶楽部発行 1200円

<演目>
宮澤賢治
白い鳥/永訣の朝+雨ニモマナズ/青森挽歌+銀河鉄道の夜
自作詩
田川紀久雄 石/雪
坂井のぶこ 中国古典詩考/光る山
詩語り
田川紀久雄 くずれ三味線苦土節
坂井のぶこ



宮澤賢治の世界  あしび舎での詩語り

 2000年2月19日(土) アートスペースあしび舎にお招きをいただいて詩語りをしました。あしび舎は鈴木東海子さんが主催していらっしやる場所です。鈴木東海子さん御自身でも詩を読まれますが、語りや朗読のライブも企画なさっています。東武東上線の新河岸駅から十数分歩くと、見えてくる西洋のお城のような三角屋根が目印です。
 開演は三時でしたが、リハーサルをするために一時ごろおじゃましました。東海子さんと主人で画家の英明さんがにこやかに出迎えてくださいました。アトリエを改造した木造りした小ホールが今日の会場です。天井の太い梁、落ち着いた木の色合い、絵やオブジェに囲まれて安らかで洒落た雰囲気があります。正面に置かれたマイヨールの母子像が暖かい雰囲気を醸し出していました。母の像の抱擁力のある笑顔が私たちを励ましてくれているようでした。

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 田川紀久雄氏と坂井のぶこ氏による詩語りのライヴDVDです。紹介した文章は坂井さんによるもので、「あしび舎」でのライヴ報告の冒頭の部分です。このあとライヴの模様が書かれており、DVDを観ながら読むと一層雰囲気が伝わるというものでした。田川さんの「くずれ三味線」は私も詩語りを依頼したこともあって存じ上げていますが、他にはない独特なものです。このライヴ版をお買い求めになるのも良し、実際に詩語りを依頼するも良し、ぜひ一度体験していただければと思います。詩の朗読について考えが広がることでしょう。



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