きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.7.7 クリスタルボウル(「アリキアの街」にて)



2006.9.11(月)

 日本ペンクラブ電子文藝館委員会が日本橋兜町の会館3階で開催されました。今回はちょっとした収穫がありました。Shift JIS では表現できない漢字や記号が Unicode にあるのは判っていましたが、そのままクリックしても「?」になってしまい使えないことで皆さんも困っていたことと思います。その解決方法を加藤委員が教えてくれたのです。「数値参照 and <unicode> ;」でOKなんです!
 とは言っても具体的には判りませんよね? 私も何をやろうとしているかは判りましたが具体的には不明でした(^^; で、思いついたのが一度 Word に書いて、それを html に貼り付けるというもの。まず、Word では問題なく書くことができ、プリントアウトもOKなのを確認しました(実は今までこんなことも試していませんでした)。次にその文字を html に貼り付けてみました。で、ちゃんと表現できました!
 しかし、一度データをセーブして html を切り、再度立ち上げると
????? となってしまいました。残念。<?????> や (?????) [?????]で括ってみましたけど、ダメだなぁ。テキストや Word で使えることが判っただけでも儲けものですが、HPで使えないと私の場合はあまり意味がありません。もう少し研究してみます。

 委員会は5時少し前に終わって、その後は委員のお一人を誘って八重洲地下街で呑みました。山口の銘酒「獺祭」の置いてある「初藤」というお店です。2合を呑むだけで我慢しましたけど、お話を肴に佳い時間が持てました。ありがとうございました。



詩誌『流』25号
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2006.9.9 川崎市宮前区
西村啓子氏方編集局
宮前詩の会発行 非売品

<目次>
詩作品
西村 啓子 美味探求 時代のコトバ 記憶の値段 2
ばばゆきこ 春のにぎわい たて看板 耳を澄まして 8
林  洋子 山香ばし 這うものたち 14
山崎 夏代 夢の島 20
山本 聖子 たてがみ つめたい舌 0(ゼロ)の密度 26
麻生 直子 新宿サブナード1988年 32
島田万里子 空き瓶 深爪 ギブス 34
竹野 京子 ころがったままの原稿 経済優先 足のうら事情 40
中田 紀子 虚空のプレゼント 暗くなるまで アツモリ草・クマガイ草 46
エッセイ
山本 聖子 奔流−現代詩の行方−6 文明の相貌 52
西村 啓子 最近の詩集から 54
林  洋子 最近の詩集から 55
島田万里子 最近の詩誌から 66
会員住所録 編集後記



 虚空のプレゼント/中田紀子

「どうぞ これ どうぞ」
わたしに向けられた叔母の手は
何かをしっかり握りしめていた
さっきから布団の端でしきりに指を動かして
拾い集めていたものに違いない
挨か お菓子のかけらか 糸くずだろうかと
両手をお椀の形にして差しだすと
だいじそうに手渡してくるものがあった

こぼれないように縮めていた掌をそっとひらくと
そこには わたしの指と手相の皴のほか
なんにもなかった
「ありがとうございます 頂いて帰ります」
そう咄嗟に応えることができた
自分の感情を厚いベールで覆い
叔母の気持ちにそった返事ができるようになるのに
十年もかかってしまったけれど

叔母はまた次のプレゼントに向かって
せっせと何かを拾いはじめている
触ると健康を約束される観音さま 刺し子の布巾
宮島のもみじ饅頭 昨日のご馳走の残り
瀬戸内海の昆布 いりこ 牡蠣
頭上を惑星のように回っているもの
それらをひとつひとつ 指にからめて拾っているのだろう

低く薄く射している冬の陽が寒さを誘っている
言葉もその意味も
デクレッシェンドのようにほそく閉じてゆくが
贈りものをした喜びは 叔母のくちもとに
まだ毅然と生きている
十本の指を小さく縮めて差しだしていよう
一条の光のプレゼントを落とさないように

 「叔母」はおそらく「十年も」前から恍惚状態なのではないかと想像します。そんな「叔母」からの「虚空のプレゼント」に「叔母の気持ちにそった返事」をする「わたし」のやさしさが伝わってくる作品です。「叔母の気持ちにそった返事ができるようになるのに/十年もかかってしまったけれど」というフレーズは「わたし」の正直な気持でしょうが、そうやって己を見ている姿にも共感できます。超高齢化の現在、私たちの採るべき道を示された作品と云えましょう。



アンソロジーetude8号
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2006.6.25 東京都新宿区
麻生直子氏編集・NHK学園発行 非売品

<目次>
前川 整洋 風猛る利尻山 2
工藤富貴子 すみれ/あなたはどこへ/男と女 6
中田 紀子 ウェルディの森/桂馬 12
浦山 武彦 吉原観音/青野川のほとり 16
杉谷 晴彦 道はつづく/許されること/薄氷/ホリ工モンよリセットできるか 20
田中 万代 コッピー 28
山本 聖子 a stone 30
原 かずみ 秋の陽 32
竹野 京子 落とす 34
ばばゆきこ サポート 36
山崎 夏代 椅子を壊す 38
小作久美子 ごめんなさいね 40
丸山由美子 右手と左手 42
林  洋子 栂の木 44
麻生 直子 姥神まつりのころ 46
編集後記



 すみれ/工藤富貴子

玄関先の小さな空き地で
ぽっとすみれが群がっている
すみれ畑にしようと
たくさんのすみれを植えた場所には
ぱらぱらとしか咲いていなくて

すみれにしたら種のはじけとんだ場所
ということだろうけれど

何だかいつもこんなふう
一生懸命作った料理は美味しくなくて
手を抜いた料理が美味しかったり
努力した試験より
なにげなくうけた試験の方がうまくいったり
思いを込めた手紙より義理で書いた手紙に
うれしい返事があったり

そういえば
七、八年も前に植えたラッパ水仙が
沈丁花の根元で花開いている
ローズマリーもようやくの花盛り

花は花のリズムで生きているから
むりやり花畑にしようとしても
そこで咲きたくない花だってある

予定どおりにいかないことにも
思い掛けない楽しみがあるから
わたしもわたしのリズムで

 「何だかいつもこんなふう」というフレーズがとても良く判りますね。私の場合「なにげなくうけた試験の方がうまくいったり」、「うれしい返事があったり」ということはあまりありませんでしたが、それでもこのフレーズには共感します。最終連の「予定どおりにいかないことにも/思い掛けない楽しみがある」には達観した詩人の視線がありますね。私も「わたしのリズムで」生きるしかないのかなと感じさせた作品です。



詩誌『砕氷船』13号
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2006.8.31 滋賀県栗東市
苗村吉昭氏発行 非売品

<目次>

原始力発電所/森 哲弥 2
カウイ・カウイ/苗村吉昭 28
小説 脳髄の彼方(7)/森 哲弥 38
随想 プレヴエールの詩をどうぞ(6)/苗村吉昭 44
エッセイ
はじめての言語学/森 哲弥 50
しあわせの王子/苗村吉昭 51
表紙・フロッタージェ 森 哲弥



 3・エネルギー危機

世界中の、殊に北半球諸国のエネルギー事情
は逼迫していた。世界の国々は多くの曲折を
経ながらも、すでに何百年も以前から原子力
発電を人類の叡知では制禦しえない《ドラゴ
ンの心臓》として認識し、技術を封印したの
であった。河川という河川に水力タービンが
回り、山岳の南面には悉く太陽電池パネルが
張り巡らされ、もはや登山という営為もそれ
にまつわる文化も消滅しかけていた。また測
量され尽くした風筋には群れたフラミンゴの
ように林立した風車が物憂げに回っていた。
だが尚もそれに倍するエネルギーが必要であ
った。化石燃料はすべての国で国家管理とな
り緊急事態に備えられた。ただ緊急事態とい
うことではある国では軍事・防衛を、ある国
では自然災害等民生用を意味した。化石燃料
はすでに過去の物となりつつあった。
平時に於いては、奇抜な構想は往々にして妄
想と片付けられる。しかし常識人が描き得る
空想と現実との幅がもはや距離を失ってしま
つた現況では、妄想に近しい空想も世界を救
うものとして受け入れられる土壌が出来つつ
あった。

 紹介したのは森哲弥氏の長編散文詩「原始力発電所」の部分です。プロローグ、1・アマゾンの男、2・悍ましき地層、3・エネルギー危機、4・百家争鳴、5・人工火山、6・月夜、7・計画の肥大化、8・ドラゴン暴発、9・叡知壊滅、10・科学者ひとり、11・川魚漁師、12・原子力から原始力へ、エピローグと続く壮大な詩篇で、26頁を費やしています。そのうちの3を紹介したわけですが、ここから先が実におもしろい。「人工火山」により電力を得る計画を成功させるため、数百年間封印されてきた「原始力発電所」が建設されたが…。この先は実際に読んでほしいですね。現代詩の新しい試みと言ってよいでしょう。一読をお薦めします。



『白鳥省吾研究会会報』2号
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2006.8.27 宮城県栗原市
佐藤吉人氏方・白鳥省吾研究会事務局発行 非売品

<目次>
幻の『地上樂園』終刊号発見 1
旧制築館中学校時代のペンネームについて 2
文学碑について その一 3
詩の紹介 4
第二回「白鳥省吾賞」最優秀賞受賞作品 浅野まさえ「赤い川」誕生記 6
『日本詩人』と白鳥省吾 その二 8
あとがき 8



 宮城県女川町と言えば、こんにち東北電力の原子力発電所がある原発の町として知られている。その女川原子力発電所から、地図上を真東に約八.五キロの洋上に江島がある。さらにそこから南東の方向に約一キロの所に、無人島足島がある。足島は古来ウミネコとウトウの繁殖地として知られている。この無人島、「足島」の「波聞き岩」と言われる自然石に「カモメに聴かせる歌」として、白鳥省吾の歌碑が刻まれている。(昭和二十七年三月二十七日建立、同文の碑がJR女川駅構内にもある)
 それをヒトは近年誰も見たことがないという、世界でも珍しい、カモメに捧げたうたの碑である。

 いのちあり 光あり
  海に岩に鴎に 緑の草木に
   吾も亦永遠を想う

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 紹介したのは「文学碑について その一」の全文です。まさに「世界でも珍しい、カモメに捧げたうたの碑」で、白鳥省吾という詩人の重要な側面を現したものだろうと思います。気になるのは「足島は古来ウミネコとウトウの繁殖地として知られている」という部分で、これでは人が入れないのではないかと思いましたら、やはり「あとがき」で次のように書かれていました。まさに幻の歌碑というところですね。

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 白鳥省吾の歌碑が刻まれている無人島、足島を女川町に問い合わせたところ、国指定天然記念物「うとう」「うみねこ」の生息地なので、「国の許可がないと立ち入り出来ない、碑はあるが、近年見ていない」とのことでした。



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