きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2006.7.7 クリスタルボウル(「アリキアの街」にて) |
2006.9.13(水)
今日はとても嬉しいプレゼントがありました。中学校時代の恩師に1950年版の『日本現代詩大系』全10巻をいただいたのです。やったね!!
恩師とは2年ほど前の同窓会で再会しました。実に30年ぶりです。中学生のときに静岡県東部地区の作文コンクールに応募するように恩師から言われて、それがたまたま特選になってしまったことから私のブンガク生活が始まりましたから、謂わば私の一生を決定した先生と言っても良いでしょう。中学校を卒業してからも交流は10年ほど続いていました。しかしいつの間にか疎遠になっていました。
再会のときは私の時間が無くて、簡単な近況報告だけで帰ってきましたから、その後、近著などをお贈りしたところ、今日のプレゼントとなった次第です。返信に2年近くも掛かるのかよ!と思いましたけど、ことによったら病気していたのかもしれません。『日本現代詩大系』は河出書房刊で、新体詩から敗戦直後までのものがほぼ網羅されています。その時代の詩人論などの依頼がときたまありますが、実は資料が揃ってなく、その度に本屋さんに走ったりインターネットで調べたりというていたらくでした。これで基本資料は揃ったことになり心強いかぎりです。『荒地詩集』、『列島』(復刻版)とともに我が書斎の宝物となりました。先生、ありがとう!!
○豊岡史朗氏詩集『拙生園』 |
2006.9.13 東京都豊島区 舷燈社刊 1500円+税 |
<目次>
T
老犬 10 ゆびきり 14
アルプスだより 18 はるかな旅 22
遠い夏の日−リュクサンブール公園 26
最後の絵 28 来世 32
乙姫様 36 日比谷公園 40
20世紀 44
U
除夜の犬 48 いつものように 52
繕う 56 お彼岸 60
夜明け−九十九里浜62 バグダッドに咲いた恋の花 66
空港 70 ベストランディング 74
春のまぼろし 76 拙生園 80
あとがき
拙生園
中国の蘇州に 拙政園という
明の時代につくられた美しい庭があるそうだ
蓮池のまわりに堂や楼が建ち 回廊で渡ってゆく
いつの日かたずねてみたい
王献臣 どんな風貌の男だったのか
政治の世界で失脚した自らの人生を振り返り
その風変わりな名をつけた庭の主(あるじ)に
親しみと小気味よい共感を覚える
わたしにも小さな庭がある
悔いやかなしみが雑草のように茂り
志した木もおおかた枯れてしまったが
晩秋の透明な日差しのなか
山茶花が思い出のようにあたたかく咲き
少年の日に追ったきいろい蝶があてどなく舞っている
「拙生園」わたしもわたしの拙い生を
ささやかな詩集に綴りたいのだ
詩集の最後に置かれたタイトルポエムです。おもしろいタイトルだなと思ったのですが「拙政園」から採っているのですね。拙い政治に対する「拙い生」とは謂い得て妙です。「悔いやかなしみが雑草のように茂り/志した木もおおかた枯れてしまった」のはいずこも同じ。それを「ささやかな詩集に綴」ることこそ詩人の仕事なのかもしれません。
○個人誌『COAL SACK』55号 |
2006.9.15 千葉県柏市 鈴木比佐雄氏発行 500円 |
<目次>
[詩]
人間であること/浜円知章 2
調査報告/渋谷卓男 3
来妨者、無題、秋になって/伊与部恭子 4
枯れた風のような声の男/小よ禄琅 6
着火/山本聖子 7
水のふくろ、天人菊/崔 龍源 8
ミセスエリザベスグリーンの庭に/淺山泰美 11
阿修羅像を造った男/大掛史子 12
玉江の木/埼村久邦 14
生きる/岡崎 葉 15
空の眼/星野由美子 16
発酵する狂気/加藤 礁 17
白い息/石川和広 18
やわらかい女/石下典子 20
ささやかながら十万本/山本倫子 21
今日もバラバラ殺人/佐相憲一 22
青い時間/下村和子 23
首里城正殿(一)/平原比呂子 24
カラカス政権危機一髪/吉沢孝史 25
敵に囲まれてしまって/辻元よしふみ 26
今/真田かずこ 27
笑いながら行く(続)/山本泰生 28
ポラリス/岩下 夏 30
きずのあとさき/海埜今日子 32
祭笛/倉田良成 33
遠い声/水崎野里子 34
[翻訳詩]
要らない感情 ヴァレリー・アファナシエフ/尾内達也訳 36
鮭 鳴海英吉/水崎野里子訳 38
窓、春尽の記、五時の夕食/葛原りょう 40
[書評、エッセイ、詩論]
山本十四尾詩集『水の充実』書評/図子英雄 42
神さまの演出/淺山泰美 45
倉田良成著『ささくれた心の滋養に、絵・音・言葉をほんの一滴』書評/水島英己 47
岩崎和子詩集『骨までも染めて』書評/大掛史子 50
インドの旅の詩「乳粥」が出来るまで/朝倉宏哉 52
[『長詩 リトルボーイ』広島特集]
「西日本新聞社説」八月六日付 54
書評『リトルボーイ』/柴田三吉 56
高炯烈『長詩 リトルボーイ』八月五日出版記念・交流会一部二部の全記録 64
第一部 挨拶 海老根勲 涌谷昭二 御庄博実 著者挨拶 高炯烈
鼎談 高炯烈、本多寿、佐川亜紀
第二部 スピーチと朗読 柴田三吉他
アジア詩行1 詩三篇「木の枝のリボンと油桃花」などと散文/高炯烈 98
蓮の花/李 美子 101
ビッグマン/長津功三良 102
平和公園/松尾静明 103
広島詩篇/鈴木比佐雄 104
[詩論]
山本十四尾詩集『水の充実』解説文/鈴木比佐雄 106
広島詩篇−高炯烈氏へ/鈴木比佐雄
生ける場所――原爆ドームにて
その人は初めて原爆ドームの前に立った
『長詩 リトルボーイ』七九〇〇行を書いた
その人は何を見ているのだろうか
長詩の最終連は「草の葉」という八行詩で終わっている
遠くの海に草の葉が流れている
あの草の葉の上に私たちを皆載せることができるか
その人はきっと原爆ドームと
亡くなった人々すべてを
「草の葉」の上に載せることを夢見たのだ
いまカエデ、クスノキの巨木が
ドームのかたわらに生い茂り
その緑葉を通して何を見ているか
十数万人の命が一枚一枚の葉に宿っているか
原爆ドームの時間は
一九四五年八月六日で停止しているが
緑の時間は永遠に生き続ける
破壊されたドームに命を注ぐことが可能か
眩しすぎるものを見るために
その人はまた影と語りあっている気がする
相生橋をわたり対岸に咲く夾竹桃の横で
その人は水に映る原爆ドームを眺めている
世界は瓦礫の前でまた眠り始めているか
無数の叫び声が水面から顔を出している
その人はその声を聴こうとしている
その人は相生橋を走る市電を
眩しそうに眺めている
今号では約半分の頁を使って『長詩 リトルボーイ』の特集が組まれていました。広島での「出版記念・交流会一部二部の全記録」が圧巻ですが、「『西日本新聞社説』八月六日付」も見逃せません。新聞の社説に採り上げられるほどの事業であったということと、社説の内容も公平で好感が持てます。西日本新聞をお読みになっている方はすでにご存知かもしれませんが、ぜひ全国の皆さまにも読んでいただきたい内容です。社説氏の見識の高さに敬意を表します。
紹介した詩はそれに関連した「広島詩篇−高炯烈氏へ」3部作の最後に置かれたものです。『長詩 リトルボーイ』の著者・高炯烈氏を見つめる作者の尊敬の念が伝わってくる作品と云えましょう。詩人に日韓という国境はないことも感じさせてくれます。長詩の作者、その翻訳本の出版元という共通の仕事を通じた人間同士の信頼関係もにじみ出ているように思いました。
○詩とエッセイ『沙漠』242号 |
2006.6.10 福岡県行橋市 沙漠詩人集団事務局・麻生久氏発行 300円 |
<目次>
■詩■
椎名美知子 3 楠
坪井勝男 4 干潟にて
秋田文子 4 宿直室
宍戸節子 6 ちょっと違うだけで(6)
河上 鴨 7 陰翳礼讃(2)末摘花
柳生じゅん子 8 百人一首
藤川裕子 9 夜に
中原敏子 10 柳絮(やなぎのわた)
原田暎子 11 もういちど
菅沼一夫 12 愛よ永遠に爽やかに
横山令子 13 おんなの袋
光井玄吉 14 バブルの塔
坂本梧朗 15 御用放送
千々和久幸 16 海辺にて
木村千恵子 16 暦
福田良子 18 鈴の昔
風間美樹 18 華
柴田康弘 19 六月の窓辺
犬童かつよ 20 母
麻生 久 21 人魂
■回想特集餘戸義雄■
詩/陰の部分(1)・(4) 22 関竜太郎
詩/眠る・つかむ 23 餘戸義雄
詩/餘戸氏へ捧げる 24 上山しげ子
餘戸義雄その光と影の部分 25 河野正彦
関龍太郎さんのこと 26 中原澄子
餘戸さん何故こんなに早く 26 菅沼一夫
餘戸さんへの手紙 27 中原歓子
飴戸義雄さん 27 原田咲子
電話が鳴って 28 坪井勝男
餘戸さんの思い出 29 風間美樹
餘戸さん追想 29 坂本梧朗
餘戸義雄さんを悼む 30 河上 鴨
お遍路となった影 30 麻生 久
鎗戸さんのこと 30 柳生じゅん子
■エッセイ■
「やきもの」考(9) 31 光井玄吉
表紙写真 藤川裕子
つかむ(絶筆)/餘戸義雄
握った掌を
広げたのはいつだったのか
はじめに
なにを握ったのか
母の鼻か黒い目玉だったのか
それとも明るい光を掌の中に
包み込んだのか
そのときの
蒼い空だったのだろうか
透けて見える景色が
小さな瞳の奥に
幾つかの輪を創り
頭の頂きに一つだったか
二つだったのか渦を残して
消えていった
それから幾度か空が落ち
落ちては上がった
凧の先の
握られていた糸巻も
寸足らずで終ろうとしている
風は途切れることを知らず
硝煙の臭いを微かに漂わせ
また何を握ろうとするのか
焦点の定まらない目
空ろだけではかたづけられない
視えない先の
鉛を溶かした空の下で
さざ波が 大波に覆われる
(沙漠241号 '06 3月)
今号は4月19日に亡くなり、日本詩人クラブの会員でもあった餘戸義雄さんの追悼特集になっていました。紹介した作品は前号に載っていたもので絶筆です。生まれたときから亡くなる直前までを回想した作品と思われます。「それから幾度か空が落ち」というフレーズは戦時中のことでしょうか。最終連の「硝煙の臭いを微かに漂わせ/また何を握ろうとするのか」は現在の世界情勢や日本の行く末を見据えているように感じます。「さざ波が 大波に覆われる」は庶民の力の無さやご自身の死を暗示しているようにも受け止めました。遅れ馳せながらご冥福をお祈りいたします。
○詩とエッセイ『沙漠』243号 |
2006.9.10 福岡県行橋市 沙漠詩人集団事務局・麻生久氏発行 300円 |
<目次>
■詩
柳生じゅん子 4 角砂糖
河上 鴨 5 利休鼠の雨
中原歓子 6 豊さんの村
福田良子 7 湧き水
千々和久幸 8 舌の裏で
秋田文子 9 養母
坪井勝男 10 見すぎてしまう
河野正彦 10 だんだん大きくなってゆく蛇
光井玄吉 12 届かなかった訃報
麻生 久 14 深夜放送
藤川裕子 14 黒たまご
推名美知子 15 秋の木霊
原田暎子 16 ホームに滑り込んできた列車が、
風間美樹 16 整形手術
菅沼一夫 18 アイちゃん
犬童かつよ 19 がくあじさい
横山令子 20 天使の梯子
木村千恵子 21 年月の向こうから
坂本梧朗 22 年金のうた
宍戸節子 23 ちょっと違うだけで(7)湯葉
平田真寿 24 聖なるネクロフィリア
織田修二 26 眠気
■エッセイ
光井玄吉 26 「やきもの」考(10)
●書評
麻生 久 27 『福岡県詩集2006』寸評
坂本梧朗 30 谷川俊太郎『詩を書く』
写真・扉詩 坂本梧朗
年金のうた/坂本梧朗
職場にいると
早く六十になりたいと思うのだ
定年になって
おさらばしたい
自由になりたい
何の罰なのか
終りに近づいている時間なのに
早く過ぎよと願うとは
一日でも長く
幸福に生きたいと思っている者が
早く老いよと願ってしまうとは
定年を迎えても
年金で食べていける
保証はなにもないのに
この国ではマジに
死ぬまで働け
働けなくなったら死ね
年金生活は
黄金色の雲
どこまで追っても
遠くにある
たどり着けば
消えてしまう
作者はおそらく私と同年代だろうと思います。私はこの春、3年ほど早く早期定年退職をしましたが「年金」はまだまだ先です。一部は来年から支給されますけど満額≠ヘ「六十」では無理で、あと5年ほど掛かると見ています。まさに「どこまで追っても/遠くにある/たどり着けば/消えてしまう」ものなのかもしれません。「早く老いよと願ってしまう」「この国」の労働とはいったい何だったのかと今にして思います。ま、それもこの国の政府を造り上げた我々自身の責任、甘んじるしかないでしょうね。そんなことを考えさせられた作品です。
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