きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.7.7 クリスタルボウル(「アリキアの街」にて)



2006.9.19(火)

 午前中は銀行に行って、パソコン屋さんでプリンター用紙を買って…。なるべく出掛ける用事を作って外出しています。毎日は無理としてもせめて2日に一度ぐらいは出て行かないと、1週間でも2週間でも家に閉じこもってしまいそうです。書斎に一日中いるのは苦ではなく、むしろ快適なんです。そうやって閉じこもっていると髭は伸び放題、髪はボサボサ…。それじゃマズイな。無職というのは好き勝手できて良いのですが、自己管理が必要だと感じています。自己管理なんて一番苦手なんですけど、そうも言ってられませんからね。



詩誌『橡の木』17号
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2006.9.15 東京都羽村市
内山登美子氏方・「橡の木」の会発行 500円

<目次>
降る、さらさらと…内山登美子 4
亜麻色の蟇…村尾イミ子 6
階段…岡ななみ 8
かずら橋…内田範子 10
老舗の裏方…安藤初美 12
梅雨晴れ…池田君代 14
天使の羽根…狩野貞子 16
遠い声…高橋裕子 18
トスカーナの春…吉田雅子 20
菜の花いろの電車…塩野とみ子 22
人手が足りるとき…木村和子 24
冬の朝…宇津木愛子 26
課題エッセイ「わが心の風景」…28〜35
16号合評会 記録……内田範子 35
編集後記



 梅雨晴れ/池田君代

文学館の中にある喫茶店で
友は一緒に観てきた「夏目漱石展」の話を
興奮気味に話している
私は相槌を打ちながら
窓越しに
文学館に近づいてくる老夫婦を見ていた

おばあさんは杖をついて
おじいさんは腰が曲がっていて
手提袋を持って
庇い合うように ゆっくりと歩いてくる
展覧会最終日
どのような歳月を重ねたのだろう
私はその姿に見とれていた
――今度生まれてくるときは
あのような夫婦になりたいわ
私の唇から ふっともれたことば
私はそのことばに驚く
久しぶりに逢った友に
胸のうちを覗かれはしなかったかと 友を見ると
友は さっきの話のつづきを話していた

私の唇から こぼれたことばは
老夫婦が入口を開けたとき
するりと抜け
梅雨晴れの空に 吸い込まれていった

 「私の唇から ふっともれたことば」は「私」たち夫婦が不仲とも、そうでないとも採れますが、この場合それはどちらでも良いでしょう。仲の良い夫婦でも「ふっともれ」ることはありましょうし、この作品では「私はそのことばに驚く」ことに重点があると云えます。謂わば取り返しのつかない言葉が、最終連で「するりと抜け/梅雨晴れの空に 吸い込まれていった」ことに詩があると思います。人間の心理の機微を上手くまとめた作品だと思いました。



『横浜詩誌交流会会報』55号
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2006.8.30 横浜市鶴見区
ひらたきよし氏方事務局 非売品

<目次>
<第29回>講演と詩の朗読の集い案内 1
演題「山本周五郎作品と詩」 講師・大河原英與氏 2
詩朗読
「元気?ゲンキデス」/西村富枝 2
あの夕陽/うめだけんさく 3
初夏/方喰あい子 4
ある顔・散歩/ひらたきよし 4
幽遠の人/小沢千恵 5
最後の贈り物/はんだゆきこ 6
真夜中の青空/佐藤 裕 6
一枚の絵のように/坂田瑩子 7
手紙を書く午後/林 文愽 7
キューバの猫/いわたとしこ 8
白い髭/阪井弘子 9
流れる河/木村雅美 10
鶴の骨笛/浅野章子 10
めしいの宰相/蔦 恒二 11
八月の風景/島峰信子 12
母について/比嘉名進 13
光と影/荒波 剛 13
鼻水川/府川 清 14
憲法九条の輪/福井すみ代 15
視線/志崎 純 15
秋の港町/菅野真砂 16
カラス/森口祥子 17
男と鏡の物語/新井知次 17
誘惑/林 柚維 18
戦争と子供/植木肖太郎 19
橋と川と/疋田 澄 20
最後にみた鳥/木村 和 20
横浜詩誌交流会講演会一覧 21
横浜詩誌交流会役員名簿 23



 戦争と子供/植木肖太郎(所属誌:詩のパンフレット)

テレビを見ていた
「さのあさを」さんが話をしていた
軍隊に入隊しても 神社で訓練しただけで
弾のない銃で 兵隊だけがいっぱいで と

ぼくは突然 何十年か前の記憶に戻る
甲府盆地の東 武田神社の境内
母の好きなタバコの吸殻を拾いに行く
それは 女の人には煙草の配給がないから
訓練中の兵隊さんの
捨てた煙草を拾いに行くのであった

なかに父と似た面影があると
僕は 拾うのも忘れて眼で追いかけた
甲府の連隊 まさに「さのあさを」さんの
何年か前の父も 其処にいた
横浜三中二期  うえきひろし
横浜三中A期  さのあさを
そして やがてぼくも三中の後輩になった
武田神社の あの境内
兵隊さんの中に父の面影を求めて
七年間も甲府で過ごした

和田町の窪田は 兄が二人戦死
でも 兄の変わりに 兵隊さんの宿になり
いつも忙しかった
「さのあさを」さんがいた連隊は
いま 学校になり 住宅に変わり
地元の人でさえ昔の姿を忘れかけている

父は復員後 兵隊仲間と
何年間も戦友会を作って集まっていたが
みんな亡くなって 会報もこなくなった
ぼくも 先は知れた歳になったが
最近になって 気に懸かることがあるのだ

多くの人が戦争を知らない時代を過ごした
が 少しずつ戻りかけているようだ
あんな悲惨な時代でも 知らない人ばかりに
なると 智慧はなくなるのだろうか
もう一度 歴史は繰り返されるのか
足音が迫ってくるようだ

 「女の人には煙草の配給がな」かったとは知りませんでした。これは貴重な歴史の証言だろうと思います。最終連の「あんな悲惨な時代でも 知らない人ばかりに/なると 智慧はなくなるのだろうか」という指摘も重要です。私は戦後生まれなので体験はありませんが、こうやって「智慧」を授けていただければ少しでも考えることができます。体験者には「足音が迫ってくる」ことがはっきりと判るのでしょう。これからも体験者の声に耳を傾けていきたいものです。



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