きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2006.7.7 クリスタルボウル(「アリキアの街」にて) |
2006.9.26(火)
今月中旬にTVからビデオのハードディスクに録画しておいた映画を、ようやくDVDにダビングしました。アメリカでは好きな作家のジョン・アーヴィングの「サイダーハウス・ルール」です。もちろん原作は読んでいます。この映画は何度かTVで観ていますが、今回、衛星放送でやっていましたので、たぶん画質が良いだろうと思っていましたら、やはり良かったですね。アーヴィングの作品は他に「ホテルニューハンプシャー」がDVDに、「ガープの世界」がVHSに撮ってあります。「ガープの世界」はいずれDVDにダビングして、名作ライブラリーとして揃えておきたいと思っています。現職時代ではやろうと思っても出来なかったことが、今、やれているんだなと実感しています。
○詩誌『AUBE』50(終刊)号 |
2006.9.25 東京都武蔵野市 鈴木ユリイカ氏発行 600円 |
<目次>
<詩>
祈り…月村 香…2 藤…川野圭子…4
シャドウ…房内はるみ…6 おやすみ手袋…大石ともみ 8
春の雪…入江由希子…10 西日になってから…松越文雄…12
春を呼ぶ…植木信子…14 青い風…寒川靖子…16
空…江口あけみ…18 いい夢を…原田悠り…20
山を越えて…沖長ルミ子…22 花嫁御寮…佐野光子…24
テントハウスの青…森 やすこ…26 CRAZY ROSES わたしが 冬 ばらを植えるのは…吉村詩子…28
一日…坂多瑩子…30 悪意…山口賀代子…32
ダウン・タウンの暮れ…山田輝久子…34 音を呑む…志村喜代子…36
喉に御座します…吉本洋子…38
詩文 茗荷谷日乗(4) 外山先生とわたし…遠藤めぐみ…40
<中島 登の世界> 四重奏−「惜別」から「ためいき」まで−…44
<原 利代子の世界> 「世界分の一」「プールサイド」…48
<短歌> 瀞…寒川靖子…52
<面白詩(52)>…鈴木ユリイカ…54
「素晴らしい毒、声をあげては」三角みづ紀
「森の地図」作田教子
<AUBE面白詩の会 報告>…中島 登…62 房内はるみ…66
<AUBE面白詩の会50号までの歩み>…房内はるみ…68
<終刊の辞とその後>…鈴木ユリイカ…71
<AUBE面白詩の会会員住所>…72
<あとがき>
<表紙デザイン> 紺碧海岸と言葉…原田悠り
湯気とシャンパン/中島 登
摂氏四一度の風呂に入る
熱い が 我慢して湯船に浸かる
かすかに泡がたつ 体が痒くなってくる
右手で背中を掻く 左手で背中を掻く
右手で腰のあたりを掻く 左手で腰のあたりを掻く
それから間をおいて 両手でオシリを掻く
カマンベールを口に入れる コルドン・ネグロを
グラスに注ぎ ベードレールに乾杯!
しばらくするとお湯が温(ぬる)くなってきた
湯気のなかに立ち上がって
湯の温度を摂氏四二度に調節する
デュアメルの小説『あるがままに』をふと思い出す
そうだ人生はまさに「あるがまま」でいいのだ
わたしはまた湯船に全身を沈めた
今号で終刊だそうです。それぞれの考え方があり、具体的には「終刊の辞とその後」に書かれていましたが、15年も続いた詩誌ですから惜しいなというのが偽らない気持です。しかし、今後は同人の皆さまが個人的にご活躍されるようで、その面では安心と云えましょう。皆さまのますますのご活躍を祈念しています。
紹介した作品は「中島 登の世界」の4編の詩の中の3番目に置かれていました。最終連の「あるがまま」は、そのまま『AUBE』の姿なのかもしれませんね。「湯気のなか」での「シャンパン」はそのひとつの象徴だろうと思います。
○詩誌『インディゴ』36号 |
2006.8.31 高知県高知市 文月奈津氏方・インディゴ同人発行 476円+税 |
<目次>
木野ふみ/流れ星・蟷螂・やっぱり選挙 2
文月奈津/曉冊子・エコロジー・ねこばなし4「節分」 9
萱野笛子/自句自解・お六櫛・笛子の道中旅姿(9) 16
あとがき 23
エコロジー/文月奈津
ぽん
と
手を打てば
雲が割れて
にこにこにこにこ
かぼちゃの花がかおをだす
呼んだのは
誰
用向きは
何
わかっているは
ごらんのとおり
わたしは
かぼちゃ
みんなの仲間
晩春
あなたが埋めた生ごみの
中の一つがやる気を起こし
むくむくむくむく
起き出して
いいですね
戦の無い暮らし
天と地と風
太陽熱
魚も草木も肩組んで
あはは
うふふ
グリーン
グリーン
「あなたが埋めた生ごみの/中の一つがやる気を起こし」て「かぼちゃの花がかおをだ」したから「エコロジー」なんですね。それに「天と地と風/太陽熱」も加わると思います。第1連の「ぽん/と/手を打てば/雲が割れ」るという発想もおもしろいと思いました。のどかで「戦の無い暮らし」。それがほんとうの「エコロジー」なのかもしれません。
○月刊詩誌『柵』238号 |
2006.9.20大阪府箕面市 詩画工房・志賀英夫氏発行 562円+税 |
<目次>
現代詩展望 反戦詩の方法と展開 新・日本現代詩文庫『埋田昇二詩集』…中村不二夫 82
少年詩メモ(10)「絶対」って、ある?…津坂治男 86
審判(1) 序章…森 徳治 90
流動する今日の世界の中で日本の持とは 老人問題と、日本の現代詩…水崎野里子 94
「戦後詩誌の系譜」36昭和56年52誌追補10誌…中村不二夫 志賀英夫 110
詩作品□
中原道夫/赤紙幻想 4 山口格郎/暗雲 6
名古きよえ/シルクロードのポプラ 8 宗 昇/聞こえてくる 10
野老比左子/天地乱調 12 柳原省三/梅雨の光と小雨の夜と 14
肌勢とみ子/夏のスケッチ 16 進 一男/告白 18
大貫裕司/上野の森で 20 今泉協子/今 生まれた! 22
小城江壮智/古道 24 織田美沙子/大事なこと 26
佐藤勝太/何処へ 28 北村愛子/母の味 30
平野秀哉/しみる −経過報告 32 小沢千恵/船底 34
南 邦和/あさくらの虹 36 松田悦子/幻化 38
高橋サブロー/井波の欅彫刻 40 安森ソノ子/ゆずり葉を植える 42
上野 潤/和蘭物語29 44 山崎 森/五枚のハガキ 47
土屋 恵/泰山木 50 小野 肇/時の忘れもの 54
川端律子/鯉の意志 56 立原昌保/祈ろうか 闇を 58
岩本 健/短詩抄 60 西森美智子/大阪から奈良へ 62
門林岩雄/目・夏の野鳥公園 64 鈴木一成/都々逸もどき 66
伍東ちか/旧い港のエレガンス 68 若狭雅裕/鵙日和 70
江良亜来子/軒下 72 忍城春宣/ムササビの啼く宿 74
水崎野里子/窓 76 前田孝一/蟻 78
徐柄鎮/知覧特攻隊悲歌 80
現代情況論ノート(5)…石原 武 98
世界文学の詩的悦楽−ディレッタント的随想(4)…小川聖子 100
国際バイリンガル詩集論 −小川静枝と中山直子の世界
韓国現代詩人(2) 金光圭の詩 夏 蝉はいなくなった…水崎野里子訳 104
コクトオ覚書213 コクトオ自画像[知られざる男]33…三木英治 106
石原武『遠いうた−拾遺集』状況の根源を見据えて…飯島正治 122
中村不二夫『山村暮鳥−聖職者詩人』を薦める…川中子義勝 125
東日本・三冊の詩集 麻生直子『足形のレリーフ』…中原道夫 128
坂本絢世『結霜の風景』 花籠悌子『裸木』
西日本・三冊の詩集 戸田和樹『嘘 八景』…佐藤勝太 132
阿部堅磐『梓弓』 後 恵子『文字の憂愁』
受胎図書 138 受贈詩誌 135 柵通信 136 身辺雑記 139
表抵絵:野口晋 扉絵:申錫弼 カット:中島由夫・野口晋・申錫弼
夏のスケッチ/肌勢とみ子
干してある洗濯物が少なすぎても家が傾く
おとこのパンツとおんなのパジャマ
ぶざまに型くずれしてぶら下がっているしょぼくれたパンツ
裏がえしにされた上に逆さまに吊るされたパジャマのズボン
大胆に足をひろげられて¥の文字になっている
よく見ると要のところにカメムシが一匹くっ付いている
くさいぞ カメムシ
生身のからだがむずむずしてくる
植え込みの陰から
みずひき草の花穂がつき出て家の傾きを支えている
動くな カメムシ
家が倒れる
生身のからだを支えているものも
その裡にあるせいしんを支えているものも
たった一匹のカメムシの動きに左右される
こともあったりするのだ
動くな カメムシ
わたしがあぶない
「干してある洗濯物」で「家が傾く」という、おもしろい発想の作品です。「家の傾きを支えている」のは「つき出て」いる「みずひき草の花穂」。もちろんこれは「せいしん」の話ですが妙に現実感があります。「カメムシ」に右往左往する「わたし」もおもしろいし、最後には「わたしがあぶない」と来ますから、これは大きな顔をして建っている「家」や人間への揶揄とも採れましょう。軽く書かれた「夏のスケッチ」ですが、中身は重いと感じました。
○詩誌『墓地』57号 |
2006.9.15 青森県北津軽郡鶴田町 高橋玖未子氏方発行所・山本十四尾氏発行 500円 |
<目次>
鍋を磨く/高橋玖未子
シロよ/岩崎和子
うつそみの人なる我(あれ)や/大掛史子
芹/石下典子
切岸にて/山本十四尾
同人近況
芹/石下典子
女は食べてはならない
明治の祖母は 伝承通りに箸を制したものだ
<芹は血を荒らす>
荒ぶ血の語感は
初潮をみたばかりの少女に飛沫を散らした
畦にしがみつき大地を吸うひげ根
正視しがたいまでに絡みあい
みだらにもつれた足
スリットを割って
太腿あらわな足が男のながい足に纏わりつく
愛の数だけあるアルゼンチンタンゴの抱擁
を思いながら洗う ひたすら洗う
強烈な紫色の灰汁を絞り
晒した荒みじんの塩炒めを
湯気たちのぼる白飯に混ぜこむ芹ごはん
夕凪のからだに
もはや箸を制する人もなく 存分に食す
未明の蒼い吹溜りで
ふいにあの人の腕の強さが甦る
もしや血を荒らすとは情を濃くすること
愛欲を避ける嗜みとして
語り継がれた知恵だったのではないか
芹のせいかもしれない この昂りは
「女は食べてはならない」という「伝承」があるのかどうか知りませんけど、それは私が男だからで、女性には密かに伝えられているのかもしれません。それにしても上手い詩だなと思います。「芹」から「アルゼンチンタンゴの抱擁」へつながり、「もしや血を荒らすとは情を濃くすること」と深化させ、最終連の「昂り」へ持っていく手法は見事です。「もはや箸を制する人もなく」なった女性の、素直な心境ととらえました。
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