きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2006.9.16 群馬県榛東村「現代詩資料館・榛名まほろば」にて |
2006.10.3(火)
8月に実施した日本詩人クラブ詩書画展の後始末にようやく着手しました。やっておかなくてはいけないことが色々ありますけど、大きいのは参加作品のHP上での公開です。全作品をデジカメで撮っておきましたので、それを公開しようということになっています。しかし、ピンボケが多いんです(^^; 反射を抑えるためストロボを使わなかったのですが、手振れが大きく、かなり失敗しています。本当は三脚を持って行き、レリーズでシャッターを押すことをしないと駄目だったんですけど、余裕がなくて省略してしまいました。今になってしょげていますけど後の祭り。みっともないけど、とりあえず日本詩人クラブHPにアップします。オレのはちゃんと写真に撮ってあるぞという方は、メール添付でも良いし銀塩写真を郵送してくれてもOKです。差し替えますのでご協力いただけると有難いです。もちろん銀塩写真はスキャナーで取り込み後お返しします。
○月刊詩誌『現代詩図鑑』第4巻6号 |
2006.9.25 東京都大田区 ダニエル社発行 300円 |
<目次>
幻視の海・夢の声/國井克彦…3 秋の日/布村浩一…8
サイフを追って/岡島弘子…11 影のサーカス――3/坂井信夫…16
ディオニュソスの仮面/佐藤真里子…19 戸を開けて/橋場仁奈…22
清明雨/倉田良成…27 なだめる男/嵯峨恵子…31
深呼吸/高木 護…35 日々/高澤静香…37
涙がとまらないな小野耕一郎…40 対峙することで/山之内まつ子…43
メル友/坂多瑩子…47 御幸ケ浜/枝川里恵…50
デスパラテスをわたる/高橋渉二…54 子狐、のぼり列車で/有働 薫…61
表紙画…来原貴美『森の入り口』
影のサーカス――3/坂井信夫(さかい のぶお)
一九四五年一二月は、まだ敗戦から四か月しか経っていなかったが、
巣鴨のとげぬき地蔵ではすでに厄除けの煙がたなびいていた。沿道に
は傷痍軍人がならび、行きから人びとにむかって嗄れた声をあげてい
た。それらが天皇の〈声〉とどこか似かよっていることに少年Bは気
づいていた。かれが陸軍幼年学校を追われた翌日、この国が降伏した
と報された。地蔵通りで、ふと眼が合った男に手招きされて横浜まで
やってきた。団長はかれに、これから旗上げするサーカスの道化師と
なるよう勧めた。まずその役割は、ふいに登場することによって観客
に不安をあたえること。それゆえ、かつての道化とはちがって、黒い
衣裳をまとうこと。すなわち〈黒い道化師〉となって笑顔を凍りつか
せることを団長は要請した。もうひとつは〈声〉を発さないこと――
つまり身ぶり手ぶりによって、すべてを伝えよ、と。陸軍幼年学校に
おいて少年Bは、それを繰りかえし実行した。だが教官にも級友にも、
それは伝わらなかった。そこでは軍隊の〈ことば〉が、すべてを支配
していた。かれの無言劇は、ずっと圧殺されつづけた。ここでならお
れは生きていける――そうBは確信した。かれは日ごと顔を茶いろに
塗りこめ、黒い衣服をつけ、焼け跡でひろった鉄兜をかぶって道化に
なりきろうとした。その姿は、なにかに挑んでいるかにみえた。けれ
ど夜になるとかれは化粧をおとし衣服をぬぎ、すっぴんの平安に戻る
のであった。団長と少年AとBは、眠っている蛇のかたわらで静かに
安い酒を呷った。そうして三人とも分かっていた――観客にあたえる
不安よりも自分たちが抱えこんでいる不安のほうが、はるかに重いこ
とを。すると、どこからともなく除夜の鐘がひとつふたつと響いてく
る。あたらしい年があたらしい恐怖をはこんでくるかのように。
「一九四五年一二月」というと私はまだ生まれていませんでしたが、その雰囲気は書物や映画で疑似体験しています。ですから、あの時代の「観客にあたえる/不安よりも自分たちが抱えこんでいる不安のほうが、はるかに重い」という感覚は理解できるように思います。それは現在にも当てはまるのかもしれません。最終に置かれた「あたらしい年があたらしい恐怖をはこんでくる」というフレーズは、まさしく時代を越えたものでしょう。年が変わるたびに、世紀が変わった瞬間に何かしらの希望を持ったものですが、それがことごとく打ち砕かれたというのがこの数年、あるいは数十年の現実だったと云えましょう。決して「敗戦から四か月しか経っていなかった」頃の詩ではないという思いで読ませていただきました。
○会報『「詩人の輪」通信』13号 |
2006.9.29 東京都豊島区 九条の会・詩人の輪事務局発行 非売品 |
<目次>
「詩人の輪」の役立ち方/浅井 薫
すべての愛は/遠山信男
青嵐/あずま菜ずな
浄化されてならないもの/里山法子
夏祭り/小久保哲子
反戦と平和を志を集めて−「九条の会・詩人の輪 福岡のつどい」から/山田由紀乃
なぜ=^野田寿子
東京・大阪・福岡で「輝け9条!」 詩人たちの新しいとりくみ/鈴木太郎
バルザックを講じた左近先生/澤田康男
宗左近さんの遺志/南浜伊作
春の汀/中 正敏
谷中にて/森 智広
夏祭り/小久保哲子
焼きソバを買った
先程から食欲がない
これを軽い夕食にしよう
さて食べる所だが
自宅にしようと歩き出した
いや・まて・公園に戻り
コンクリートの枠に腰を掛け
食べ始めた
隣に親子づれの夫婦が腰を降ろしている
一人きりでも違和感がない
さすが夏祭り会場だ
抽選会の列に並んだ
手に手にピンクの抽選会の券をもち
黙って並んでいる
同じ団地に住んでいるだけの間柄
皆安心して並んでいる
不思議な空間である
やはり夏祭りだ
おそらく「一人」暮らしなのでしょう。普段は「コンクリートの枠に腰を掛け/食べ始め」るなんてことはあり得ないんでしょうが、「さすが夏祭り会場」、「一人きりでも違和感がない」。それは「同じ団地に住んでいる」という「だけの間柄」ですが「安心」がある「不思議な空間」だからなんですね。庶民の感覚がうまくまとまった作品ですけど、こんな光景がいつまでも続くことを願わずにいられません。隣は密告者、そんな世の中にしようという輩が跋扈する現在、特にそう思います。
○詩誌『解纜』132号 |
2006.9.25 鹿児島県日置市 西田義篤氏方・解纜社発行 非売品 |
<目次>
追悼文
ありがとう今辻和典さん…竹内美智代…1
今辻和典さんを悼む よく間違えた改札口…村永美和子…3
詩人今辻和典先生が追求したもの…中村繁實…5
訳詩に添い…池田順子…8
いつか囲碁を打ちましょう…西田義篤…10
今辻和典作品集
机…14 二語文…17
非…20 影病み…22
流球の壺…25
エッセイ 小さ々窓から…中村繁實…27
詩
二〇〇六年の夏…中村繁實…
コトリ…池田順子…
瞬・このゆびとまれ…村永美和子…35
湯ぶねのふたをとるとると・驚愕男…石峰意佐雄…38
ほうとう…西田義篤…44
編集後記
表紙…西田義篤
机/今辻和典
新居を機に
ちょっとましな木製の机を買いこんだ。
「こんどは机だけはゼイタクさせてくれ。
もう長くもないいのちだからな。」
半ばスゴ味をきかして無理したのである。
回転椅子にふんぞり返っていると
積年の机コンプレックスが快くとけていく。
いじらしくも仕事のできる自分を夢みたり
初めてのランドセルのにおいのように
他愛もなくなでまわしているのだ。
「ああ机があると詩が書けるのになあ。」
そのせいにして十年余り来たのである。
「もう詩が書けないなんていえないね。」
女房は心をみすかしたようにいう。
「うん。」うろたえた小さな返事をする。
「これが最後の引越しね。」
しみじみいわれると 男一生
あのロココ風大邸宅の夢も捨てている。
狭苦しいアパートを転々としたくらし。
子どもの机二つで空間はおしまい。
押し入れに幽閉されたぼくの坐机は
ついに解放の日をみなかったのである。
新しい畳の上に赤褐色の机がデンと座る。
マホガニーや黒檀の机とはどうせいかぬが
貧乏人には結構なやつだ。
くすぐったくて面映ゆくてなじめぬのだ。
何だか義務を負わされて変なのである。
畳やふとんに腹ばって鉛筆をなめなめ
うんうんうなって詩を書いた方が気楽だ。
また詩がだんだん遠くなっていくようだ。
女房はまず三面鏡をはりこんだ。
思えば備え付けの薄い鏡で 十年も
女の顔を作ってきたのである。
着物も指輪も余り欲しがらずに
みみっちい内職や子育てに耐えてきたのだ。
ほんとの鏡で女の化粧の顔を作る時
もう小じわのたまった中年の女になっている。
おれは机を 女房は鏡台を
中年の夫婦がそれぞれの心に いま
始めようとするものの行先は何であろう。
ささやかな願いにふと息づきながら
だんだん転がりいくものを考えるのだ。
詩集『欠けた語らい』所収
今年7月15日午後1時に77歳で亡くなった今辻和典さんの追悼号になっていました。今辻さんは鹿児島のお生まれで、『解纜』の創刊同人だったことを、うかつにも西田義篤さんの追悼文「いつか囲碁を打ちましょう」で初めて知りました。
今辻さんは私にとっても忘れられない詩人です。横浜詩人会でご一緒していましたし、神奈川県内の同人誌でご一緒していた時期もあり、直接、多くのことを教えていただきました。20年ほど前に私が再婚したとき、嫁さんともども夕食をご馳走になったことは生涯忘れられない思い出です。
紹介した「机」は今辻さんらしい、庶民のささやかな視点から世の中を見た佳品だと思います。詩集『欠けた語らい』は手元の資料でも刊行年は判りませんでしたが、おそらく1970年代と思われます。今辻さん40歳代の作品で、本来なら華やかな「新居」を、浮かれることなく抑えた筆力に感動します。改めてご冥福をお祈りいたします。
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