きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.9.16 群馬県榛東村「現代詩資料館・榛名まほろば」にて



2006.10.8(日)

 日本詩人クラブ・オンライン現代詩作品研究会の第2日目。ようやく無事に終了しました。通常は24時間の開催ですが、今回はNiftyのトラブルがあって大幅に遅れ、結局32時間も続けてしまいました。トラブル起因の遅れは4〜6時間ほどだったのですが、思い切って8時間の延長にしました。参加者の皆さまのストレスも少しは軽減できたかなと思っています。
 それにしても参加者の皆さまの熱意には頭が下がります。予定の昨日午前10時になって、開始宣言をアップしたのに、それが現れずに焦りました。11時、12時と時間が経つほどに電話や携帯メールでの問い合わせが続いて、皆さまが待ち焦がれていることがよく判りました。ありがとうございます。
 最終的には投稿数14作品、発言者16名、総発言数75件に上り、発言者の地域は北海道、福島県、茨城県、千葉県、東京都、神奈川県、兵庫県、岡山県、そしてインドでした。地域の壁を越えるインターネットの特質が発揮された研究会だったと思います。参加者の皆さん、そして見守っていただいた登録者の皆さん、ありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。



松井博文氏詩集『旅をする記憶』
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2006.9.20 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊 1600円+税

<目次>
序に代えて 草花 6
 

旅人 8       記憶I 11
記憶U 14      記憶は風のように 17
記憶と魂 20     植物 23
喜望峰 26      ピアノ 30
原罪T 33      原罪U 36
日本列島 40     カテドラル 44
カルチャー 48    航海者 52
 *
西行 56       ゴッホ 59
リルケ 63
 *
言葉T 66      言葉U 68
深さ 70       物と物質 74
歌 78        秋 80
風 82        初秋の海 84
文(アヤ) 87     望郷者 90
鎮守の森 94     海はいつ… 96
知性 99       ココロ 102
 

あとがき 108



 日本列島

日本列島は
キリスト教徒の言葉を借りて言えば
ゆるやかな教会である
富士は
教会の尖塔に立つ十字架である
列島を取りまく海は
常に開かれた門である
列島の樹林を鳴らす四季の風は
日本人の讃美歌である
あなた方の教会は点であるが
わたし達の教会は面である
あなた方の教会は炎に包まれているが
わたし達の教会は清流に浸されている
あなた方は
教会が持続してきた事実の内に
神性を確認するが
わたし達は
神性を四季に合わせた習慣の一部とし
特に意識することなく生きてきた
もし世界に
宇宙さえも愈造した
唯一の神が存在するとしたら
その神は何故
地球の一地方の民だけを選ばれたのだろうか
何故一地方の衣装を
身に着けておられるのだろうか
何故一地方の
人間の顔を借りられるのだろうか
もしあなた方の神が
普遍性そのものであるなら
何故普遍的な衣装と顔を
着けておられないのか
あなた方が時に原始宗教と蔑む
わたし達の神々の神は顔を持たない
ただ御殿の幽玄の奥に漂い坐す
イエスの顔にも仏陀の顔にも
なり得るかのように
もしあなた方が未だに
高等宗教という言葉を使うとしたら
あなた方の宗教が説く謙譲に
自ら背くことにならないだろうか
何故あなた方の神は未だに
嫉妬の記憶を留めているのか
学ばれたはずの寛容が
謙譲に至らないのか
勿論
あなた方にはあなた方の理屈(神学)があり
神は理屈を超えた存在であると
あなた方が理屈づけていることも知っており
わたし達にはわたし達の見方や感じ方があり
そしてともかく
あなた方もわたし達も
死すべき定めの内に生きていく
それぞれの果実を口にしながら……

 非常に哲学的な詩集で、一字一句を疎かにできない思いに囚われながら拝読しました。紹介した作品は私の宗教観と共通する部分が多々ありました。宗教、特に「キリスト教」に対しては素晴らしいと思う面と疑問に思う面が合い半ばしています。「あなた方の宗教が説く謙譲に/自ら背くことにならないだろうか/何故あなた方の神は未だに/嫉妬の記憶を留めているのか」というフレーズはそのまま私の疑問でもあります。おそらく「あなた方の教会は点である」ことに起因しているのだろうとも思っています。
 この問題はもちろんすぐに結論の出るようなものではありませんが、著者は最後に「死すべき定めの内に生きていく/それぞれの果実を口にしながら……」と締め括っています。ここは見事だと思いました。人間は結局「果実を口にしながら」生きていかねばならない存在だと改めて感じました。お薦めの1冊です。



新・日本現代詩文庫43
『五喜田正巳詩集』
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2006.10.30 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊 1400円+税

<目次>
詩集『幻月』(一九九六年)より
砂の島・10      海のもゆら・11
幻月・11       路地の朝・12
山茶花・13      踏切で・14
影・14        水脈・15
柵・16        黄昏・17
穴を掘る・17     遠い花火・18
石・19        偽装・20
蜩(ひぐらし)・20   鳥のように・21
冤罪・22       木の葉・23
枯葉の音・24     冬の銀杏・25
馴れた手つきで・25  哲学・26
眼覚め・27      待つ・28
詩集『風の狩人』(一九九二年)より
沙漠・29       撃たれなば・30
結界・31       地震(ない)・31
隧道・32       従順・33
ほんの一寸・34    顔を洗う・35
花のように・36    稲妻・36
冬への挽歌・37    無題・38
指先・39       見えない窓・40
雪・41        ある日・41
一本の杭・42     音・43
百合・44       風景・45
今日も・45      風の狩人・46
磔刑・47       坂・48
無季・48       金柑・49
若しも・50      ブルーハット・51
ノート・52      尺取虫・53
旅人・54       送り火・55
蛍・56        ある終焉・56
死・57        霧の道・58
彩華伝説・56
日本詩人叢書37『五喜田正巳詩集』(一九八七年)より
桜子・60       さむい季節・64
春の夜・65      ねじを巻く・65
春愁・66       滲むまで・66
犯すことは・67    いつものように・68
もう一度・70     誰の胸を・70
雪の日に・71     ことばは・72
コーヒーはブレンドで・72  鴉は・74
存在・75       つづまりは・76
詩集『夢くれない』(一九八七年)より
なんばんぎせる・78  伝説のとりで・79
黄蝶・80       花火はいつ・80
風船・81       逢えない時間・82
春の終りに・83    旅の日に・84
夏至・85       昏い風景・86
レマン湖の夏・87   造花・88
夏の終りに・89    季節のない夢・90
電車にのった蝉・91  海のように・92
風の囃子・93     小さい時間・94
楕円幻想・95     間もなく夜が・96
眩しいので・97    何が聞こえるのか・98
冬のあかり・99    捉えた色は・100
眠った地球・101
.   冬のぶらんこ・101
全国詩人特選詩集『五喜田正巳作品集』(一九八五年)より
夏の夢に・103
.    可笑しい秋・103
カルマへの橋・105
.  さむい景色・105
雪の虹・106
詩集『いわくらの女』(一九八一年)より
ルージュを曳く女・107
  涸れた女は・108
いわくらの女・109
.  五月・110
まんじゅさげ・111
.  佐原・112
無花果・113
.     ある時間・114
悲傷・114
.      砂時計・115
ある法則・116
.    秋・116
詩集『絆』(一九七八年)より
ナウマン象とおんな・117
. 風・120
港・120
.       おとこ・120
青春哀歌・121
.    冬が歩いてくる・122
朝は・124
.      空白・125
せいたかあわだち・125 慕情・127
夕陽・127
未刊詩篇より
戦争の顔 1・128   戦争の顔 2・129
戦争の顔 3・131   戦争の顔 4・132
生き霊・133
.     自裁の時・135
ニヒルな面・136
エッセイ
旅・その象(かたち)と変革と・140
揺れてよろけて・146
解説
西岡光秋 超俗の詩魂・156
上山範子 孤独な原風景・161
中村不二夫 戦後的抒情の渇きと展開・169
年譜・175



 

青い竹を均等に切って
横竹に当てて 立てていく
ここから此方は自分の世界 と
いきがってみたが 可笑しくなった

竹矢来の内側にいるのは
切腹した人か 切腹する人か
もがりの宮 そしてもがり竹
わたしの魂がさまよう
竹垣を立てて 死者になるわたし

竹を立てて囲うのは よそう
矢来を立てて いい気になるのは
わたしの人生には早すぎる

立てかけた竹を 次々にたおす
竹と竹がぶつかり 空腹の音をたてる
急に風通しがよくなったように
通りがかりの人の声が大きくなった

わたしは蘇生した が
柵のない柵の思いはずっと続くだろう

 目次でお判りのように1978年から1996年までの抄録です。著者はこの他にエッセイ集や歌集をたくさん出版していますが、詩集はその後2005年に『エジプトの砂』を出しているだけですから、ほぼ著者の詩集を網羅していると見てよさそうです。
 紹介した作品は1996年の詩集『幻月』に収録されています。初期詩集は若さがあふれていて好きな作品が多いのですが、ここでは10年前の著者60代後半の作品を紹介してみました。油が乗り切ったという印象を受ける作品です。「竹垣」は風情があって好きなのですけど「竹矢来の内側にいるのは/切腹した人か 切腹する人か」というフレーズに驚かされています。確かに江戸時代はそうでした。それを現代に反映させた感性は見事だと思います。
 詩集は五喜田正巳という詩人の仕事を知る上では格好の書と云えるでしょう。ご一読をお薦めします。



隔月刊詩誌『叢生』146号
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2006.10.1 大阪府豊中市
島田陽子氏方・叢生詩社発行 400円

<目次>

馬の骨/姨嶋とし子 1           小さな世界/木下幸三 2
オールドイズ ビューティフル 5/佐山 啓 3 川下り/島田陽子 4
夏の日に/下村和子 5           歩き神/曽我部昭美 6
蝉捕り 他/藤谷恵一郎 7         波切浜唄 他/原 和子 8
価値観/福岡公子 10            ウンコしとなったからするわ/麦 朝夫 11
十津川街道で/毛利真佐樹 12        送り火もすんだ/八ッ口生子 13
ビヤ/山本 衛 14             おてだま/由良恵介 15
表札 他/竜崎富次郎 16          あの日 あの時(2)/秋野光子 18
癒しの会話/吉川邦子 20          呼んだのは/江口 節 21

本の時間22
小  径23
編集後記24                 表紙・題字 前原孝治
同人住所録・例会案内 25          絵  広瀬兼二



 馬の骨/姨嶋とし子

ボール・ゴーギャンは
重く難しい問いかけを絵に描いた
〈われわれは何処から来たか
 われわれとは何か
 われわれは何処へ行くのか〉と

誰にも答えられない
多分永久に……
ただ この間いかけは
答えられなくても
日常の生活
(くら)しが滞ったり
陰ったりすることはない
だから空を去来する雲のように
時に心にかかってくることがあっても
すぐにまたどこかへ消えてゆく
だがアイデンティティが分らない
自分が何者であるかも分らない状況は
消えてゆくわけのものではない
ゴーギャンの問いかけの節にかければ
假令どのような貴顕の出自であっても
どこの馬の骨か分らないのだ
人はみんな

 巻頭作品です。「ボール・ゴーギャン」の「絵」はNHKの世界遺産≠ナ遣われている絵ではないかと思います。確かに「重く難しい問いかけ」ですね。その「間いかけは/答えられなくても/日常の生活しが滞ったり/陰ったりすることはない」が「自分が何者であるかも分らない状況は/消えてゆくわけのものではない」とする点は秀逸な見方と云えましょう。そして「人はみんな」「どこの馬の骨か分らないのだ」という最終部分には瞠目させられます。「ゴーギャンの問いかけの節」をこのように解釈するのは、さすがは詩人と思います。今度はそんな気持で世界遺産≠観ようと思った作品です。



季刊・詩と童謡『ぎんなん』58号
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2006.10.1 大阪府豊中市
島田陽子氏方・ぎんなんの会発行 400円

<目次>
あしたは遠足/手紙/心のふうせん 藤本美智子 1
わたしは 誰でしょう?/ジャンボくじら 前山敬子 2
まってたよ/やさしいきもちで 松本純子 3
立ち括れの木 萬里小路和美 4
試合 高里小路万希 4
あそんだあと/木 むらせともこ 5
まんざい? もり・けん 6
かかし ゆうきあい 7
きかないで いわないで/未然形 池田直恵 8
暑い中に秋がいた/ひまわり/夏の終わりのひまわり/コスモス いたいせいいち 9
むかいあって/コスモス 井上良子 10
まわり道/だんご虫 井村育子 11
午後三時の図書館/じゅもん/「おはよう」 柿本香苗 12
「り」/見えないものが 小林育子 13
あじさい/ぼくのいもうと 相良由貴子 14
こうつうじゅうたい 島田陽子 15
てんきになあれ/∧月の空 すぎもとれいこ 16
わたしはわたし/頭 いいッ 富岡みち 17
夾竹桃/チマ・チョゴリ 富田栄子 18
名古屋のおばさん/金魚 中島和子 19
梅雨 中野たき子 20
南の島の おじさん/カエルの知恵 名古きよえ 21
オーロラの民サーミ/からだがナ…… 畑中圭一 22
本の散歩道 畑中・島田 23
かふぇてらす すぎもと・中島・名古 25
INFORMATION 26
あとがき 27
表紙デザイン 卯月まお



 午後三時の図書館/柿本香苗

おじいさんが コホン と
小さなせきばらいをすると
ゆるく空気が流れて
しずかな波もんを つくる

赤ちゃんが クフン と
わらい声をたてると
さっと風がおこって
古い本たちの背中が ゆれる

あたたかな午後に
どこまでも続く時間を 信じて
ねむけとたたかいながら
文字をおいかける 幸せ

午後三時の図書館が好き
ここで言葉にうずもれて 遊ぶ
図書館って
平和でできている

 ここしばらく「図書館」に行ってませんが、雰囲気が良く出ている作品です。「ゆるく空気が流れて」、「さっと風がおこって/古い本たちの背中が ゆれる」などの描写は佳いですね。「ねむけとたたかいながら/文字をおいかける 幸せ」というフレーズも、そうだっなあ、と思い出しています。そして最終連の「図書館って/平和でできている」という詩語が見事です。まさにその通り。図書館と戦争は似合わないし、図書館が自由に利用できるのも平和あってのこと。「図書館」という言葉を深めてくれた作品だと思いました。



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