きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.9.16 群馬県榛東村「現代詩資料館・榛名まほろば」にて



2006.10.11(水)

 待ちに待った「越乃寒梅」が到着しました! 年に4回送られて来ますが、1回に一升瓶2本と四合瓶3本が限度ですから、すぐに無くなってしまいます(^^; いつもは一升瓶から直にグイ呑みに注ぐんですけど、今回は趣向を変えて、ガラスの徳利にガラスの杯を使ってみました。酒の温度も冷蔵庫の野菜室に入れる程度にして。適度な冷たさとガラスの口当たりが良かったです。秋の夜長。読書も良いけど、やっぱりお酒かな(^^;



吉永大氏詩集『至上最強ロボット』
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2006.9.18 熊本県合志市 燎原社刊 1905円+税

<目次>
詩工房
詩工房…10
子ども
ある朝…14      充満する脂肪…20
どうしようもなく…24 父親…26
不登校…30      ビー玉…32
未来…36

蝉…40        昆虫…44
耳鳴り…46      信号…50
蜂…54
生命
まるいもの…60    永遠…64
あのよこのよ…66   視力検査…68
言葉…70       日常…72
現実…76       おかないと…82
順応…86       科学倶楽部…90
生命…94       おくりもの…96
不思議の国のアマリリス…98
夢占い
衝動…104
.      秋…106
夢占い…112
.     海…116
携帯電話…120
.    分数…124
歯車…128
.      記憶…132
爪…138
.       俳句工房…142
至上最強ロボット…146
.野外ライブ…150
愛しきわが故郷 かがみ…154
あとがき…172
表紙カバー 彫刻作品「衛星」諸星朋郎



 信号

 T
5球スーパーヘテロダイン受信機に火を入れると
ノイズの向こうに微かな信号が聞こえていた.
  ツートツート ツーツートツー(ダレカオウトウシテクダサイ)
  ツートツート ツーツートツー(ダレカオウトウシテクダサイ)
フェージングを伴いながら幾度も繰り返されていたが
だれも応答するものはいなかった
何を伝えたかったのだろうか
信号は世界中を駆け巡ったが
私には応える術がなかった
 U
携帯電話は持たないと決めていたが
時代の流れに逆らえずに買ってしまった
なければないで済んでいたが
いざ持つと必要以上に使ってしまう
私たちの目の前を縦横無尽に飛び交う
途切れることのない信号
盗聴されているかもしれない
 V
加齢とともに言葉が直ぐに出なくなってくる
顔は知っていても名前が思い出せない
何を探しに来たか忘れていることがある
脳内の信号が固まってしまったのか
大事な記憶が動けずにいる
 W
黄色で加速する車がいる
赤で走り抜ける車がいる
また右折できなかった
 X
昼間は騒音で気にならないが
夜静かになると蝉のような耳鳴りが
気にかかる
私の耳の中は一年中夏なのである
しかし注意深く聞いていると耳鳴りの向こうに
微かな信号が聞こえてくることがある
  トトト ツーツーツー トトト(ダレカタスケテクダサイ)
  トトト ツーツーツー トトト(ダレカタスケテクダサイ)
私の中から発信されているのか
それとも
この地球のどこからか発信されている
信号なのか
区別がつかないまま
眠ってしまう

 第1詩集から20年以上経っての第2詩集だそうです。年齢は私より3歳若い、同世代の詩人です。紹介した作品でも同じ世代で、同じように理系の仕事をやってきた方だなと思いました。「ノイズの向こうに微かな信号」は電信の欧文信号です。「ツートツート ツーツートツー」を欧文にするとCQ、「トトト ツーツーツー トトト」はSOSになります。「5球スーパーヘテロダイン受信機」も懐かしいですね。実は似たような作品を私も1977年刊の第1詩集に載せました。もう30年も前に作った詩ですから古臭いのですが、それに比べて著者の作品は「携帯電話」が出てきたりして、やはり新しいなと思います。しかも新しいだけでなく「W」の世相を斬り、「注意深く聞」く耳を持っています。佳い詩集です。

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 懐かしくなったので30年前の拙作を載せてみます。ご笑覧ください。

 五球スーパーヘテロダイン検波受信機/村山精二

二十年前の
五球スーパーヘテロダイン検波受信機
なるものをひっぱり出して
化粧箱ごと洗濯機に浸けて
カラカラ回してみると
日本の皆様 こちらは北京放送局です
斗う朝鮮人民は
ソ連共産党第二十五回党大会を記念して
オールナイトニッポンの
パックインミュージックを
始めるのであります

うれしいことに
6BA6なる真空管を
化学雑布で磨いてやると
五球スーパー氏は
四メガあたりで
TuTuToTu と
フェージングばっかりで
再生するのであります

けれども
酒の臭みを知らない頃の
「第三の男」が
聞こえないのが
残念であります



横尾湖衣氏詩集『マドリガーレ』
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2006.10.9 愛知県知多郡東浦町 草珠庵刊 非売品

<目次>
睡蓮・・1      雨の日・・3
サボテン・・6    あか色・・8
天気雨・・11     水分・・14
文明・・16      アリッサム・・20
花あそび・・23    あゆ・・27
ラッピング・・30   ろうそくの炎・・33
歌枕・・35      渡り鳥・・37
蓮華躑躅・・40    椿・・42
ショパン・・46    桜の色・・49
あとがき・・51



 ろうそくの炎

ろうそくの炎が
ゆらゆらゆらめいている
密やかな炎の中に
いろいろなドラマが見えるような気がして

心を温めてくれるかのように
やさしく燃えている

心を明るくしてくれるかのように
ひかって燃えている

心を照らしだすかのように
しずかに燃えている

心をむしょうに懐かしがらせ
せつなく燃えている

ふと
息を吹きかける
ろうそくの炎が見せていた魔法が
一瞬にして消えた

ろうそくの炎は
燃えているだけだった
ただ
こうこうと

 (初出「玉鬘25号・2003年9月17日発行)

 「ろうそくの炎」には妖しい魅力があり、古来からいろいろと歌われてきました。私も好きで、ときどき書斎の電気を消して、蝋燭の光でお酒を呑んだりしています。「心を温めてくれ」、「心を明るくしてくれ」、「心を照らしだ」し、「心をむしょうに懐かしがらせ」る光だと思います。しかし著者はそれを「息を吹きかける」と「ろうそくの炎が見せていた魔法が/一瞬にして消えた」のだと見、「ただ/こうこうと」「燃えているだけだった」のだと説きます。この感覚は貴重だと思いました。ある面ではドライと見えるかもしれませんが、その次の一手が期待できる最終連です。ここから新しい物語は始まるのかもしれませんね。



個人詩誌『玉蔓』38号
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2006.10.19 愛知県知多郡東浦町
横尾湖衣氏発行 非売品

<目次>
◆詩
「秋色あじさい」
「空っぽ」
「干物」
「秋刀魚」
◆御礼*御寄贈誌・図書一覧
◆あとがき



 秋色あじさい

雨が続く鬱々とした日々
青空が恋しくなる梅雨期
あじさいの青色に
何故か心が和みませんでしたか
あじさいとは
そういう季節の花でした

あじさい七変化
実は長い期間楽しめます

梅雨期を過ぎるとあじさいは
昼のような明るさから
黄昏時の色に変わっていきます
しっとりと艶っぽく
淡い緑に紫いろというような
微妙なグラデーションで
一足先に秋色になります

あじさいは梅雨時の花
そんな言葉で縛らないでください

重ねられた時間の分
あじさいも深みを増すようです
籠にあふれる秋色あじさい
窓辺で風を待っています

 私は植物には疎くて、「あじさいは梅雨時の花」と思い込んで「そんな言葉で縛」ってしまった典型です。「実は長い期間楽しめ」るとは知りませんでした。勉強になりました。
 最終連の「重ねられた時間の分/あじさいも深みを増すようです」というフレーズが佳いですね。花好きの人の「深み」も感じました。



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