きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.9.16 群馬県榛東村「現代詩資料館・榛名まほろば」にて



2006.10.12(木)

 午前中、実家に帰って親父の病院通いに付き合ってきました。病院で保険証が新しくなったのでそれを出すように言われましたが、無い! なんで無いんだ? 親父に聞くと受け取っていないとのこと。そんなことはないだろうと思いながら、診察後に役場に行ってみました。当然ですが役場の担当者は郵送したと言います。すぐに再発行してくれて問題は解決しましたけど、新しい保険証はどこへ行っちゃったんだろ? 親父が忘れているというのが一番高い可能性ですけど、本人は頑としてそんなことはないと言っています。不思議だなあ。郵便局で眠ってる? 可能性は否定できませんが、それはないでしょう。そのうち実家で見つかったら、親父に何と言ってやるか…。認知症にはなってませんが、言い方を考えておく必要がありそうです。



都留さちこ氏詩集『十郎が峰』
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2006.10.1 栃木県宇都宮市 自然社刊 非売品

<目次>
ひと 12       わき道 14
林の中 18      棲地 22
樹の声 26      旅 30
峰の雪 34      十郎が峰 38
時 40        驟雨 44
春風 46       崖道 
啓蟄 50
春道 52       声 58
峰 60        この地 62
ハイタカが飛んだ日 66
あとがき 71     絵 都留さちこ
           著者自装



 ハイタカが飛んだ日

窓辺から見える峰に
午後の陽が射していた

ひとは遠い日の空を見ていた

昔 戦を終えた
あの時

夕日はやはり梢や幹を葉を
美しく染めたのだろうか

刻々と移りゆく
時を映して

 十郎が敵を倒す
 敵が背後に
 振り向きざまに十郎は
 敵を

 次々に倒れ
 屍となる人々
 昇天する魂

亡くなった人々を弔ったのは誰だったのか
三原十郎盛定も今はいない

人々は杉林の間に道を作り
花を植え
家を建て
樹を倒し

ひとは遥かな日の峰の杉林を見ていた
私は ひとの遠い眼差しを見ていた

そのときだ

ハイタカが空を飛んだのは

峰の林からふいに現れ
一瞬上空に停止し
小鳥を追い
南の空へと飛び立った

 詩集タイトルの通り、栃木県宇都宮市にある「十郎が峰」に関する作品だけを収録した詩集です。名前の由来は戦国時代に宇都宮に攻めて来た北条氏政の軍勢と戦って武功を立てた三原十郎盛定にちなんだ、と「あとがき」にありました。
 紹介した詩は詩集の最後に収められた作品です。戦国時代から現代へと時空を越えたスケールの大きさを感じます。「ハイタカ」も効果的に遣われています。「一瞬上空に停止し」とは、風の揚力とハイタカの落下速度がちょうどつり合った状態のことで、観察眼の鋭さにも驚かされました。「十郎が峰」ただ一点に絞った視線が成功した詩集と云えましょう。



詩と批評『逆光』61号
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2006.10.10 徳島県阿南市
宮田小夜子氏発行 700円

<目次>
羽よ/細川芳子 2             ふいに/細川芳子 4
アルバムの風景/嵯峨潤三 6        ジャムス/鈴木千秋 10
青い猫/藤原真智子 12           罪/沙海 14
守護天使/沙海 15             双葉町/ただとういち 16
とび込む/小笠原仁子 18          火葬場のけむり/大山久子 20
今更の声/木村英昭 22           はずれのうた/宮田小夜子 24
創刊二十周年特集(テーマ)夢・花・エロス
桜花(はな)について/嵯峨潤三 28      夢のあとに/木村英昭 32
夢(願望)/香島恵介 34           秋の太陽/和田弥生 40
緩く…/和田弥生 42            prelude(プレリュード)/和田弥生 44
夢/大山久子 46              つれづれ夢考/儚田侑子 48
夢工場/ただとういち 50          大輪の花/ただとういち 50
エロスは黒/ただとういち 51        夢 〜華になりたい〜/沙海 52
花に 人に/細川芳子 54          「イラクサ」を読んで/藤原真智子 57
六条御息所(源氏物語)/宮田小夜子 60    見果てぬ夢――満州瞥見/鈴木千秋 68
戦争意識は複雑/篠原央憲 73        「逆光」二十年の歩み 76
あとがき 90                表紙 嵯峨潤三



 はずれのうた/宮田小夜子

わたしの生まれたところは
にっぽんの本州の西のはずれで
(まち)のはずれの陸(おか)のはずれの
浜風がつつぬける家であった

本箱の扉が外れて中から
本ではなくぽろりとすすけた小箱が
落ちてきた なんだろう?
――一九五八年夏 恋ケ浜にて――とある
浦島太郎ならぬ浦島花子の気分で
ふたを開ける
ふわっと 白赤黄色 うす青もも色
しゃらしゃら桜貝 ふわぁぁ

浜のはずれの桜貝
恋ケ浜の恋にはずれし桜貝

(1)
石もて追わるるごとくふるさとを
出たのではなかったが
たまたまはずれたのだったか
はずされたのだったか
ふるさとの浜はすでにない

工場誘致反対 海を奪うな!
はずされた 立看板
風に舞うチラシとともに

消えた海 (2)ふるさとの
おなじこころを 君知るや

ちぇっ。またはずれか
はずれにきまっている 宝くじを
性懲りもなく買い続けている
白髪まじりの男がいて
発車まで三十分もある
駅のホームのはずれで
煙草を吸う女がいる

やぶれた恋の亡骸
(なきがら)とは
桜貝よ よくもまぁ
はずれずに生き残ったものよ

 (注) (1)石川啄木
    (2)三木露風

 創刊20周年だそうで、特集が組まれていました。特集はほとんどが散文でしたので、ここでは宮田小夜子氏の「はずれのうた」を紹介してみました。「本州の西のはずれ」から「はずれにきまっている 宝くじ」まで、よくこれだけ外れについての詩語が出てくるものだと驚いています。発想が柔軟なんでしょうね。その上で「桜貝」を効果的に遣っていますから、詩の作り方が本当に巧い詩人なのだなと思います。「石川啄木」「三木露風」の引用も適切だと思った作品です。



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