きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2006.9.16 群馬県榛東村「現代詩資料館・榛名まほろば」にて |
2006.10.26(木)
なんとも世俗にまみれた一日でした。確定拠出年金を確認して、、、投資信託を増資して、、、。会社員の頃は考えもしなかったことですが無職となった現在はそうも言ってられません。資産(と呼べるほどのものではありませんが…)を如何に減らさないか、その手当てをしておかないと先々いろいろな人に迷惑を掛けてしまいます。それを避けるには世俗にまみれる必要もあろうかと…。
理想は霞を食って、ですが、そんなことは出来るわけがありません。現実は霞の代わりにお酒を呑んで、ですがね(^^; お金について考えるのも、それまた人間。清濁併せ飲む器量も必要なんだなと、つくづく思います。少しは大人になったかな。
○リュ・シファ氏詩集・蓮池薫氏訳 『君がそばにいても 僕は君が恋しい』 |
2006.10.31 東京都千代田区 綜合社発行・集英社発売 1400+税 |
<目次>
霧に隠れる…8 路上での思い…10
タンポポ…12 忘れたのかい僕らが…14
君がそばにいても 僕は君が恋しい…17 木蓮…18
歳月…20 塩人形…21
赤い葉…22 10月の朝…24
それが何なのか僕には分からない…28 島…30
泥棒…31 山の霧…21
鳥と木…33 飛ぶ鳥はうしろを振り返らない…34
木…36 9月の二日間…38
あまりに大きな車輪…41 冬の雲…45
音楽学校…50 遺書 僕は平民でした…52
六行の詩…53 カラスに捧げる…54
たくさんの目を僕は見た…57 僕は目を閉じて座っていた…59
僕らはかつてふたつの水滴として会っていた・61
そうはできない…64
誰でも旅立つときは…66 君の墓碑銘…68
山まで僕を見捨てる…69 何かの目…70
何の意味もないもの…72 昔の庭園…75
ある日キリンより高い心臓を持った人がやって来て…76
白樺…78 11月 五行の詩…79
血染めの袖…80 虫の星…81
死んだ虫を見て虫にも劣る人生を送ったと僕は言う…82
塩気をなくした海水のように…83 春の雨のなかを歩く…85
そんなにもたくさんの雨が…88 雨止んで…92
若き詩人の肖像…93 木は自殺を夢見ない…94
来た道を戻る途中…95 野アザミに詠う…98
彼だけのもの…101. オオカミたちの太陽…104
悲しみへのあいさつ…106. スミレ…108
秘密…109. 蜘蛛…110
詩を評するという人たちに…112. 太陽に捧げる履歴書…115
雪の上に書いた詩…118. 丘…119
2月…120
訳者あとがき…121
君がそばにいても 僕は君が恋しい
水のなかには
水ばかりがあるのではない
空には
あの空ばかりがあるのではない
そして僕のなかには
僕ばかりがいるのではない
僕のなかにいる君よ
僕のなかで僕を揺さぶる君よ
水のように 空のように 僕の深いところを流れて
秘かな僕の夢と出会う人よ
君がそばにいても
僕は君が恋しい
本日、集英社より発売された詩集で、同封された手紙には紹介の機会を作ってくれ、とありました。著者のリュ・シファ氏は1959年生まれの韓国の国民的な詩人、エッセイスト、翻訳家だそうです。この詩集は1991年に韓国で発売され、すでに100万部を超えるベストセラーだそうです。日本語への翻訳は北朝鮮に拉致され、劇的な帰国を果たした蓮池薫さん、帯は谷川俊太郎さんという豪華版です。俊太郎さんの帯も紹介しておきましょう。「隣の国の詩がふんわりと タンポポの種のように 飛んできた」とあります。
紹介した詩はタイトルポエムです。冒頭の「水のなかには/水ばかりがあるのではない/空には/あの空ばかりがあるのではない」というフレーズも魅力的ですが、やはりタイトルと最終連に置かれた「君がそばにいても/僕は君が恋しい」という詩語が佳いですね。青春のしなやかな感性が匂い立つようです。
目次でもお判りいただけると思いますが、「飛ぶ鳥はうしろを振り返らない」「僕らはかつてふたつの水滴として会っていた」「ある日キリンより高い心臓を持った人がやって来て」などのタイトルは、それだけで詩になっています。紹介しろと言われたから勧めるわけではありませんが、佳い詩集です。ぜひお買い求めいただければと思います。
○北条敦子氏詩集『ゆらぐ』 |
2006.11.5 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 2000円+税 |
<目次>
T
ゆらぐ 8 帯状疱疹と耳 10
ふふふ ふふふ…… 14 もういいかい まあだだよ 18
なんまいだ 22 特等席 24
春 26 あじさいは 30
夏よ夏 32 花に託す 34
白いコスモスの花よ 38
U
あたしの赤ん妨 42 小春日和 46
始まる 50 あたしは 52
冬の終りに 56 ありがとう おかあさん! 60
V
至福の時 64 土地よ 68
食品売場で 70 次は 74
こんなふうに 78 こんな日は 82
しかたがない 86 待ちぼうけ 90
骨の髄までしゃぶられて 94 病院で 98
そうだとも 102. 狂っている 106
そのひとは 110
解説 健康な感性とユーモア 森田 進 114. あとがき 118
ゆらぐ
梅林を歩いているとき
彼女は ふいに身上ばなしをはじめた
あげく
肩をふるわせてむせび泣いた
あたしは なぐさめのことばもなくて
立ちすくんだ
帰りましょう
ようやくあたしは つぶやいた
すると
待って 聞いてよ まだあるのよ
彼女は 涙で化粧のくずれた顔を もろにあげて
あたしの腕に しがみついてきた
しらじらと
ふたりを包む梅林には
かたむきかけた夕日の糸が
女の髪の毛のように風にゆらいでいる
寒くなってきたわね
あたしのつぶやきも ちゅうにういたまま
そのあわいには
甘やかな香り 花の霊気が
かげろうのようにゆらいでいる
12年ぶりの第4詩集だそうです。紹介した詩はタイトルポエムで、かつ巻頭作品です。「彼女」の「身上ばなし」に「ゆらぐ」「あたし」の心理が良く出ていると思います。それが「あたしのつぶやきも ちゅうにういたまま」に表出していて、最終連にうまくつながっています。「花の霊気」という詩語も奏功しているのではないでしょうか。「かたむきかけた夕日の糸が/女の髪の毛のように風にゆらいでいる」というフレーズも上手いですね。
詩集は謂わば12年もの。蓄積し、純化された香りが漂う作品に満たされていました。
○詩誌『馴鹿』44号 |
2006.10.20 栃木県宇都宮市 tonakai・我妻洋氏発行 500円 |
<目次>
*作品
秋に…和気勇雄 1 青稲田 ほか…大野 敏 2
居場所…青柳晶子 11 とある晩餐/おせっかい…和氣康之 13
タイムマシーン…矢口志津江 17 百姓の心…村上周司 19
夏生まれの人/潜む闇…入田一慧 21 蝶遙か…我妻 洋 25
[橇]−同人エッセイ欄−
彼岸花…矢口志津江 4 Eメール…青柳晶子 7
「寂しさの歌」−金子光晴について…我妻 洋 8
後記
表紙 青山幸夫
タイムマシーン/矢口志津江
小学生のとき
渋谷の映画館で「タイムマシーン」を観た
そのころ
風呂は石炭や薪で沸かし
電話や自家用車は各戸にはなかった
あのまま
タイムマシーンに乗って過ぎてきたような
束の間の半世紀
風呂は離れている所からでも
ボタンを押せば好みの温度で沸き
お風呂が沸きました とコンピューターの中の
女の人が言ってくれる
電話や車は各戸ではなく
各自の持ち物になった
青い照明が光るドーム型天井の
エスカレーターに乗れば
最新の映画館に導かれる
ポップコーンとコーラを持って
「タイムマシーン」のタイトルを探す
今度マシーンから降りるとき
風呂や電話や車がどんな形になろうとかまわない
九条が変わらず存在しているならば
最終行を読んでハッとしました。「タイムマシーンに乗って過ぎてきたような/束の間の半世紀」は「九条が変わらず存在してい」たからなんですね。憲法九条を守ろうという運動が盛んになって、私も「詩人の輪」に賛同させてもらっていますが、この作品を読んで、憲法九条に守られてきた60年だったのだなと思います。私たちの子や孫の時代に「風呂や電話や車がどんな形になろうとかまわない」けれど、平和が続くことを改めて願わずにはいられない思いを強くした作品です。
○季刊詩誌『詩と創造』57号 |
2006.10.30 東京都東村山市 書肆青樹社・丸地守氏発行 750円 |
<目次>
巻頭言 言詩と<母語>/原子 修 4
詩篇
孤食 嶋岡 晨 6 「シャガール」の日暮れ/初夏(はつなつ) 山本沖子 8
乳しぼり・虹 原子 修 10 山とヒト(3) 木津川昭夫 12
人生の終わり 苗村吉昭 15 地霊頌(ゲニウス・ロキしょう)−交霊祭 内海康也 18
讃 深山苧環(みやまおだまき)岡崎康一 20 驢馬の手綱を握る人 清水 茂 24
蝶が一匹 岡山晴彦 27 なにものかであること 山ノ内まつ子 30
たくさんの私 新延 拳 32 師走 葛原りょう 34
メロン 橋本征子 36 冬のある日 野仲美弥子 39
無言館という 泉 渓子 42 花火 北岡淳子 44
闇白 村永美和子 46 祭文の街 溝口 章 48
雪女 丸地 守 52
詩集賞特集 第五回「現代ポイエーシス賞」・第五回「詩と創造賞」特集 55
プロムナード 詩の教室事始め こたきこなみ 73
エッセイ
<詩>と<狂>について 嶋岡 晨 74
<詩>の在り処を索めて(三) 清水 茂 78
屹立する精神 シェイマス・ヒーニー (訳)水ア野里子 82
感想的エセー「海の風景−モン・サン・ミッシェルへの巡礼」X−(2)(3) 岡本勝人 87
この詩人・この一編
松下育男のはずれかた 北川朱実 98
風に手を通した旅のからだ――山本純子「風景」 砂川公子 100
丸地守氏・「洞窟から」――原存在からの帰還―― 三島久美子 102
現代詩時評 あえて少数派の道を選びつづける決意 古賀博文 104
海外の詩
夢の風景 キャスリン・レイン 佐藤健治訳 111
ヴァイキングダブリン・試作他 シェイマス・ヒーニー 水崎野里子 114
詩集『マキァヴェリ的熟考』(一九八〇)より ペドロ・シモセ 細野豊訳 118
小鹿島から来た手紙/生のマダコのために他 チョン・ホスン(鄭浩承) 韓成禮訳 124
新鋭推薦優秀作品 「詩と創造」2006新鋭推薦優秀作品 126
ぼくと・・・ 金屋敷文代
韓国新進詩人 推薦優秀作品 128 韓成禮訳
花蛇/暖かい寂寞他 キム・ミョンイン(金明仁)
人の秋/通行税他 ムン・ジョンヒ(文貞姫)
研究合作品
未来神話 高橋玖末子/ほたて貝柱 太田美智代
五月のなかに 熊井紀江/石のある風景 宮尾壽里子/飛ぶということは 清水弘子/約束の時間まで おしだとしこ/影 松本ミチ子/始まりの言葉 山田篤朗/サファイア色の猫 吹野幸子/宇宙の鍵 大山真善美/氷砂糖 四宮弘子/雪 弘津 亨/ボート 一瀉千里/今日という日〔一〕 湯沢和民/譜面 伊藤 静/ヘンデルとグレーテル 平成版 江原智枝子/雪の日の微笑 白石晴子/帰途 豊福みどり
選・評 丸地 守・山田隆昭
全国同人詩誌評 評 こたきこなみ
事物への参入/ペドロ・シモセ 細野豊訳
この詩は
詩集の一部を成しており、
その詩集は
五〇〇部発行される。
それら五〇〇部のうち
五〇部が贈呈され、
そのうち
五部が読まれ、
そのうち
一部のみが
理解されるだろう。
やるだけの価値はあるさ。
詩集『マキアヴェリ的熟考』(一九八〇)より
思わず笑ってしまいました。ペドロ・シモセはボリビア出身の詩人で、現在はスペイン在住。スペインでも詩集の発行部数は「五〇〇部」程度なのでしょうか、日本と同じ程度で妙に親近感があります。お隣の韓国では100万部を超えるベストセラーも出るというのに、スペインと日本では何か共通点があるのかもしれません。ただし、日本では「五〇〇部のうち」四五〇部が「贈呈され」るでしょうね。そして、いずれも「そのうち/一部のみが/理解されるだろう」と思います。それでも「やるだけの価値はあるさ」とシモセ氏に言ってもらえたことで安堵感を覚えました。「一部のみが/理解される」だけでも詩集自費出版の「価値はある」。励まされました。
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