きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.10.22 山梨県立美術館




2006.11.3(金)


 娘が通学している新宿の文化学園で文化祭があって、行ってみました。フッションショーなるものを生まれて初めて見ましたが、面白いものですね。もっとも、あんな服装では満員電車に絶対乗れないけど(^^;
 フッションンショーはTVで何度か見ていますので、どんなものかは判っているつもりでした。プロのショーとほとんど同じだったので、実はちょっとガッカリ。学生だったらもっと柔軟な思考が欲しいな。もし私がプロデュースしたら、舞台でポーズを決めたあと、スタンドマイクでコントを言わせるな。会場の笑いを取れるフッションショーなんて、世界初だろうなぁ(^^;
 モデルの学生は女の子も男の子も格好良かったです。今の子はみんな素直に見えて、安心して観ていられました。そしてつくづく平和っていいなと思いましたね。肩に羽が生えたようなファッションでも、埴輪のようなパンツでも、みんな平和の成せる技。下手をすると軍服のフッションショーになってもおかしくないご時勢です。みんな自由にやってくれ! 平和を楽しんでくれ!

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 ファッションショーは撮影禁止でしたので、代わりに撮ったのがこれ。ショーの会場に入る手前の広場でやっていた野外コンサートです。意外とおとなしい曲ばっかりで驚きました。私たちの青春時代はハードロック。何がなんでもデカイ音を出す、という単純なコンセプトだったと思うのですが、今の子はキチンと音楽に向き合っているのかもしれません。我々はガサツ、彼らは繊細ということでしょうか…。ま、いずれにしろ若い人たちと同じ空間を共有するというのは良いものです。彼らは嫌がっているかもしれませんがね(^^;



詩誌『ガーネット』50号
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2006.11.1 神戸市北区
空とぶキリン社・高階杞一氏発行 700円

<目次>

大谷良太 ブラインド/九月に 4      神尾和寿 放題/帰る家 8
阿瀧 康 近所 12             嵯峨恵子 居眠りする男/クラッシュ ぶつかりあって/水の上 42
大橋政人 命座/宇宙暦/神サマからのヒント52 高階杷一 遊園地にて/いっしょだよ 58
【特集】「現在詩」について今思うこと 20
高階紀一 えびのように悲しい        神尾和寿 詩の書き方が分からなくなったオレ様は天才かどうか
阿瀧 康 すぐそばに            嵯峨恵子 現在詩の今あるひとつの継続の形
大橋政人 「哲の女」池田晶子を引き合いに出しながらの私自身のための「ガーネット」クロニクル
大谷良太 「除名」の孤独へ
シリーズ <今、わたしの関心事> NO.50 40
 杉本真維子/安部壽子/高谷和幸/辻元よしふみ
エッセイ 「るなぱあく」で正しかった! 大橋政人 62
1編の詩から NO.21 高良留美子 嵯峨恵子 66
詩集から NO.48 高階紀一 68
 ●詩片●受贈図書一覧
ガーネット・タイム  78
笑いの体操 神尾和寿            八木重吉と八木幹夫さん 大橋政人
記憶について 嵯峨恵子           夏から秋へ 阿瀧 康
土人と二号さん 高階杞一          マーガレット 大谷良太
ガーネット・クロニクル 85         同人著書リスト 99
あとがき 100



 遊園地にて/高階杞一 Takashina Kiichi

こどもが笑っている
こどもが笑いながらかけてくる
笑いながらかけてきて
ふっと 目の前で 消える
枯れたひまわり
自販機の並んだ売店
その写真の中に
こどもの影がない
さっき
はいっていったときは
まばゆいほどのあかるさだったのに
大好きな車に乗って
手をふって
笑いながらおりてきて
こちらに
満面の笑みでかけてきたのに
今は、
壁の額縁の中で
止まったまま笑っている

 創刊17年弱で50号だそうです。特集として「『現在詩』について今思うこと」と、創刊号から49号までの「ガーネット・クロニクル」が組まれていました。
 紹介した作品は「遊園地」の「自販機の並んだ売店」の「壁の額縁の中で/止まったまま笑ってい」た「こども」が、「笑いながらかけてき」たのに「ふっと 目の前で 消え」て、また元の「壁の額縁の中」へ戻っている、と読めると思います。白昼夢とも採れますけど、そんな単純なものではなさそうです。「こども」は自分だったのかもしれません。散文では書けない世界でしょうね。
 作品の中では異質な「枯れたひまわり」というフレーズにも惹かれました。夏の終りという季節感だけでなく、生命がいずれ枯れていくことをも暗示していると思いました。



詩誌『環』122号
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2006.10.30名古屋市守山区
若山紀子氏方・「環」の会発行 500円

<目次>
加藤栄子/ひとり寝 2           菱田ゑつ子/秋果 4
森美智子/笑う木 6            若山紀子/変換 8
安井さとし/葛の花 10           さとうますみ/砕かれたからだ 14
東山かつこ/お向かいさんは 16       神谷鮎美/かまれる 18
高梨由利江/満月が昇る そして 22
<かふぇてらす> 24
さとうますみ 菱田ゑつ子 加藤栄子 東山かつこ 神谷鮎美
<あとがき> 若山紀子 27
 表紙絵 上杉孝行



 満月が昇る そして/高梨由利江

ゆらりともしない海の上に
満月が昇ると
一枚の金色のシーツのまんなか
不眠の いらだつ神経が
つまさき立つように そっとおかれる
動かないで
息を吐くのも 息を吸うのも止めて
一瞬の静寂は 時間を止める
海のまんなか
走りまわって行先を見失ったかたちのないわたしのまわりで

時間が止まる
はるか彼方に立ち上がる波は
とげのようにささくれて そのまま止まり
足もとの底からのぞく小さな魚たちの
怪訝そうな視線さえ そのまま止まって

時間が止まる
のは
つぎの瞬間のため
くずれ落ちるつぎの瞬間のため
時間は止まる

満月が昇る そして
遠い波が どっとくずれる
足もとの魚たちが 八方へ逃げる
金色の海が はらりとくずれる
それはわたしが深いため息を吐いて
一歩先へ踏み出す瞬間
一歩先は わたしの生涯の到達点
金色のシーツにくるまれて
わたしの生涯が
あっけなく溺れる

 「満月が昇」った夜の海を「一枚の金色のシーツ」と譬えた作品で、「わたし」がその「金色のシーツにくるまれ」ると「わたしの生涯の到達点」が訪れるという風に読みました。煌びやかなイメージのようにも受け止められますが、決してそうではないと思います。「深いため息を吐いて/一歩先へ踏み出す」わけで、しかも「わたしの生涯が/あっけなく溺れる」ことを見据えています。自分の「生涯の到達点」をこのようにイメージできるとは、作者の力量を感じます。最終連の「溺れる」という詩語も佳いですね。



本多明氏詩集『虹ボートの氷砂糖』
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2006.10.30 東京都千代田区 花神社刊 2500円+税

<目次>
ブソンの手 6               異星人 10
惑星洞窟酒場 14              惑星洞窟タクシー 18
鷲 34                   はと 38
恩方さん 42                サイレントK 46
佐伯さん 52                蕎麦屋で侍 64
シュガーポットの夢 72           二色の海 78
幻想のスイカ割り 84            豚と真珠 88
虹ボートの氷砂糖 90            座礁の王国 94
春昼…… 102                鯉のゆくへ 108
センチメンタル・ジャーニー★ 112      賢治で往復書簡 118 
デクノボー様/小岩井農場の娘様
五月の樹下に 128              誕生 132
靴の時間 136                通俗ベイビー 140



 蕎麦屋で侍

侍が刀を脇へ置いている
細面の顔は少し栄養が足りないらしく
髭がうっすらとした風情は哲学青年のようだ
しかし昼間から酒は注文しない
腕組みして蕎麦を待つ姿勢が格好いい
本当に空腹なのかと疑うほど落ち着いている

僕はBGMをローリングストーンズに変えた
侍の気分に変化を見たいと思ったから
ミックジャガーが歌いはじめた
酒場のならず者女はいらないかい?
ヤクであそこがいかれた女もいるぜ
地獄で警鐘ならす奴と
いかさまトランプも楽しいぜ
侍は前のお茶に手を伸ばした
そして呑まずに酒をくれと僕に注文した

侍は残った酒を蕎麦猪口に入れて
蕎麦を喰った
すする音が店中に響いた
江戸の胃袋に蕎麦が落ちてゆく
僕は侍のテーブルに蕎麦湯と楊技を置いた
無表情だが低い声で
侍はダンケと言った
彼の瞳はそれが二百年前の色なのか群青だ
僕は何か一杯奢ると言ってみた

グレンリベットが一本カラになった
侍と僕が半分ずつ呑んだのだ
しばらく無言だったが気になることを伺った
あんたは今まで何人斬って
これから何人斬るつもりだい?
侍はまったく酔っていない瞳で言った
拙者はひとりしか斬らない
具体的に聞いてもいいかい?
すると侍は笑った
拙者はヤクでいかれた女と寝た奴
いかさま野郎を斬る
侍の瞳は深く
思いのほか澄んでいる

侍が席を立ったとき振り返ると
奥の端っこにミックジャガーが坐っていた
ストレートをガブ呑みして
へべれけに酔っ払っている
そしてロレツもあやしく言った
俺達は地獄から来て天国に行くのさ
そして天国から来て地獄に行く奴と
友達になるのさ
それがロックさ
ミックがいる辺りは周りとちがって
そこだけ青白い蛍光灯に照らされている
僕は舌打ちした
あれは店先の看板用だ
店内だと白っちゃけた雰囲気になる
蕎麦屋は電球色じゃないとサマにならない
無論ミックはそんなことに頓着しないが

侍は刀を差した
草鞋が床を擦った
髷がもう行先を向いている
着流しから谷の鳥が翻るようだった
引き戸を開けて向こうを見ると
もう舟が出るところだった
岸の柳にトンボが飛んでいる
侍が脇を通るとトンボはひょいと群でよけた
船頭が腰を据えて
侍が乗り込むのを待っている

僕は侍に沢庵を添えた握り飯と竹筒を渡した
ミックは柱にもたれて見ていたが
いきなり侍に向かってピックを投げた
それは鋭い嘴のように一直線に飛んだ
トンボはよけるヒマもない
唸るようなピックは侍の小鬢を掠めて
後方の川に音もなく吸い込まれた
船頭はゆっくりと櫓を漕ぎ
侍は波紋の先を見つめながら去っていった

あの侍は最後に何と言っていた?
不機嫌に呑んでいたミックが執拗に聞く
なんとも言ってやしないよ
あそこだけ焼鳥屋みたいだって言っただけだよ
ミックはしばらく黙っていたが
天井の青白い蛍光灯をしげしげと眺めて
突然大笑いしたかと思うとでかい声で言い放った
ブルーバード!
奴は俺をそう呼んだのさ ちげえねえや
ミックはまたゴキゲンに呑みはじめた
僕は一瞬煙に巻かれたがちょっとして解った
ブルーバードか……
僕は陽気なロックを流そうと思った
でもミックは股旅ものがいいと笑った

店を閉めてしたたかに呑んだ
ミックの脇にあった生ギターは
いつの間にか真っ二つに斬られていて
切り口から青い波紋が漂っている
僕もミックもメチャクチャに酔いが回っていて
箸で茶碗をぶっ叩きながら
ホンキー・トンク・ウィメンを叫び続けた
そして侍の武運をともに祈ったのだ

 第1詩集だそうです。ご出版おめでとうございます。本年度の「詩と思想」新人にもなった実力派ですが、小説『幸子の庭』では日本児童文学者協会の第5回長編児童文学新人賞も受賞した作家でもあります。『幸子の庭』は来年、小峰書店から刊行されるようで、詩、児童文学と今後の幅広い活躍が期待される方です。

 この詩集には宮澤賢治をはじめ多くの人物が登場しますが、ここではミックジャガーが登場する「蕎麦屋で侍」を紹介してみました。「二百年前」の「侍」と「ミックジャガー」、そして「僕」という時空を越えた異色のキャストが魅力の作品です。異色なだけでなく、あるいはそれだからこそ「拙者はヤクでいかれた女と寝た奴/いかさま野郎を斬る」というフレーズが生きています。21世紀の日本の、様々な矛盾を「斬る」詩語と謂ってもよいでしょぅ。「俺達は地獄から来て天国に行くのさ/そして天国から来て地獄に行く奴と/友達になるのさ/それがロックさ」というフレーズにも惹かれています。私も好きなロックの本質を言っているように思います。
 少々長い作品が多い詩集ですが、読み応えがあります。お薦めの1冊です。



わたなべ政之助氏詩とプローズ
『囲炉裏の火』
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2004.5.9 東京都板橋区 待望社刊 1800円+税

<目次>
 
色褪せた回想 8   夕暮れ 11
丘の小路 12     味噌汁の詩 14
白い雲に 17     木芽月に 18
富士見遠望 19    山辺の径 20
川辺で 21      河は見てきた 22
望月に 25      神去りし祠 26
笛吹川夕景 28    あしたの空 30
あなたそうでしょう33 豊かな国 日本はどこに 34
虚しい音 36     寝顔に 37
暗い日の寸景 38   声 43
あたたかな囁き 44  父よ 46
笛吹暮春三曲 48   ある落日 51
むなしさよ 52    貌 53
日暮れの街 54    掌 56
赤とんぼ 57     蟻 58
すずめ 59      風を詠む 60
萌え出ずる春に 62  花咲けば 67

 プローズ
囲炉裏の火 70    ふたつの蜜柑 76
おさない夢 84    笛吹川暮秋 92
おまさ地蔵 99

跋 中原道夫 105   あとがき 110



 豊かな国 日本はどこに

空を覆う化装したビルの谷間を
杖に縋った老婆が一人
姥捨山への径を辿る
六畳一間のわが家には
待つ人もいない
灯の消えた戸を開ける

昨日の新聞は七十二歳の老人が
独り寂しく旅路にたって
白骨で発見されたとあった
遺骸を犒う虎落笛が
老婆の沈めた背をないてゆく

貧しい台所で残りの
大根葉を刻みながら
錆びた包丁に問いかける
世界一豊かだという
日本国はどこにあるのか

今夜は粉雪でも舞うのだろうか
老婆は
わが身の明日を昨日の新聞記事に
重ねてみる

 詩とプローズ(prose:散文)という作品集で、タイトルの『囲炉裏の火』は散文から採ってありました。戦前の、片道40〜50分は掛かる小学校からの帰宅時に待っている母と囲炉裏、お互いにもらい風呂をする近所の人たちと囲む囲炉裏の火を情緒豊かに描いた作品です。
 ここでは詩篇の「豊かな国 日本はどこに」を紹介してみました。「待つ人もいない」「六畳一間のわが家」の「灯の消えた戸を開ける」「老婆」の「世界一豊かだという/日本国はどこにあるのか」という「問いかけ」に答えられる人はいないでしょう。「七十二歳の老人が/独り寂しく旅路にたって/白骨で発見された」姿に「わが身の明日を」「重ねてみる」痛々しさ。「空を覆う化装したビル」の影に置き去りにされた老婆の姿、すなわち我々の姿に、著者の憤りを感じさせる作品です。考えさせられました。

 なお、著者よりお読みいただける方には割引でお送りする旨の知らせが来ましたので書き添えます。
 お申込みは、〒406-0042 笛吹市石和町今井312 わたなべ政之助様(電話 055-263-5104)へ。価格は税・送料共 1,500円とのことです。