きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.10.22 山梨県立美術館




2006.11.21(火)


 午前中は日本詩人クラブの宛名シールを作って、依頼者に発送して、午後からは本を読んで過ごしました。いただいた詩書のお礼は、今のところ10日遅れほどです。当面の目標は1週間遅れ程度に、最終的には、いただいた本は当日拝読を目指していますが、なかなか…。しばらくこの状態が続きそうです。礼状が遅いとお怒りにならず、どうぞご海容ください。



一人誌『粋青』47号
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2006.11 大阪府岸和田市
後山光行氏発行 非売品

<目次>

○落葉樹哀歌(9)   ○青のなかに(10)
○虹(12)       ○養護老人ホームにて(14)
○漂流する朝・4(18)
スケッチ(8)(17)
創作★虫人間のうたごえ(4)
エッセイ
●絵筆の洗い水【23】(16)
●舞台になった石見【37】時代小説 暁暗の星 赤木駿介著(20)
あとがき
表紙絵:ひがんばな 2005年9月



 

雨の予報も無い
秋晴れの朝
遠くの雲に浮かぶ
垂直な虹を見た
早朝の気持ちが更に
爽やかになった一瞬だった

五十年も前
遠くに山虹を見ながら
父が言っていたことがある
−○○屋の庭から虹が立っているけえ
 ○○屋の庭には
 宝物がいっぱい埋まっているかも知れんのぅ
幼かった私には
父の言う意味がわからなかった

虹の立ちあがるところには
宝物があるというどこかの伝説
父親のもとを離れてしばらくして
そのような話があることを知った
田舎の山のなかで生きていた父が
どこで聞いたのか知らないが

たくさんの虹を見た記憶がある
その数以上の
夢を見てきたのかも知れない
○○屋の庭から伸びた虹は鮮やかだった
もう○○屋も絶えて
誰も住んでいないと聞いたけれど

 私も一度だけ「垂直な虹を見た」ことがあります。とても大きな虹でしたから根元が垂直に見えたのです。そして「気持ちが更に/爽やかにな」りました。「虹の立ちあがるところには/宝物があるというどこかの伝説」とありますが、おそらく全国的なものだろうと思います。私は子供の頃から知っていました。絵本にも書かれていたように記憶しています。
 さて、この作品では「○○屋」に注目しています。小さな個人商店。二代か三代続いた「○○屋」。それが今、「絶えて/誰も住んでいない」状態が全国的に広がっているのではないでしょうか。大手の郊外型店舗が増えて、なつかしい「○○屋」が消えていく。最終連の最後の2行はそれを言っていると思います。「たくさんの虹」、「その数以上の/夢」が消えていく現実をうたっていると思いました。



詩誌『山形詩人』55号
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2006.11.20 山形県西村山郡河北町
高橋英司氏編集・木村迪夫氏発行 500円

<目次>
詩●ぼくのその日/大場義宏 2
詩●「わが廃墟を支える断片」は/佐野カオリ 4
詩●図書館/高橋英司 9
詩●電話/菊地隆三 14
詩●転がる匂いの素描/佐藤伝 17
詩●稔りをはしる声/木村辿夫 20
評論●超出論あるいは個と国の幻想
  ――吉野弘詩集『感傷旅行』論/万里小路譲 24
詩●神からの返信/阿部宗一郎 32
詩●母語・方言による誇らしきもの 5・6/島村圭一 49
詩●ある夜の魂・コ女モスの丘で/近江正人 54
詩●いまは もうあき・真夜中の台所/山田よう 59
詩●八月のはて/平塚志信 64
詩●水の女/高啓 69
後記 72



 いまは もうあき/山田よう

じょしこうりけいのむすめ
どうぶつをかわいがり
じゅういになりたい

えきちかくのじゅくにかよう
こべつしどうのすうがくをりしゅう

いつか、きたくするなり
(かっこいいーーー おだせんせいーーー)
おれんじいろのこえで

おだせんせいはいがくぶのがくせい
しだいに、さんかくかんすうがとくいになる
しゅくだいもはかどる
うきうきかよう
すなおによろこぶ、わたし


2かげつご、とつぜん
(わたしやめる  こべつ、こうかがあがらない)

やめてから どこかふさぎがち くちかずもすくなく
げんきのない こ
たのしかったはずの おだせんせいのすうがく

どうしてどうしてと おもいめぐらし
もしやと
はたときづく

こわかったの?、むすめ
あるいはなにかがはじまりそうで?
あまいろのちゅうちょ
おさないこいごころ
そのせつなさに
おもいをよせ
よりそうことしかできなくて

すると
どこからかあきかぜがふいてきて
おもわずそらをみあげた

いわしぐものむこう
だれもいない のうこんのうみべ
すいへいせんをみつめるしょうじょがひとり
ういういしいよこがお
いとしいうしろすがた

 おそらくこの作品は、通常の漢字かな交じり文で書かれていたら、失礼ながらあまり面白くないと思います。ひらがなの一つ一つを頭の中で漢字に変換しているうちに、この作品の良さがじんわりと伝わってきました。「じょしこうりけいのむすめ」の「おさないこいごころ」に「よりそうことしかできな」い「わたし」。娘を思う母親の気持は、父親としての私などには想像もつかないことです。しかし、思いは伝わってきます。最終連の「ういういしいよこがお/いとしいうしろすがた」も佳いですね。タイトルの「いまは もうあき」はトアエ・モアとは関係がないかもしれませんけど、自然にメロディーを口ずさんでいました。



藤田博氏詩集『アンリ ルソーよ』
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2006.9.20 東京都文京区 三元社刊 000円+税

<目次>
アンリ ルソーよ
アンリ ルソーよ 10            オワーズ川の岸辺に寄せて 16
サン・ニコラ河岸から見たサン=ルイ島の眺め22 水車 26
カーテン 30                アンリ四世河岸から見たサン=ルイ島の眺め 34
城壁の眺め 38               ピンクのろうそく 44
追憶 48                  リュクサンブール公園のショパンの彫像 52
雪景 56                  セレニテ 62
輪郭 66
戦争
戦争 70                  ジュニエ爺さんの二輪馬車 74
嵐の中の船 80               アルフォールヴィルの椅子工場 84
婚礼 88                  オペラグラス 92
人形を持つ子供 94             目 98
接岸 100
.                 記憶 102
郊外 104
.                 イヴリ河岸 108
公園を散歩する人々 112
.          構図 116
大空 118
.                 トレース 122
一本の樹木 124
.              佇つ 126
蛇使いの女
蛇使いの女 130
.              蛇使いの女 134
アイ 138
.                 非番ヘ 140
佇立 142
.                 パリ近郊の眺め 144
ピエーヴル谷の春 148
.           パリ近郊の製材所 152
砲兵隊 156
.                マラコフの眺め 160
サン・クルー公園の並木道 164        蛇使いの女 168
フットボールをする人々 170
.        入市税関 174
フラミンゴ 178
.              椅子製造工場 184
マルヌ河沿い 186

夢 192
.                  ライオンの食事 198
夢 202
.                  熱帯風景、オレンジの森の猿たち 206
氷河 210
あとがき 212



 アンリ ルソーよ

アンリ ルソーよ
僕はなつかしい君の名を憶う
洗いざらしの釣り人のいる風景≠憶う
世界が一滴のしずくなら
君の風景こそ
その鏡の面を流れるだろう
僕らが無垢の闇にならないかぎり
誘われた驚異の垂れ幕は引き降ろされたまま
目くるめく光輝の渦はしみ渡ることがないだろう
君は常に
大いなる不安や苦悩の果てで待ち受ける
歓喜の旗のようだ
しずまりかえった泉のようだ
樹木の風車は蜜の石臼を回して
あらゆる葉裏が琴線のように弾ね返る
いりめぐる
大気の静寂と律動
緑の神秘の梢を音もなく揺する
望郷の小人たち
人々はシルエットを急ぐ
昼なおも星くずのまたたく舗道を
やぶ草の入江で永劫のなまずを探る釣り人
右手の
赤い屋根の建物の背後で
いかなる悦楽の野獣が
空気のこまやかな網目に落ちるのか
おお
そうして
誘われた最高の驚異
中景にたたずむ小高い丘よ
裏手の深遠な十字架よ
僕のすべてのおもいを飲み尽くすなだらかな緑の起伏
か黒い樹木の稜線
死の扉口
沈黙の果ての沈黙
産声にみちて……
そこなら僕は帰れるだろう
地獄の火を
復活の谷間を信じるだろう
こんがり焼かれたパンのように
水色の翼をたたんで
幼子の僕はまた 冬の谷間を
ひとりこだまして立ち去るだろう
たったひとつの真実の言葉を
唇に噛んで……
地上の楽園
それは
川向こうのさりげない丘
きっちりした地膚の上の
きっちりした緑
アンリ ルソーよ
僕はなつかしい君の名を憶う
洗いざらしの釣り人のいる風景≠憶う
誰もゆめみなかった夢
しかし
誰もがうなずく
もっともなつかしい夢
かわいた大気よ
闇の中の星くず
干し藁に抱かれた
愛の月桂樹よ!

 ルソーの絵がところどころに添えられた美しい詩集です。ルソーの絵に触発されて書かれた作品群と言ってよいでしょう。紹介した詩はタイトルポエムで、かつ巻頭作品です。この詩のあとに釣り人のいる風景≠ェ添えられています。ルソーは1910年に66歳で亡くなっており、釣り人のいる風景≠ヘ1886年頃制作で、ルソー42歳の作品です。本格的を描き始めたのは40歳頃と言われていますから、ほとんど初期の絵と言えます。紹介した詩は釣り人のいる風景≠「人々はシルエットを急ぐ/昼なおも星くずのまたたく舗道を/やぶ草の入江で永劫のなまずを探る釣り人」など、上手く言葉に置き換えています。それのみならず、「君は常に/大いなる不安や苦悩の果てで待ち受ける/歓喜の旗のようだ/しずまりかえった泉のようだ」と画家の内面もがっちりと把握していると云えましょう。詩と絵の両方を楽しめる詩集です。



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