きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.10.22 山梨県立美術館




2006.11.24(金)


 駐日韓国大使館韓国文化院主催の「韓日交流 詩と音楽の集い」に参加するため、南麻布の韓国文化院に行って来ました。日本側は日本現代詩人会、日本詩人クラブの、韓国側は韓国文人協会、韓国詩人協会、現代詩人協会の後援です。先着200名はすぐに満員になる盛況でした。韓国からは30名ほどの詩人が来日、他にも在日韓国人がいらっしゃいましたから、日韓の参加者比は半々というところでしょうか。

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 写真は詩の朗読とヴァイオリン演奏。他にもピアノとの共演、日韓それぞれの言語による朗読があって、3時間を存分に楽しみました。その後は隣室で韓国文化院提供の立食パーティー。さすがに酒類は少なかったものの、韓国の人たちと交流できたのは大きな成果だつたと思います。次回はぜひソウルの日本大使館主催で、なんて声もありましたけど、どうですかね。実現すれば私も行ってみたいな。そうすると、初の海外旅行(^^;

 会場でアメリカ人留学生で、娘と同年代の若い女性を紹介されて、すっかり意気投合してしまいました。日本の大学に留学中ですから、日本語はバッチリ。私でも意志疎通ができました。立食パーティーが終わったあと、もう一軒寄ろうかということになって、二人でマッコリを呑みながら〇時近くまで話し込んでしまいました。日本の文化、アメリカの文化など大真面目で話し合って、彼女と麻生十番の駅で別れたあと、さあ大変。新宿に戻ってみると新松田・小田原方面の電車が無い! 結局、新宿のカプセルホテルに泊まるはめに…。でも、韓国の文化に触れられて、アメリカ女性とも親しくなって、とても良い夜でした。皆さん、ありがとうございました。



詩とエッセイ『ペッパーランド』32号
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2006.11.30 横浜市中区 水野のり子氏発行 500円

<目次>
 −そこへ着くまで−
海まで…綿川早苗 4           無花果・蜜蜂がここにくるまで…荒川みや子 6
ダーウインのための復習…徳弘康代 8   私の鳩は…八木幹夫 10
長かった廊下…佐藤真里子 12       夕焼けのカフェテラス…水野るり子 14
エッセイ
左手の時間…水野るり子 16        電車で…徳弘康代 18
縄文お月見コンサート…佐藤真里子 20   あらたな緑を…綿川早苗 22
ベネチアの鳩…八木幹夫 24        遮断された風景を抜けて…荒川みや子 26
一冊の絵本
「カングル・ワングルのぼうし」/「茶色の朝」/「ことりとねこのものがたり」/「ウルスリのすず」/「急行『北極号』」/「さむがりやのサンタ」



 長かった廊下/佐藤真里子

その日
母はいつもより長く鏡台のまえに座っていた
季節がいつなのかは思い出せない
母と二人で入院中の父に会いに行くために
バスと汽車を乗り継いだが途中の記憶も残っていない

やっと
たどり着いた病院の廊下は広く
消毒液のにおいがきつかった
西日のせいかすべてが赤茶けていた

あの部屋です、と言われた病室までは
わずかな距離だったのに
廊下は先がかすむほど長く見えた
父の顔も名前も知らないわたしに
父は死んだのだと教えていた母
いまごろになってなぜ

いつも独りでこっそりと繰り返し読んでいた
心のなかの絵本のページにだけ父は生きていたから

いま慌ててページをひらこうとすれば
廊下は絵本のなかにまでのびてきて
進むほどに両壁は滝となって流れ落ちる水
わたしからもこぼれ落ちてゆくものを止められずに
何かが大きく変わろうとしていた

病室の戸のまえに母とわたしは立った
初めて父に会う六歳のわたしは
母の後ろで少し震えた
母が病室の戸をしずかにあけた

 テーマ「−そこへ着くまで−」の中の一篇です。まるで珠玉の短編小説を読んでいるような錯覚に囚われました。それだけ中身が濃いと云えましょう。詩作品ですから現実と同一視する必要はありませんが、おそらく作者の原点だろうと思います。表現も巧みです。第5連の「進むほどに両壁は滝となって流れ落ちる水/わたしからもこぼれ落ちてゆくものを止められずに」というフレーズは散文では描けない心理描写をしていると云えるでしょう。詩の詩たる真骨頂です。最終連の「母が病室の戸をしずかにあけた」も佳いですね。まさに「六歳のわたし」の扉が開かれた瞬間と捉えました。佳品です。



詩と批評『岩礁』129号
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2006.12.1 静岡県三島市
岩礁社・大井康暢氏発行 700円

<目次>
表紙 岩井昭児 作品N           扉・目次カット 増田朱躬
評論
今・萩原朔太郎再読/斉田朋雄 六
戦前の日本におけるロートレアモン/滝沢忠義 二八
フランスにおけるシャンソンの現況/カルヴエ・納富教雄訳 六〇
フランス現代詩のエクリチュール/ロラン・バルト 六九
新・手帖 宗教のインカーネーンョンとしての文化について/大井康暢 七〇
エッセイ
故藤村幸親氏を悼む/大井康暢 八二     カルカッソンヌ便り(二三)/増田朱躬 一七四

物乞い面/金 光林 一二          囚人の円歩、飢渇86/遠山信男 一四
写真/桑原真夫 一六            丸山のエレジー50年/栗和 実 一八
花の素顔/戸上寛子 二〇          流砂/大塚欽一 二二
行火、背、他/丸山全友 二六        笑えない/柿添 元 三八
ビョーキみたいな/小城江壮智 四二     絵の物語/竹内オリエ 四四
雨、蓮華/井上和子 四六          伝えたい、夏の夜、他/門林岩雄 四八
花器、ほほえみ、他/高石 貴 五〇     傾く/北条敦子 一〇六
合唱祭/山崎全代 一〇八          手の跡、八月に、日々は/植木信子 一一〇
第一楽章、ソネットT、ソネットU/西川敏之 一一四
安全/緒方喜久子 一一六          夕暮れ/文屋 順 一一八
洋服ダンスの前で/坂本梧朗 一二〇     疲れた人のためのソネット/望月道世 一二二
湖、輪郭/平野 宏 一二四         東北の旅/中村日哲 一二六
顔の家/佐竹重生 一二八          金色の太陽、まっすぐな悲しみ、他/関 中子 一三〇
迷走/市川つた 一三四           呑気な疎開少年の会話/斉藤正志 一三六
欲しかったもの/近藤友一 一三八      人間に『新・宇宙の眼』を!!/佐藤鶴麿 一四〇
漂泊/大井康暢 一四四
コラム
詩と生 二五     椅子 四一      座標 八五      始点 一〇五
声 一一三      散歩道 一三三    こだま 一四三    社会 一五九
音楽 一九七     点滴 二二三     窓  表二      詩人のたわ言 表四
ポエムパーク 五二
名詩鑑賞 安西 均「天の岩水」一四六
詩集評
永井詠子詩集『モニュメント』/高石 貴 一四八
谷口 謙詩集『二重奏』/門林岩雄  一四九
北村愛子詩集『ありがとう』/小城江壮智 一五〇
尾花仙朔詩集『春霊』/大塚欽一 一五一
皆木信昭詩集『ごんごの風』/坂本梧朗 一五二
富沢 智詩集『あむんばぎりす』/井上和子 一五三
田中 武詩集『驟雨の食卓』/栗和 実 一五四
都築紀子詩集『陽の下で』/竹内オリエ 一五五
森田海径子詩集『滴声』/文屋 順 一五六
河田 忠詩集『暗愁の時』/平野 宏 一五七
柳原省三詩集『船内時間』/西川敏之 一五入
門林岩雄詩集「城」礼状紹介 一六〇
新現代詩文庫「大井康暢詩集」評 一六四
岩礁一二八号総括 一七〇
深謝寄贈詩集 一七二
小説 幻覚/山田孝昭 一八四
二十世紀研究資料・小説 二十五時/コンスタンチン・ゲオルギウ 一九八
詩のサロン 二二四
住所録 二三二    編集後記 二三五



 洋服ダンスの前で/坂本梧朗

昨日
(きのう)と同じものは着たくない
あんたもなかなかダンディーだ
見せたい女
(ひと)でもいるのかい

いやいや
俺が服を毎日変えるのは
傷めたくないからだ
長く使いたいからだ
確かに
大嫌いな性格だがね
同じことを繰り返すのは

お前とは何日ぶりか
だいぶ休んでたな
どうだ
元気になったか
と袖を通す

今日は何があるかな
(どうせロクなことはあるまい)
何があろうと
俺と一緒に受けとめることになるんだぞ

俺は交代なしだぜ
この生身の身体は
たった一つだ
それがとっかえひっかえ
お前たちを着て
出て行くのだ
修羅場へ

この身体も
傷めたくはないんだがな
もちろん

羨ましいよ
休めるお前たちが

 これは身につまされる作品ですね。私の場合は「昨日と同じもの」を2、3日続けても平気なんですが、さすがに1週間も続くと考えてしまいます。「傷めたくない」「長く使いたい」というわけではありませんけど…。そんな心理を上手く突いた作品だと思います。「この身体も/傷めたくはないんだが」「交代なし」で使わざるを得ないというところも見事な視点の変換と云えましょう。本当に「休めるお前たちが」「羨ましい」と思った作品です。



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