きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.10.22 山梨県立美術館




2006.11.27(月)


 「ペンの日」で東京會舘に行ってきました。いつもは500人ほどが集まりますが、今年は少なかったですね。400人を切っていたのではないかと思います。会長の井上ひさしさんも気にしていたようで、他の大きなイベントと重なったと釈明していました。でも、人数が少ないということは参加者にとって嬉しいことなのです。恒例の福引に当たる確率が高くなる(^^; それでも私は当たりませんでしたけどね(^^;;;

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 写真は第4代会長・川端康成の作品を朗読する山根基世さんとチェレスタ演奏の森ミドリさん。会場の後の方からコンパクトデジカメで撮ったので、荒くてごめんなさい。山根基世さんはNHKに出ていますのでご存知の方も多いと思いますが、さすがに佳い声をしていました。30分ほどの朗読でしたが、立食の会場で皆さん立ったままじっと聴きほれていましたね。

 二次会は男友達と二人で銀座のクラブへ。こう書くと嫌味ったらしくなりましょうが、全々そんなことはありません。クラブとは名ばかりで、ママさんひとりのスナックのような処です。費用もペン会員割引の数千円台。私は二度目ですから慣れましたけど、一緒に行った男はもっと場慣れしているようで、ママさんとしっかり指切りしてる! 純情な私には出来ないなぁ。
 ま、冗談はさて措いて、楽しい夜でした。銀座に馴染みのクラブがあるというのは良いものです(^^;



詩誌『しけんきゅう』147号
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2006.12.1 香川県高松市
しけんきゅう社発行 350円

<目次>
<詩作品>
しらが の テロリスト…くらもちさぶろう 2 人間だけの不思議…葉山みやこ 5
Moonrise,Hernandez 1941…山本 潔 6   ふるえている…水野ひかる 8
グスタフ・クリムトの夜の歌…笹本正樹 10  今 北極で/屋台ばやし…かわむらみどり 12
エウロパ内陸、冬の始まり…秋山淳一 14   私はライオン…ネットコーナー作者:A 16
<エッセイ> 夜の桃…山本 潔 18
<創作> あたたかい部屋(ナルシスへの伝言シリーズ)…さやまりほ 22
<評論>
だれ が かたる のか/だれ に かたる のか
 アルフレッド・テニソンの「ユリシーズ」……くらもちさぶろう 27
ウィリアム・C・ウィリアムズの詩の魅力…笹本正樹 31
広場(すくうぇあ)…33



 ふるえている/水野ひかる

ふたつの黄身のある卵が
フライパンの上で
ぱっちりと瞳を見ひらいて
わたしを見つめている

ふるえている
ぷるんぷるんの柔かい卵の膜
鮭のように 川を遡上し
もぐりこむ いのちの尾鰭
扉はとじられ
誰も入れない 未知の開かずの間

ふるえている
ぱりんぱりんの硬い卵の膜
二重螺旋に結ばれた細胞が
すこしずつ かたちを創りはじめる

卵の部屋で
うすい羊膜のカーテンが揺れ
二本の纜
(ともづな)が蚕のように蠢(うごめ)きながら
胎盤に縋りついている

閉じられた受精卵のなか
二重体に分裂した瞬間
ふるえている
ふたつのいのち 一卵性双胎

そこは
踏みこめない 祈りの領域
母に繋がるライフラインが
生と死の入り口で
ふるえている

 「フライパンの上」の「ふたつの黄身のある卵」から「二重螺旋に結ばれた細胞」へと発想が進み、最後は「生と死の入り口」へと繋がり、それらが「ふるえている」というキーワードで結ばれた作品です。私などはあまり考えたことがありませんけど、母性は敏感に感じるのでしょうね。性差の違いを感じた次第です。
 「ふるえている」というキーワードは生命について良く捉えていると思います。誕生間もないひよこの震え、そして私の母の死の直前の震えを思い出しました。風邪のときなどを考えると、生命の営みの大事な場面を身体は震えで表現しているのかもしれません。そんなことを感じた作品です。



詩とエッセイ『千年樹』28号
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2006.11.22 長崎県諌早市 岡耕秋氏発行 500円

<目次>

忘れもの/和田文雄 2           直線道路/さき登紀子 4
地熱ほか二篇/早藤 猛 6         二〇〇〇・春の友達/大石聡美 12
桃花源の記/植村勝明 14          秋空によせて/江アミツヱ 18
罰/竜崎富次郎 20             消失点(三)(四)/鶴若寿夫 22
台風一三号ほか一篇/岡 耕秋 26
エッセイほか
自由の鐘(一)/日高誠一 32         私のモンゴル紀行/早藤 猛 37
古き佳き日々(二五)/三谷晋一 42      ハエ/佐藤悦子 46
ばらの名前(三)/岡 耕秋 48        菊池川流域の民話(二二)/下田良吉 53
樹蔭雑考/岡 耕秋 65           編集後記ほか/岡 耕秋 68
表紙デザイン/土田恵子



 古寺の蝶/早藤 猛

ちょっと急すぎる曲線を描いて
澄んだ青空に興仁寺の屋根が
レリーフを造っている
人気のない庭の静寂な草木に
モンゴルの九月の風が涼しい
君は長い黒髪を
しなやかな指でかき上げて
ゆっくり足を運ぶ
朱塗りの柱と原色の仏たちの
ぶっちょう面が
時間差をつくって現代を見ている
君の あっ と云う声に
一羽の黒揚羽蝶が ひらひら
明日に向かって舞っていく

熱い思いを何処へ
運んでくれるのだろうか

      興仁寺(
Chojin LamaTemple Museum
          ウランバートル市内

 同じ作者によるエッセイ「私のモンゴル紀行」で判ることですが、第26回世界詩人会議が9月にモンゴル・ウランバートルで開かれ、それに参加したときの作品のようです。そのエッセイからの発想ですけど、作品中の「君」は現地で観光案内をしてくれた女性と採ってよさそうです。詩作品ですから現実とは関係ありませんけど、そんな前提で読んだ方が判りやすいかもしれません。
 作品の中では「朱塗りの柱と原色の仏たちの/ぶっちょう面が/時間差をつくって現代を見ている」というフレーズに惹かれました。奈良や京都の仏像を多少は観ている私でも、この「時間差をつくって現代を見ている」という感覚はありませんでした。おそらく異国の仏像を観ないと出てこない感覚なんでしょうね。それだけでもこの旅行は行った価値があったと云えるでしょう。そんなことを感じました。



詩誌『青い階段』82号
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2006.11.20 横浜市西区
浅野章子氏発行 500円

<目次>
台風の後に/荒船健次 2          理由は分からないが/坂多瑩子 4
秋刀魚/福井すみ代 6           西陽/小沢千恵 8
家/廣野弘子 10              青いトマト/浅野章子 12
決別/鈴木どるかす 14           その長い髪/森口祥子 16
ピロティ 廣野弘子・森口祥子
編集後記
表紙/水橋 晋



 理由は分からないが/坂多瑩子

料金所を出て
高速道路にのる その瞬間
大きな川
もちろん 橋などない
車を運転しながら
るんるん気分で
うなずく
私って
死んでいる
いつもなら
レポートが
見つからなかったり
教室を
探していたり
たいがいの
私のみる夢は
みみっちい
ところが
今日は
違っていた
でも
一生を終えたにしては
想像力がちっとも働かなかった

 「たいがいの/私のみる夢は/みみっちい」のに「今日は/違っていた」。「理由は分からないが」「一生を終えた」夢。それなのに「想像力がちっとも働かなかった」。散文的にはそう言っているだけなのですが、妙に魅了される作品です。「私って/死んでいる」と事も無げに言ってのけているせいでしょうか。しかも「るんるん気分で/うなず」いて肯定しています。そんなことよりも「一生を終えたにしては/想像力がちっとも働かなかった」のが悔しいのだ、私は≠ニいう気持の方が強いのでしょうね。自分の生死よりも想像力、まさに詩人の魂に私は魅了されたのかもしれません。



詩誌Messier28号
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2006.11.30 兵庫県西宮市
香山雅代氏方・
Messierグループ発行 非売品

<目次>
草原をよぎる韻/香山雅代 2        西へ行く人/藤倉孚子 4
潮風が吹く/藤倉孚子 6          遠浅の楽園/大堀タミノ 8
ぶるーはみんぐ/大西宏典 11        星屑の嘘/大西宏典 12
船出/松尾直美 14             胡蝶蘭/香山雅代 17
星間磁場
大埜勇次氏の『幽棲美学』/松尾直美 18   ローレライ/藤倉孚子 20
オリーブの森をぬけて[カラブリアからブーリアへ]/大西宏典 20
R・S・トマス“
Echoes Return Slow”より−散文と詩−/佐野博美 22
雪を踏む 二題/香山雅代 23
あとがき 23



 船出/松尾直美

友と歩いていたら
野球場から歓声が聞えてきて
私たちの声をかき消してしまった。
山のかなたに飛び去ってしまったようだ

山の上のオルゴール館を揺るがす合唱
 〜〜喜び、喜び、喜びが大きな世界時計を動かす〜〜
(注)
私たちの声は聖なるコーラスと一緒になって
再会の喜びを歌い上げていた

先ほどまで垂れ込めていた黒い雲、
北風と手をとってやってきた冷たい雨も
恐れをなして逃げだしてしまったようだ。
喜びの合唱は暗い天を突き、雲を四散させ
勢いあまって下の球場へ跳ね返って行く

友と語らう声も一層力強くなる
歳月という和声をつけて
旋律線は上下する
華やいだ青春は高く
老いた今は低く

いや高い音にしてほしい
老いても
青い空は頭上に広がる。
青い海は眼下に広がる

出発、船出
〜〜喜び、喜び、喜びが大きな世界時計を動かす〜〜
歓呼する声に祝福されて
  何処に
             
注 ベートーベン『第9交響曲』、歓喜の歌

 「華やいだ青春は高く/老いた今は低く」「旋律線は上下する」。しかし「高い音にしてほしい/老いても/青い空は頭上に広がる。/青い海は眼下に広がる」のだ、というフレーズに共感します。なぜ「青春は高く/老いた今は低く」のか、私も疑問ですね。最終連の「歓呼する声に祝福されて」「出発、船出」する、それは「何処に」という問いかけは、青年と老人では答が違うかもしれませんが、死という一点では同じと云えるでしょう。そこまで考えなくてもよい作品かもしれませんけど、ちょっと深読みしてみました。



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