きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.11.04 仙台市内




2006.12.3(日)


 日本詩人クラブ3賞の候補詩書推薦依頼書の発送の手伝いに神楽坂エミールに行ってきました。私は担当ではありませんが人手が足りないので来い、と言われたものです。発送は会員900名ほど、会員外に200名ほどの約1,100名の皆様に対してです。日本詩人クラブ賞、日本詩人クラブ新人賞、日本詩人クラブ詩界賞の3賞候補を来年1月22日消印有効で推薦できますので、依頼書が届いた皆様はぜひご推薦の労をお願いいたします。日本詩人クラブでは自薦は受け付けておらず、この推薦と選考委員推薦のみで授賞を決定します。全国の幅広い詩書をできるだけ網羅し、その中から優れた詩書を顕彰したいと願っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 発送作業が終わって、軽い懇親会が持たれ、そのあとは気の合った仲間と韓国料理の「醍醐」に行ってマッコリを呑みました。マッコリはこれで3回目ですが、やはり美味いですね。日本のドブロクの元祖かもしれません。悪酔いもしないし、佳い酒です。ボランティアで社会にちょっとだけ貢献し、その後の酒。これが一番良いのかもしれません。



個人誌『櫻尺』29号
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2006.11.30 埼玉県川越市
鈴木東海子氏発行 500円

<目次>

高橋睦郎/比喩でなく 2          北爪満喜/月の頂点 4
川申子義勝/九月の悲歌 8         渡辺めぐみ/行路は清夜に隠される… 12
鈴木東海子/青葉の声 16
評論
神尾和寿/詩の問題(5) 真理の問題 18    中村不二夫/辻井喬論−セゾン文化の脱構築− 29
櫻発
鈴木東海子/詩集の在る所 44
後記
表紙・鈴木英明



 一九八〇年代に入り、辻井は華美な装飾で実質の伴わないアパレル商品を排し、シンプルで機能重視、実質本位の商品「無印良品」の開発に着手する。世はブランド全盛時代に突入しようかとする矢先のことで、日本にブランドショップを作り上げた当事者が、百八十度方向転換を果たし、シンプルなライフスタイルを提案したのである。ここでの無印良品の例こそ、三浦のいう辻井の経営に対する自己矛盾の思想の具現化ではなかろうか。ここでも、堤清二はブランドショップから無印へと、〈華美〉と〈質素〉、〈高価〉と〈安価〉、というアンビバレンツさを中和する技をみせてしまう。無印良品のアドバイザーに、現代デザインの巨匠、田中一光を起用したことからみて、この時期辻井にとっての無印良品は、パルコに続く大きな文化戦略の核に位置付けられていたとみてよい。

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 紹介した文章は中村不二夫氏による「辻井喬論−セゾン文化の脱構築−」の部分です。文中の「三浦」とは三浦雅士氏のことで、「<生ける逆説−文化・芸術戦略批判>『セゾンの発想』九一年十一月・リブロポート」という辻井喬論を指します。
 今号の中村不二夫氏の辻井喬論は非常におもしろく拝読しました。詩人・作家であり西武のオーナーでもあった辻井喬氏の二面性を、文学における二面性、経営における二面性という観点で「自己矛盾の思想」という切り口で評しています。紹介した文章は経営者として何をやってきたかという部分ですが、この掘り下げは辻井文学を解く上での鍵ではないかと思います。また、中村不二夫氏の批評の手法を解く鍵でもあると確信します。機会のある方は是非読んでいただきたいですね。お薦めです。



詩誌『すてっぷ』74号
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2006.12.16 京都市左京区
河野仁昭氏方・すてっぷ詩話会発行 500円

<目次>
さかさまからみえてきたもの 富沢玲子 4  キセル 賀川幸夫 6
雨合羽 住田文子 8            友ありて ある日 曽谷道子 10
死に方 西原真弓 12            秋風 井手美穂子 14
満月/雪の日 森田英津子 16        蔓珠沙華 日高信 20
彼岸花 田中明子 22            心が弾む時 上野準子 24
噂の女 司由衣 25             五月 野谷美智子 28
心の中のコンサート 賀川昌樹 30      みどりの森 藤本美代 32
丸顔・鳩胸の慈母観音 常願路哲満 34    妄僧有理(従柿妹の味は鴨の味) 常願路哲満 35
深川のらくろ通り 北野一子 36       解体 河野仁昭 38
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旅のスケッチ 野谷美智子 40        白い灯台と一本の樹(2) 稲葉やよい 47
京都詩壇の生成(3)−竹内勝太郎(下) 河野仁昭 50
例会 メモ 他 賀川幸夫 66
 step 69
 ADDRESS
 カット・森田英津子



 さかさまからみえてきたもの/富沢玲子

あやうく死にかけてから
肝がすわった
さかさまから考えて
本当に大切なものはなにか
わかるようになった
「なーに死ぬまでのほんのひとときじゃない」
するとおもいつめたこともすーっと楽になる
限界を知っていさぎよくなった

おりもおり福井の遺跡案内のご老人が
「あの世にはちり一つ持っていけません」といった
たしかなものは本日ただいまこの瞬間だけだ
ならば
自分の好きなことに夢中になって
一瞬ごとに
わくわくしたり
どきどきしたり
涙ぐんだりしよう

でもそのための才能がわたしのなかにまだかくれているかもしれない
いまからでもおそくないだろう
つい最近デュエットの夢がかなって
今はメンデルスゾーンに夢中だし
絵が下手だと思い込んでいたのに
やれば絵手紙もまんざらでなくもない
むしゃくしゃするときにはおりがみをする
するとわたしの指先から千代紙の手帳や玉手箱が生まれて
もやもやした心がうつくしい形に変身する
そういえば手は頭の中の地獄を癒すと聞いたことがある

うんと冒険して五臓六腑をひびかせ
本来のわたしをすっかりめざめさせてみよう
ぎりぎりいっぱいその瞬間のやってくるまで

 「さかさまから考えて/本当に大切なものはなにか/わかるようになった」というのは確かなことだと思います。現職の頃、開発などで行き詰ったとき、逆転の発想ということをよくやりました。それで成功したかと言うと、そう単純なものではありませんでしたけど、頭の中の整理や開発のヒントには役立ったように思います。
 作品の中では「手は頭の中の地獄を癒す」という詩語に惹かれました。そうかもしれませんね。この詩は本当は「あやうく死にかけて」とある通りシリアスなものですが、それを軽くいなしているところに魅力があるように思いました。



詩と批評『呼吸』第U巻21号
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2006.11.20 京都府京田辺市
真田かずこ氏方・現代京都詩話会発行 500円

<目次>
特集 詩と現実
田中昌雄 詩話合企画『詩と現実』報告 5  佐古祐二 『瞬間』の話、詩の話 6
北村こう 今、詩で振り返る『詩と現実』7  佐相憲一 鶴見俊輔氏の講演を受けて 8
落合祥堯 現代京都詩話会創立三十年記念に出席して 10
ごしま たま 『私の詩上暴論』 11     川辺 真 京都からのメッセージ 12
司 由衣 水溜まりで 13          日高 滋 けったいなおひと/すげない世の中――お車が通る 14
根来眞知子 ああ お金 16         田中昌雄 二〇〇六年の革命歌 17
読者からのお便り 18
詩と批評
牧田久末 夕ぐれ 19            名古屋哲夫 わが山姥/つり  20
田村照視 回帰/キャメロンハイランド(マレーシア)にて 22 西田 純 どこへでも/音を 出して/小さな寝顔の なかから 24
真田かずこ 傷/感覚 26          田中昌雄 胚子の亡命/産土の子石 28
安森ソノ子 歌舞練場の楽屋/オペラ・ガルニエで30 遠藤カズエ 白/父の場所/石切神社にて 32
赤井良二 女が物語をつくる 36       北村こう 空気の球 37
北村 真 A緑神 38            三浦玲子 何処へ 39
岡本真穂 今どき 40            井上哲士 ある一つの存在 41
西田 純 牧田久未詩集『うそ時計』を読んで 42
田中茂二郎 抒情詩のゆくえ(序説) 44    有馬 敲 『かもつれっしゃ』の記憶 48
根来眞知子 『洛中洛外』有馬敲詩集を読んで 51
編集後記 52
フットワーク/会員の詩集 53



 水溜まりで/司 由衣

男はんと一緒になったら
胸膜に穴が空いて水溜まりができた
メダカも住めないような
濁った水を抜いて穴を埋めるのに
かれこれ五年の歳月を費やしてしまった

のちに子宝に恵まれ 育児に専念したが
その子はいくつになっても
よその子より成長が五年遅れている
うちの子に足りない年月を
わたしの歳を削って埋め合わせした

七つ年上の男はんと
五つ歳を削った女とでは
十二年もの深さの溝ができた
かててくわえて
男の平均寿命七十八・六四才
女の平均寿命八十五・五九才
めおとの溝は深まるばかり
うちの男はん 何を誤算したのか
五十才を待たずに死んじまって…

それからは
子と二人つましく暮らしてきたのだが
今年に入って
税制改正とかで市民税が値上げした
公営団地の家賃
国民健康保険料
介護保険料など
付随して値上げした

背に腹はかえられぬ と
役所の市民税課の窓口に駆け込み
今まで敢えて申告してこなかった
扶養特定障害者がいることや
わたしが寡婦であることなど
洗いざらいさらけだした

資本主義体制というどうしようもなく凹んだ
大きな水溜まりで
うまく泳げないわたしは
棒切れに詩を書いて浮きにしている

 特集「詩と現実」の詩としての巻頭作品です。他の方の作品もそうですが現実≠ニいう言葉に対してはお金≠ニいう反応で書かれた詩が多いですね。紹介した作品も基本的にはお金≠フ話ですが、そこを「水溜まり」というキーワードできれいに描いていると思います。特に最終連が見事です。「棒切れに詩を書いて浮きにしている」というフレーズは傑作。どうせ同じ現実≠書かかなきゃいけないなら、こんな風にきれいにまとめてみたいものです。天晴れ!



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