きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.11.04 仙台市内




2006.12.9(土)


 日本詩人クラブの法人化記念「国際交流の集い」が池袋・サンシャイン60ビル59階で開かれました。中国から沈奇氏と楊克氏というお二人の詩人をお迎えして、中国現代詩の状況をご講演いただきました。参加者は130名近くで、当初懸念していた参加者不足も解消され、正直なところホッとしています。私のメールの呼びかけにも3名の会員外の方が来てくれて、本当に感謝しています。また、会友の女性にも声を掛けたところ来てくれたのみならず、私の担当の会場案内も手伝ってくれ、こちらも感謝! 皆さんのお陰で盛会になりました。ありがとうございます。

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 写真左は楊克氏、右が沈奇氏。まだ50代の若いお二人ですが、中国の漢詩から現代詩まで、政権との関係を交えながら克明に報告してくれました。台湾の詩人との交流は比較的多くなってきたものの、中国大陸の詩人との接触はまだまだ少ないだろうと思います。貴重なお話に会場からも時折感嘆の声が漏れていました。

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 講演のあとは隣の部屋に移って懇親会。写真は遠来の会員の紹介です。遠く岩手や九州を始め関西・新潟・長野からも駆けつけてくださいました。主催者側の一員として篤くお礼申し上げます。

 二次会は3階の「土佐藩」。ちょっと場所が狭かったけど、それだけ親密になれたかな。私は関西の大先輩の詩人と同席できて、思わず話が弾んでしまいました。これはラッキー!
 と、池袋の夜は楽しく更けたのでありました、、、と書きたいところですが、実はそうでもなかったのです。最終的に一緒になった男がエライ酔っていて、大声を張り上げて困ってしまいました。駅に向かう道すがら大声を出すものですから、道行く人が振り返る始末。私のスタイルとは合いません。酒は楽しく呑むもの。クダを巻く酔い方は酒に対して失礼というものです。それさえ無ければ良い夜だったのに…。久しぶりに怒っています。



詩誌『どぅるかまら』創刊号
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2006.11.30 神戸市中央区
北岡武司氏発行 500円

<目次>
秋山基夫/異端 2             斎藤恵子/八月の馬・砂遊び 6
沖長ルミ子/食べる 8           群 宏暢/夏の道 10
墳節/まぼろしのように・ゆれている 12   山田輝久子/夜の散歩 14
田中澄子/ヒロ子さんは 16         長谷川和美/晴れた日の雨傘・貝割り 18
川井豊子/朔太郎の形而上学 20       瀬崎祐/故郷 24
河邉由紀恵/さざえ堂 26          タケイリエ/富士 28
蒼わたる/首飾り 30            水口京子/此処に来よ・少女、籠に乗る 32
北岡武司/とき熟せば・半身・青の浸透 34  坂本法子/森が消えた 36
岡隆夫/藺刈り・ウキクサ 38



 砂遊び/斎藤恵子

くびれたガラスのノズルから
無音で時間のパウダーが落ちる
下のフラスコに落ち
一個所ふくらんだかと思うと
まわりに広がり
縞を描いたり
空洞をつくったりする
堆積することは描くこと
思いがけない山谷のかたちや
風の滴の紋様に似て
離れて見ると
ありきたりの連鎖にすぎない

天地はふいにひっくり返され

また遊びがはじまる

 兵庫・岡山在住の詩人たちによる新しい詩誌の発刊です。創刊おめでとうございます。今後のご発展を祈念しております。
 紹介した作品は砂時計をイメージしますが、それだけでないものを感じます。「天地はふいにひっくり返され」るのは地球と受け止め、「また遊びがはじまる」のは神によってではないかと思いました。もちろんただの砂時計と捉えても良いでしょうけど「無音で時間のパウダーが落ちる」というフレーズにもっと大きなものを感じたのです。短詩ですがおもしろい作品です。



野澤俊雄氏著『ポエムの泉』
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2006.12.4 栃木県宇都宮市 橋の会刊 1500円

<目次>
親しい友と H16・2・6…4        連翹とレモン H16・2・13…6
三人寄れば H16・2・20…8        鬼の鏡 H16・2・27…10
懐かしい古い顔 H16・3・5…12      陽のあたる坂道 H16・3・12…14
星になった人 H16・3・19…16       小緩鶏が呼んでいる H16・3・26…18
お前の中にも駅がある H16・4・2…20   虚心で自在に生きる H16・4・9…22
詩情を絵画に託す H16・4・16…24     滝の根性はどこに H16・4・23…26
自然との交歓から実存へ H16・5・7…28  詩はともだち H16・5・14…30
俳人の兄 詩人の弟 H16・5・21…32    門外不出を破った詩集 H16・5・28…34
詩集は墓碑銘のかわり H16・6・4…36   大いなる幻影 H16・6・11…38
伝説の村に生きる喜び H16・6・18…40   つつましく息づく体験 H16・6・25…42
聖地への心の旅 H16・7・2…44      風の村への郷愁 H16・7・9…46
自分が自分の太陽だ H16・7・16…48    青い無花果でありたい H16・7・23…50
暮らしは低く思いは高く H16・7・30…52  三代に伝わる無限の愛 H16・8・6…54
友を選ばば書を読みて H16・8・27…56   未来へつなぐ愛と信望 H16・9・3…58
生を享受する童心 H16・9・10…60     白い頁に祈りこめる夢 H16・9・17…62
着流しで奔放に生きる H16・9・28…64   背中に水晶の夜を宿す H16・10・8…66
美の森を旅する鬼 H16・10・15…68     祖業第一文学は道楽でよい H16・10・21…70
微笑の春を贈る詩人 H16・10・28…72    心の歳時記を残して H16・11・4…74
流行に捉われず現役を H16・11・11…76   霧の中の微笑みを求め H16・11・18…78
山間民人が詠う H16・12・2…80      過ぎし日を線で結んで H16・12・9…82
詩の国への飛行 H16・12・16…84      通り過ぎてきたものは H16・12・23…86
風狂の国に遊ぶ詩人 H17・1・13…88    澄んだ詩眼と人間愛 H17・1・20…90
川面に灯る愛のさびしさ H17・1・27…92  自在に美を生きる詩人 H17・2・3…94
沈静な詩眼と表出 H17・2・10…96     深い内省と親和力 H17・2・17…98
貫く愛と観念の柱 H17・2・24…100     土の言葉 炎の音・H17・3・3…102
ふるさとは緑なりき H17・3・10…104    美しい愛の軌跡 H17・3・17…106
伝承する幽玄の世界 H17・3・31…108    目覚める明日を H17・4・7…110
二人三脚みずみずしく H17・4・14…112   始まりの光の海に H17・4・21…114
星座とひかれあうバラ、H17・4・28…116   透き通る歳月の詩 H17・5・12…118
詩と天職の織りなす綾 H17・5・19…120   心の陽だまりに遊ぶ H17・5・26…122
美しい言葉の橋を架ける H17・6・2…124  染のない道行きの構図 H17・6・9…126
同じ姿勢で物を見よう H17・6・16…128   言葉を紡ぐ糸車 H17・6・23…130
詩は生命の糧 H17・7・21…132       友情の貴洒 花しづく H17・8・4…134
一隅を照らす日々 H17・8・18…136     あとがき…138



忘れない法。多くなるのは物忘れ
忘れない術は
いつでも
紙とエンピツをポケットに
産気づいたら
すぐに書きとめる
ことばはひと言でも
ふたことでも
みんなうちの子
捨て子や
迷子にしてはいけません
ことばも一期一会
もう二度と
返っては来ません
悔やんでも身をよじらせても
嘆いても

 2004年2月から2005年8月まで、著者が産経新聞栃木版に毎週お書きになった「ポエムの泉」という欄の全エッセイをまとめたものです。登場するのは栃木県在住だけでなく、栃木県出身者であったり関係のある物故詩人から現役の若手詩人まで67人。おそらく栃木県の主要な詩人がほぼ網羅されているのではないでしょうか。採り上げた詩人の代表作を丁寧にあたたかく紹介し、略歴まで載せられていて、栃木県の詩人を知る上では第一級の資料です。

 紹介したのは第1回に採り上げられた故・手塚武の作品で、詩集にはなっていないメモを著者がまとめた『詩人のノート』の中で紹介したものだそうです。手塚武という詩人については
、本年9月2日に開催された日本詩人クラブ現代詩研究会・栃木ゼミナールで著者が講演してくれましたので、名前だけは存じ上げていましたけど、優しい佳い詩を書いていたのだなと改めて感じます。
 
ちなみに手塚武の略歴は次のように簡潔に書かれていました。
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 明治三十八年旧烏山町に生まれる。早大中退、東亜新報記者となり中国で終戦帰国。県詩壇における功績により、県文化功労賞受賞。昭和六十一年死去。



山本みち子氏詩集『オムレツの日』
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2006.12.10 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊 2000円+税

<目次>
 Tの章
こいにょうぼう 8  さやまのもり 12
ちゃんこ 16     『とろりや』 20
蠅 24        空へ 28
あらう 32
 Uの章
スイスのナイフ 36  ベルン印象 40
鱒 44        ルツェルンの風 48
山の涙 52      古城 シヨン城 54
北への旅 58     裏見の滝 64
 Vの章
裏庭の夏 68     秋の掌 74
空蝉 80       野 82
夢猫 86       海の時間 90
やまぼうしを 目じるしに 94
オムレツの日 98   蜻蛉玉 102
ぽとん 106
 あとがき 110



 こいにょうぼう

深い谷川から引きこまれる清水は枯れたことがない
泉水には 体長三尺はあろうかという錦鯉が二十匹あま
り飼われていて ときおり尾鰭でするどく水面を叩く音
が座敷までとどく
中でも純白の胴体に炎のような紅い紋様を背負った鯉は
何かを訴えるように激しく身をくねらせ 全身で水を打
つのだった

この鮭が いつから泉水に棲みついたのかは誰も知らず
気がついた時には岩陰にゆらりと居た 誰かが黙って泉
水に放したらしい ただ放した者が誰なのかは家の者た
ちはうすうす気がついていた 二年ほど前に雇われた辰
の仕業だと
村の尋常小学校を出て すぐに丁稚奉公にやられた辰は
そのまま長いこと行方知れずだったが 二年前ふらりと
村に舞いもどり 親戚の口利きで住み込んだ
いっとき博多のあたりで身を固めたらしいと噂は聞いた
が 村に戻ってきたときは一人で 風呂敷包みひとつっ
きりの粗末な身なりからは そんな気配は微塵も感じら
れなかった

長い梅雨が終わると 泉水の掃除をするのが習わしで
雇い人総出で水を汲み出し水位を下げ 鯉を池の隅に追
い込む たいていの鯉はすぐに覚悟を決め 温和しく男
たちに抱きかかえられて水桶の中に移されるが その白
地に紅の鯉だけは仕舞いまで逃げ回り 尾鰭を振り鱗を
散らして逆らう なのに辰が近寄ると 待っていたかの
ように足もとに寄ってくる そして腕を差しだせば 自
分からその中に入ってくるのだった

あれは辰の鯉女房だと誰もが言った 博多から連れてき
たに違いないと茶化せば 辰は逆らうこともなく口もと
だけでうすく笑った

滝山の杉の伐り出しの日 斜面を滑り落ちた杉の大木に
巻き込まれて辰が死んだ ささやかな内輪の葬儀が終っ
た夜 泉水からは何時になく水面を叩く音がつづいて
初霜の降りた翌朝 辰の鯉女房は 水面に青白い腹を浮
かべていた

 40年余り詩を書いてきたという著者の第7詩集になるようです。紀行詩、生活の詩と安定した作風が伝わる詩集です。紹介したのは「ささやかでも健気に生きる者たちの、いとおしく美しい瞬間を散文詩とした」(あとがき)Tの章の詩で、巻頭作品です。民話のような佇まいの中に「辰」という人間が生き生きと描かれていると思います。恋女房≠ネらぬ「鯉女房」が妖しい魅力で迫ってきます。このような作品はなかなか書けるものではありません。著者の力量の成せる技と拝読しました。



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