きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.11.04 仙台市内




2006.12.13(水)


 都内に出かけない谷間の日。特に予定がなく、終日いただいた本を読んで過ごしました。



二人紙『青金新聞』6号
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2006.11.30 群馬県高崎市
金井裕美子氏発行 非売品

<目次>
今月のお題−芥川賞を読む
 インディーズって何者?/青木幹枝
 候補作を読んで思ったこと/金井裕美子
古書をめぐる顛末(3)/青木幹枝
詩 撮影/金井裕美子



 撮影/金井裕美子

えのころ草がくすぐるので
秋風の中でくしゃみをした

なくしたカメラのシャッターを切る音が
とおくのほうから聞こえてくる

いつでもだれかが
何かを写しとろうとしているのだろう

ファインダーの中で
夢をみるのかもしれない

現像されたがっていたのは
わたしの姿をかりたまぼろしの馬?

群れから離れたさびしい馬は
かかとを上げて歩く癖があった

若いバネのきいた背骨
ゆうずうのきかない聴覚

鈍色
(にび)のたてがみ 鈍色(にび)のひずめ
あの日の怒り あの日のかなしみ

いてもたってもいられずに
夏草の原野を疾走していった何かを

 写真を撮るということは「ファインダーの中で/夢をみるのかもしれ」ませんね。「まぼろしの馬」は「わたし」の内面のことですが「ゆうずうのきかない聴覚」というフレーズの自嘲がよく効いていると思います。「いてもたってもいられずに/夏草の原野を疾走していった何かを」「撮影」しようとした青春時代(今もお若いかもしれず、叱られるかもしれませんが)の鬱屈が良く伝わってきます。それにしても写真は、やはり「現像」。デジカメのプリントアウトではサマになりません。時代の中に留めておかなくてはいけないものについてまで考えさせられた作品です。



個人誌『一軒家』15号
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2007.1.1 香川県木田郡三木町
丸山全友氏発行 非売品

<目次>
お客様の作品
随筆
今を生きる/森沢繁雄 1          和也君のアサガオ/宮脇欣子 4
白いシクラメン/中井久子 5        さらば夏よ=^内藤ヒロ 6
落語で俳句を味わい初笑い/田島伸夫 7   こいしろ駅*髦b/池田みち 9
甘酒/吉原たまき 10

春への使い/窪田幸治 11          雑詠/戸田厚子 11
デート/中原未知 12            冬の諏訪湖/吉村悟一 13
幸福の値段/星 清彦 13          星屑のセレナーデ/友里ゆり 14
遥かな道/丹治計二 14           濃霧/佐藤暁美 15
童話
昔のおばあさん達/星野歌子 15       川から流れてきた子/森ミズエ 17

檸檬水/成見歳広 19            聖母/筒井ひろ子 19
いのち/吉田博子 20
短篇小説
叔母の秋/小山智子 20           切符/角田 博 22

生かされて/高橋智恵子 24         悲しみの青い服/高崎一郎 25
ゆうやけ/内藤ヒロ 25           笑う月/宇賀谷妙 26
菱の実/小島寿美子 26           もくせいの花/山上草花 27
ねこはねこのうえにねこをつくらず/飯塚真 27 箸のふるさと/小山智子 28
翌日/角田 縛 28             秋の夜/沢野 啓 29
玉ねぎ/大山久子 29            ジャンケンポン/吉原たまき 29
俳句
中井久子 30                山上草花 30
川柳
川西一男 30                徳間育男 30
高橋智恵子 31
短歌
まだ浅き春なれど/友里ゆり 31       山上草花 31
一軒家に寄せられた本より
歌集「花愁灯」/寒川靖子 31         洋服職人の詩/篠永哲一 32
詩集「雪の陽炎」/寒川靖子 33
全友の作品
短編小説 国境物語 33

耕運 36                  不器用 37
自慢 37                  争い 37
代償 38                  焼却 38
身辺記
冬の朝 38                 高仙山を望む 40



 幸福の値段/星 清彦

帰り際を狙っていたかのように
携帯電話に連絡が入った
漫画本を買ってきて欲しいと子どもが云う
妻に替わると
風邪気味だから栄養剤を買ってきてと云う
帰り道の途中である
断わる材料が見つからない

財布の中身は毎日
妻が補充してくれる
何年経っても三千円である
スーパーで漫画本と栄養剤を買うと
残りは甚だ心細い
不甲斐なくも硬貨ばかりである
だが 別段困る訳でもなく
私は余裕を決め込んでいる

ふと見ると
売り場の一角を占領している『冬物処分市』
「どれも千円 どれも千円」
残りが多いせいか
売り子はやけになったような声
今晩の食事の用意に来た奥様方が
するするっと 其処に群れる

この頃トシのせいか
妻の着ているものが
地味になってきたような気がする
蛍光色のフリースなども着て欲しい
買ってやろうと思ったが
硬貨ばかりでは仕方がない
そこへ力の籠もった甲高い声で
「物によっては三割引き」

妻は明日
私の父母の介護にこの服を着て行くと云う
喜んでくれるのはいいのだが
久しぶりに買ってあげた服の値段が
七百円とは 何とも複雑である
たった七百円で幸せな気分になれるほどの
安物ばかりしか与えられなかった日常
幸せに値段があるとしたら
ウチは隋分と安いんだろうね
喜ばれることで
余計に寂しい気持ちになっていく
だけどね
おばさんたちの列に並ぶのも
結構は恥ずかしかったんだよ

 最終連が佳いですね。「幸せに値段があるとしたら/ウチは隋分と安いんだろうね」というフレーズには、金額ではないんではないでしょうか、と言いたいです。月並みな言葉ですが、「おばさんたちの列に並」んだという「私」の月並みでない行動に敬意を表して、です。それにしても「妻の着ているものが/地味になってきたような気がする」と「妻」を見ている眼、これも良いですね。「蛍光色のフリースなども着て欲しい」なんて、私は一度も思ったことがありません。己の淡白さにも気付かされた作品であります。「幸せの値段」、ちょっと考えなくてはいけないなと感じました。



細井明美氏詩集『二弦琴』
21世紀詩人叢書・第U期24
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2006.12.20 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊 2000円+税

<目次>
文庫本 6                 愛 8
あのキラキラ光るのは 10          人魚伝説 12
ケシ 16                  古着 20
作文『鈴木商店』 24            ゴミの日 28
ボクシング 32               ババの力 36
霊車 40                  悔恨 42
野イバラ 44                モガリ橋 46
同衾小説 48                海岸通り 52
草原の村 56                さびしいアルバム 60
青年 64                  聖母子 68
ジェンダーの社会学 72           授業 76
秋の浜辺 82                セミ 86
のどかなおしゃべり 90           タスハンの丘 94
愛犬 98                  詩人は殺されたのか 102
栞 中村不二夫



 ゴミの日

明日はゴミの日だ
ゴミを出すときは分別をしなくてはならない
不燃ブツ可燃ブツといって
ゴミのネンブツを唱えたりする
燃えるか燃えないかといえば
本当はゴミは全部燃えるのだ
分別に意味はないが分けてないと
出した人の家の前に返しにくる人がいる
ゴミの社会的資質を見抜いているのだ

明日はゴミの日だ
清掃局の車は朝早く来るので
夜のうちに出してしまおうか
闇の中でもカルシウム入りのポリ袋はガサガサ音がする
ゴミ置き場には大きな張り紙がある
《ゴミは決められた日の朝出してください
猫やカラスが散らかして困ります》

でも猫やカラスが散らかして困るからではないのだ
近所の人が近所であることが許せないのだ
隣の家がウチを許容していないのをよく知っているから
隣が公道の端を使うことが許せないのだ
だからウチも隣を許さない
不寛容の等価交換なのだ

ゴミの日は
良識で隣近所が団結して
規範からはずれた人を責める日だ
ブンベツというフンベツで
地域共同体の成員であるかをためす政治的な日
必ず社会的な制裁のある恐ろしい日

幸せな日や不幸せな日は
やって来るかもしれないし来ないかもしれない
だがゴミの日は必ずやってくる
誰かが死んでその人生を完結する
通夜があって葬式があっても
次の日はゴミの日だ

 著者の第3詩集のようです。紹介した作品は、特に「ゴミの日は/良識で隣近所が団結して/規範からはずれた人を責める日だ」というフレーズを面白く拝読しました。普段は「不寛容の等価交換」であるのに、ゴミの日だけは一致団結して共同の敵≠叩く。なにやら政治の世界を彷彿とさせます。国内問題に行き詰ると戦争をして外敵に国民の眼を向けさせる…。一昔前の理屈ですが、それが一般化しているのかもしれません。「本当はゴミは全部燃えるのだ」と意識しながらも「通夜があって葬式があっても/次の日はゴミの日だ」と、何より大事な日と認識せざるを得ない社会生活。そこを鋭く抉る作品であり、そういう視点があふれた面白い作品が多い詩集でした。



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