きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2006.11.04 仙台市内 |
2006.12.16(土)
特に予定のない日。いただいた本を読んで過ごしました。
○小田切清光氏詩集『隣人』 |
2005.9.22 東京都東村山市 水仁舎刊 3000円+税 |
<目次>
隣人
水の流れと 12 おむすび 14
路傍の人 16 コーヒークダサイ 18
未着 20 体温 22
玉蜀黍 24 コチョコチョ 26
人間再会 28 社歌 30
蜩 32 老人 34
道 36 失題 38
お手(てて)つないで40 少年小詩集(犬・バースデー・ブランコ・ひとりっ子・ゆめ) 42
閻魔吠笑 48 一命 50
晴天 54 今日と明日 56
森神(もりがみ) 58 隣人 60
合唱詩集
森−宗像 和作曲 64
風の島唄−かぜのくにうた−鈴木憲夫作曲 68
新潟県立巻総合高等学校校歌−小山章三作曲 70
うたのあとがき
題字 小田切清光
路傍の人
師走の風の
吹きつける歩道の隅に
あなたは座っていた
頭を深くさげ
脇に段ボールの切れ端を置いて
そこにはマジック・インキで
書いてあった
どうすることも
できなくなりました
たすけてください
以前あなたと
どこかで擦(す)れ違っていたかも知れない
ぼくはポケットに手を入れ
さっきの買い物の釣銭をさぐる
一〇〇円玉ふたつ
そっと段ボールの上に置く
妻子はないのか
親は 兄弟は
寒くないか
足は痛くないか
あした そこにぼくが
もしかして
……帰宅し
ガス・ストーブをカチンと点火した
そのとき
胸につまっていた熱い塊(かたまり)が
目頭にはじけ飛び 心で叫んだ
くじけるな
まけるなよ
人間味のあふれる詩集です。その中でも特徴的な「路傍の人」を紹介してみました。見ず知らずの「あなた」と「どこかで擦れ違っていたかも知れない」と身に近づける優しさに敬服します。最終連の「ガス・ストーブをカチンと点火した」瞬間の「胸につまっていた熱い塊が/目頭にはじけ飛」んだ心根に感動しました。「 くじけるな/ まけるなよ」は「あなた」への言葉であり自分自身への言葉でもありましょう。平易な詩句で人間の深さを表現した佳品だと思いました。
○詩とエッセイ『沙漠』244号 |
2006.11.10 福岡県行橋市 沙漠詩人集団事務局・麻生久氏発行 300円 |
<目次>
■詩
福田良子 3 語る 中原歓子 4 高句麗の壺
河上 鴨 5 喜八の墓 坪井勝男 6 風が吹く
平田真寿 6 Xmas Eve 柳生じゅん子 8 鈴虫(2)
原田暎子 9 もう忘れたの 木村千恵子 10 老い二つ
宍戸節子 11 ちょっと違うだけで (8)ヨーグルト
横山令子 12 老女と八月 坂本梧朗 13 幻影(ファントーム)
椎名美知子 14 遠い祭り 藤川裕子 15 今ここに
菅沼一夫 15 不景気今昔 犬童かつよ 16 十年祭
織田修二 17 ガラス職人 河野正彦 17 いじめっ子と いじめられっ子の関係
千々和久幸 19 時間指定 秋田文子 19 鳴滝様
尾形秋夫 21 YS11 風間美樹 22 ADIEU(アデュー)
柴田康弘 23 秋の組合 麻生 久 24 軟弱の徒
■「門」との合評交流会・参加作品
林 仙月 25 ごっこ遊び 市丸嗣郎 26 座る
猪俣アサ子 27 うしろ 樋口タエ子 28 うまれる
■書評
麻生 久 29 『福岡県詩集2006』寸評(2) カット 麻生 久
ちょっと違うだけで (8)ヨーグルト/宍戸節子
乳酸菌が
乳糖を
乳酸に代えていく
乳酸が増えると
牛乳のなかの乳たんぱく質カゼインは
酸性になる
少しずつ少し少しと酸が増えてくると
カゼインは等電点になっていく
たんぱく質から
プラスとマイナスの電荷が溶け出し
つりあってゼロになる等電点で
プラスにもマイナスにも心が動かなくなったとき
たんぱく質は
等電点沈殿をおこし
牛乳は固形物(カード)となる
「またパンの袋があけたままじゃないの。
パンがカチカチンよ」
「部屋を出るときは暖房は消してね」
「こんな所に靴下を置かないでよ」
口を開けるたびに
ふたりのなかに
乳酸が増えていく
マイナスヘと傾く電荷を
我慢と寛容でプラスヘと戻していた心が
等電点に達したとき
つれあいは固くかたまって
カードになった
「ヨーグルト」の製法で必要な「等電点沈殿」を夫婦に見立てた面白い作品です。「マイナスヘと傾く電荷を/我慢と寛容でプラスヘと戻していた心」という詩語が佳いですね。化学は非常に詩的なものだ、とは私の持論ですが、それを見事に具象化してくれた作品だと思います。「ちょっと違うだけで」こんなにも化学も詩も面白くなるのかと感心しました。
○詩誌『光芒』58号 |
2006.12.10 千葉県茂原市 斎藤正敏氏発行 800円 |
<目次>
◇詩作品
川島 洋/ひぐらし 6 山佐木進/おいてけ街道 8
松下和夫/影という黒装束−怨念という炎について− 10
松下和夫/万歩計小景 12 小池肇三/ランタナの花が咲いた 14
鈴木豊志夫/日記抄・九月十一日(月) 16 立川英明/拾遺・小品 18
植木信子/風のたつころ 22 植木信子/川はながれて 24
中村節子/帰っていく 26 本田和也/ぐらんばかんす 29
佐野千穂子/悼み蝉 32 山田ひさ子/さっちやん 35
武田 健/菊 38 阿賀 猥/二一世紀のミミズ 及び 蛇 40
帆足みゆき/酔いもせず 42 吉川純子/夏の終わりに 44
藤井章子/真のあとさき46 池山吉彬/鍋のむこう側 48
吉田博哉/画家50
◇特集・松下和夫の世界
石村柳三/『そこにあるもの』を繙く−人間のやさしさをもつ精神の根源を問う系譜 52
奥 重機/詩集『ひとりごと』−古淡の風格あふれる詩集 54
吉田博哉/特集『ひとりごと』についての独り言 56
池山吉彬/詩集『ひとりごと』をめぐって−松下和夫試論− 58
川島 洋/詩集『ひとりごと』−松下和夫の新たな地平 60
本田和也/詩集『ひとりごと』について 61
植木信子/松下和夫さん 64
◇エッセイ
高橋 馨/続・名著再読・その5 孤独の旋律と異和感について−サンテクジュペリ『星の王子さま』を読む− 66
松下和夫/インターネット・親知らず考 72
山田ひさ子/忘れ得ぬ人(7) 74
神尾加代子/明るい道で木の切り株につまづく 76
◇翻訳詩
本田和也/ジェイムズ・ジョイスの詩 79
水崎野里子/イーヴァン・ボーランドの詩 82
◇詩作品
清水博司/案山子 84. 石村柳三/続寒椿 87
奥 重機/同級会 90. 奥 重機/エノラ・ゲイ 92
小関 守/熊公園 94. 山形栄子/治していかねばならない 96
青野 忍/あの空の外壁 97. 横森光夫/山を登ること 100
金屋敷文代/点線の夜 102 水崎野里子/みんなとカラオケ 105
川又侑子/祈り 108 川又侑子/秋 110
神尾加代子/蝶道 112 神尾加代子/おじさん 114
高橋文雄/みんなのもの 118 みきとおる/大連再会 120
石橋満寿男/運勢 126 篠原義男/散歩 129
篠原義男/言葉 130 篠原義男/山頭火 131
きし・すすむ/野の花 132 きし・すすむ/聞くということ 134
佐藤鶴麿/長篇詩『悪の光』の使途たち−ポール・ティベッツ氏に− 137
斎藤正敏/まむしはまむし 142
◇講演記録
本田和也/ジョイス詩の翻訳を通して 144
◇言葉の広場
石村柳三/勝れた生半と解現について−高橋新吉と村野四郎の詩精神に流露するもの 148
高橋 馨/校正ミスについて 153
◇光芒図書室
鈴木豊志夫/山佐木進『ひぐらし三重奏』を読む 154
◇詩集評
T 斉藤正敏 158 U 池山吉彬 165
V 本田和也 169
◇詩誌評
T 山佐木進 175 U 鈴木豊志夫 176
◇受贈深謝 183
◇詩の窓 187
【選者】帆足みゆき・吉川純子・斉藤正敏
松本関治/選別 187 御園干賀子/ハンカチ 187
金網あき子/春よ来い 188 阿部 匠/いいほうれん草 188
さとう義江/桃の使者 189 大曽根満代/天使ラファエルへの手紙 189
星野 薫/サファリパーク−同じ地上で生きている− 190
越川泰臣/生きている 190 中山 操/無念 191
◇同人の近刊一覧 192
◇ご案内
三隅浩詩集『痕跡』195 草原舎の近刊詩集 196
茂原詩の教室 197 『広報もばら』の詩作品募集 197
光芒の会ご案内 197
◇編集後記 198 <表紙絵/内海 泰>
万歩計小景/松下和夫
むかし腰弁というコトバがあって
私もずい分長い間世話になったが
この万歩計を腰にするのも
正に人生の迷路を踏破するためらしい
健康でありたいという祈りやねがいが
一日の歩く距離で決まるわけでもないが
そんな心の姿勢が大切ということか
しかし歩いても歩いても
まだまだと腰のあたりでつぶやかれて
はるかに遠くまで来たように思うのだが
山を越え 谷を渡り
風景の中の風景になって
まるでこの地球には
自分以外に
太陽と月と星たちだけしか存在しないように
ねてもさめても
ただひたすら歩いてきたのです
時間という暗号で書かれた地図をたよりに
わきめもふらず
そしていつか
向うから歩いてくる私に
どこかで出会って
「やあ今日は 元気かね」と
声をかけ合うことがあるかのように
もっともその時
私が私であることが分かればの話ですが
『光芒』は創刊以来特集≠一度しか組んだことがないそうで、今回は2回目として「松下和夫の世界」を企画したとのことでした。松下和夫という詩人をもっと知ってほしいとの同人の願いで組まれたようです。それほど慕われている人の作品だから、というわけではありませんが、松下さんの「万歩計小景」を紹介してみました。
まず「そんな心の姿勢が大切ということか」というフレーズに、作者の心の姿勢≠感じます。「風景の中の風景になって」というフレーズも佳いですね。ここにも自然体の作者が浮かび上がります。最終連の自嘲も良く効いています。癖のない視線、それでいて深い洞察力を感じさせる作品だと思いました。
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