きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.11.04 仙台市内




2006.12.20(水)


 夕方から東京・田無の小川英晴邸に行ってきました。私は8月の日本詩人クラブ詩書画展の担当理事でしたが、美術関係のことはトンと判らないので小川英晴さんに展示の指示をお願いした経緯があります。その御礼の会を小人数でやっらどうだという進言が理事仲間よりあり、今日の会となったものです。そういうことに私は全々気配りがないので、進言してくれた理事には感謝の申しようもありません。

 本当は田無の駅近くの居酒屋で、ということになっていたのですが、アレヨアレヨという間に小川邸に引き連りこまれてしまいました(^^; 奥さんに迷惑を掛けたくなかったので近くの居酒屋で、ということにしたはずだったのですが、結局ご馳走になって、自慢のオーディオルームでピンク・フロイドの「マネー」も聴かせてもらって、何をしに行ったのか分からなくなってしまいました。でも、オーディオはさすがに良かったなぁ。音がスカッと抜けていて気持良かったです。いろいろ聞いてみると、配線の振動を抑えたり電源を工夫したりしているそうです。うーん、そこまでやらないとあの音は出ないのか! 3万円のミニコンポでは無理だわな(^^;

 今、あのオーディオで聴いてみたいのはピンク・フロイドの「アトム・ハート・マザー」と「エコーズ」。今度は自分のCDを持って行って聴かせてもらうことを約束して、二次会は近くの焼き鳥屋に向かいました。やっと御礼の会らしくなりました。棚にTVが置いてあるカウンターだけの焼き鳥屋で、良い雰囲気でした。マッコリがあったのでそれを頼みましたけど、紙パック入りなんですね、初めて知りました。でも味は大丈夫。神楽坂の高級(でもないか)韓国料理店で呑むマッコリと大差ありませんでした。
 音の余韻があって、好きな酒を呑んで、田無の夜も良かったです。いつもより早めに帰って、醒めた頭でまたいただいた本を読んで過ごしました。



小川英晴氏詩集
『クラシックな回想』
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1993.12.20 東京都豊島区
舷燈社刊 3000円

<目次>
第一章 風の楽譜
木 12        観察 14
鳥 16        風の楽譜 18
消去 20       回帰 22
森の寓話 24     瞑想 26
第二章 俯瞰
俯瞰 30       手 32
所在 34       青空の下 36
樹木 38       風 40
回想 42       忘れていた風景 44
永遠 46
第三章 風化
風化 50       沈黙 52
走められた場所 54  瞑目 56
残照 60       窓 62
消滅への軌跡 66   丘 70



 回想

この街では
風は未来から
過去に向かって流れている
老いやすい夢を
夕ぐれの街に憩わせて
木は幾千年の想いを抱いて眠り
そして街は
時々想いだしたように
クラシックな回想に耽りながら
中世の鳥を
街ゆく人の心の翳に
ひっそりと休ませる

 小川邸では値段も付けられないような限定版の詩画集を見せてもらったりしていましたが、ヒョイと手渡されたのがこの本です。扉には「安徳瑛氏に捧げる」とありました。凾の装幀も安徳画伯で、口絵に2枚の絵も入っている豪華本です。この本の刊行は1993年。安徳瑛は1996年に55歳で亡くなっていますから、不謹慎ながらこの本の価値も上がるだろうと思います。

 紹介した作品には「クラシックな回想に耽りながら」というフレーズがあり、ここからタイトルを採ったものと思われます。「風は未来から/過去に向かって流れている」「この街では」人は「老いやすい」のかもしれません。どこか「中世」的な雰囲気のする作品ですが、これが小川詩の本領とも云えましょう。安徳瑛の絵とともに現代のめまぐるしさを忘れさせてくれる作品だと思いました。



砂東英美子氏詩集『恋文』
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2005.8.15 仙台市青葉区
南北社刊 2000円+税

<目次>
 
藍色のバラード 8             伽藍の窓 12
解体 16                  風の炎(ほむら) 20
翔 24                   時空の窓 28
晩秋 32                  歳月 36
つむじ風 40                残照 44
 **
幻蝶 48                  うどんげの花 52
橋姫幻想 56                花山椒 60
椿 64                   恋文――寺山修司記念館―― 68
雨の海廊 72                風の剣(つるぎ) 76
火魂――土門拳記念館―― 82        心平の天――草野心乎記念文学館―― 86
 ***
檜枝岐歌舞伎 92              遠野今昔語り 96
風の盆 102
.                西馬音内幻夜 106
銀の擢 110
.                骨 114
海の遺言 118

出会いと宇宙 今入 惇 132
.        水と鏡と――あとがきにかえて―― 136



 歳月

青空の下
花を抱えていそぐ
駅構内の花活けの日であった
往来しげきなかだが
鋏を手にすると音は消えた

ふと顔をあげた私に
思いがけない人が近づいてくる
何年ぶりいや何十年ぶりかと
立木のようになった私のそばを
その人は気づかずにすりぬけた

雲も風も
若かったにちがいない
たとえば木洩れ陽踊る二口峡谷
たとえば雪の松島朱い橋
ころころとむしゃぶりついたパンとハム

時はいま
あざやかに蘇り そして
鋏に切られでもしたように
吹きとんだ

駅は始発であり終着で
綾なす縮図の空間だ
人知れずいけられた花は
誰の目にとどめられることだろう
わずか三日の春である

 「駅構内」の一輪挿しに「花活け」されているのはときどき見かける光景ですが、実際にそういうことをやっている人の作品を初めて拝見しました。もっともこの場合一輪挿しなんてものではなくて、「花活け」とありますようにちゃんとした生け花なのかもしれません。そんな「花活け」の場面で出合った「思いがけない人」。それが「あざやかに蘇り そして/鋏に切られでもしたように/吹きとんだ」とする第4連は見事な表現だと思います。最終連の「わずか三日の春である」という思い切りも佳いですね。著者の矜持を感じさせる作品でした。



詩誌『SPACE』71号
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2007.1.1 高知県高知市
大家氏方・SPACEの会発行 非売品

<目次>

私の島は(その一)/八木幹夫 2       昼の自由な愛/豊原清明 4
雨音/あきかわ真夕 7           みえない海/ヤマモトリツコ 10
否/かわじまさよ 12            millennium sonetto/広田 泰 14
槇山川伝説(七)/宮地たえこ 16
 §
台所詩(8)中上哲夫 32           比喩でなく/嵯峨恵子 34
ヒヤシンス/山川久三 38          うチん子/内田紀久子 40
ぬえ 他1編/安田藤次郎 41        地球岬/中原繁博 44
渦の町/いずみしづ 46           夕暮には まだはやい/武内宏城 48
 §
念仏のごとく/南原充士 62         百匁柿/指田 一 64
翻訳/大家正志 66             あかあかあかあかあかの月/弘井 正 68
浴槽にて/片岡千歳 70           小春日/さかいたもつ 72
夜明けのゆめ/山下千恵子 74        詩篇『坂』/阿部博好 76
五丁目電停札所/萱野笛子 79
詩記 真紅の寒木瓜が咲いたよ/山崎詩織 50
エッセイ
とびたつ雉子のほろろとぞなく/さたけまさえ 52
鉤裂きを縫いながら…/山沖素子 54
今年のカボチャ/片岡千歳 56
小説 桜/澤田智恵 58
評論 連載W『<個我意識と詩>の様相』〜日本人の自我意識と詩(4)〜/内田収省 82
往復メール 弘井正×南原充士 18
編集雑記 98
表紙写真 無題(制作・指田一)2006年 板、枝、南京袋、着物地、釣具ほか 70×20×15



 比喩でなく/嵯峨恵子

逃げ出すんですか 今度も
もうわたしには耐えらないって
さっさとカバンも傘も投げ出し
安全な紙の城に帰っていく
言葉ならどうにでも
何とでもなるでしょう
気持ち一つ伝えることができなくたって
自分しか愛せない人が
他人を愛せるでしょうか
王は孤独のうちに老いるべきです
後継者など探すことなく
ひとり滅びるべきです
その冠の輝きだけが博物館に残る
後世の人びとは感嘆するでしょう
黄金は墓の中でもさびないのだから
言葉は体より頑なで強いものでしょうか
言葉は心より鋭く突き刺せるものでしょうか
見なかったというのなら
目はつぶしたらいい
聞きたくないというのなら
耳などやぶればいい
あなたの咎は
したくでもできなかった
助けたくとも助けられなかったのではありません
あなたの罪は
出来もしないことを出来るかのように
言葉で語ったこと
よせばいいのに
城から出てみなに語りかけたこと
傾きかけた壁に独り言を刻み続ける仕事だけを
続けていればよかった
それだってどこかから誰かから盗んだもの
あなたの頭が考え出した道具など
たかがしれています
みなの歓声をあびることは喜びでしたか
あなたにとって他人は敵か召使だけ
どちらにせよあなたを愛するわけはない
言葉は羽よりも遠くに飛んでいくことができます
言葉は碇よりも深く沈んでしまうことができます
比喩では
何だってできる?
涙も流さず悲しんでみせる言葉
血も流さず苦しんでみせる言葉
あなたが皿に内臓を出して並べてみせるのも
紙の城の中でのことです
みなの前では
シャツ一枚脱いでみせたことがありません
病弱な王妃もいりません
狂った王子もいりません
王はひとりで滅びるべきです
誰に裁かれることもなく
あなたは歩きまわる
閉ざされた石と石と石の部屋
抽象の花が咲き象徴の鳥の飛びまわる庭
あなたの作った城は残るでしょう
それらの数と素晴らしい出来栄えを
人びとは称えるでしょう
でもそれはあなたを理解してというわけではない
覚えておいてほしい
あなたは見ようとしなかった
あなたは聞こうとしなかった
あなたの愛するねじまがった美しい言葉
それ以外はけっして

 「比喩でなく」というタイトルですから、この詩は何の比喩かと考えるのは無粋というものですけど、やはり詩≠フ喩でしょうね。そして「比喩でなく」詩を創りなさい、と採ることもできるでしょう。それにしても「安全な紙の城に帰っていく」、「あなたの罪は/出来もしないことを出来るかのように/言葉で語ったこと」、「それだってどこかから誰かから盗んだもの/あなたの頭が考え出した道具など/たかがしれています」などのフレーズには魅了されます。詩作の限界をピシャリと言われたような気になりました。最終部の「あなたの愛するねじまがった美しい言葉/それ以外はけっして」「あなたは見ようとしなかった/あなたは聞こうとしなかった」と突き付けられた言葉も見事。この詩に応えられる作品を生み出すのが本当の詩人なんだろうと思います。



隔月刊 高崎現代詩の会・会誌
『Scramble』85号
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2006.12.17 群馬県高崎市
平方秀夫氏発行 非売品

<おもな記事>
○「読み」ということ…新延 拳 1
○私の好きな詩 チャールズ・シミックの不思議な魅力(5)…宮崎 清 2
○会員の詩…3
 横山慎一/福田 誠/遠藤草人/吉田幸恵/芝 基紘/鈴木宏幸/渡辺慧介/斎藤亮子
○受賞紹介…8
○会計案内/原稿締切り/訃報…8
○編集後記…8



 ごみ箱/鈴木宏幸

ベッドに寝ころんだまま
部屋の片すみのごみ箱へ
ストライク狙って放り投げる

鼻をかんだティッシュ
くすりの包み紙
書きまちがえたメモ紙

それらを無造作に丸めて
投げつけるでもなく
投げやりでもなく

観衆はだれもいないのだから
投げたあとの姶末など
まったく気にもせず

深夜のトイレに行くとき
的から外れたほとんどの紙くずを
いつかの失敗を拾い上げるように
ひとつひとつ入れる

 最終連の「いつかの失敗を拾い上げるように」というフレーズがよく効いていると思います。私にも「無造作に丸めて/投げつけるでもなく/投げやりでもなく」捨て去った「失敗」は数々ありますけど、それを「拾い上げる」という発想を持ったことがありません。ここに作者の前向きな姿勢を見る思いです。短い詩で、日常の何気ない、どこにでもある風景ですけど、書き方によってこうも救われるのかと敬服した作品です。



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