きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2006.11.04 仙台市内 |
2006.12.27(水)
暮も押し迫って、年賀状をとっくに出しておかなければいけない時期ですが、1枚も出来ていません(^^; 退職した今年こそは余裕をもって年賀状を出せると思ったんですが、やっぱり無理なようです。もちろんちゃんと買って用意はしてあります。今回もいただいた年賀状を見て、あわてて出すという恒例のパターンだなぁ。そういうわけで、お正月になって、村山から年賀状が来ない!とお怒りにならないでください。1日か2日の丸一日を使って書き上げます。ご海容のほどを…。
○詩誌『COAL SACK』56号 |
2006.12.25 千葉県柏市 コールサック社・鈴木比佐雄氏発行 700円 |
<目次>
[詩]
日本の哲学者について/浜田知章 2 忘れ音/山本十四尾 3
トンネルが近づくと、他一篇/山本倫子 4 生きるための遁走曲/崔 龍源 6
科学狂時代、エネルギー/吉田義昭 9 DDTとPCB、万全のコメ/岡 隆夫 12
バッシング列伝/佐相憲一 16 三万回の朝/山本聖子 17
静物/崎村久邦 18 天の余白/溝口 章 19
ルーシーとアンサリ/朝倉宏哉 20 静かな午後/河野俊一 21
トリッカーズの城塞/辻元よしふみ 22 スプーン/石川和広 23
伝首/岡崎 葉 24 うつくしい森/淺山泰美 25
そのひと/大掛史子 26 首里城正殿(二)/平原比呂子 27
母は夕陽になる、妹よ/横田英子 28 マジック/倉田良成 30
影街/海埜今日子 31 新しい季節に/高田千尋 32
不良品/真田かずこ 32 子どものためのおばさんの詩/水埼野里子 33
母がうたう歌、他三篇/秋山泰則 34 女がうごく/李 美子 36
別れにラ・カンパネラ/石下典子 37 笑いながら行く(続)/山本泰生 38
オレは虫だ!/加藤 礁 40 相対性理論/大山真善美 41
十三夜/下村和子 42 シーラ カムイ/うおずみ千尋 43
着物姿でローザが/吉沢孝史 44 ちいさな不安/遠藤一夫 45
空を裂く青葉のように/杉本知政 47 俺のふる里/大原勝人 48
眠りながら、秋刀魚の身/葛原りょう 49 とりもの横丁/藤井優子 50
西川縁遠公園/鈴木比佐雄 51 無題、あるいは一つの追悼詩/尾内達也 52
[翻訳詩]
ベートーヴェンの遺作 ヴァレリー・アファナシエフ/尾内達也訳 53
鬼/鳴海英吉・水埼野里子訳 54 高炯烈アジア詩行
2/高炯烈・李 美子訳 56
[エッセイ、詩論]
幸福の電話/淺山泰美 59 具体性の詩学/倉田良成 60
詩考〜アイヌ民族との関りについて〜/港敦子
68 核廃絶に向けて……/水崎野里子 72
[書評、追悼文、詩論]
朝倉宏哉詩集『乳粥』/石村柳三 78 新川和江『詩の履歴書』/大掛史子 82
田口昭典『宮沢賢治と法華経について』・大崎二郎詩集『幻日記』/鈴木比佐雄 86
追悼・福田万里子詩作品抄・四篇 92 追悼 福田万里子さん/下村和子 96
追悼詩 返り花のように/鈴木比佐雄 99 『春と修羅』の誕生(6)/鈴木比佐雄 100
[特集 第三回鳴海英吉研究会全記録] 104
一部 記念講演 佐藤文夫、石村柳三、芳賀章内
二部 朗涜とスピーチ、三部シンポジウム
トンネルが近づくと/山本倫子
近鉄のアーバンライナーに乗ると
最後尾の車輌にもかかわらず
最前線の走行模様がわかる
弟別面のモニターテレビが
映し出す
あ トンネルだ もうすぐ入る
と思う間もなく突入する
短かいときも 長いときもある
あ またトンネル
目はスピードとともに先へ先へと
入口をとらえる目より
出口をとらえる日の方が素早いことに
気がついて わらってしまう
闇に入ったら出口を!
ひかりを!
終戦直前の硫黄島
島全体に張りめぐらされた網の目の
トンネル 地下壕
出口はあっても出られない
脱出を許されない闇のトンネル
兵士たちは入口も出口もおぼろになる
敵だけでなく
味方の上官が出口を封鎖する
死守せよ!
短かくて長いトンネルの闇
熱の闇 狂いの闇 人為の闇
出口を ひかりを
兵士たちの頭の中で明暗が
点滅したことだろう
とらえたい さし込むひかり
暗闇の玉砕!
わずかに生き残った人たちの暗闇は
短かい地下壕のトンネルより更に
はるかに長いトンネルだったに違いない
語らぬ闇 語らぬ重さ
アーバンライナーのように
スーイ スーイと抜け出せる
トンネルならいいけれど
出口が封鎖されるトンネルが
近づくとなれば もはやわらってはいられぬ
話題のクリント・イーストウッド監督映画「硫黄島からの手紙」は12月公開ですから、時間的に見てこの作品は映画を観たあとではないはずですが、よく内容を捉まえていると思います。映画の元となった本を読んでいるのかもしれませんね。
「近鉄」の「トンネル」と「硫黄島」の「地下壕」をうまくダブらせた作品だと思います。私は映画を観たあとでこの作品に接していますから、余計にそう感じます。仮に作者が映画を観たあとでこの作品を書いたと仮定すると、おそらくプロットをなぞるだけの嫌味≠感じてしまうかもしれません。そうなっていないところに魅力があると思います。
やはり最終連が佳いですね。「出口が封鎖されるトンネル」は、今の日本と捉えたら考えすぎでしょうか。そこまでイメージさせる力を持った作品だと思いました。
○詩誌『複眼系』39号 |
2006.12.25 札幌市南区 ねぐんど詩社・佐藤孝氏発行 500円 |
<目次>
しごと…常田淑子…2 しらせ…常田淑子…4
こく暑…常田淑子…5 胃がん検診…高橋淳子…6
春の音…高橋淳子…8 春…高橋淳子…9
至福の時…高橋淳子…10 江戸の おもしろ…米谷文佳…11
ギラギラ…米谷文佳…12 初めて…米谷文佳…13
泡…米谷文佳…14 乾杯…米谷文佳…15
影…米谷文佳…16 戻れない蟻…鈴木たかし…18
平成軍手考−古川善盛を偲んで−吉田徳夫…20 精神について…本庄英雄…22
艶姿…金崎 貢…24 ゆく春…金崎 頁…25
春雷…金崎 貢…26 道の驛…金崎 貢…27
困りもの…金崎 貢…28 柳…金崎 貢…29
ガセネタは通らない…金崎 貢…30 六月の河畔公園…佐藤 孝…32
踊る郵便ポスト…佐藤 孝…34 散乱する…佐藤 孝…36
一年、そして佐藤道子氏からのメッセージ…本庄英雄…38
後書…40
表紙写真「中島公園の初雪」佐藤 孝
平成軍手考−古川善盛を偲んで−/吉田徳夫
−定刻になってもバスの姿は見えない
時刻表はあくまで予定で、いつも待たされる停留所にも
どうやら吹く風は秋の気配である。
ふと、こぼれ咲きのコスモスの根元に捨てられた、片方の軍手が見えた。
……軍手、軍足、軍隊喇叭、それより何より軍人勅諭
いま手稲の山裾に傾く夕日に、零落の身晒す片方の軍手は、
軍国少年育ちの老書生の胸に、懐かしい軍歌の一節を思い出させてくれた。
〈ここは御国を何百里、離れて遠き満州の……〉
厭戦歌として扱われた軍歌「戦友」は、
〈赤い夕日に照らされて、友は、野末の石の下。〉以下、延々と続く
若き日、酔うと必ずこの歌を小声で口吟した古い詩友がいたが、
この年明けて間もなく、老樹凍裂の夜半に純朴無類の生涯を閉じた。
歴史暴走の昭和一桁前半、津軽生れの樺太育ち、陸軍士官学校卒業が出自。
「タコ部屋半生記」を出刊、詩集「鬼郷七番通」の後記に
青森から樺太まで、彷徨転居二十八の地名住所を付している。
〈雪の底を人があるく、雪の天に背を向けながら 雪に埋もれまいと人があるく〉。
「背からの声」と題したこの作品に、
いつも他人への言葉かけを大切に、病苦を抑えつつも、なお
明日へ歩む己自身を写し残している。
ようやくバスの姿が見えてくる。
いつか老書生は、片方の軍手を亡き友の形見としてバックに納めていた……。
市民図書館まで約二十分、乗客三名。昏れて何の変哲もない町並み
「故郷ってのは、心の底に張った根っこのようなもんだぅ。どこさなるかなぁ……」
津軽訛の故人の穏やかな顔が車窓に浮かんだ……。
そして微かではあるが葬列の喇叭の調べも……きこえてた たしかに
図書館のホールに数名の中学生が屯。
「どこの砂漠か調べなきゃあ」、「砂漠よ砂漠、あゝ砂漠。」などの喚声。
――そうか、今年は国際砂漠年である。
地球再生と軍手、そんなテーマが頭の中を過った。
すでに自然からの報復は始まっている。
「片方の軍手」から想起された「古い詩友」の回想ですが、「古川善盛」という方の人間性がよく出ていると思います。小道具としての「軍手」「喇叭」の扱いも見事で、うまく最終連へ繋いでいると云えましょう。「〈雪の底を人があるく、雪の天に背を向けながら 雪に埋もれまいと人があるく〉」という挿入詩も奏功していますし、最終連の「中学生」で将来の問題まで見据えています。過去・現在・未来と時間を大きく扱いながらもきちんと読ませるのは、構成力もさることながら作者の姿勢の正しさのあるのではないかと感じた作品です。
○詩誌『極光』6号 |
2006.8.20
札幌市西区 原子修氏方 極光の会・花井秀勝氏発行 1000円 |
<目次>
詩 水差し/鷲谷峰雄 2
詩論 墟拍の思想−谷川雁小論−/若宮明彦 4
詩
夜の海は鉄でできている/竹津健太郎/10 八月の父の行方/斉藤征義 14
爛熟の春/橋本征子 18 春の光/野村良雄 22
途上/渡会やよひ 26
詩論 言葉の共有は可能か?/こしばきこう 30
詩
兵士たちの失われた身体と時間から逃れ出て/谷崎眞澄 34
プール/田中聖海 38 ラムネ瓶/光城健悦 40
詩論 何故いま〈詩劇)なのか/原子 修 44
詩
いつでも出発できる朝のために/加藤茶津美 48
虚空の青/こしばきこう 50
言葉使用上の注意/清水恵子 52 始祖鳥/若宮明彦 54
独りだけの夜明け/原子 修 56
ラムネ瓶/光城健悦
俺は手相屋でね
男は焼鳥のハツをかじりながらカウンター越しに焼酎割りをさし
だす女の手を一瞥した
見てくれる?
商売だからタダって訳はどうも
焼酎割り三杯の現物支給で、どうかしら
(ラムネ玉上下の響きに催眠す
そうさなあ、今夜は財布が軽いから妥協するか
男は女の媚びに答えた
ここではラムネを氷箱に差し込んでいて、客はセルフで小銭とラ
ムネを交換する決まりなのだ
男は焼酎にラムネを注ぐ
(冷ラムネ竹馬の友の三回忌
奴?あいつは死んだよ。手相は両方の指を組んで、親指が下にな
る手で占うんだ。下の指に運気があるからね。奴は左手だった
(ラムネ泡夏雲の下ギラリ涼
死んだのは夏だったよ。おれと奴、まだ三十前だったからね
女は意識したのか
右の手のひらを力いっぱい開いた
焼酎三杯分だけだぜ。親指付け根の「金星丘」が張っている。こ
れは愛情不足で快楽好き。運命線は途切れ運気一休み。感情緑が
波うっているのは、男の気持ちを読み取るのが苦手だな
男は商売口調で淡々と続けた
五分か六分は当たってるわ
女は悋気したのか胸をゆすって眉を尖らせた
(ラムネ瓶兵馬俑如く立ちならぶ
男?それとも懐?――二つかな
半分、半分はカラツポと女は窪んだ声をかすれさせた
女は現物支給とコップを代えた
煙にまみれた天井に夏雲が走り、奴の顔が浮かんだ
三十すこし前、公園で奴とラムネを飲み肩をいからせ
岸壁で奴とラムネの瓶をすり合わせ
まだ半生にもならないと寂しい風に体をふらつかせた
奴は鋳物工だったが船乗りになりたいと岸壁に俺を誘ってね
そして男に定職はなく軒下で雨上がりを待つような明日任せで
二人はぼうふらのように
ふわふわ浮き沈みをしていた
男は皺だらけの中国服に下駄、バンダナ風の鉢巻きは最低だと
笑う女はいたが
奴が事故で死んでから
黄みどりの半月が心細く浮かんで消えないのだ
手相屋で商売していても
安い焼酎でひっそり酔っても
焦点の先に半月が途方に暮れて流れていく
(水光り夏蝶ひとつ浮き流れ
――仁義ってなんですか?
――半分、半分でひとつになる約束じゃないかな
厄介なことに
三日月は寂しいし満月は派手で、半月は半端で悪くない
そんな半端がこんなにも切ないとは
どっちの手で占っても「良い方、良い方」を左右から選んで納得
させるのさ、手相屋はね
男は力なく曖昧に笑うと
女をじっと見つめていた
「ぼうふらのように/ふわふわ浮き沈みをしていた」「二人」が回想という形で出てきますが、ああ、男同士だなと感じます。今の若い人にこういう感覚は判らないかもしれませんけど、私も「三十前」は「軒下で雨上がりを待つような明日任せで」生きていたように思います。仕事はありましたが精神的にはそういう世界を「おれと奴」は彷徨っていたのだと、この詩を読んで感じました。
途中に挿入されている句も佳いですね。特に「(ラムネ泡夏雲の下ギラリ涼」は、「ラムネ」が夏の定番だった時代を思い出させます。
(12月の部屋へ戻る)