きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.11.04 仙台市内




2006.12.28(木)


 一人暮らしをしている父親が、暮から正月に掛けて妹の家に泊まるというので迎えに行きました。妹は父親にとって長女、私は長男ですから、本来なら私の家で過ごしてもらうべきなのでしょうが、狭い(^^; うちに比べると妹の家は倍はあり、7人で暮らしていましたから一人ぐらい増えてもヘイキです。ま、せめて送り迎えだけは買ってやろうかという次第。
 感心したのは父親が手土産を買って行くと言い出したことです。私も親父の血を引いたせいか、そういうことは無頓着なんですが、まさか親父が言い出すとは思いもしませんでした。男同士ですから洒落た店など探しようもなく、やっぱりコンビニ。そこでさらに驚いたことに私の家の分まで買ったのです! まあ有難いことだけど、死期が近いのかな(^^;;;
 1週間ぐらい世話になるようです。人間の中で暮らすことが苦手で、80を過ぎても一人暮らしの方が良いと頑張ってる父親ですから、どこまで持つか判りません。案外2〜3日で根を上げて、帰る!と言い出すかもしれません。それはそれで良し、見守っていましょう。



吉久隆弘氏詩集
『メタセコイアが揺れている』
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2006.12.26 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊 2000円+税

<目次>
樟(くすのき)の森 6            渇 10
蚋(ぶよ) 14                スギナ 18 
夜盗虫(よとうむし) 20           水番 22
月下美人の光の尾 24            日照り雨 26
闇の尖端 28                花冷え 32
小荷物の中から 36             縁側の風 38
卒寿の母 40                朝陽のなかで 42
藁を燃やす煙 46              牛舎の女 50
春の模索 54                若葉を登る 56
午後の夢 58                夕陽の道 60
窓の風景 64                風花舞う 66
明日への約束 70              夜明けの雨 72
メタセコイアが揺れている 76        時のかたち 80
転生の食卓 82
 あとがき 86    初出誌一覧 88



 メタセコイアが揺れている

十階建てのビルの高さほどには十分ある
病院の窓から見えるキャンバスに
メタセコイアの古木が揺れている
後方に建っているそのビルの銀色に輝く窓
樹枝が透けて空が青いことも教えてくれる

夜は揺れるごとに星たちを跳ねて
渦巻く光の舞台で踊り子が舞っている
こころの中に秘めている思惟の
一秒一秒の時を惜しむいのちの舞
どこからか風に乗ってきこえてくる歌

私は友の臥す病院のベッドに
メタセコイアの枝を置く
「うちの庭にもこの木はある」
キツツキがその幹に穴を開けても
じっと耐えながら毎年芽を出す樹だと

六千万年の時が過ぎ
土を咬み続けた黒い歯がこぼれて炭となり
枯れた根を覆ってさらに新しい根が伸び
地のそこから這い上がってきた種子のように
甦りはしないか

友よ
腫れている足の痛みに耐えて歩こうとする友よ
窓の外が揺れているのが見えるか
樹枝が騒いでいるので
空が騒いでいるのが分かるか

メタセコイアが揺れている
碧い宇宙を泳いでいた巨大な魚が
骨だけになってこの大地に喰いついた形だ
冬を越えるために 纏っていた全てを脱ぎ捨て
全身に陽をあびて呼吸している姿だ

(註)メタセコイア(別名=曙杉)杉科の落葉針葉高木。化
        石植物として知られていたが、一九四三
        年に中国四川省で現生種が発見された。
        高さ三〇メートル以上に達する。葉は線
        形で柔らかい。

 5年ぶりの第2詩集のようです。紹介した作品はタイトルポエムで、魅力的なフレーズが多くありました。「樹枝が透けて空が青いことも教えてくれる」というフレーズでは木の間に隠れる空の青を、「夜は揺れるごとに星たちを跳ねて」では枝の向こうの星を鮮やかにイメージさせてくれました。最終連の「碧い宇宙を泳いでいた巨大な魚が/骨だけになってこの大地に喰いついた形だ」という形容も壮大で、メタセコイアの大きさを感じさせます。そればかりではなく「友よ」という呼びかけにはこの詩人の本質的な人間を見る眼が表出しているように思います。落ち着いた詩句の中にも著者の勁さが感じられる詩集でした。



詩誌『六分儀』28号
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2006.12.21 東京都大田区 小柳氏方
グループ<六分儀>発行 800円

<目次>
小柳玲子 羽子板市 1
古谷鏡子 秋の日の 2
鶴岡善久 谷津筆記*3 ルオー、そして岸田劉生(2) 4
島 朝夫 いのち−あれこれ− 9
樋口伸子 冬の星座 12
林 立人 揚げパンとくちなわ 16
小柳玲子 狂人の肖像 テオドール・ジェリコーに触れて 20
夏目典子 モロッコ、フェズからタンジェ周遊 ドラクロワの道とマチスの光 23
古谷鏡子訳 イヴ・ボヌフォア『ミロ』 26
表紙/林 立人



 揚げパンとくちなわ/林 立人

夜勤明けの遅い朝 駅から続くアーケードが途切れる手前のパン屋で揚げパン
を買う。毎日のことで店主は注文を待たず二
 袋に入れ金色の針金で括(くく)る。
袋の口を指でつまみ持ったまま三、四軒戻ってから路地を西に折れて歩く。
揚げパンは日によって形が不揃い変に手応えの無い感触で半端な温(ぬく)みがある。
だから口の部分を二本の指でつまむ。よほどの揚げパン好きと思われているら
しい。いつだったか店に入った途端 遊んでいたこどもが揚げパンと口走った
ことで察しがつく。

四畳半の壁一面 袋の口が括
(くく)られたままの揚げパンが積み上げられている。部
屋に入るなり 隙間を見つけて持ち帰ったものを押し込む。たいした重みでは
ないが これだけ積みあげれば 下にいくにつれひしゃげて はみ出した餡か
ら海ほうずきそっくりの鮮やかな赤かびが咲きだしている。
食べもしない食べものを買うことに意味は無い。アーケードが途切れる場所に
パン屋があったからだ。金物やだったら毎日五寸釘でも買って 部屋の壁はさ
しずめ針ねずみの檻だ。

夜勤者は三人。七時頃から集まってくる荷の仕分けをする。三和土(たたき)の土間に縄
で描かれた列島上の 行き先らしい所に置く。列島の形は大まかだし 互いに
地名の記憶が違うから 同じ荷が二度も三度も置き場を替える。一晩中同じ荷
が行ったり来たりしているような気もする
荷は高く積み上げる。梯子を上がっ
たり降りたりするので腰が四六時中ふらつく。揺れかたが意味ありげで不謹慎
だと同僚は非難するが 腰の揺れにも意味はない。

夜勤明けの今朝 アーケード街と平行な裏道に面した空き地の前を通りかかっ
たところで足が止まった。まばらな雑草の切れまに金襴の袈裟がまるめて置い
てある と見えた。そのまま過ぎようとした時まるめたと見えたものがゆっく
りほどけていく
。伸びて棒片(ぼうきれ)のようになったところで気付いた。くちなわだ。
こんなところにまさかだが
 見違えでは無い。指先でつまんだ揚げパンを危うく
とり落としそうになる。つまんだ指で出来る輪よりは小振りだが 長い。伸び
きったところで目に見えて怒張する。青筋こそ見えないが鱗が逆立つほど緊張
している。次の瞬間奴は棒状のまま すわと浮いた。跳んだのかも知れない。
手品師のステッキみたいに地から五十センチほどで水平になったのだから浮い
たのだ。と 宙のままで奴の長いからだが突然音もたてずに破断した 目の前
で花火が破裂したように。咄嗟に揚げパンの袋を顔の前にもってきたがぼろぼ
ろの畳のへりのような皮に肉片がついたまま奴は四散している。少しはなれた
雑草の茎にへばりついて まだ揺れているのもある。

林檎の甘さを教えた罰が今頃与えられたわけではなかろう。誰かが悪戯に花火
を仕掛けた ということでもあるまい。奴の身が四散する寸前 突き上げるよ
うな呻きが聞こえたがそら耳だったろう。そこにいたたまれぬ想いや それと
も長すぎる恥ずかしさが頂点に達した時 奴の細長い胃の腑を突き上げたもの
が皮も肉も壊したのか。脚もと近くに肉を失った骨太の脊髄に支えられ 細く
鋭いあばらが標本のように動かない。

奴ほどに長くも細身でもなく 手足や凹凸の多い ぶ様な器官を露骨に曝して
いる身だが 地団駄ぐらいは踏めても 噎せるように呻き声がせり上がっても
せいぜい そこらのぶ厚な毛布を手当たり次第頭から被り へどのようなもの
がふつふつ沸立っても 突然五体がはじけて四散することはない。積み上げて
いる揚げパンの口を開けて胃の腑に落としてやろうか などと できもしない
覚悟を口にしてみる。

間なしに 被っていた ぶ厚な皮のような 重い毛布のようなものを脱ぎ捨て
口を結んで腰の揺らぎが目立たぬように歩きだす。

くちなわの骨色の骨は
肉にからまれていたときの蛇行する様子でそこにいる。

 この作品の「揚げパンとくちなわ」の喩は何かと考えています。「食べもしない食べものを買うことに意味は無い」、「腰の揺れにも意味はない」とありますから、何の喩かと考えることに「意味は無」く、ただ素直に描かれた世界を鑑賞すれば良いのかもしれません。それでも、私の性癖でしょうか、例えば「四畳半の壁一面 袋の口が括られたままの揚げパンが積み上げられている」状態は、知識だけが積み上げられて何の役にも立っていない状態を想像してしまいます。何の役にも立っていないことが良いとか悪いとかではなく、そういう状態であることを自覚させてくれる詩、と捉えています。
 「くちなわ」の「そこにいたたまれぬ想いや それと/も長すぎる恥ずかしさが頂点に達した時 奴の細長い胃の腑を突き上げたもの/が皮も肉も壊したのか」という詩句は、我々の存在そのものへの疑問と捉えたら考え過ぎかもしれません。でも、そう考えてもこの詩は成り立つと思います。
 本当はそういう屁理屈を捏ね回さないで鑑賞するのが一番良いでしょう。散文では描けない、まさに詩の世界を見せてくれた作品だと思いました。



季刊・詩と童謡『ぎんなん』59号
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2007.1.1 大阪府豊中市
ぎんなんの会・島田陽子氏発行 400円

<目次>
チョキ チョキ チョキ/ホップダッタッ ダチョウ…前山敬子 1
かぜのいたずら/白い風のむこうに…松本純子 2
サツマイモ/フジバカマ…萬里小路和美 3
あかちゃんはうれしい/夕ぐれの中で…むらせともこ 4
てんてんてんてんてん てんご やってん…もり・けん 5
ゆめのあめ…ゆうきあい 6
十六歳への答辞/期間限定 自己紹介…池田直恵 7
キュウリ/カボチャ/トマト/タマネギ/カモナス/トウガン/サボテンのトゲ…いたいせいいち 8
あかぎれ…井上良子 9
笑顔のおまじない/晴れたらきっと…井村育子 10
ふつうのらんちゅう/ぼくの家…柿本香苗 11
おひかえなすって/夏の畑…小林育子 12
遊歩道…相良由貴子 13
うそじゃない ほんとうさ…島田陽子 14
巻き笛/空…すぎもとれいこ 15
蚊/おばあちゃん どうなったの…冨岡みち 16
おんぶひも/おなもみ…富田栄子 17
トビウオ/ぞうきん…中島和子 18
ばんちょう…中野たき子 19
峠道/秋…名古きよえ 20
寒ぼたん/ザゼンソウ…畑中圭一 21
はいしゃさん/冬のバス/あける…藤本美智子 22
本の散歩道…畑中圭一・島田陽子 23
かふぇてらす…いたいせいいち・小林育子・富田栄子 26
1NFORMATION 27
あとがき 28
表紙デザイン 卯月まお



 期間限定 自己紹介/池田直恵

私は
世界で いちばん かわいくて
つくる料理は めーちゃくちゃ
おいしくて
体温計みたいな手を持っている
私に会いたくて
生まれてきた男の子の
おかあさんです

 タイトルが生きている作品ですね。「自己紹介」というタイトルでも良かったのでしょうが、それに「期間限定」と付けることで作者の意思がはっきりと判ります。「世界で いちばん かわいくて/つくる料理は めーちゃくちゃ/おいしくて/体温計みたいな手を持っている」のはあなたが大きくなるまでの期間限定なんですよ、とけじめをつけていると採りました。ただの「自己紹介」ではそこまで読み取れないでしょう。タイトルがいかに大事かの見本のような作品だと思います。



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