きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.11.09 表参道「Gallery Concept21」




2007.1.6(土)


 今日も年賀状が届いて、手持ちが無くなりましたので郵便局に行きました。行って気付いたのですが、今日は土曜日だったんですね。でも窓口は開いていて、驚きました。郵便局って土曜日も日曜日も開くようになったんだ! たぶん郵政民営化のあおりだと思いますけど、利用者にとっては嬉しいことです。職員は大変でしょうが、民間と同じように工夫してサービスに努めてください。陰ながら応援してますよ!



文芸誌『時空』27号
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2006.11.30 横浜市金沢区
鈴木一正氏方・時空の会発行 500円

<目次>
【評論】
「靖国」と私(21枚)菊田 均…1
物語の発生――『遠野物語』によって(19枚)菊田 均…9
【小説】倶伽羅紋紋雑記(25枚)福島弘子…16
【詩】炎昼、泥棒、青蚊帳(10枚)遠野明子…25
【研究】北村透谷と坪内逍遥(上)<透谷研究ノート2>(41枚)鈴木一正…32
【書誌】山路愛山収録作品目録−全集・選集・アンソロジー等−(31枚)鈴木一正…47
編集雑記(16)…58
編集後記…59
執筆者紹介…60
最近号目次…8・15・24・46・57



   
あおかや
   青蚊帳/遠野明子

母の田舎へ行くと
仏間に寝かされる
一ト間へだてた茶の間からは
「まあ、ほんなこつ そりゃあ可笑しかばい」
「姉しゃんにゃ適わんたいね」
母はこの家の姉しゃんで
三人姉妹の笑い声が弾ける
寝返りを打つと
床の間の布袋の腹がてらっと光る
谷川の水音がする
山の匂いがする
固い坊主枕からは
シャリシャリと籾の音がして
いつまでも寝られない
青く煙った蚊帳を透かして
何か動いた
「天子様」の写真の横を
するすると動く長いもの――
昨日も見たヤツだ
軒のツバメの子を
梁の上から尾を垂らして
巻き上げた
おばあちゃんに言いつけると
「家の守り神じゃけえ懲らしちゃならんとよ」
「なまんだぶ なまんだぶ」
おばあちゃんは乾いた手をこすり合わせた
でも、アイツがこの蚊帳の上に跳んだら……

「なまんだぶ なまんだぶ」
枕ほどに身を縮め
わたしは小さな声で唱え続ける

 評論のほかに詩も小説もあるので勝手に文芸誌≠ニ名付けさせていただきましたが、もともとは評論中心のようです。今回初めて詩を載せたとのことで、3編の中から最後の1編を紹介してみました。執筆者紹介によると作者は福岡県生まれとありますので、方言は福岡県、または九州地方のどこかではないかと思われます。この方言がよく効いていて「家の守り神」とともにローカル色豊かな味わいを出しています。最終連の「枕ほどに身を縮め」というフレーズが佳いですね。小さな女の子が縮こまっている姿が絵のように浮かんできます。時代はおそらく1950年代。私にも記憶のある「田舎」の親戚をなつかしく思い出しながら拝読しました。



評論誌『中国文学評論』32号
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2007.1.1 北九州市八幡西区
中国文学評論社発行 非売品

<目次>
風を捕え、影を捉える人 (中国)シーチュワン・秋吉久紀夫訳・p1
苦しみ (イラン)ヂサール・アミンプル・p25
ベトナムでの植民地化の実態・秋吉久紀夫・p2
(内容)
1,はじめに
2,ベトナムの自然と住民
3,ベトナムの歴史
 a,独立から日本軍のベトナム進駐まで
 b,日本の敗戦からジュネーブ協定調印まで
 c,米国のベトナム直接介入から全面撤退まで
4,ベトナム戦期の米軍の枯れ葉作戦
 a,枯れ葉作戦の開始とその毒性
 b,枯れ葉作戦期の詩
5,現在も決着しないべトナム戦後処理
 a,米国国内での治療と保障
 b,他の参戦国では
 c,被害国ベトナムでは
6,米国の枯れ葉作戦計画と日本



  英堆の古里/タイン・ハイ

樹木よ、きみのあの緑の服はどこに行ったのか
きみの枝々はなぜ枯れているのか
きみの緑の葉はなぜ萎れているのか
河よ、きみのあの清らかな流れはどこにあるのか
なぜ真っ赤な血がきみの一筋の清水を汚したのか

尋ねるでない、わたしになぜかと。
古里には、血と火が充ち満ちていて、
草花は萎れ、樹木は枯れ果て、
河の流れも怒りに充ち満ちている。

樹木よ、きみのあの緑の服はどこに行ったのか
敵は毒薬をばら撒き、わたしたちの田畑を破壊した。
しかし、どの樹もどの草も憎悪の火焔を上げ、
憎悪は釘を逆さに打った板や弓や矢となった。

河よ、きみのあの清らかな流れはどこにあるのか
わたしたちの血が河の水を真っ赤に染めた。
怒りもだえる河の水は、逆巻き流れ、
敵の死体を押し流している。

尋ねるでない、わたしになぜかと。
ベトナムの南部、わたしたちの古里では、
草花や樹木や山や河が、
どれもこれもが立上がり、血みどろに戦っている。

どれもこれもが立上がり、血みどろに、
侵略者とわたりあうことを誓い合い、
敵が大胆にも一歩み込んで来ると、一斉に
息をつかせず深い死の淵に落とし入れてしまう。

おお、これはわたしたちの河、
これはわたしたちの密林
(ジャングル)
これはわたしたちの花々、
わたしたちの村は英雄の古里だ。
憎悪の焔がすさまじい勢いで燃え上がっていて、
わたしたちはびくともせずに決然と立ち上がる。
わたしたちの南部は厳重な砦だ。
わたしたちは戦いの最前線に立っているからには、
絶対に敵を壊滅させてやるのだ。
親しい同志たちよ、きみらのからだには
英雄の古里の光が輝いている。

 紹介した作品は「4,ベトナム戦期の米軍の枯れ葉作戦−b,枯れ葉作戦期の詩」に載っていたものです。作者はベトナム・フエ生まれの詩人(1930-1980)で南ベトナム解放民族戦線に所属し、南ベトナム文芸解放協会中央委員であったそうです。訳は秋吉久紀夫氏。
 我々の記憶の中でベトナム戦争は遠くなっていますが、この論文を読むと決してそうではないことが判ります。続く「5,現在も決着しないべトナム戦後処理」では米国国内でベトナム戦争に従軍した兵士約10万人が枯れ葉剤被曝症として登録されていることが記されており、その補償も充分でないことが判ります。他の参戦国、韓国、タイ、フィリピン、台湾などの帰還兵士には1銭も補償されていません。もちろんベトナムにも。自国の兵士にすら充分な補償をしない戦争だったことが改めて判りました。現在の劣化ウラン弾を使用したイラク攻撃でも、事情はおそらく変わらないでしょう。そういう美しい国≠目指す日本にとっても、まさに今日的な問題であると思います。
 そういう視点でタイン・ハイの詩を読むと、「樹木よ、きみのあの緑の服はどこに行ったのか」という問いかけに我々はいまだに答えられないのではないでしょうか。枯れ葉剤は20年は残留すると言われているようですが、劣化ウラン弾の半減期は……。「憎悪の焔がすさまじい勢いで燃え上がっていて、/わたしたちはびくともせずに決然と立ち上がる」べきなのは現在なのかもしれません。



隔月刊詩誌
『サロン・デ・ポエート』
265号
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2006.12.25 名古屋市名東区
中部詩人サロン編集・伊藤康子氏発行 300円

<目次>
作品
幼きものへ…伊藤康子…4          ドームに茜雲…野老比左子…5
想いはめぐる…甲斐久子…6         (呼)…小林 聖…7
この喫茶店で…阿部堅磐…8         橋を渡って…足立すみ子…11
年金の話…横井光枝…12           一人旅…荒井幸子…13
介護抄…稲葉忠行…14            マーキング…みくちけんすけ…15
フィナーレ…及川 純…16
散文
詩集「かわらなでしこ」を読む…阿部堅磐…17  カキワ君の文学的回想(6)(7)…阿部堅磐…18
西日本ゼミナールに参加して…野老比左子…20 同人閑話…諸家…21
詩話会レポート…24             受贈誌・詩集、サロン消息、編集後記
表紙・目次カット…甲斐久子



 (呼)/小林 聖

定年を待たず
名簿が捨てられた

昭和も四十年経たない頃

男に「男」が付き
女は何とか「子」「江」
マンションの代わりに「荘」

郵便番号もなく ただ
(呼) だけが群れをなし 仄暗い
集積場で さざめいている

がらがら 玄関の引き戸が開き
「こばやっさんでんわだよ」

桜の枝が垂れている木戸を潜り
台所の片すみ 受話器を取る
「いつでもつかってちょう」

隣のばあさんは 回したダイヤルが
もどる間に 次の数を失念
「ちょっとたすけてちょう」

「しょうゆかしてちょう」
「おふろわいたではいりにきてちょう」

呼ばなかったばかりに
幾人ひとが別れたろう 幾つボール
が落ち ホイッスルが鳴らされただろう

 今の若い人には「(呼)」の意味が判らないかもしれませんね。ヨビダシと読み、近所の家の固定電話番号です。下宿や「荘」に住んでいる人に固定電話が無いのは当り前の「昭和も四十年経たない頃」、呼び出してもらうための電話番号でした。携帯電話で個人個人が電話番号を持っている現在では考えられないようなシステムがあったのです。しかし、それが逆に幸いしていたのかもしれません。電話を借りることから始まって、最後は「おふろわいたではいりにきてちょう」まで親しくなった近所付き合い。少々面倒臭かったけど、そこには犯罪など這入りこむ余地はありませんでした。その「(呼)」で「呼ばなかったばかりに/幾人ひとが別れたろう」と、この作品は結ばれています。便利になった分、何を失ったかを考えさせられた作品です。



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