きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2006.11.09 表参道「Gallery Concept21」 |
2007.1.11(木)
久しぶりに吉村昭さんの単行本を読みました。『回り灯籠』2006.12.20初版
筑摩書房 1400円+税。昨年7月に亡くなってから何冊か追悼本が出ていたようですが、私はこれが初めて購入した本です。内容は、晩年によく書かれていた作品にまつわるエッセイ。それに気付いて一瞬、シマッタと思いました。吉村さんの本はほぼ100%持っていて、過去の焼き直しかと思ったのです。しかし初見のエッセイばかりでした。雑誌に書いていたもので単行本化されていないものがまだあったんですね。特に今回は城山三郎さんとの1998年頃の対談が良かったです。この分でいくとまだまだ単行本化されていないエッセイが出版されるかもしれません。ファンとしては待ち遠しいです。吉村さんとは日本文藝家協会の総会で遠くから拝顔しただけでお話ししたことはありませんでしたが、独特の存在感を思い出しています。合掌。
○詩誌『1/2』23号 |
2007.1.15 東京都中央区 400円 詩誌『1/2』発行所・近野十志夫氏発行 |
<目次>
骨をうめる/芝 憲子…2 蝉の亡骸/宮本勝夫…4
根−屋久島にて/館林明子…6 着信/佐伯けんいち…7
戦争の孤児たち/野川ありき…10 あめのなかで/宮川 守…12
いわきの旅・三歳のお祝い/薄葉久子…14 笑えない毎日/黒鉄太郎…21
老人部隊出動せよ/都月次郎…24 風の中に/呉屋比呂志…27
『テイスト・オブ・ハニー』/近野十志夫…30 美しい国へ/枕木一平…32
「自動車運転手の歌」から/藻利佳彦訳…38
合宿報告−京の洛中小旅行/呉屋比呂志…16
特養ホームのひとこまから/西條スミエ…36
『テイスト・オブ・ハニー』/近野十志夫
鋭敏な嗅覚で探索し
太陽コンパスを使って
正確な位置を知らせる
ミツバチのダンス
レンゲ アカシア ミカン マロニエ ソバの花。
季節や地方によって選り分けて集めた蜂蜜
季節を追って移動する養蜂家。
平和な時代に平和な蜜を手に入れるヒト。
平和でない時代、
ミツバチは戦場に向かう。
さまざまな香りが漂っている。
土の香り 木の香り コンクリートの香り
鉄の香り 布の香り 人の香り 血の香り。
火薬の香りそして反応後の硝煙の香り。
焼土の草花は焼かれていてきな臭い。
ときたま焼き逃れた空き地で
つんと嗅覚を突く。
そこが一画の平和であるような。
ヒトとともにそう思う。
甘い香りがする。
ミツバチの嗅覚にかすかな香りが入る。
一直線に進むとそこは赤茶けた土だ。
香りを求め
同じように群れ集うミツバチ。
直射光のもとでうっとりと花を想うミツバチ。
足音が近付く。
しかし動きもせずただじっと。
次の瞬間、
轟音と巨大な土煙。
その中に
ミツバチとヒトの体が千切れて舞う。
ミツバチは火薬の匂いをかぎ分けられるという。
そういえばニトログリセリンには甘い味がある。
*米ロスアラモス国立研究所は、ミツバチを訓練した結果、
爆弾に含まれる火薬のにおいの探知が可能になったと研
究成果を公表した。(二〇〇六年十一月二十八日)
「ミツバチ」よ、お前までもが! という思いを強くします。兵器の開発に蜜蜂の習性まで利用する人間って、いったい何なんだろうなと考えてしまいますね。先日も北海道の蜂蜜を2リットルも貰ったばかりなので、この詩には衝撃を受けました。「平和な時代に平和な蜜を手に入れるヒト」であり続けるのはいつまでのことなんだろう…。タイトルの『テイスト・オブ・ハニー』の逆説に考え込んでしまいました。
○詩誌『饗宴』48号 |
2006.12.1 札幌市中央区 林檎屋・瀬戸正昭発行 500円+税 |
<目次>
詩論
詩とは何か−日本海追分ソーランラインの旅(上)/高橋秀明…4
作品
Zinnia/百日草 吉村侑久代…6 転身譜4 塩由涼子…8
葬儀のあとで 瀬戸正昭…10 待春 新妻 博…12
夕陽坂 村田 譲…14 雷鳴… 谷内田ゆかり…16
デルフの舞姫 千葉志生…18 小族の振る旗 尾形俊雄…20
呼び鈴/気がついてみたら 木村淳子…22 かみすながわ−不思議ふしぎの二条通り21 嘉藤師穂子…24
特集 2006・海外詩特集
世界の貌が/おゝ 独り 噴水のまわり サンドロ・ペンナ 工藤知子訳…26
父さんが死んだ/アンコーナ上陸 〃 〃 …26
家並みをぬい…/この世にまだ美が… 〃 〃 …28
夜 からっぽの夜/不眠症の旅行者は 〃 〃 …28
エウジェニオ・モンターレに 〃 〃 …29
夜の渡り/クレーター湖 ルイーズ・グリック 木村淳子訳…30
こだま/つぐみ 〃 〃 …31
屋根裏部屋のトランク/鳥の歌 ジョイ・コガワ 松田寿一訳…34
筆跡/エンレイソウ 〃 〃 …36
月が蜘映だった夜/医者 ジェローム・ローセンバーグ 〃 …37
セールスマン/パンを焼く人 〃 〃 …38
俳文 夜想曲 イオン・コドレスク 吉村侑久代訳…40
連載エッセイ
林檎屋主人日録(抄)(9)(2006.8〜2006.11)瀬戸正昭…46
受贈詩集・詩誌…11
饗宴ギャラリー 山田のりこ「さぼてんとネコ」…2
詩と俳句のコラボレイション 吉村侑久代
百日草
あなたが住んでいた家の一角は
取り払われて公園になりました
百日草が植えられ
小さな滑り台とブランコが設置され
時々子供のかわいい声が聞こえます
まだあなたがそこに住んでいるかのように
わたしは夜の闇にまぎれて
ブランコに乗っています
今もあなたの住所はここだと
思っているわたしは
しばらくの間
あなたの新しい住所をさがしません
百日草が枯れるまで
ブランコは揺れているでしょう
猫の尾を隠し色濃き百日草
Collaboration of poem and haiku
Ikuyo Yoshimura
Zinnia
The place where you lived in
Was leveled the ground
And a small park appeared
Zinnia were planted
A small slide and a swing were set
And I can often hear the kids' cheerful voices
Hiding me in the dark night
I would like to ride on a swing
And I believe you still live here
1 would not seek out your new address
Until the zinnia will wither up
My swing is going on swinging
hiding a cat's tail
zinnia bloom
brightly
文字通り「詩と俳句のコラボレイション」ですが、日本語と英語を対比させながら読むとおもしろいですね。特に英語の俳句がおもしろいと思います。英文だけを見たのでは正直なところ意味が掴めませんが、日本語と対比させることで、ふーん、こんな言い方のなるのか、と思いました。じゃあ、お前ならどう英訳する? と問われても答えられませんが(^^;
日本語の詩の方では「今もあなたの住所はここだと/思っている/わたしはしばらくの間/あなたの新しい住所をさがしません」というフレーズが好きです。自分の思い出の中の「住所」に固執する気持は判りますね。忘れていた青春時代が甦った作品です。
○『関西詩人協会会報』44号 |
2007.1.10 大阪府交野市 金堀則夫氏方事務局・杉山平一氏発行 非売品 |
<主な記事>
1面 関西詩人協会総会
2面 総会 西日本ゼミナール
3面 ポエム・セミナー「自作を語るV」
4面 新入会員紹介 運営委員会の模様
5面 詩で遊ぼう会報告
6面 会員活動・イベント
もう少し待っていて下さい/蔭山辰子
先生 冥王星の居心地はいかがですか
青空はありますか
夜空に地球が見えますか
アシハラという国が見えますか
冥王星の一年は地球の二百五十年
一歳年を取るのに二百五十年なら
そちらの星では先生も地球の詩人も
揃って同級生に成れるでしょう
もう少し待っていてください
ちょっとだけ遅れてそちらへ行った時
アシハラの事をお話しいたしましょう
知花の象のオリのこと
重油で汚れたアシハラの海のこと
日本人の顔をしたペルー大統領のこと
南の島の劣化ウランの爆発のこと
今のニッポン
いいなアと思いますか
思いませんね
気に入らないことばかりですわ
わたしと
同じか
*小野十三郎詩集「冥王星で」より
先生の嘆かれた事ずっと続いています
もう少し待っていて下さい
地球の詩人がそちらに向かいます
でも 空は光化学スモッグで一杯です
冥王星はどっちの方向ですか
先生 ちょっと合図を送って下さい
オキシダントの破れ穴から
火傷をしないように飛び出しますから
ポエム・セミナー「自作を語るV」の蔭山辰子氏「彼方の星の人に」の挿入詩です。小野十三郎一周忌を前にした1997年9月の「偲ぶ会」で朗読した詩とのこと。ほぼ10年前の作品ですが「冥王星」、「知花の象のオリ」、「日本人の顔をしたペルー大統領」、「劣化ウラン」と10年後の現在でも何も変わっていないことに驚きます。これは単なる偶然ではなく、作者の素材を選ぶ眼の確かさの証でしょう。それに小野十三郎詩集の引用も佳いですね。この「もう少し待っていて下さい」という詩もあって、充実した紙面だったと思います。
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