きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.11.09 表参道「Gallery Concept21」




2007.1.25(木)


 今日は「西さがみ文芸展」の初日でしたが、当番ではなかったし、どなたか私を訪ねて来るという連絡もなかったのでサボりました。サボって日本ペンクラブのお仕事。先日の委員会で電子文藝館に出向する作品の電子化を依頼されていましたので、それに取り掛かりました。作品は武田泰淳の「異形の者」。1950年の『展望』4月号初出のものです。400字詰め原稿用紙換算で90枚ほどの中篇ですが、スキャナーに読み込んで、変換ミスを修正して、結局8時間ほど掛かってしまいました。詩の比べると散文はやはりシンドイですね。でも、作品は良かったです。若い僧侶の修行の話ですけど、俗っぽくてリアリティーがありました。2〜3週間で電子文藝館に掲載されますので是非お読みください。

 武田泰淳は高校生の頃、一般教養のつもりで読んで以来で、こんな機会でもなければ一生読まなかったかもしれません。良い機会を与えてもらいました。次は昨年末で著作権の切れた高村光太郎、遺族の許可が降りそうな小川未明を狙っています。これは私の発案でもありますから、ちょっと気を入れてやろうと思っています。若い人たちに良質な日本文学を提供するというコンセプトで始まった電子文藝館ですが、制作している私たちにもメリットは多いなと感じています。



詩誌『孔雀船』69号
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2007.1.15 東京都国分寺市
孔雀船詩社・望月苑巳氏発行 700円

<目次>
*詩
咳、ひとつ――泉谷明に/八木忠栄 6    私的梁塵秘抄/川島完 10
魂の漁師/望月苑巳 12           眠りの標本/望月苑巳 14
シンプルライフ川/小紋章子 16       太陽の舌/新倉葉音 19
園丁4/日砂順二 22            雨/日砂順二 24
たそがれ飛翔/福間明子 26         俳諧師/尾世川正明 29
半陰陽(一)/大塚欽一 32         乾いた跡/谷元益男 34
場末の別れ/間瀬義春 36          あらし/間瀬義春 38
*評論 構造としてのデザイン 田中弘宣 39
*孔雀船画廊(18) 岩佐なを 48
*吃水線・孔雀船書架/竹内貴久雄 50
*リスニング・ルーム/竹内貴久雄 52
*試写室――素敵な夜、ボクにください/バブルへGO!タイムマシンはドラム式/パフェーム/守護神/マリー・アントワネット/エクステ/輝く夜明けに向って/パリ・ジュテーム/Gガール 破壊的な彼女/あなたになら言える秘密のこと
 赤神借&桜町耀・選+国弘よう子 54
*連載 絵に住む日々《第十五回》メンデルスゾーンの絵 小柳玲子 59
*連載エッセイ 眠れぬ夜の百歌仙夢語り《第五十五夜》 望月苑巳 64
*詩
癒される庭/
洋子 71          時雨てはひらひらと/川上明日夫 74
帰巣性/文屋順 76             中庭系/岩佐なを 78
猫電話/堀内統義 81            豆電球/藤田晴央 84
夢境/紫圭子 86              緑の階段/脇川郁也 89
帚星に乗って/朝倉四郎 92
*連載 アパショナータPARTU(33) 吉原幸子の詩について〜わがオンディーヌ 藤田晴央 96
*航海ランプ 106 *執筆者住所録 105



 魂の漁師/望月苑巳

おまえが死んだ夢をみたと
母が周囲を気にしながらささやいた。
ノルウェーの漁師は
グリーグの調べの網で魚を獲るという。
空はまだ薄墨色に張り付いたままだったが
傷口を縫い合わせることもできない雲間から
したたる青空の挨拶、それから「それ」は
突然おとずれたのだった。
どんな扉にも、内側と外側があるものだが
こころにも扉があって
相手のこころにあわせて
閉じたり開いたりしているのだと、告げて。
生きているぼくの内側には
閉じられた空があり
閉じられた海があり
閉じられた音楽があった。
無理にこじあけようとすれば
堕ちてゆく夢へのシッペ返しがあるのを知っていた。
自然に開くのを待っていれば
やがて「それ」をみることができる、と
母がまたささやいた
ぼくの知らないこころの扉に触れて。
そこには、開かれた空があり
開かれた海があり
開かれた音楽に合わせて
舟がたくさんの魂に投網を打っていた。
母が夢をみた日
ぼくはその告白の回帰線に苦しみ
夏が繁る木の下で
淋しく閉じられた子供にならなければ
夢の傷口が閉じないことを悟っていた。

 「グリーグ」は「ノルウェー」の国民的な作曲家のようです。その「調べの網で魚を獲るという」出だしから魅了される作品です。「傷口を縫い合わせることもできない雲間」、「どんな扉にも、内側と外側があるものだが」、「舟がたくさんの魂に投網を打っていた」などのフレーズにも惹かれます。「それ」は文意からすれば「おまえが死んだ夢」でしょうが、それだけではないように思います。鍵は最終部の「淋しく閉じられた子供にならなければ/夢の傷口が閉じないことを悟っていた」にあるのでしょう。表面的な現実の作者とは違う、内向的な一面を見た思いのする作品です。



隔月刊詩誌RIVIERE90号
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2007.1.15 堺市南区 横田英子氏発行 500円

<目次>
水の音/水月とも(4)            布について/横田英子(6)
月夜の風/泉本真里(8)           マニラの告白 2 玩具の顔/蘆野つづみ (10)
砂漠の祈り/後 恵子 (12)         私と詩/安心院祐一 (14)
柏原にて 日々/藤本 肇 (16)       すずらんの絵葉書/平野裕子 (18)
さ・み・し・い/MARU (20)
RIVIERE/せせらぎ 永井ますみ/石村勇二/横田英子/河井 洋 (22)〜(25)
愛と希望の国(2)/河井 洋 (26)      妻に染められて/石村勇二 (28)
木枯しのすきまに/釣部与志 (30)      かなしみに沈んで/松本 映 (32)
弥生の昔の物語(43)赤い蛇/永井ますみ (34) 不安 ヘルパー/山下俊子 (36)
さよなら/正岡洋夫 (38)          蟹を食う/戸田和樹 (40)
同人出版図書の紹介 (42)〜(43)
童話「ゆーみいちゃん」著者 戸田和樹/永井ますみ
小説「黒い海」 著者 萩尾良介(藤本肇)/河井 洋
受贈誌一覧 (44)
同人住所録 (45)
編集ノート 河井 洋 (46)
表紙の写真・横田英子/詩・泉本真里



 白梅/泉本真里

上を向いて
開花するから
誰れも
哀しみの心を秘めているなんて
知らないでしょう

匂いの
強い日
ちょっと耳を澄ませてくださいな

子を亡くした
母親の
耐えてる姿に
ふくいくとなるのですよ

 今号の扉詩です。「上を向いて/開花する」という「白梅」に向けられた視点が良いと思います。最終連の「子を亡くした/母親」は第1連の「哀しみの心を秘めている」に掛かっているわけですが、この構成も見事です。さらに「白梅」の「ふくいく」にも繋がっていて、この短い詩を二重に構成しています。俳句や短歌でも出来る世界かもしれませんけど、やはり詩の方がふくらみがあるなと思います。扉詩に持ってくるだけのことはある佳品だと思いました。



個人詩誌if14号
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2007.2.1 広島県呉市
ちょびっと倶楽部・大澤都氏発行 非売品

<目次>
白いアスパラガスの青年 1         壊し屋
Father 3
入れ歯の男 5               長靴 7
私の住む街 9
シリーズ わたしの伯母ちゃん その一 11
<短文に挑戦> 13
ifつれづれ



 長靴

長靴が
ぽっくり ぽっくり
しゃべるのは
アスファルトの上
ほっくり 焼き芋じゃありません

川土手の砂地の上では
泥のなかを
ずぶ ずぼ ずぶ
ズボンと発音できなくて

水たまりを
ばしゃ ばしゃ ばしゃ
お馬が走るわけではないけれと

雨の日
長靴はよくしゃべる
そんな長靴が嫌いじゃなくなったのは
わたしがちょびの姉ちゃんになってから

ホームセンターにある
紺色の女性用 長靴さん
と いっしょに歩く
わたし と ちょび

 「ちょび」は二歳前の雌の日本犬雑種です。作者はもともと「長靴が嫌い」だったのでしょうね。それが変わったのは「わたしがちょびの姉ちゃんになってから」とあります。犬好きにはこの気持がよく判ります。擬態語もおもしろいけど、それに付随するダジャレ(失礼!)もおもしろいと思いました。平和な日本の平和な「雨の日」。これがいつまでも続くことを願うばかりです。



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