きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.11.09 表参道「Gallery Concept21」




2007.1.26(金)


 西さがみ文芸展の2日目。昨日はサボりましたけど、今日は午前10時から午後1時半までが受付の当番。ちゃんと義務は果たしました。で、何気なく昨日の参加人数を見て驚いたのですが、何と72名! 昨年夏に銀座の地球堂ギャラリーでやった日本詩人クラブの詩書画展でさえ一日40人とか50人とかの人数でしたから、これは本当に驚きました。やはり特別展の俳人「藤田湘子展」が効いたようです。藤田さんは2005年に亡くなって間がないということ、そのお弟子さんが数百人いらっしゃるようなので、その方々が大勢来てくれた結果だと思います。

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 「藤田湘子展」は一番奥の面と左右の3面を使った規模になりました。藤田さんが主宰していた句誌『鷹』の同人たちも毎日2名が当番で来てくれるほどの熱の入れようでした。俳句の世界の結束は詩界では考えられないほどですね。うらやましいほどです。
 私は14時頃まで居て、所要があって帰りましたけど、その後私が参加を呼びかけた人のうち2名が来てくれたことが後日判明。大変失礼いたしました。お詫びのメールを入れましたけど、あとで呑ませないといけないなあ(^^;
 明日は夕方から高校のクラス会。その前にちょっと寄ってから行くつもりです。



平野敏氏詩集『下天の鴉』
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2007.1.10 埼玉県入間市 私家版 3000円

<目次>
泥の記憶 1     古代釘 7
毒針丸 11      針道楽 15
威風 19       光響詩 塔の夢声 21
空茶 27       水場の自画像 33
空き家の猫 37    悲願 41
釘事件 45      針供養 51
診察終える 55    春泥足苦悶記 59
和風の宝石 63    白い花の内壁 69
炎夏 73       終の声 77
秋の釘 81      失神 85
逃亡 89       秋の音符 91
秋興 97       初冬の朝 101
冬日幻想 105
.    冬の肖像 111
下天の鴉 115
.    奥書私伝 119
あとがき 125
表紙カバー 作者不詳「烏図」(六曲一双屏風の一部)写真加工



 逃亡

出す宛てもなく
いつも懐に忍ばせている口ではいえないお願いが
旅であってもよし眠りであってもよし
ひとりとしての切ない時間から逃亡したくて
神仏の庇護からも逃れたくて
夕闇まっしぐらに走りたくて
多くの説教からあてどもなく離れたくて
一枚の願書は火を吹きながら
僧侶の胸のうちを目覚めていく

ただでこの世を逃げるのは勿体ない
持てば荷物になる記念の晶は捨てて
せっかく授かった僧衣に裸身を隠したら
払暁見納めた夢殿の非常口を開いて
鼠を逃し
別の方角から婆羅門を蹴って
世のはかなさに別れを告げて去っていった

秋鯖の焼ける匂いのかなたに燃え上がる寺院の炎
胡蝶が舞う遠くの炎上景を
煩悩の犬も眺めて
ひとときの満足にひたる
囚人になっても憎むものはなし
逃亡によって美の営みは栄えるなら
罪過にも身震いしない確かな未来が釣束されよう
遠くからよく見えるその未来を確かめるために
僧侶は人に先んじて見に行ってしまった

 散文的に解釈すれば、第1連は「口ではいえないお願い」が書かれている「一枚の願書」が「僧侶の胸のうちを目覚め」させていく、第2連は「ただでこの世を逃げるのは勿体ない」が、結局は「世のはかなさに別れを告げて去っていった」、最終連は「逃亡によって美の営みは栄える」から「僧侶は人に先んじて見に行ってしまった」、つまり「逃亡」してしまった、ということになるでしょうか。もちろんこれはあくまでも散文的な解釈ですから、その他の詩語を無視するわけにはいきません。例えば「多くの説教からあてどもなく離れたくて」、「鼠を逃し/別の方角から婆羅門を蹴って」、「胡蝶が舞う遠くの炎上景を/煩悩の犬も眺めて/ひとときの満足にひたる」、「囚人になっても憎むものはなし」などほとんどのフレーズに魅了されます。その上で、この作品(他の作品もそうですが)は散文的に解釈すべきではないと思います。この詩語の塊から「逃亡」の喩を鑑賞すべきでしょう。現実から「逃亡」して行く「僧侶」。それはおそらく思想≠ネのかもしれません。そんな読み方をした作品です。



月刊詩誌『柵』242号
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2007.1.20 大阪府箕面市
詩画工房・志賀英夫氏発行 572円+税

<目次>
現代詩展望 詩人の社会牲と反戦詩 中正敏、その反戦思想の根拠…中村不二夫 80
芦塚孝四「愛の唄」私の出会った詩人たち(2)…伊勢田史郎 84
審判(5)本格化…森 徳治 88
流動する今日の世界の中で日本の詩とは27 現代のインド詩と日本の英語の俳句に見る「平和」…水崎野里子 92
「戦後詩誌の系譜」40 昭和60年55誌…中村不二夫 志賀英夫 108
風見鶏・友枝力 和田英子 島田陽子 藪本昌子 日笠芙美子 118
詩作品
平野秀哉/尋ね人 4            大貫裕司/風の点描 6
川端律子/ヒマラヤ山脈を仰ぐ 8      門林岩雄/母へ 鰯雲 10
山南律子/あとかたものこらず 12      宗 昇/入浴 14
中原道夫/青い空 16            野老比左子/空の花 18
佐藤勝太/謎の老人 20           肌勢とみ子/腰痛 22
進 一男/死者たち 24           柳原省三/土産 26
岩本 健/雑詩若干 28           小沢千恵/蝶 30
山崎 森/ムンク通り 32          南 邦和/曼陀羅 35
なたとしこ/熱いおもいが 38        安森ソノ子/哀悼・福田万里子氏 41
水崎野里子/南京大虐殺 44         松田悦子/素人のため息 48
忍城春宣/高原レストラン 50        北村愛子/のたまう 52
立原昌保/やがて悲しみは 54        小城江壮智/ちゃぶだい 56
西森美智子/逃げる 58           小野 肇/上機嫌の空 60
名古きよえ/雪と大根 62          鈴木一成/泣言繰言 64
江艮亜来子/冬の読書 66          山口格郎/お互いに悪だったあの頃 68
今泉協子/故里の家 70           若狭雅裕/春の匂い 72
織田美沙子/食べる 74           前田孝一/生き様にひびが…… 76
徐柄鎮/松亭ケ浦の一本松 78

現代情況論ノート(9)…石原 武 96
世界文学の詩的悦楽−ディレッタント的随想(8) 豪州で最も愛されている詩人 ブルース・ドーの詩的世界 下…小川聖子 98
韓国現代詩人(6)金光圭の詩 会話レッスン…水崎野里子訳 102
コクトオ覚書 217 コクトオ自画像[知られざる男]37…三木英治 104
東日本・三冊の詩集 野中美弥子『時間』蓮池薫訳『君がそばにいても 僕は君が恋しい』西出新三郎『家族の風景』…中原道夫 120
西日本・三冊の詩集 日笠芙美子『海と巻貝』 加藤眞妙『かげろうの日々』 山下静男『梅漬け』…佐藤勝太 124
受贈図書 130  受贈詩誌 127  柵通信 128  身辺雑記 131
表紙絵/中島由夫 屏絵/申錫弼 カット/野口晋・中島由夫・申錫弼



 土産/柳原省三

水道の蛇口は
弁面のゴムが朽ちかけているようだ
深夜の台所の炊事場で
時おり水滴の音がする
ぼくの夜が目を覚ます

外航船員を定年退職し
船を離れての陸の生活には
すっかり期待を裏切られてしまった
隣人たちの日常は
損か得かで流れていくばかり
もっともらしい理由をつけて
恥を知らない

海は我慢の日々
陸は失望の日々

これではいけないと深夜の時間に
ぼくはぎらぎら目を覚ます
脳裏にはやがて行く宇宙が広がっている
先に行った二男が待っているだろう
死に向かって
挑戦を続けなければならない
それが生きているということなのだから

こちらの空間にいる間
光り輝くものをたくさん拾い集めて
あの世の土産にすることができなければ
死には意味がない

 第1連は「ぼくの夜が目を覚ます」という言い回しが良いと思います。第3連の「海は我慢の日々/陸は失望の日々」も佳いですね。そして圧巻は、やはり最終連。「あの世の土産にすることができなければ/死には意味がない」というフレーズに、作者の生にたいする誠実さを感じます。おそらく「先に行った二男」という体験があったからこそ滲み出てきたものなのでしょう。お前はどれだけ「光り輝くものを」「拾い集めて」いるかと突きつけられた思いもしました。海で「我慢の日々」を過ごした詩人の言葉を噛み締めたいと思います。



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