きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2006.11.09 表参道「Gallery Concept21」 |
2007.1.30(火)
恵比寿の「東京都写真美術館」に行ってきました。3Fでは「光と影」、地下1Fでは「地球(ほし)の旅人」という展示をやっていて、どちらも良かったです。特に「地球の旅人」の前川貴行氏の作品が良かったですね。アラスカの白頭鷲やグリズリー、カナダの北極熊などが圧巻でした。展示会ですから佳い写真を見せるのは当り前ですけど、それにしてもピントがピタッと決まっているのには驚きました。かなりの望遠を使っているようで、例えば熊の眼にピントが合うと、鼻先はわずかにボケているところなど臨場感があって楽しめました。
むかし写真メーカーのカラー印画紙部門にいた癖が出て、写真を細かく見ていたら製造工程の不具合やパネル貼り時の傷を発見しました。前川さんの作品では1枚だけ指紋があった程度ですが、他の人には多く発見しました。おそらく素人が見たのでは判らないと思いますけど、私には判るんですね。持っていませんでしたが20倍程度のルーペがあれば更に見つけてしまったでしょう。惜しいなと思う作品が多くて、そこはちょっとガッカリ。
作品に顔を近づけて舐めるように見ていたせいでしょうか、そのうち係の女性がぴったりマークしているのに気付きました。怪しい奴だと思ったのでしょう。うん、確かに怪しい見方だ(^^; でも、係の女性に言ってもしょうがないけど、作家にはもっと気遣ってほしいなと思いましたね。絵も良くて、取り扱いも慎重ならもっと感激するんですよ!
○月刊詩誌『歴程』537号 |
2007.2.1 静岡県熱海市 歴程社・新藤凉子氏発行 476円+税 |
<目次>
特集 二〇〇六年歴程祭<未来を祭れ>
第四十四回「藤村記念歴程賞」…2
粟津則雄 選考経過報告…4
八木忠栄 井川博年の仕事について…6
堀江敏幸 高橋英夫の仕事について…8
井川博年 受賞者挨拶…10
高橋英夫 受賞者挨拶…11
第十七回「歴程新鋭賞」…3
粕谷栄市 選考経過報告…5
松浦寿輝 浜田優の仕事について…13
浜田 優 受賞者挨拶…15
詩
浜田 優 夜の嘴…20
井川博年 ちんどん屋…17
高貝弘也 子葉声韻−それは葉うらの、…… …22
伊武トーマ 麦畑のうねり(ヴインセント・ヴァン・ゴッホ)…24
岩佐なを 間者(捨て子としての)…26
野村喜和夫 酒精讃…28
後記
表紙版画 岩佐なを
夜の嘴/浜田 優
蛾は
火遊びとアルコールに目がないらしく
ようやく雷鳴の去った夜の森で
気違い沢音と石を枕に
榾火へ薪をつぎ足しながら
ゆらめく炎に見入っているようなとき
なにげなく口にした
マグカップからウイスキーのかわりに
湿った綿か舌のざらつきが
両くちびるのすき間をふさぐ
驚いたのは蛾かくちびるか、ともかく
くちびるは夜に向かって
嘴のかたちにすぼまり尖って
あわててそこから蛾をつまみ出し、わきに放す
なかには羽根に毒のあるのもいるらしく
蛾の種類にはうといから
マグカップの中味は捨てて
すすいでまた注ぎなおす
もっとも、
もったいなければ飲んじゃうけどね
濡れそぼって石の上に
貼りついていた貴夫人は
榾火の熱で乾かされ
そろそろ宿酔から醒めたらしい
夜の嘴――
その恍惚をまだ
覚えているのかいないのか
アルコールにはもう用はなし
よろよろと
重たい羽根を揺らしながら
雨上がりの森へ還ってゆく
戦前から続く、日本を代表する詩誌『歴程』を初めて頂戴しました。ありがとうございます。今号は第四十四回「藤村記念歴程賞」と第十七回「歴程新鋭賞」の特集になっていました。紹介した詩は「歴程新鋭賞」受賞者の作品です。私も森でキャンプをしていたころ「マグカップ」の「ウイスキー」に「蛾」が飛び込むことはよくありましたけど、それがまさか詩になるなんて思いもよりませんでした。それも「くちびるは夜に向かって/嘴のかたちにすぼまり尖って」というのですから、やはり私などとは違う感性なのだと納得します。飛び込んだ蛾を踏み潰すのではなく「榾火の熱で乾か」してやり「雨上がりの森へ還ってゆく」ところまで見届けるのは、さすが山男。その生命への労わりにも感激した作品です。
○詩誌『1999』4号 |
2006.12.25 沖縄県沖縄市
500円 宮城隆尋氏方事務局・1999同人発行 |
<目次>
詩 学園サバイバル/松永朋哉 6 睡眠障害/松永朋哉 9
エッセイ サウンドオブタイフーン 10
詩 朝は誰かに/トーマ・ヒロコ 12 翻訳/トーマ・ヒロコ 16
エッセイ 詩を届ける 18
詩 メトロノーム/内間武 20 ブンゲイブの人達/内間武 21
停止する空間/内間武 23
エッセイ 退廃日記 26
詩 凍傷/伊波泰志 27 灰色の雨/伊波泰志 28
エッセイ そこは偶然「地方」であった 30
エッセイ 二〇〇六年の軋轢 宮城隆尋 32
同人特集 宮城隆尋 35
詩 ゆいまーるツアー/宮城隆尋 36
メールインタビュー(聞き手・松永朋哉)38
宮城隆尋試論「『idol』以降」/伊波泰志 43
詩時評 1981の所感 第四回/伊波泰志 48
『1999』vol.3メール合評会 53
現役の小部屋 65
詩 消毒/クロ 66 雨は続く/クロ 68
最近の文芸部 70
連載エッセイ 東京で、ふつうのおきなわ(2)
いつでもホームシック? トーマ・ヒロコ 73
詩の投稿募集 77
同人プロフィール・近況 79
表紙 ケモリン
学園サバイバル/松永朋哉
テストがんばっても単位足りない
先生が世界史を受けさせてくれなかった
そのせいで卒業危機
土日返上のゆとり教育
「受験にない科目は必要ありません
芸術なんてくそくらえです
倫理なんて時間の無駄です
歴史なんて無意味です
それより公式覚えなさい
英単語覚えなさい」
教室では教師が率先して
積極的に生徒を血祭りに
クラスを巻き込んでの集団リンチ
生贄にされた子は
今日の朝 死んじゃった
でも私には関係ない
それより大学に受からなくては
負け犬に構っている余裕なんてない
泣いてる時間などない
どんなにがんばっても無駄無駄無駄
その考えに染まっていったものから脱落していく
成績で足の引っ張り合い
友達ごっこしてた人からは妬まれて
「個性を大事にしましょう
みんな平等に」
その言葉を信じて
今日も自殺する
今日も脱落する
地獄の生き残りゲーム
勝者は誰
「先生が世界史を受けさせてくれなかった」問題の根源は「受験にない科目は必要ありません」という現実にあるわけですけど、そのさらに根源を考えると、愚民化政策にあるように思えてなりません。理数系には「芸術なんてくそくらえです/ 倫理なんて時間の無駄です/歴史なんて無意味です」と教え、文系には中学程度の数学で済ませてしまう。その結果としてバランスのとれた人間を皆無にしようという、産む機械≠ニ同列の働く機械≠フ構築を狙っていると考えるのは考えすぎでしょうか。「個性を大事にしましょう」というのは考えない人間を作ること、「みんな平等に」というのは低次元での平等にしかならないことをこの作品は訴えていると思います。はたして「勝者は誰」? 一国支配の典型がこの国で試されているように感じた作品です。
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