きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2007.1.26 小田原「アオキ画廊」 |
2007.2.1(木)
古い飲食店が新築なると、どうして味が落ちるのか疑問です。近くの店がしばらく前に火事に遭って、再建したというので行ってみました。以前は汚い店で、土方仕事帰りの人が地下足袋や長靴で訪れるような処でした。でも味は良かったのですよ。焼鳥はブッ太いのを炭火でガッチリ焼いて、どちらかというと野趣を感じる店でした。オカミさんは汚れた割烹着姿で出てくるという雰囲気でしたね。
瀟洒な建物に変わっていたので、もしや?と思ったら案の定。揃いの和風の服の女の子が3人。威勢の良い若い男もいて、一見良さそうに見えました。でも、出てきた焼鳥を食べてガッカリ。一度焼いたものを冷蔵庫に入れておいて、電子レンジでチンして出したんじゃないかと思います。中はヒンヤリ、2〜3分置いたらみるみる冷えていきました。釜飯もきっとベットリだろうなと思ったら、期待通りでしたね(^^; お焦げなんか一粒もない!
一番おいしかったのは地酒の「丹沢山」。これは店とは関係なく旨い。でも、緑茶ハイがあったので注文したら、緑ではなく薄茶色。麦茶じゃないのか! 緑茶ハイなんて言わないで薄茶ハイにしろよ!と言いたくなりましたね。で、値段はしっかり一人前でした。
実はもう一軒同じような店があります。そちらは数年前に新築になったのですが、やはり瀟洒な建物になってガクンと味が落ちました。上がったのは値段だけ。初期投資を回収しなければいけないという店の都合は分かるけど、なんだかなぁ。他に店はいっぱいあるので、私たちは行かなければいいだけの話ですけど、同じ市民としては情けない気持になります。飲食店、呑み屋さんは街の文化なんだけどなぁ。
○詩誌『驅動』50号 |
2007.1.31 東京都大田区 驅動社・飯島幸子氏発行 350円 |
<目次>
たにみちお遺稿詩集『ポケットに詰め込んで』の刊行と長島三芳のたに追悼の詩について 周田幹雄 14
別離 追悼 たにみちおさんに/長島三芳 18
現代詩と「笑い」五/周田幹雄 20
無色の海/山田野理夫 1 老舗(しにせ)の寂蓼/長島三芳 2
双子のうさぎ/舘内尚子 4 手袋を買いに/飯島幸子 6
おおさかべん西鶴 落ち米ひろい/桝井寿郎
8 夕日の中で/池端一江 10
遺言書/中込英次 12 柿の実 他一編/星 肇 28
圏外 他一編/周田幹雄 32 私のカラー選び/金井光子 34
人生 よろず相談所 他一編/小山田弘子 36 美徳のゆくえ/内藤喜美子 38
断片・一五歳の試練そして決断/飯坂慶一 40 須走界隈/忍城春宣 43
同人住所・氏名 54
寄贈詩集・詩誌 54
編集後記 表紙絵 伊藤邦英
圏外/周田幹雄
携帯電話の画面の左端上に「圏外」と表示される
家中で 俺の部屋だけ圏外なのだ
何故 この部屋だけ電波が遮断されているのか
家族にとって 俺は圏外なのか
何人かの女性にだけ携帯電話の番号を教えてあるので
携帯電話が 無言で身悶えするように震えると
そいつを握って 玄関から飛び出す
飛び出したときには切れてしまっている
自分の部屋にいて 携帯電話を手に取ると
大気圏へ放り出されたような疎外感に苛まれる
携帯電話を持っていると
家族に行く先を告げないで 外出ができる
一歩家を出ると 圏外の表示は消えるが
一歩家を出ても 誰からも掛かってこないので
俺の携帯電話は いつも圏外なのだ
「携帯電話」の「圏外」というのは、考えてみると面白い表現なのですが、そこを巧く作品化していると思います。「家中で 俺の部屋だけ圏外なのだ」というフレーズは作者一流の自嘲ですけど、ここが佳いですね。「家族にとって 俺は圏外なのか」という呟きは男共にとっては共通の認識なのかもしれません。「俺の携帯電話は いつも圏外」、そうやって私たちは自分の道を歩くしかない、とも思います。時代を見事に切り取った作品だと思いました。
○季刊個人詩誌『天山牧歌』74号 |
2007.1.20 北九州市八幡西区 天山牧歌社・秋吉久紀夫氏発行 非売品 |
<目次>
ヂーディマーヂャ
彝(い)族のひとびとが火を語る…(中国)吉狄馬加 秋吾久紀夫訳…P1
イランの歴史と詩(2) (内容)近代のイランと詩秋吉久紀夫…P2
身辺往来…P12
中東イスラム圏の詩(6) イラン 秋吉久紀夫訳
この世の人々への問い…ニーマ・ヨシヂ…P13
印象…アハマド・シャムール…P15
きびしい寒さが到来する時に…フルゴー・フアルホタド…P16
青春…ムハメド・レタ・シャフェイ・カドコンニ…P17
冬に愛の解るひと…ラホマド・ハヂプール…P18
世界文学情報…P18
真っ赤なチューリップ…秋吉久紀夫…P19
冬枯れの庭で…稲田美穂…P21
受贈書誌…P22
編集後記…P23
真っ赤なチューリップ/秋吉久紀夫
地下の被膜におおわれた球根から、
幅のひろいみどりの葉を伸ばし、
ひょろりとただ一本の丈の長い茎を直立させ、
その先端から、たった一個の真っ赤なカップのような
見事な花を咲かせるチューリップ。
すがた、かたちを人間に譬えれば、
まさにどどっぴろい豪華な舞台で、
何千人もの観衆の耳と眼を一点に集中させ、
ただ一人きらびやかな衣装をまとい、朗々とうたう
プリマドンナとでも言えようか。
分類学上、ユリ科に属する多年生植物で、
西方はるかヨーロッパや北アフリカより、
いちめんの砂漠地帯である中央アジアを経て、
日本に至るユーラシア大陸に栽培されてはいるものの、
原産地はトルコだと記載されている。
黒海と地中海に挟まれたこの半島
アナトリア高原は海抜八〇〇bから一〇〇〇bもあり、
古来、東と西の文明を結ぶ懸け橋であった。
そのために、遺丘から出土するのは、
ビザンツ、ローマ、ヒッタイトなどの土器の破片群。
きっと先住部族と後から来た集団との間で、
居住地を奪い合う血生臭い戦闘が、
日夜、止めどなく繰り広げられたはず。
その名残りか、いまでも真っ赤なチューリップを、
ムスリムは殉教者の尊い血の象徴だと信じている。
(2007.1.18)
「チューリップ」は私も好きな花のうちの一つですが、確かに「プリマドンナ」の雰囲気がありますね。それが「原産地はトルコ」だとは知りませんでしたけど。最終連は中近東の政治・歴史・文学に造詣が深い作者ならではと思います。日本ではあまり血のイメージはありませんが「ムスリムは殉教者の尊い血の象徴」という言葉の裏の「血生臭い戦闘が、/日夜、止めどなく繰り広げられた」歴史を感じさせます。同じ花を見ても民族によって見方が違うことを勉強した作品です。
○詩誌『鰐組』220号 |
2007.2.1 茨城県龍ヶ崎市 非売品 ワニ・プロダクション 仲山清氏発行 |
<目次>
論考 高橋馨/文鳥論 2
連載エッセイ 村嶋正浩/姉さんの死。17
連載時評 愛敬浩一/太い詩を読む 32
詩薦
村嶋正浩/時のすぎゆくままに 7 吉田義昭/もうひとつの国 8
山佐木進/雨上がり 12 福原恒雄/独り言氏 10
小林声夫/棲息28 13 坂多瑩子/駆ける 18
山中従子/旅3 16 加瀬 昭/化身 26
弓田弓子/いない 22 平田好輝/襲ってきた 14
佐藤真里子/内なる青い石 24 利岡正人/クワイエット・ルーム 20
仲山 清/波がなければ魚も釣れない 28
読者から 30
執筆者住所録/原稿募集
独り言氏/福原恒雄
おもいつきのざまだとしても
小粋な帽子を被ったら じじいだって
ぴんぴんと出かけるわい
噂では倶利伽羅紋紋を背負っているせいだというが
竜王さんごくろうさん
むかしむかしの製品だからけっこう皺もあるかもな
鏡で見ようにもからだ曲がらないわ
ま 見えないのもいいや
昼飯のしまいに茶を一杯飲むと
朝に食したものは忘れる
笑われても昼になれば朝は遠く
不随意筋どもの嫌みが並んでも
顔で笑ってこころで泣いて……ってな
なにがわるい!
端麗な詩語を離れた背が罪だ不幸だというなら
どうぞご随意に それをもてあそぶのも
可笑しくって いいじゃない ああ ほうっと
曲がり腰に膝とび出ているジーパン姿が
ビル林立の
枯れ野に
いっぽん
竜王さんのお姿すこしまるこくなっても
狭窄の目線はまっすぐ さて口をすぼめたら
底冷えの気流に巻かれても
そう小粋な帽子だけは全霊で抑えてさ
ぴんぴんとまだ知らぬ知ったかぶりの影のほうへ
若い頃は羽振りを効かした「倶利伽羅紋紋」も、今では「むかしむかしの製品」になってしまって「けっこう皺もあるかもな」と自嘲するところが「可笑し」いですけど、妙にシリアスにもなりますね。「昼飯のしまいに茶を一杯飲むと/朝に食したものは忘れる」のも老化現象の最たる表れで、これも結構「笑って」しまいますが、やっぱり「こころで泣いて」しまいます。最終行の「まだ知らぬ知ったかぶりの影」は死と採ってもよいかもしれません。「独り言」を言いながら老いさらばえていく我が身を振り返った作品です。
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