きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2007.1.26 小田原「アオキ画廊」 |
2007.2.10(土)
神楽坂エミールで日本詩人クラブの2月理事会・例会が開かれました。長年親しまれてきた神楽坂エミールも3月いっぱいで閉鎖。日本詩人クラブとしては今日を含めて3回の利用です。だんだん後髪を引かれる思いになってきましたね。
理事会では5月の総会に向けて規約の細則や内規の改正案、6月の長野大会のことなどが話し合われました。長野大会は私も参加予定です。よろしかったらおいでください。詳細は日本詩人クラブHPの「例会・イベント案内/報告」をご覧ください。
例会は3人の会員による小スピーチと詩の朗読を予定していましたが、お一人が欠席。直前になって自転車で転倒したとか…。準備なさっていた作品が配布されましたけど、これが佳い詩なんです。敗戦1週間前に震洋(自爆ボート)特攻隊の16歳の少年が指を切り落としたという作品。ナマの朗読とそれにまつわる話を聴いてみたかったなぁ。お怪我の早い快復を願っています。
講演は名誉会員・石川重俊氏の「日本詩人クラブ創設期の詩人たち『豊田実』」と中原道夫氏の「詩における嘘とほんとう」。石川さんのお話では豊田実と奥さんとの会話、中原さんのお話では最近はじめたというピアノの話が印象的でした。ピアノの練習でモーツァルトを弾くと、リズムが伴わないのでメロディーだけになってしまい、それがどうも演歌に似ているというもの。これはおもしろい発見だなと思いました。モーツァルトが好まれる理由の秘密が隠されているのかもしれません。
真面目な写真は日本詩人クラブHPに使いましたので、ここではちょっとざわついた場面をお見せしましょう。中原さんの講演が終わったあとの質疑応答の時間です。例会は緊張することなどないんですが、それでもホッとしているように見えますね。
参加いただいた方は100名近く。いつも大勢の方においでいただいて、主催者側の一員として御礼申し上げます。
懇親会はいつもの「白木屋」。二次会は男3人で、これまたいつもの韓国料理店に行ってマッコリ。男3人で3杯のドンブリを空けたから、まあ、いつも通りかな。女性には聞かせられないバカ話をして神楽坂の夜を楽しみました。宇都宮の、八王子の悪友の皆さん、ありがとうございました!
○詩誌『詩風』14号 |
2007.1.10 栃木県宇都宮市 詩風社・仲代宗生氏発行 300円 |
<目次>
寄稿「この先達し」/真岡太朗 2
如是我聞のうた/あらかみさんぞう 4
詩集紹介 あらかみさんぞう詩集『暗夜飛行』 17
少年よお前の前を行く悪魔が/金敷善由 18
地下鉄駅の憂愁/綾部健二 20
ねむくない/金子いさお 22
寄稿 詩集評 鎮魂の詩の力 −金子以左生詩集『阿佐緒私抄』−/山川久三 24
殺ぎ屋/和田恒男 28
詩論 詩学序説批判/和田恒男 31
書評 詩の歴史を解いた渾身の書 尾崎寿一郎著『逸見猶吉 火襤褸篇』/和田恒男 39
魂を置いていって/仲代宗生 42
編集後記
表紙写真 渡瀬遊水池 旧谷中村跡地から足尾方面を望む
地下鉄駅の憂愁/綾部健二
左の耳に、アンディ・ウイリアムズの「ムーンリバー」
が聞こえてくる。ぼくは、いつの頃からか、創造の宝庫を
開く黄金の鍵にあこがれ、それを求め続けてきた。同時に、
地球という惑星全体を覆う生命の神秘にも、囚われ続けて
きたともいえる。われわれの最善の努力、過去の天才たち
の叡智をもってしても、終末の到来を遅らせる保証がされ
ていない、この二十一世紀の今日まで……。
右の耳に、「トゥナイト」が聞こえてくる。人は、常に
能率のよい方法を発見するとは限らない。それでも、一世
紀半近い歴史を持つ地下鉄というシステムには、感心する
ことが少なくないのだ。迷路のような階段と経路、ミスの
少ない自動改札、長いエスカレーター、幾多の電光掲示板、
磨きぬかれた床、そして、人目に触れることのない変圧器、
換気扇、管制室の存在など。
耳の底から、「ストレンジャーズ・イン・ザ・ナイト」
が聞こえてくる。小都市の全照明を担うほどの専用発電所
が、静かに息づいている。先人たちの街づくりの意思。神
秘主義に陥りつつある人の群れ。様々なベクトルを有する
衝動の表現。翻った無為の状態。ぼくが、まったく違って
いる人間であり得ること。何かが生きていること。それは
何か。自然で無意識的なもの?
網目のような地下道に、「栄光への脱出」が聞こえてく
る。温かいコーヒーを飲んで、柔らかなベッドに横たわる
ことが望みなのだ。明るい陽差しの地上への出口を探す。
まばたきをしながら。ふいに「象が争うと傷つくのは足元
の草だ」というアフリカの古いことわざが浮かんだ。ぼく
の背後で、銀色の円筒形車両が通過していったようだ……。
「感心することが少なくない」「一世紀半近い歴史を持つ地下鉄というシステム」であるにも関わらず、その「地下鉄駅」に「憂愁」を感じてしまうのはなぜか。おそらく「創造の宝庫を開く黄金の鍵にあこがれ、それを求め続けてきた」という「ぼく」の勁い意思との対比で読み取らなければいけないのだろうと思います。それが結実しているのが「『象が争うと傷つくのは足元の草だ』というアフリカの古いことわざ」ではないでしょうか。すなわち「小都市の全照明を担うほどの専用発電所」を持つほどの象≠ニ、「温かいコーヒーを飲んで、柔らかなベッドに横たわることが望み」である足元の草=B喩の捉え方にはもっと違った詩句があるかもしれませんけど、具体的にはそんな対比で考えてみました。
通底する「ムーンリバー」「トゥナイト」「ストレンジャーズ・イン・ザ・ナイト」という曲も奏功していると思います。3曲のメロディーを全て覚えているわけではありませんが、そこに「憂愁」を感じることができます。最終行の「ぼくの背後で、銀色の円筒形車両が通過していったようだ……。」というフレーズにも現代の不安感がありますね。都市の「憂愁」が感じられる佳品だと思いました。
○詩と音楽のための『洪水』零号 |
2007.1.30 東京都世田谷区 アジア文化社・五十嵐勉氏発行 700+税 |
<目次>
クリスタルの水面/白石かずこ…00
論&文
池田康/吉岡実「死児」をめぐる序論的断章…12
海埜今日子/見つかった名前としての《接吻》――あるいは聖、性、生…22
南原充士/モーツァルトのオペラ…73
玉城入野/世界の生徒…78
詩 和合亮一/吉田義昭/津田於斗彦/山崎広光…02
短歌 田中浩一…30
Crazy Bard Airing 石倉秀樹/池田康…26
原点の詩 インタビュー 五十嵐勉 〜ランボー、マルロー、山川弘至〜…16
音楽の詩学☆特集 伊福部昭を考える
インタビュー 伊福部玲子(陶芸家)…32 小林武史(ヴァイオリニスト)…40
追悼詩 寮美千子/天空に交響する…44
論考 池田康/伊福部昭の音…46
北半球/吉田義昭
月あかりのあたる窓辺には、
地球儀は置かないほうがいい。
地球の自転に沿って回転させると、
私のいる時間も空間も回り始めてしまう。
それから激しいめまいに襲われたのだ。
ここは北半球。
緯度と経度だけで私を語りたい日々だった。
朝から夜更けまで、
どこに私がいるのかと、
地球儀の私のいる一点を見つめてばかりいた。
地球が地球儀を模倣しているのか。
地球儀が地球を模倣しているのか。
そう考えるたびにこの土地の場所を見失った。
北極からも赤道からも遥かに遠く、
水も空気も適度にあって、
山と川と湖と、
四季の移り変わりも、
温度も湿度も不快になるほどでもなく、
ここが私の生きている場所として、
まんざら住み心地の悪い土地ではなかったはずだ。
だが、ここにいて、
またどこかへ移動しようとばかり考えてしまう。
どうして私はここでの生活が作れなかったか、
どうして私はここでの生活を守れなかったか、
ここを私の生きている土地だと認めることもせずに。
たとえ私が別の土地に住み替えたとしても、
月の方角から見ればたいした距離でもないのだ。
もしも、明日、
私がここではないどこかにいたとしても、
ずれてしまった緯度と経度だけで、
私を科学的に探さないでほしい。
私が生きている場所が見えなくなり、
私の時間や空間がゆがんでいたのを、
地球の自転と公転のせいにしたわけでもないのだ。
月あかりを浴びて、
私の手が触れてもいないのに、
地球儀が静かに回転を始めていた。
月あかりが寄り添うように、
私の体に触れていたのに。
実際の地球には緯度も経度も書かれてはいませんが、人間は「科学的に」それを作ってしまいました。その具体的な現われの一つが「地球儀」です。この作品は地球儀をモチーフにして「私」という人間を見る、類例のない詩と云えましょう。第1連と最終連に「月あかり」を持ってきて、月という別の視野を与えたことも作品を豊かにしていると思います。「まんざら住み心地の悪い土地ではなかったはず」なのに「またどこかへ移動しようとばかり考えてしまう」「私」。それは「月の方角から見ればたいした距離でもないの」に…。「生きている場所が見えなくな」っている現代人への警鐘とも捉えました。
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