きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.1.26 小田原「アオキ画廊」




2007.2.23(金)


 小田原市を中心に発行されている文芸誌に『扣之帳』という雑誌があります。拙HPでも紹介していますから記憶なさっている方も多いでしょう。その編集者から出稿を求められ、日曜日にEメールで送信しました。ところが今日になって、3行ほど余ってしまうから何とかしろという連絡が入りました。あれ? 原稿用紙4枚でという指示だったからその通りにしたんだけどな? と思って、フッと考えると、私は本分4枚という癖がついていたんですね。相手は題込みのつもりだったようです。
 いつから本文4枚の癖がついたか考えると、2005年に『詩と思想』誌で連載の詩集評をやったときだと思い至りました。同誌では題別だったのです。まあ、一般的には編集者氏の方が正しいでしょう。それを確認しなかった私が悪かったなと思いましたね。

 それで3行削る作業に入ったのですが、これが意外に手間取りました。もともとは10枚も20枚も書きたいと思っていたテーマですから、それを無理に4枚にしたせいもあって、なかなか抜けない。お、凝縮したいい文章じゃあねえか!という思いもありましたけどね(^^; 泣く泣く削ってなんとか仕上げた次第です。
 中身は、なぜ人間は水平線を見ると安心し、高い建物を見ると不安になるのだろう、ということへの考察です。医学的に解明(ヘ理屈とも言います)してあります。お読みになる機会がある方は、ぜひご高覧の上、バカだな、こいつ!と思ってください(^^;



月刊詩誌『柵』243号
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2007.2.20 大阪府箕面市
詩画工房・志賀英夫氏発行 572円+税

<目次>
現代詩展望 詩人とボランティア精神 神田さよ詩集『おいしい塩』より …中村不二夫 74
低い目線 灰谷健次郎 私の出会った詩人たち(2)…伊勢田史郎 78
審判(6) 情勢…森 徳治 82
流動する今日の世界の中で日本の持とは28 現代インド詩人X・S・スカンダ・ブラサッドの詩…水崎野里子 86
「戦後詩誌の系譜」41 昭和61年55誌追加11…中村不二夫 志賀英夫 104
風見鶏 山田隆昭 望月苑巳 三浦照子 瀬戸正昭 萱野笛子 90

岩本 健/偶成 4             山崎 森/二〇〇七年のトルソオ 6
肌勢とみ子/箍 8             山口格郎/そそくさの時代 10
川端律子/木も人間も 12          中原道夫/くりすますいぶ 14
小城江壮智/桜花少年隊 16         江良亜来子/春雷 18
進 一男/岬にて 20            西森美智子/夕暮れどき 22
南 邦和/素描 24             門林岩雄/母の思い出 126
松田悦子/印旛沼 28            前田孝一/旅 二題 30
水崎野里子/シンガポールの原爆資料館 32  上野 潤/和蘭物語31 36
織田美沙子/氷点下の茅屋 38        柳原省三/秋は血まみれ 40
今泉協子/火事 42             宗 昇/落果 44
北村愛子/孫の手紙 46           大貫裕司/紙袋 48
山南律子/いのちのはざまで 50       小野 肇/おしゃべりな老人 52
鈴木一成/途上瞥見 54           安森ソノ子/宮川町歌舞練場で 56
立原昌保/予感 58             名古きよえ/都会の滝 60
忍城春宣/御殿場馬車鉄道跡 62       小沢千恵/年の暮れ 64
佐藤勝太/頼笑む人 66           野老比左子/誕生 68
若狭雅裕/春雨 70             徐柄鎮/河原径 72

現代情況論ノート(10)…石原 武 92
世界文学の詩的悦楽−ディレッタント的随想(9) 三行詩詩人 石川啄木−「かなしみ」の変容 小川聖子 94
韓国現代詩人(8) 金光圭の詩 幽霊…水崎野里子訳 98
コクトオ覚書218 コクトオ自画像[知られざる男]38…三木英治 100
東日本・三冊の詩集 新井豊吉『横丁のマリア』 山本みち子『オムレツの日』 三田洋『デジタルの少年』…中原道夫 116
西日本・三冊の詩集 神田さよ『おいしい塩』 なたとしこ『地図帳のない時間へ』 吉久勝弘『メタセコイアが揺れている』…佐藤勝太 120
受贈図書 126  受贈詩誌 123  柵通信 124 身辺雑記 127
表紙絵 申錫弼/扉絵 中島由夫/カット 野口晋 申錫弼 中島由夫



 偶成/岩本 健

あわただしく、戦争の世は過ぎ、夢のように、平和な世の中は終
わっていった。
殺す者は、あくまでも殺し、殺される者は、あくこともなく、殺
されていった。

むさぼり食う者は、餓鬼のように、飽食し、餓死する者は、亡鬼
の形となって、欠乏の世界を、さまよい歩いた。

私は、人を殺さなかったが、なん回も、人に殺されかかった。戦
乱の世に適応出来ず、平和の世にも迎合することは、不可能だっ
た。
私の人生は、終りに近づく。縁側に坐わり、銀木犀の梢をとおし
て、冬の陽が、あくまでも冷たく透きとおって輝くのを、、呆然
と、ながめている。

此の世に、語るべき事は、ついに無かった。私についても、私た
ちについても、この国についても。

いとしいものたちの幻影は、老衰していく、脳の中で日毎に消去
され、 無化し、空無だけが、 雪をふくむ凍雲のように、地平線
に、動くこともなしに在る。

神も佛も、私にとっては、結局は、無邪気な、お伽話の数々の、
ひとつに過ぎなかった。多くの人々との出会いも 別れも今とな
っては、南国の街に漂よう泡雪のように、儚い。

 今月号の巻頭作品です。タイトルの「偶成」とは偶然出来上がった詩、フとできた詩という意味ですが、その割には奥が深いように思います。戦争を挟んでの厚い年輪を感じさせます。「此の世に、語るべき事は、ついに無かった」という詩句は重いですし、後に続く私たちは肝に銘ずべき言葉でしょう。多くを語っているようで、結局は何も語っていない私たちの文学≠ェ喝破されているようです。
 最終連の「神も佛も、私にとっては、結局は、無邪気な、お伽話の数々の、/ひとつに過ぎなかった」という詩句にも心動かされます。もっと老年になったら「神も佛も」考えなければならないだろうと思っていますが、やはり「無邪気な、お伽話の数々の、/ひとつに過ぎな」いのかもしれません。今からそのつもりで神を見ましょう。大先輩の「偶感」には考えさせられるねのが多くありました。



詩と批評『岩礁』130号
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2007.3.1 静岡県三島市
岩礁社・大井康暢氏発行 700円

<目次>
表紙 岩井昭児 作品N           扉・目次カット 増田朱躬
評論
二十世紀研究・エリオットとヒューム/宮内泰彦 六
ソネット俳諧事始/鈴木 漠 四八
小説について/マルセル・プルースト 五二
フランスにおけるシャンソンの現況(三)/カルヴェ・納富教雄訳 五四
二十世紀研究−昭和の終焉、一つの時代の終りに/大井康暢 七四
一八五四年以前の日本におけるフランス(一)/アンベクロード・滝沢忠義訳 一三四
萩原朔太郎再読/斎田朋雄 一五八
詩誌雑感/古賀博文 一六四
エッセイ
カルカッソンヌ便り(二四)/増田朱躬 一四〇
如是我聞(一二)/大井康暢 一六八

卒寿待機、自殺について/柿添 元 二〇   窓辺のうたた寝/金 光林 二二
夢の種/小城江壮智 二四          土竜の歌/桑原真夫 二八
花/大塚欽一 三〇             詩七篇/門林岩雄 三四
ひきさく/粟和 実 三六          高石小詩集/高石 貴 三八
幽霊図/井上和子 四〇           希望/竹内オリエ 四二
なにをおいても/遠山信男 四四       それなりに/文屋 順 四六
永訣の時/市川つた 八八          かくされた町、投光/関 中子 九〇
冬の休日、海光、他/西川敏之 九二     生活者と詩人/坂本梧朗 九四
コンピュータの壊れた日に/佐竹重生 九八  連鎖/北条敦子 一〇〇
一月のくらし/望月道世 一〇二       花の嵐/相馬俊子 一〇四
白いカラス/藤井壮次 一〇五        生かされて/近藤友一 一〇六
民主主義のコスト/斉藤正志 一〇八     ポエジーのゆくえ/中村日哲 一一〇
闇・諸行無常/佐藤鶴麿 一一二       新月/戸上寛子 一一四
神の手/大井康暢 一一六
コラム
椅子 二七      谺 三三       始点 六一      声 八七
散歩道 九七     点滴 一三三     座標 一三九     詩と生 二一九
窓 表二       編集室 表四
ポエムパーク 六二
名詩鑑賞1 金子光晴「愛情41」 文屋 順 一一八
名詩鑑賞2 相馬 大「しばらく」門林岩雄 一二〇
詩集評
財部鳥子詩集『老耄する詩人の日々』 大塚欽一 一二二
田中国男詩集『挨拶』 文屋 順 一二三
岩崎守秀詩集『水のゆくえ』 坂本梧朗 一二四
重光はるみ詩集『跡形もなく』 竹内オリエ 一二五
日原正彦詩集『大欅』 市川つた 一二六
村上逸司詩集『邂逅までに』 佐竹重生 一二七
木津川昭夫詩集『曠野』 小城江壮智 一二八
立木 早詩集『ウチニ、カエロウ』 井上和子 一二九
山本十四尾詩集『水の充実』 高石 貴 二二〇
禿 慶子詩集『我が国王から』 栗和 実 一三一
鈴村和成詩集『黒い破線、廃市の愛』 西川敏之 一三二
戸上寛子詩集『月の鏡』の花束 一五四
深謝寄贈詩集 一五六
小説 花折塚物語/丸山全友 八四
小説 閣下と珍竹/山田孝昭 一七二
二十世紀研究資料 小説 25時(五)/ゲオルギウ・河盛好蔵 一九八
詩のサロン 二一六
住所録 二二八    編集後記 二三一



 民主主義のコスト/斉藤正志

明治維新 七、七五一名 戦死
 曽祖父 孫左ヱ門 戦死
西南戦争 六、九七一名 戦死
 大叔父 孫ヱ門 戦死
日清戦争 一三、六一九名 戦死
 大伯父 孫一郎 戦死
台湾征討 一、一三〇名 戦死
 親戚  忠一郎 戦死
北清事変 一二五六名 戦死
 親戚  忠二郎 戦死
日露戦争 八八、四二〇名 戦死
 親戚  忠三郎 戦死
第一次世界大戦 四、八五〇名 戦死
 親戚  正直 戦死
済南事変 一八五名 戦死
 親戚  正好戦死
満州事変 一七、一七〇名 戦死
 祖父  孫三郎 戦死
支那事変 一九一、二五〇名 戦死
 叔父  正達 戦死
大東亜戦争 二、一三三、九一五名 戦死
 母 春子 広島原爆の後遺症にて死去。

 こうやって改めて戦死者の数字を示されると、その数の多さに圧倒されます。さらにその中に係累の戦死者の名が出てくると、戦争の現実が実感として伝わってきます。おそらく文字通りに係累の「戦死」として受け止める必要はなく、詩作品上の創作と考えてよいと思いますが、この手法は見事です。「支那事変 一九一、二五〇名 戦死」よりも家族にとっては「叔父  正達 戦死」の方が重要で、そこに戦争の現実を感ずることができるのではないでしょうか。もちろん「母 春子 広島原爆の後遺症にて死去」も。
 この羅列が「民主主義のコスト」だと示す作者の意思に敬服します。多くを語らずとも「明治維新」以降、現在までの「コスト」を私たちの前に展開してしまいました。これ以上のコストは払いたくないものです。



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