きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.1.26 小田原「アオキ画廊」




2007.2.27(火)


 今日はちょっと足を延ばして静岡県由比町の薩た峠に行ってみました。「薩た」はさった≠ニ読み、「た」は土扁に垂という字ですが表現できません。広重の東海道五十三次の浮世絵に出てくる「由井・薩た嶺」で有名な場所です。現代では富士山撮影の名所としても知られています。左手に薩た峠、東名高速道路と国道1号線バイパス・東海道線が交差した真正面上部に富士山、右手は駿河湾という絵になります。カレンダーなどに好まれて使われています。

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 写真は、そんな有名な構図ではなく、薩た峠から見た駿河湾。天気が良くあたたかく、寒桜か河津桜か判りませんが、もう花も散ろうとしていました。まだ3月にもならないというのに…。
 富士山は残念ながら見えませんでした。春霞の中に隠れてしまっていました。でも気持良かったです。終日書斎に籠もるという日が続いていますので、これからも気晴らしに近くの景勝を散策しようと思っています。



詩誌『木偶』68号
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2007.2.25 東京都小金井市
増田幸太郎氏編集・木偶の会発行 400円

<目次>
落下論(6)/中上哲夫 1           画廊/野澤睦子 3
スロー/天内友加里 5           新編 浦島譚/川端 進 7
夜のエチュード/仁料 理 10        おふくろ/乾 夏生 11
星の夜がたり/藤森重紀 13         名前/広瀬 弓 15
秋明菊/落合成吉 17            一九四○年辰年の記憶(7) 先生は軍隊帰り/土倉ヒロ子 19
おでん/荒船健次 21            飼い犬/田中健太郎 24
お身 土に帰る/増田幸太郎 27
雁の聲−放浪俳人井上井月−/矢島太郎 33



 飼い犬/田中健太郎

作今ではマンションを選ぶにも
ペット飼育可能が人気の条件とかで
今朝も下りのエレベーターで
真っ白な子犬を抱えた女と一緒になった

女は私の挨拶には気づかない様子
敬語混じりの赤ちゃん言葉で
しきりに話しかけていたが
赤いリボンの犬は
彼女にまったく一瞥もくれなかった

地上に出ると
女は犬に縄を引かれて
イソイソと犬の世界に出かけていった
後ろから見るとふたりは
おそろいの首輪をつけていた

私はと言えば
年頭に一大決心をして
犬を捨ててきたばかりだった
思えば長いつきあいだったが
いつも悩みの種であった
これでさよならだ

しかし生まれついての飼い犬は
捨てても捨てても主人のところに戻ってくる
雨の夜更け
心静かに読書する窓辺で
かすかに鼻を鳴らしたりする

イヤイヤ情けは禁物
今は裏声で哀れみを誘っていても
ちよっと甘い顔をみせたが最後
際限なくつきあがって
私を振り回し始めるに決まっている

無念夢想
必死に堪えていたのだが
もう文字を追うこともできず
四つんばいになって犬を探し始めている

なあいいか
今度だけは家に戻してやるが
俺が主人だと言うことを
しっかり叩きこんでやるからな
そう言いながら私は
犬の前足をベロベロと舐めていた

 私も犬は大好きで室内犬を飼っていますから「敬語混じりの赤ちゃん言葉」を知らず知らずに使っているかもしれません。「おそろいの首輪をつけてい」る「ふたり」とは、ここでは幻視ですが実際にはあり得る話だと思います。
 犬は一度飼ったら生涯面倒を見なければならないと思っていますので「年頭に一大決心をして/犬を捨ててきたばかりだった」というフレーズには少なからぬショックを受けました。しかしこれはあくまでも詩作品上のことと判り、ホッとしています。
 最終連が佳いですね。人間と犬との逆転は第2、3連から始まっていて、最終連で見事に収めています。この寓意は実は人間と犬だけの関係ではありません。人間と機械、あるいは国民と政府にまで進められるかもしれません。



隔月刊会誌Scramble86号
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2007.2.25 群馬県高崎市
高崎現代詩の会・平方秀夫氏発行 非売品

<おもな記事>
○樹のことば…堤 美代 1
○私の好きな詩 チャールズ・シミックの不思議な魅力(6)…宮崎 清 2
○金井治子詩集『ありがとう』をめぐって−詩人と画家が見た世界− 丸岡道子 3
○会員の詩 遠藤草人/横山慎一/渡辺慧介/芝 基紘/宮下公仁子/志村喜代子…4
○会計案内/原稿締切り…8
○編集後記…8



 言葉/遠藤草人

言葉が人を殺すというのは
事実である
どのような衣装をまとっても
言葉は
脳細胞に打ち込む
レーザー光線だ

言葉を言葉で
振じ伏せようとすることは
無益な争いだ
黙殺こそ
すばらしい唯一の武器だ

言葉に心はなく
涙の中に心がある
言葉は
誘惑や争いの引き金だ
それでも美しい言葉のために
(愛などと言うそらぞらしい言葉のために)
死んでゆく恋人たちは
あとを絶たない

 「会員の詩」の中の1編です。「黙殺こそ/すばらしい唯一の武器だ」というフレーズに惹かれました。たしかに「言葉を言葉で/振じ伏せようとすることは/無益な争い」なのかもしれません。最終連では「それでも美しい言葉のために/(愛などと言うそらぞらしい言葉のために)/死んでゆく恋人たちは/あとを絶たない」と締めていますが、そこに人間としての面白みがあるのでしょう。他の動物ではおそらく無いことだと思います。その違いは何か? 言外にまた新たな命題を与えられた思いのする作品です。



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