きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.2.8 自宅庭の白梅




2007.3.2(金)


 小田原の伊勢治書店3F<ギャラリー新九郎>で開催されている「サイン・署名本展」に行ってきました。西さがみ文芸愛好会でご一緒している日達良文さんの所蔵本展です。120点ほどが展示されて、壮観でした。詩集は北原白秋の初版本を始め大木惇夫、室生犀星、福田正夫と井上康文の共著本などがありました。中でも私の眼を惹いたのは伊藤新吉さんが安藤一郎さんに贈呈した詩集です。他にも伊藤新吉さんの詩集がありましたから、亡くなってから古書市場に出回ったものと思います。
 30分ほどしか居られませんでしたが、眼福の時間でした。5日までやっていますからお近くの方は是非どうぞ。楽しめますよ。

 そのあとは京橋の「ギャルリー東京ユマニテ」に行きました。ラウンドポエトリーリーディング(巡回朗読会)の一環としての小川英晴さん朗読会です。新詩集『カーマインエクスタシー』出版記念も兼ねていました。前半は1993年の詩集『ピアニシモの部屋』から、後半は新詩集からの朗読です。

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 写真は西島直紀氏の絵を背景に朗読する小川英晴さん。朗読は後半の方が良かったです。すべて平仮名で書かれていてゆび≠ェすべての詩篇に出てきます。ちょっとイヤラシクて、内心で笑っていましたけど、表現はイヤラシさがなく見事です。50歳を過ぎたから書ける詩、聴ける詩なのかもしれません。これ、20歳で聴いたら、私なんか真っ赤になっていたでしょうね。
 朗読会の前に漫画家のビック錠さん、懇親会ではねじめ正一さんを紹介されました。ねじめさんは確か私より年齢が上ではなかったかと思いますが、ずいぶん若々しい詩人でした。詩も若いから当然なのかもしれません。

 銀座での懇親会では、親しい割にはなかなか一緒に呑む機会のないお二人の詩人とご一緒しました。しかし、お二人ともお酒はまったく呑まない…。中島登さんは抜歯をした直後とのことで、医者から禁酒を申し渡された由。女性詩人はもともと呑めないんだそうです。私ひとりで呑んでいましたけど、違和感はありませんでした。お二人ともお話が上手で、惹きこまれていたからなんでしょう。
 楽しい夜でした。皆さん、ありがとうございました!



詩と散文RAVINE161号
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2007.3.1 京都市左京区
薬師川虹一氏方・
RAVINE社発行 750円

<目次>
 天野隆一詩画集『山』より 塊 1
 ※
藤井雅人/方丈漂泊 2           谷村ヨネ子/橋 4
ヤエ・チャクテワティ/夜の猫の眼 6    名古きよえ/高瀬川に流れて 9
成川ムツミ/感性は思考より正直 12     薬師川虹一/夕月 14
木村三千子/煙草 16            山本由美子/家19
中井不二男/広隆寺・弥勒菩薩半跏思惟像 23  村田辰夫/乗下車 26
中島敦子/対等な夫婦 28          木村彌一/或る島にて 30
白川 淑/ああ 昭和レトロZ 32      荒賀憲雄/立石墓 34
牧田久末/年の始の数え歌 37        乾 宏/歳晩片々 40
並河文子/追悼回向 42           古家 晶/玉子焼 44
久代佐智子/途上 46            苗付和正/追憶 48
早川玲子/そら・・ 50           堤 愛子/夕日が浦 52
石内秀典/止まる時間あるいは棒 54
同人語

山本由美子/揺れる 20           村田辰夫/旅とわたし 21
牧田久末/2006年夢中の旅 22
エッセイほか

福田泰彦/月日かさなり、年経し後は、…\ 56 村田辰夫/T・Sエリオット詩句・賛(29) 58
荒賀憲雄/路地の奥の小さな宇宙――天野忠襍記(十一) 60
〈表紙〉『天野大虹作品集 画と詩』より「白い船」(1933)



 家/山本由美子

「入っていいかな」に始まって
いつしかそのひとは

「ただいま」と
来るようになった

「いってきます」
今は出かけていくけれど

「帰るよ」と
立ち去る日が
きっとそのうち
やってくる

 本号のなかでは一番短い作品ですが、おもしろく拝読しました。私は「そのひと」の立場で、いずれ「『帰るよ』と/立ち去る日」を迎えるわけですけど、ああ、やっぱり女性は亭主が先に死ぬものだと思っているな、と妙に納得しています。
 女三界に家なし、は大昔の話。今や男どもは「家」の存続のために遺伝子を残すだけの存在になっているのかもしれません。しかし、それは良いことだと思います。男が威張り散らしていた時代は碌なことがありませんでした。女性の掌の中で一生を終える、そんな平和が人類に求められているのでしょう。そんなことを考えさせられた作品です。



隔月刊詩誌『叢生』148号
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2007.2.1 大阪府豊中市
島田陽子氏方・叢生詩社発行 400円

<目次>

「希望の国」/佐山 啓 1          魔唾/島田陽子 2
海の見える寺/下村和子 3         追っかけて/曽我部昭美 4
平成子守り唄/藤谷恵一郎 5        壁の時計 他/原 和子 6
折込チラシ/福岡公子 8          サビシサやで/麦 朝夫 9
おねえちゃん/八ッ口生子 10        不要のことを/山本 衞 11
若布爆裂地帯/毛利真佐樹 12        生きること/由良恵介 15
ニンジン/竜崎富次郎 16          湖水に映る道/吉川朔子 17
うつろい/秋野光子 18           筑前煮なんぞ/江口 節 19
止めようよ神さまの真似ごっこ/姨嶋とし子 20 天地返し/木下幸三 21
本の時間 22  小径 23  編集後記 24  同人住所録・例会案内 25
表紙・題字/前原孝治    絵/広瀬兼二



 
不要のことを/山本 衞

期末テストの前日になると
決まったように
いつもは乱雑なままの机の上や
部屋の片付けを始める娘

どうやらこいつは
正真正銘のおれの血族にまちがいないだろう

おれも何かあると
大切な宿題も復習もほったらかして
しなくてもいいことを
してしまう癖だった
たとえば今だって
詩の締め切りに追われている日
行くこともない磯釣りの
擬餌針をテグスに結わえ付けてしまうような

大工の親父もそうだった
正月を迎える餅つきの日
仕事小屋
(こくや)に逃げて
しばらくは不要の鉋を研ぎはじめてみたり
桶の箍を締める竹を伐りに山へ入って
戻らなかったりとか

そんな父が
まことにとつぜんに旅立っていった日は
だれもなんの予測もできなかった

あのだいじな一日父は
前もって
何も急ぐことのない何かを
していたのだろうか

しらせに愕いて駆けつけた
おれたちの
まるっきり知らない予兆めいた
今となっては何もかも不要となった
何かをひとりはずれて

 「父」「おれ」「娘」と「大切な」ことを「ほったらかして/しなくてもいいことを/してしまう癖」。そこに「正真正銘のおれの血族」を感じるわけですが、これは私の血統にも当て嵌まるようで、多くの家族も同じような思いでいるかもしれません。共感できるおもしろい着眼点と云えましょう。
 作品はそこに留まらず「あのだいじな一日」を「父」は「前もって/何も急ぐことのない何かを/していたのだろうか」と続きます。「何かをひとりはずれて」「とつぜんに旅立っていった」「大工の親父」の血は今も脈々と流れているに違いありません。人間らしさを感じた作品です。



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