きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.2.8 自宅庭の白梅




2007.3.5(月)


 2カ月半ぶりの床屋。以前は3〜4カ月に一度の割合でしたから、少しは間隔が狭まったかもしれません。しかし月に一度というペースにはなりそうもありません。あまり気にならないから、根がズボラなんだろうと思います。
 その合間に小川未明「戦争」の電子化。旧漢字、旧仮名遣いですから往生していますけど、これはぜひ紹介したい作品です。日本ペンクラブの電子文藝館に出稿します。今月末には出るかな? 歴史は繰り返すということがよく分かる作品です。楽しみにお待ちください。



詩誌『青芽』544号
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2007.3.5 北海道旭川市
青い芽文芸社・富田正一氏発行 700円

<目次>
作品――
文梨政幸 4     村上抒子 6     堂端英子 7
吉村 瞳 8     森内 伝 9     菅原みえ子 10
本田初美 11     佐藤潤子 12     四釜正子 13
武田典子 14     佐藤 武 15     浅田 隆 16
荻野久子 17     宮沢 一 18
◇東延江・武藤迪子が詩集発行/富田正一 19
 東延江詩集のゆくえについて/森内 伝 20
 武藤迪子詩集「たんぽぽ」を紹介する/佐藤 武 21
◇連載 青芽群像再見 第四回/冬城展生 44
作品――
小森幸子 25     横田洋子 26     オカダシゲル 27
岩渕芳晴 28     沓澤章俊 29     仲筋哲夫 30
千秋 薫 31     能條伸樹 32     倉橋 収 33
現 天夫 34     志々見久美子 36   小林 実 38
芦口順一 39     村田耕作 40     富田正一 42
◇連載 青芽60年こぼれ話(1)/富田正一 49
告知 54 55     青芽プロムナード 22 目でみるメモワール 52
寄贈詩集紹介 55   寄贈誌深謝 55    編集後記 56
表紙題字/富田いづみ 表紙画/文梨政幸   扉・写真/富田正一



 七つの乾杯/村上抒子

組長と呼ばれ、ボスと呼ばれ
先生とも長老とも呼ばれながら
出るでなく退るでなく いつも凛として存在する
我れらがリーダー「Y」に乾杯。

宇宙人か、はたまた不死身の女か
ダンプカーの下に潜りこんだひしゃげた車の
運転席から生還し
「体中の力を抜いて眠っていたからね」と、のたまう
我れらがヒーロー「K」に乾杯。

たおやかに微笑み、やさしい言葉を紡ぎながら
抱えている底なしの悲しみは
決して人に見せることなく
けれど、時として頑とした意地を見せる
我れらが貴婦人「U」に乾杯。

時には爽やかな野の風に吹かれ
時にはざわめく都会の人波を泳ぎ渡り
二つの家を行ったり来たり
時間
(とき)の流れに棹さして生きる
我れらが自由人「I」に乾杯。

せっせと歩き、さっさと仕事を片付け
軽々と体を動かし汗を流し
けれど、その居住いは静かに気配も儚気に
ひっそりと話し、ひっそりと笑う
我れらが佳人「T」に乾杯。

幸せに満たされているかに見えて
見えない不幸をひとつ抱えこんでいるから
抱きしめたくて、守りたくて手を伸ばせば
「私は私、私流でゆく」と、思いがけない強さを見せる
我れらがアイドル「T」に乾杯。

ひと足どころか、ふた足もみ足も早く
彼岸
(あちら)への旅立ちは余りに素速すぎて
別れの言葉もまだだから
「さよなら」の代りに杯を高くあげて
我れらが唯一人の戒名持ち「N」に乾杯。

私の大切な七人の仲間、七つの宝物に
心からの 杯を ―――――。

 「私の大切な七人の仲間、七つの宝物」への賛辞ですが、それぞれの人間が端的に描かれていると思います。「リーダー」「ヒーロー」「貴婦人」「自由人」「佳人」「アイドル」と、それぞれへの尊称・敬称も上手くまとめていると云えましょう。なかでも「我れらが唯一人の戒名持ち」は見事です。死者を正者と同様に扱う姿勢には敬服します。よいお仲間に恵まれた「私」は、そのお人柄ゆえに仲間が集まったのではないでしょうか。それを強く感じた作品です。



詩と批評『幻竜』5号
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2007.3.10 埼玉県川口市
幻竜舎・清水正吾氏発行 1000円

 目次
<作品>
清水正吾/盲禽ふくろう派…2        清水正吾/密封…6
斎藤充江/カルテ…8            斎藤充江/快楽(けらく)…10
<イラスト>梅沢 啓/シリーズ「死のかたち」より…13
<作品>
いわたにあきら/還らない時差…14      いわたにあきら/竜はあなたにもう辿りつけないのか…18
<コラム>舘内尚子/法とのかかわり…21
<作品>
弓田弓子/喪服…22             弓田弓子/彼は五歳年上だった…23
弓田弓子/影…24              梅沢 啓/断層詩片(追録)…26
<コラム>清水正吾/G茶房・ゲノムにてX…29
<作品>
舘内尚子/馬の首…30            舘内尚子/摂理…32
舘内尚子/一筋町の夜ふけ…34
◆特集◆追悼 川杉敏夫
川杉敏夫/吉野葛幻想…36          略年譜…36
清水正吾/『芳香族』の詩人逝く…38     川杉敏夫/断念の美学…40
編集手帳                  表紙デザイン・本文レイアウト/ネオクリエーション



 彼は五歳年上だった/弓田弓子

五歳の彼がベビーベッドを覗いている
赤ん坊の私は小さなにぎりこぶしを絶えず動かし
しわくちゃな真っ赤な顔
彼は赤ん坊の平らな耳に唇を近づけ
水の中からここまで来たんだよね、
ぼくもそうなんだ、と囁く
彼は赤ん坊に触れる
赤ん坊は泣きだし
彼も泣きだす
かなりの
年月を
経て
彼は泣き止み
私は泣き止もうとしているのだ

 「彼は五歳年上だった」から、いつまで経っても5歳年上。30歳でも60歳でも…。こう書いて、私たちは「かなりの/年月を/経」る見方はできるけど、逆に「五歳」の頃、「赤ん坊」の頃へ思いが至らないことに気付かされます。この作品はそんな習性をうまく突いていて、作者の頭脳の柔らかさを知らされます。最後の「彼は泣き止み/私は泣き止もうとしているのだ」というフレーズも佳いですね。久しぶりに弓田弓子詩の世界を堪能させてもらいました。



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