きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.2.8 自宅庭の白梅




2007.3.6(火)


 日本ペンクラブの電子文藝館に出稿する作品の電子化が終了しました。物故会員・小川未明の「戰爭」という小説で、大正7年初出作品です。小川未明は「赤い蝋燭と人魚」などの童話で知られていますが、実は相当な反戦論者だったようです。電子文藝館は、すぐに入手できるものではなく絶版になったが遺したい作品を念等に置いていますので、その面でも良い作品を選んだなと自負しています。
 先ほど委員長に送信しました。OKが出れば複数委員の校正を受けます。その間に遺族には事務局から正式な掲載依頼を出して、著作権も正式にクリアしておきます。皆さんのお眼に触れるようになるのは今月末ぐらいでしょう。雪崩のように右傾化している現在、タイムリーな掲載だと思っています。一味違う小川未明をどうぞお楽しみください。



詩誌『流』26号
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2007.3.3 川崎市宮前区   非売品
西村啓子氏方編集局・宮前詩の会発行

<目次>
詩作品
ばばゆきこ 美しい国作り 番号 縦じわとつむじ風 2
林  洋子 葉をたたむ くぬぎ殻斗につつむ 8
福島 純子 たちあがる指 チャイを売る少年 12
山崎 夏代 公園の朝 熊野磨崖仏 16
山本 聖子 なまもの ウインタースポーツ 犬をまたぐ 22
麻生 直子 降砂の記録 28
島田万里子 シュレッダー ダルマさんが転んだ 誤算 32
杉森 ミチ 飢餓の宴 コナラとムササビ 38
竹野 京子 クモのパート 桜引退説の真相 土管・ポカン・宇宙 42
中田 紀子 おっぱいがいっぱいの のびていく翳 積もった時間 48
西村 啓子 予知の木 型の工夫 卒業式 54
エッセイ
清岳 こう 漂いながれ、また「結」から生れる詩 詩集『足形のレリーフ』を読む 60
麻生 直子 人生の「迷子」たちに注ぐまなざし 短編小説集『幽霊の合図』を読む 62
山本 聖子 奔流 −現代詩の行方 64
島田万里子 最近の詩集から 66
西村 啓子 最近の詩集から 67
林  洋子 最近の詩誌から 68
 会員住所録 編集後記



 卒業式/西村啓子

居並ぶ来賓の顔ぶれを見る
いまどき珍しい羽織袴姿
心なしか首元が寒々しい
たやすく打ち首になりそうである
うしろはモーニング姿の猪首の男
そのソフトな声が会場を圧する
「歌う前に意味をよく考えろ」

ある生徒の解釈
 おまえたちの時代は
 千年も八千年も続かない
 だがいくらジャリとはいっても
 いしが固くかたまって
 岩のようになつていれば
 こけにされることだけはないだろう
またある生徒の解釈
 君たち人間の世は
 千年も八千年も続くかどうかわからないが
 細かい宇宙塵が集まって
 大きな星となり 苔生して
 朽ちるまで見届けることは絶対ない

鳴り響くピアノの音
Kiiaayooa

場内に動くものは
委員による音量測定のマイク
参列者の口元監視者
評価が悪ければ処罰の対象となる

着席

来賓挨拶
「美しい国の誇れる歌です」
「感動した」

 「ある生徒の解釈」、「またある生徒の解釈」が生きている作品です。「Kiiaayooa」はそう解釈すべきなのでしょう。特に「いしが固くかたまって/岩のようになつていれば/こけにされることだけはないだろう」が佳いですね。「細かい宇宙塵が集まって/大きな星となり 苔生して/朽ちるまで見届けることは絶対ない」と考えれば「音量測定のマイク」も「口元監視者」も気にはならないものですが、とりあえず生きていくためには五月蝿い連中です。
 国の主権は誰にあるのかを考えると、この作品の手法は大いに参考になります。私も「感動した」!



柏木友紀絵氏詩集『鳥たちの警告』
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2002.3.18 東京都大田区 螢書院刊 1500円

<目次>
 T
鳥たちの警告 T 8            鳥たちの警告 U 10
二十世紀末デッサン T 14         二十世紀末デッサン U 16
パシフィック・ピンテール号 18       蝶は死んだ 24
海と毒 28                 二つの死 32
「お母ちゃん」と言って 36         サバト 40
 U
牡丹の香気 48               しなやかな生命 50
手術室へ 52                冬の華 56
雲の怪 60                 事件 62
地のめぐみ 64               予感 66
ふうりん 68                暗闇の忍者 70
陽のあたる庭 72              木枯らし 74
雛の宵 76                 豆腐 80
風の使者 82                ひろしま 86
桜貝 88                  代役 90
あの 落葉松は 92             影ふみ 94
水芭蕉 96
澄んだ瞳さわやかな声 笠原三津子 100    あとがき 103



 海と毒

木々の緑と空を写して
水俣湾は今日も静か
何十年も前から
工場排水の中の水銀は
豊富に獲れる魚に凝縮され
その魚を食べた人々の
生命を狂わせた
親よりさらに濃密な
水銀に侵された胎児
奇病と言い
伝染病と思い込んだ素朴な人たち
病人とは口をきくな
病人の出た家には近づくな
村人たちは互いに
顔をそむけ 家族の病気をひたかくす
猫が狂い死にする あちこちで

まさか 魚が 生活の糧の海が
工場からの排水が原因とは

空の蒼と木々の緑を写して
水俣湾は今日も静か
しかし 死の海
かって漁師の生命だった輝く海は
ヘドロの中深く 水銀をかくす
やがて水蒸気となって立ち上ぼり
地球に降りそそぐ 毒

母の胎内で水銀に侵されていた彼
萎えたまま 投げ出された両の足
言葉なく 全身から叫ぶ
けれど あたりを見るまなざしは
耐え 恕
(ゆる)す すずやかな瞳
無辜
(むこ)なる海を見つめて
今日も 青く 海は
物を言わない

 私の在職中は化学工場勤務だったこともあって、水俣病を始め環境問題にはそれなりの関心を持っていると思っています。しかし、それを作品化するには躊躇いがあります。自分の身を安全な処に置いて、他人の失政なり失策なりをあげつらい、本当の意味で患者の気持が判らないままに作品化するのに抵抗があるからです。
 紹介した作品にもその危険があると思っていましたが、笠原三津子さんの解説を読んでそうではないと知りました。著者の夫君は水俣病を調査した白木博次博士で、博士は患者側に立って裁判を勝訴に導いたそうです。おそらくご家庭でも著者とそんな話をなさっていたのでしょう。そういう立場の人が作品化することには大賛成です。むしろ事者は積極的に作品化すべきだとも思います。

 そうやって見ていくと、この作品に現実味があるのが分かります。「病人とは口をきくな/病人の出た家には近づくな/村人たちは互いに/顔をそむけ 家族の病気をひたかくす」というフレーズは、現地調査の中での博士の実感ではなかったでしょうか。あるいは著者自身が出向いていたのかもしれません。ここにはムラに束縛される日本人の体質も、異質なものを排除する伝統的な体質も具現化しています。水俣病の原因に気付いただろう工場の人間の、おそらく個人的には気持を押し殺しただろう心理もここから読み取ることができます。考えさせられた作品であり詩集です。



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