きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.2.8 自宅庭の白梅




2007.3.11(日)


 昨夜は遅くまで呑んでいましたけど量はそれほど呑まなかったと思います。にも関わらず、今朝はなぜか二日酔い気味。いつもなら無理をしてでも動いてしまうのですが、今日はグズラグズラと過ごすことにしました。一日中ベッドに潜り込んで本を読んで、ウツラウツラ、結局22時頃までそんな感じ。まあ、そんな日もあってもいいかなと思っています。



季刊・詩とエッセイ『焔』74号
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2007.3.1 横浜市西区・福田正夫詩の会発行 1000円

<目次>

生いたち…蒲生直英 4           手習…山崎豊彦 5
晩秋の四時五四分…上林忠夫 6       自分の名前にかえる時…保坂登志子 7
真実の道…水崎野里子 8          秋に向って/淘汰寸前…阿部忠俊 10
クラスコンパ/顔…高地 隆 12       野生ラン…小長谷源治 15
心…新井翠翹 16              無言の夏…古田康二 18
風…伊東二美江 19             鳳凰木…許 育誠 20
西安の花売り少女/敦煌の月…濱本久子 22  紅葉への想い…布野栄一 24
創痍の旅…五喜田正巳 25          不眠症/肺癌/狭心症…古田豊治 26
一握の花…亀川省吾 27           ことばの語ること…森やすこ 28
午睡/彰化・坑仔内…錦 連 30       冬至過ぎ…福田美鈴 32
終の住処…野島 茂 34           ふたたびこころよ…瀬戸口宣司 35
ウグイスの声/蝉のいろいろ…金子秀夫 36  福田正夫の詩・塵労…阿部忠俊 37
在るがままに/台湾・春日和…杜潘渚芳格・自訳 38
連載 万歩計の旅<三十一> 工藤 茂 40
散文
『氷壁』の背景 濱本久子 42        香港一瞥 錦 連 45
カラオケ 許 育誠 48           「民衆碑」・「'98透谷祭」 金子秀夫 50
小特集 <焔七十五周年記念詩集> 54
金子秀夫/瀬戸口宣司/上野菊江/神川正彦/山岸嵩/大森哲郎/伊藤雄一郎/小関一彰/古賀博文
二〇〇六年ネパール訪問記・詩と写真 63
山口敦子/谷口ちかえ/川端律子/福田美鈴/金子秀夫/新井翠翹
福田正夫賞発表 小網恵子詩抄 73
選評=金子秀夫・亀川省吾・古田豊治・瀬戸口宣司・傳馬義澄
書評 市原千住子詩集/こたきこなみ詩集を読む 濱本久子 83
詩集紹介 金子秀夫 85
三田洋詩集/村田正夫詩集/山本十四尾詩集/鈴木良一詩集/村山精二詩集/清岳こう詩集/田中裕子詩集/椎野満代詩集/田中眞由美詩集/豊岡史朗詩集/雲嶋幸夫詩集/中正敏詩集
編集後記
題字、表紙画 福田達夫
カット 湯沢悦木



 自分の名前にかえる時/保坂登志子

幸さん こうさんと呼ばれて大人になった
こうさんに赤ちゃんができた
赤ちゃんの名は稔
(みのる)
幸さんは 赤ちゃんのお母さん と呼ばれ
みのるさんのお母さん と呼ばれ
子供からも夫からもお医者さんからも
学校の先生からも お母さん と呼ばれ
自分でも自分のことを お母さん と言った

稔さんが結婚して 赤ちゃんができて
おばあちゃん と呼ばれるようになった
自分でも自分のことを おばあちゃんと言い
幸 は書類上だけの名前になった

きょうは 姉妹 従兄弟 昔のお友だちに
「こうちゃん」「こうさん」と呼ばれている
それに
八歳の時死に別れた母親に会えて
幸せそうな 幸さん
黒い椽縁の中 笑顔がはにかんでいる

 「お母さん と呼ばれ」「おばあちゃん と呼ばれるようになっ」て、ようやく「自分の名前にかえる時」は「黒い椽縁の中」という身につまされる作品ですけど、考え様によってはこれはこれで「幸せ」なことなのかもしれません。「こうさんに赤ちゃんができ」て、息子の「稔さんが結婚して 赤ちゃんができて」、こういう平凡なことが意外に難しいのだと感じています。一見「幸せそうな 幸さん」でさえ「母親」とは「八歳の時死に別れ」ているのですから。
 なお「椽縁」は額縁≠フ古典的な表現のようです。手持ちの辞書やネットで調べましたが確証は得られていません。椽はたるき・えん≠ネどと読み縁≠ニ同じ意味ではないかとありましたけど、その説も一部分しか言っていないようでした。

 今号では金子秀夫さんが拙詩集について論評を加えていただきました。ありがとうございます、御礼申し上げます。



会報ふーるこ ぐっちゃはる5号
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2007.3.5 横浜市西区
福田美鈴氏代表 日ネ文化交流・ナマステ会発行 非売品

<目次>
2007年・ネパール訪問/福田美鈴
汚邪(おや)の地を去って、ネパール/谷口ちかえ
六十三の詩心を束ねて/結城 文
「花束W」を贈って/濱本久子
詩集『戦争のない世界』より シュレヤ・パンディ作(水崎野里子訳)
本・親友・人生・平和・おかあさん(1)・何がほしい?・人生の喜び・戦争のない世界・生きる理由
詩 ゴッホを訪ねて(オランダにて)/山口敦子



 本/シュレヤ・パンディ

僕は勉強する 読む 習う
いろんなことを 学校で
知らないことを習う
知らなければならないこと
勉強出来る

でも 僕 もっと知りたい
世界についてや 他のいろんなこと
あらゆることを知りたい
だから 本が欲しい もっとたくさん

 紹介した作品を含めたシュレヤ・パンディについて、詩集について、訳者の水崎野里子さんに次のように注釈を加えています。

 「この詩は詩集『戦争のない世界』(2005年3月1日出版)からの詩です。作者はシュレヤ・パンディ、十一歳、ネパールのラト・バンガラ学校の5年生です。本詩集はネパールの女性会議(WODES,NCBL)による、地雷の被害についての子供への教育活動などを含む、一連の救援活動の一環として送られて来ました。」

 そういう経緯を念等に読むと、作品のさらに深いところが理解できると思います。有り余る本に囲まれた日本では想像もできないことですが、「だから 本が欲しい もっとたくさん」という作者の訴えが痛いように伝わってきました。作品上も日本の11歳ではここまで書けないかもしれません。「世界についてや 他のいろんなこと/あらゆることを知」って、世界に飛び出してほしいと願っています。



関口芙美子氏歌集『夏の日』
新現代歌人叢書47
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2007.3.3 東京都杉並区 短歌新聞社刊 952円+税

<目次>
平成十一年
二月 一一      墨田川 一三
桜 一四       初夏 一五
久野の墓地 一六   小仏峠 一七
蛍 一八       詩人 一九
夏草 二〇      蝉しぐれ 二一
百日紅 二四     箱根吟行 二六
落葉 二七
平成十二年
媼 二九       流氷の海 二九
ひとりごと 三二   夏帽子 三三
青森文学散歩 三五  夏みかん 三九
塩の道 四〇
平成十三年
便り 四二      雪どけ 四四
山鳩 四五      弟逝きぬ 四七
春は来て 四八    遠き畑 五〇
草 五二      七月 五三
夏の日 五四     鳳仙花 五五
月下美人 五七    しゃぶしゃぶ 五九
Tシャツ 六〇    空爆 六二
平成十四年
元旦 六四      雨のしずく 六五
鶯 六七       鎌倉散歩 東慶寺 六八
卯の花 七〇     裏山 登戸病院  七二
大雄山最乗寺 七三  一夜城 七四
日盛り 七七     メモ 八〇
切手 八一
平成十五年
蝋梅 八四      八百屋 八五
立春 八七      霜おく土 八九
焼鳥 九〇      紫蘭 九三
早川 九四      長雨 九六
火星 九八      鴉下りきて 一〇一
平成十六年
朝の雨 一〇四    杏咲く 一〇八
実生のトマト 一〇七 柚子の蕾 一〇九
敗戦の日 一一○   収穫 一一二
浅間山噴火 一一四  中越地震 一一七
青年ひとり 一一八  湖岸の道 一一九
平成十七年
冬 一二二      杖 一二四
日々 一二五
関口芙美子略年譜 一二八
あとがき 一三一



 ひとりごと

腕時計忘れ来
(きた)るにしばしばも袖をめくりて時計見むとす

咲く花を思いつつ来し多磨墓地の並木の桜のいまだ開かず

葉を直ぐにのばしてラッパ水仙の蕾持ちおり墓誌のかたわら

いつの日か旅に求めし卯の花の今年も庭に明るく咲けり

すべりよく直しし敷居をすべりつつ開きくるなり閉めし引戸は

ひとりごと言うやとのぞく部屋のうち夫はのどかに電話かけいつ

蒔きおきしコスモスの芽の出でて来ずそこのあたりに草萌え初むる

 著者は福田美鈴さんの姉上だそうです。民衆詩派の詩人・福田正夫の三女になると「略年譜」にありました。
 私は短歌は門外漢で、紹介には適任ではありませんけど、それでも全編を拝読して著者の人となりが少しは理解できたように思います。誠実に日々を受け入れている様子に好感を持ちました。紹介したのはそんな中でも魅了された「ひとりごと」です。「腕時計忘れ来るに」、「すべりよく直しし敷居を」は誰もが経験していながら作品化した人は少ないのではないでしょうか。「ひとりごと言うやとのぞく」は表題作ですが、これも「のどか」な夫婦の生活が垣間見えます。市井に静かに暮らしながら四季折々を穏やかに見つめる、読んでいて心洗われる思いのした歌集です。



詩誌『スーハ!』創刊号
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2007.3.15 横浜市旭区    600円
中島悦子氏方・よこしおんクラブ発行

<目次>
詩篇
大澤武/秋空の広がりが欲しいその気分なのに 02 案内人の居ない裏山で 32
香村あん/グリーン・パーク 10
佐藤恵/せともの 06 真冬のカ*ニバル 30
中島悦子/乗りあげて 08
野木京子/繊維草、えのころくさ 04 表皮剥離――
films 34
八潮れん/ウォーキング
ドキドキ 22 「アヒ!」28
よこしおんクラブ01 
Essay,Essence,Critique
八潮れん/「オ・ナ・ク・ソワ」についての酔いどれ 25
野木京子/だあれ? 26
大澤武/誕生に至るドラマ 36
佐藤恵/天上の青 37
香村あん/
Destination 39
編集後記/中島悦子 40
編集担当◎中島悦子 表紙・本文カット写真◎佐藤恵 
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 乗りあげて/中島悦子

沼地の鯉が、岸までせりあがってくる。口を開けたその先には、晩夏の夕暮れ。
鉛色の鱗の体に魂ごと食われ、恐ろしい約束の続きをさせられる。

弓道場には、ご自分の道具を持っていらしてください。でも、指導員等はいません。お一人様で練習するにかぎります。

巨大な石灯籠が、沼地に人のように立ち続ける。今では、ビルにかこまれた江戸最古の沼地の異様さは、必ず人影を見つけて追ってくる鯉たちの動きそのものとなって迫る。浅瀬に乗りあげんばかりによってくる鯉の目は、ほとんど感情的にこちらに注がれる。これらの鯉に負けた時、すでに体のほとんどが沼地に入っていた。

異国の湖を模写する。そこに異国の怨念が映るのを止めようもない。「ただし、深刻なことが三つ以上になると、笑うしかないですから」と感想をいうが早いか、湖は風向を失って倒れた。

水中花火を真正面で見る。暗闇の中、漁船が、静かに二尺玉をつぎからつぎへと沈める。たいてい、花火はそこで終わる。集まった人々は、水に沈められる二尺玉を見に来ている。今度の火薬はことさら重いことを見届ける。もう、これ以上なにもかも嘘になったことにつきあえない。世の中がぬりえだった。

あいうえおは五十円くらいでいいだろう。一個十円だ。んだから、五十音は二千五百円くらいで、そんなもんじゃねぇの。またね。三十円。しらんよ。四十円。しね。二十円。いきろ。三十円。はげ。二十円。

誰もいない弓道場にて、弓をひきしぼり、鯉の口から逃げ出した魂を次から次へと射っていく。腕は妙にさえ渡る。最近のかき氷は、ブルーハワイ。何かが違うと思っても、けっこうおいしいから許す、と。でも、地獄の指導員はやっぱり許さないのではないか。その水色の舌を出せって。鯉にあやまれって。

口を開ける。歳をとると唾液が少なくなって、その入り口からすでに黄泉の国。はげた絵巻物のような物語が、次から次へと口臭のようにただよう。芥。魚屋とは結婚しないと誓う。魚の鰓や目や心臓は死んだあとも怖い。

時々、嘘の履歴書を書く練習をする。「英語は、こみいった会話可能」とか「京都でみやげもの屋矢野の店員三年」とか、「特技 三段跳び」とか、「扶養家族八人」とか。蛸の擬能って、すごいんだね。さわらないかぎり、岩と見まごうばかりになる。かくれんぼで、ベッドのめくった上掛け布団にまぎれて、なかなか見つからないことがあった。「特技 雲隠れ」。

ニューデリー・インディラ・ガンディー空港のフライトの遅延、キャンセルは日常茶飯事。「あなたは、ここにいない。ここにいるのは見せかけの幻にすぎない」とか、カウンターでいろいろ言われる。そして、狐につままれたような気分で、次の飛行機を待つ。本当に捜しているものを見つけるために、ゴアへ行く。

「断片を信用してはいけない」。「もちろんでしょう」。

「趣味 幻聴」。

失踪した友人を捜す仕事につく。

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 東京・横浜の6人の詩人たちによる新詩誌です。創刊おめでとうございます。誌名について編集後記では次のように書かれていました。
 「詩誌名は『スーハ!』に決まった。もとの言葉の要件は、『息』。吸った息を思いを込めて吐いていく。それらが詩の言葉になってくれたらと思う。
 詩は読まれない。でも、書くしかない。そんなもんじゃないのと大きく息を吸って、吐いて、吸って、吐いて! 私個人は、青息吐息だが、他のメンバーは違う。私達の作品が、読者のどなたかと個的につながっていくことを願って……。」

 紹介した作品は、原文では50字で改行になっていました。種々のブラウザに対応するため、ここではベタとしました。ご了承ください。作品は複数の物語が微妙に組み合わされて、それぞれが「乗りあげて」いるのかもしれません。「特技 雲隠れ」、「趣味 幻聴」は魅了される詩語ですが、やはり最終連にただ1行置かれた「失踪した友人を捜す仕事につく。」というフレーズが佳いと思います。この言葉に全てが収斂している構成の妙にも頷いた次第です。



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