きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2007.2.8 自宅庭の白梅 |
2007.3.14(水)
ホワイトデー。ある時期からバレンタインデーのお返しは一切しないことに決めていますが、今年も結果的にそうなりました。退職した初めてのバレンタインデーですから、義理チョコは皆無と思っていましたけど、5人ほどからいただいてしまいました。うーん、どうしょ… と一応悩んではみました。で、やっぱりお返しは無し! いただいた女性陣には申し訳ないんですが、業者に乗せられる気は、やっぱりありません。ただ、どなたから頂戴したかは記憶していますので、お会いしたときにはビールの1杯でも注ぎます(^^;
25年ほど前に始まった初期は、それなりに面白かったという思いがありました。でもねぇ、もう4分の1世紀も過ぎたし、何より私は甘いものが嫌いで、特にチョコは食べないんです…。交歓は別の方法でやりましょう!
○個人詩紙『夜凍河』10号 |
2006.12 兵庫県西宮市 滝悦子氏発行 非売品 |
<目次>
私信…Yへ 構図・序曲
真空地帯
素描
真空地帯
壁に沿って横になり
黒い足を投げ出して目を閉じている
地下街の
雑踏の向こうの真空地帯
私は
私の居場所がわからない
六千の死とすれ違ってから
地上を支える壁が抱えた浮浪者と
その足を離れて過ぎる人の群れ
夏が来て
夏が来て
探すべきものは
私自身であって
<家>の在りかなどではないのだと
抜けてはならない抜け穴
秘密のブラックホール
奇妙に明るくあやしい地下街で
振り返って見ている私を
笑ってくれていい
1頁目に「私信…Yへ」という総題があり、その下に「構図」と「序曲」という作品が置かれていました。ことによると2頁目の「真空地帯」と「素描」も総題の下の作品なのかもしれません。紹介した「真空地帯」の最終連には特にそれを感じました。
この作品は存在論として読むべきものだろうと思います。「地下街の/雑踏の向こうの真空地帯」に気付いてしまった「私」の「探すべきものは」、やはり「私自身」。芸術の根源を問う作品と云えましょう。
○個人詩紙『夜凍河』11号 |
2007.3 兵庫県西宮市 滝悦子氏発行 非売品 |
<目次>
途中で
「ヤクセンボーレ!」
途中で
山裾を並んで行くのは 六地蔵
長い杖のさきには花があり
約束の
花火もあれば
星もあり
だれかの
夢のかけらのようになびかせて
ここから歩き出したのか
ここまで戻ってきたのか知らないが
綿菓子みたいな空の下
笠もかぶらず
わきめもふらず
杖をかついで六地蔵が行く
『渡辺俊明』展より
「『渡辺俊明』展より」とありますから、おそらく「六地蔵」が撮られた写真展を観て想を得たのでしょう。写真展や絵画展を観て書かれる作品というのは比較的多くありますけど、この作品がそれらの中でも優れていると思うのは、タイトルです。「山裾」の「六地蔵」は物理的には移動しません。それを「並んで行く」、「ここから歩き出した」、「ここまで戻ってきた」、「杖をかついで六地蔵が行く」と生物のように扱うところが素晴らしいと思います。さらにそのお地蔵さんたちは歩いている「途中」なのだという発想。見事としか言いようがありませんね。
お地蔵さんたちが途中なら、我らもまた途中にしか過ぎない。そうやって己を振り返えさせてくれる作品です。
○中野朱玖子氏詩集『詩苑物語』 死を想え(メメント・モリ) |
2007.3.6 東京都千代田区 角川書店刊 4800円+税 |
<目次>
一 叙景閑寂
ふるさと 15. 奈落――人間 その抗えない魅惑領への―― 16
不在へ 18. 燭光まで 20
回帰 22. 四季 24
無季 27. 聖夜 29
カンバス 31. 転変 33
悲象 36. 倦怠紀層 39
傾れつつ 41. 雪豹 45
無の杜より 46
二 花卉近景
T 幽色の径
さくら 51. 夢舞い 53
万華鏡 55. 虚光 57
冬へ 59. 寂しんぼ 61
蒼眠 65. ブーメラン 65
沈黙 67. 余情 69
衝動 70. 流砂 72
花 74. 茶房 そして 76
U 繚乱の径
桜 78. 春より夏へ…… 81
秋の…… 84. 冬 87
転送 89. 生々恋々 92
半分は 94. ポスト・幻ユートピア 96
白炎 98. 観照 100
自鳴鐘 102 叩く 104
共振 そして自縛への…… 108 わが血脈に…… 111
三 石の譜
T 幻想の毒として
五月の空 117 講座 119
症候群<表札>について 122 論理 125
重層体その剥落の片々 128 アラベスク 132
潜像としての 135 心象データ 137
幻像 139 変身 142
曳航 144 確たるものもなくて…・…146
祷り――静認への―― 149 戯画 153
性 155 死者たち その汎語の側でなく 157
U 行為 幻想よりせり上がるもの
冬の旅より 161 秋 163
眺望 167 傷痕 169
流象 171 ことばランド 174
万国旗 176 童話 179
独りだけの椅子の上で 181
今こそ言語その行為への連動について もっと醒めて語りはじめるべきときへ 184
自分と他者のあいだで 187 戦いすんで陽は落ちて 189
九月十一日 191 闇そして回転木馬 194
せめて…… 198
四 風紋 ――とらいあんぐる――
T 美し真名と仮名のくに唄
共時性その回廊へ 今は昔ゆんぐ的な 20
彫塑――野外展へ――の――の変態または曜変(窯変)の 207
乱鐘――古里にする和讃 209 ――定説――という木乃伊考 211
人・まぼろし・在ることの…… 213 朱夏穢土 215
生々 218 黄昏――彼は誰れ時―― 220
U 倭の土・洋の風
果実 222 春影礼讃 225
都市幻変 227 果つるなく……… 229
相生相殺 232 街 235
幻花流象 238 晩秋 242
生 また無明 244 夢一夜 246
雪舞い 248 紫怨抄 250
桜吹雪 252 伝説 254
華 256 乱拍子 258
月下 260 悲器 263
不定愁訴 266 朱玖子蔓陀羅 268
五 流水の賦
T せせらぎより
風すぎゆく 273 北風 275
還流域 276 古里――心象無辺―― 279
ナイーブ派 281 花やしき 285
実生 288 ぬるま湯のなかの快い虚像へ 290
蜘蛛の糸の上のサーカス 292 透明度 294
日輪――または王女メディアの母性ヘ―― 297
希望 298
たそがれて……… 300 空蝉の譜 302
異形 これらへの悲歌 304 漁火の街にて 308
U 湿原へ
戦国 310 高野山 312
しるす 313 あ・うん 315
カオス その条理よりの 317 生きる 320
老樹 322 あさきゆめみし 324
らせん階段 326 根雪 328
孤 330 懸命 332
仮泊 335 砂時計 338
旅程 340
自称さえためらわれる<詩人>の自画像としての中間報告より 342
夢幻軌道 345
六 炎群の律
T くれないその花陰 放火など
火蛾 351 椅子 354
夜景――ネオン―― 356 時差――車窓にて―― 358
迷子札――アイデンティティーに―― 360 影絵でなく 362
かくもいとしい場所で 364 煩労として 367
人間みなキャスターして タレントして 370 桜色また薄墨色の摂理 372
美貌――「わが青春のマリアンヌ」幻夢―― 375
都市 377
平穏 379
U ぐれんその花冠 自然発火な……
日程 386 バランス 389
いずこより何処へ 391 地上 あまりに乱反射な 393
螺旋より円環への 395 コンテ 398
非理 400 分岐 402
深夜 404 無形へ 406
おそらくは 408 卒塔婆欄干 411
ジェームズ・ラブロック「ガイア仮説」への…
415 破壊 刹那として 418
七 蕭森
T 空洞の中で
ユキオ・Mへ 423 エルゼベート・バートリ 434
幻灯 442 この指とまれ 445
畦にて 449 祭文 452
ニルヴァーナ――ラベル「ボレロ」風に―― 456
天地創造 在る――そのことの 469
U とーてむ・ぽーる 仕掛け そして「鏡の位置」
一 488 二 492
三 498 四 505
五 511 六 ――一考察―― 517
七 525 八 531
八 枯色遠景
夢の夢の夢の世に 541 路傍 545
ホモ・サピエンス 547 雑抄 549
ひどく貧乏な歴史のために 552 渾沌 そして秩序の…… 554
連綿として ただ……… 557 死を想え 560
行方 564 街の広場のベンチでなく 老人ベッドの上でなく 566
旅 568
あとがき 571
メメント・モリ
死を想え
T
ふいに死者たちの森が近づいてくる
木枯しの季節に
舞い散る一葉
また一葉
――喪中につき……――
仮構は生き残ったものの方かもしれない
夕闇の沼に
生餌を漁り疲れた青鷺が仮眠している
殺したものに祈る
殺さなければ生きられなかった象(かたち)の哀しみに震える
この静寂は死者たちの側だったのか
ちちよははよ
生まれ出でず すでにみまかった子よ
そのまた生まれなかった子らよ
風景の中で甦るものたちの
くちばしに啣えられた虫よ 魚よ 蛙よ
あれは ははが子を 子がちちを
つかの間うたかたに違った形で啣え込んだ風光の明媚
ふたたび生きる循環の非情が欺かれる
――新春を寿ぎ……――
またしても森の木々に仮構が芽生えはじめ
わずかのちの風一陣
あれは聴きなれた断末の身じろぎ
仮構を散り敷く豊饒の森の深闇(ふかやみ)の底へ
届けられる――記憶――の束
つねに共振の呻きの……
長い詩歴を有する著者の、驚いたことに第3詩集とのことでした。しかし他に歌集や句集を多く出版なさっていますから文学活動が間遠くなっているわけではありません。その証に本詩集は第2詩集から18年の集大成、580頁ほどの大冊なっています。
紹介した詩は詩集の副題でもある作品です。TとUがあり、ここではTを紹介してみました。「メメント・モリ」は誕生したときから生物に組み込まれているという、死へとプログラムと理解していますが、それに捕らわれることなく詩人として発想した作品だと思います。生物の業、「殺さなければ生きられなかった象の哀しみ」に惹かれます。この観点が詩人には常に必要なのかもしれません。
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